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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-2.マンノース聖堂戦
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Chapter 59.The twin Major

タイトル【ふたりの少佐】

こか重苦しい空気のうずまくSoyuz拠点では感傷的になっている暇はない。


帝国の奥へ奥へと進まなければならないことに加え、国家と戦争するのである。

仮にも軍隊、休みはないのだ。



何も得られたことは敵基地の制圧と勝利だけではない。


ダース山での軽戦車やシルカの運用データが入ったことも大きかった。


斜面が想像するよりも厳しくなかったこともあり、計算上では主力戦車を投下しても問題ないという結論が出された。




————





 T-55、T-72、そして指揮車BTR-80Kの補給と出撃前最後の整備が急ピッチで行われていた。


T-72はそのまま投下できるため弾薬・燃料を補給するだけで良いものの、森林城塞戦で砲撃の雨を浴びせたT-55は砲の不具合を防ぐため清掃が行われていた。



二度の大戦を経て洗練された兵器類はあまりに無機質で、無感情的である。だが人間は違う。



いかに訓練を受けていようとも感情というものを持ち合わせている。


ミジューラはその熱が一行に冷めず自重も兼ねて兵舎に鍵をかけて瞑想し、元Gチーム連中はカウンセリングを受けていた。



「俺としたことが。今日横になったらあの女の叫び声が再生されて…。俺だって殺しに慣れたつもりでいたさ。だが妙に頭んなかにへばりついちまって…。」



「私も、貴方も人間だ。何らおかしくないんです。」



マリスに対して隊長ニキータはらしくもない弱音を吐く。

まるでランボーのようにあの叫び声と光景が頭から離れないのだ。


普通なら殺したヤツの顔なんて寝れば忘れる、どんなに叫びをあげようが命乞いをしようが。



だが今回は明確敵ではない存在をあそこまで恐怖させたのだ。



相手にしていたのは獣ではなく血の通った人間だと分かった時。

まるで新兵の時に抱えたトラウマが一気に蘇ってしまった。


そんなことは完璧な兵士であるならなってはならないと思っているからだ。



 今のニキータの状態というのは、敵兵こそ殺せるが、もしあの時のようにシスターが攻撃してきた時、銃口が着実にぶれてしまうだろう。


それを恐れて彼はカウンセラーの前に座っている。ニキータはどこか憂鬱になった。

まるで記憶を消すマリファナでもあれば良いものを、と。





————





何もどこかに残った良心のどこかを痛めたのは彼だけではない。



数多くの歩兵チームメンバーがマリスの前に連なり、その最後がニキータなのだ。


いかに手に血をにじませ、人間性を殺すような訓練を受けていたとしても戦争はいともたやすく心をえぐってゆく。



ひと時こそ平和だが、Soyuz拠点に居る限り死の匂いがいつまでもまとわりつく。歴戦の彼にはそれがわかってしまうのだ。

ニキータはへばりつく悪夢を振り落とそうと頭を掻きながらマリスに続ける。



「——ああ、わかっている。しばらく…俺は休みがいるようだ、少佐はどう言うか知れないが今回の一件はひとしきり寝て忘れられるもんじゃねぇのは分かっている。一週間はいるな。一応は復帰するつもりではいる、が…。」



 Gチームの精神がズタボロになってしまったため、当たり前ながら替えの人間を用意しなくてはならない。


加えてシルベー側は濃い霧の向こうを航空写真が奇跡的に捉えており、空戦から帰投したOV-10からの報告も相まって向こう側には岩場がちらつく高原があるということは分かっていた。



 それが何を示すのか。中国の紅軍、南方の日本軍、そしてベトコンや武装イスラム過激派らが行ってきたゲリラ戦が行われることだろう。


ジャルニエ城制圧各部隊を随伴歩兵隊として配属するにあたって白羽の矢が立ったのは、元あるチームの人間だった。



「——ということだ。お前のあふれんばかりの殺意が認められ、次の作戦には元Bチームの配属が決まった。近々作戦が始まるらしくてな。俺としては書面よりもこうして伝えた方が良いと考えたんだが」



少佐は元Bチーム隊長、ジェイガンに通達を行った。本部拠点基地片隅の誰からどう見ても適当に作ったとしか思えない喫煙スペースにてそれが行われたというのだ。



「少佐、俺らの部隊を使ったのは正しいかもしれないですね、Gチームの連中なんてたかだか女子供の発狂見てカウンセリングを受けてんでしょう。甲斐性なしが。

何が異界だ、魔導士だと言ってもド球をぶっ飛ばせば死ぬんだ。受けて立とうじゃないですか」





————





 ――BANG! BONG! WELL…——Buzz! ZZ…


整備工場周辺では金属を叩き、溶接し、クレーンが動き火花が飛び散る。



そう、Gチームが休暇でも整備班に休みはない。毎日年端もない少年が服を汚し、それを洗濯する母の如く兵器を直しては痛めつけ、直しては痛めつけの繰り返しであるのだ。



当然ながらこまめなメンテナンスは機械類に全力を出させる下地になっている。

航空機と比べて戦車類はがさつでもなんとかなってしまうポテンシャルこそ持っているが、繊細な機構の組み合わせに変わりはない。



特段戦車のような非常に大きなエンジンの場合、Soyuz内ではできる限り出撃前にはオイルを交換することになっている。


スポーツカー等では当たり前だが、燃費の数パーセントしか変わらないとは言えども軽油をロシア人の手中にあるウォッカのように爆発的消費するエンジン故、かなりの燃料を節約できる。



問題はその作業を行っていた人間である。



「嬢ちゃんや、513のオイルを抜いといてくれや。それが終わったら512番の燃料の補給だ!」



「はい!」



整備班に紛れて油にまみれ、マシンに誰よりも実直なソフィアである。

あらかたの習わしを教わった後、恐るべき学習能力でこれら作業を覚えてしまったのである。



「女がメカを触ってほしかねぇなぁ、特に…」



そんな中、ある整備士が初老の班長に向けてこう言った。いかんせんメカマンは男が多い、そのためソフィアは浮いた存在であることは間違いない。



「ありゃ女じゃねぇ、本物の漢だ。」



班長はただそう答えた。メカを愛する人間、世界や次元さえも超えることを彼はよく知っていたからだ。なおも作業は続く、次の作戦を優位に進めるべく。





—————




場所は変わってダース山シルベー側標高1000m付近。


この高山では冒険者集団[ガルーダ]はついでに受けたワイアームと呼ばれるヒモ状飛龍の個体数を数えつつ、いつ来るか分からない未知の敵に対して対策を練っていた。



戦士らは少佐の部隊から武器こそ補給できたものの暇も支給されてしまったらしい。



知性的魔道蹂躙集団プロテアーゼはこの上にいるとのことだ。



得体の知れない敵に対して戦うのは誰だって嫌なものであるが、どうもプライドだけは高く乗せられやすい奴らの集まり、少佐にたきつけられたに違いない。



それに関してハンターのウォレンが偵察を兼ねて行っていたのである。



そもそもの話、山道とは言え馬なしの貨車のようなものが到底下れないだろうと踏み、気を抜いて個体数をひたすらに記録するのだがこれが精神的に良くないことの積み重ね、専門家ではない彼らにはただの苦行にしか過ぎない。



「かーっ、気が持ってかれるぜ。あとこいつを3日やってたら気が狂う」



ウォレンは愚痴を吐きながら霧に曇る空を見上げながら記録版に視線を落とす。



あまりにも慈悲なく肝心の記録は姿が1体見えただけで、山沿いには空を飛ぶものはまるで見られない。それ即ち恐ろしいほどの退屈が待っているのだ。



時間だけが悪戯のように溶け、未知の敵は来ないとあれば至極全うである。



 こういった地味な奴隷的作業も行うのが冒険者ということくらい重々承知ではあるが心に堪えるものである。


いつの間にか眠っていることもあったがそれも一度や二度のことではない。

一体ワイアームのことを研究している連中は頭の釘が何本か腐っているに違いない、ウォレンは確信した。



「まぁ未知のうんたらだってそうそう来てたまるかよ——しかたねぇ、待つか」



ため息をつきながら空を見つめると、空には霧と雲が流れ静寂に満ちていたのだった。

彼らはこれから起ころうとすることを知らず、呑気にワイアームを待ちぼうけしていた。



全く持って未知の敵を相手するのはSoyuzだけではない、帝国側の人間もそれに含まれる。お互いの顔を知らずに戦うことは戦地では往々にしてあること。


今までのドクトリンが通じないような敵を相手取るという状況はなかなかないものである。


そのためサルバトーレ少佐は軍本部から勇者の増援を呼んでいたのだ。戦いは手数である。



だが増援をそのまま使うほど少佐はせっかちな男ではない。敵が後ろに下がったということはこちらに準備を行えるだけの時間を貰ったことになる。


進軍してくるより前に着任した増援兵のしつけを行うことになったのだ。


「帝国陸軍第2臨時部隊の諸君、遠方からご苦労。俺は帝国陸軍第4中隊指揮官のサルバトーレ少佐だ。本日より諸君らは我が隊に編入される」



「まず最初に、勇者という兵職は素早い足で戦場を駆け抜け剣でありとあらゆる敵を砕くものとあるが。あえて言おう、手数だけの器用貧乏であると」



「——また諸君にはこの部隊の習わしについて身をもって教えねばならない。故に今まで培ってきた勇者としての能力を伸びないものもいれば、逆もしかりだろう。」



サルバトーレは最初に小隊の面々15人を集めると、軽い挨拶をした。



ニールより経歴は聞いていたが、壇上から見る彼らの顔つきは未だにあか抜けないものだった。新兵ではなく訓練を受けていることは間違いないが、どのみち訓練を積んだだけなのだろう。



殺しを経験したとしても相手は農民か粗雑な反政府組織の面々である、これから相手にするプロの殺しにはそぐわないことは明白だ。





—————





 エリートの勇者部隊がどれほどの腕を持つ連中なのか試すべく少佐は訓練所に場を移すと、高らかに声を上げた。



「これより組手を始める。腕に自信があるもの、俺を倒し武勲を得たい者はあらゆる手を講じて殺しに来い」



その宣言後、小隊は少しばかり困惑していたがしばらくすると一人の兵士が少佐めがけて天高く飛びあがり、新品の剣を振り下ろした。



あまりの機動性に通常のソルジャーやアーチャー等では肝を抜かれることだろう。

だが相手は過去のガビジャバン戦争で手腕を振るった剣豪、そんな固定概念の塊な攻撃など知れたもの。



 振り下ろされた一撃をシールドで受け止めるかと思いきや、兵士の動きを止めながら威力を受け流しながら足に目いっぱいの力を込めると魔具が光りだした。


そして腰に吊り下げられた剣を引き抜きながら突き進んだ。そう、居合切りである。



「——常識を捨てて戦え」



 とびかかった兵士は容赦なく切り捨てられると、次々兵士が襲い掛かってきた。全て無駄なことである。



剣を捨て、鎧砕き用重斧に持ち替えると、近くにいる勇者から手当たり次第に振るい始めたのである。



斧は剣と比べて重く、とりわけ対重装兵用のものであればなおさら。

魔具を装備していても、持ち手に撓りが生じるため振りが大きくなりやすい。


そのため徒党を組むことで打倒そうと試みた彼ら畏怖した。



肝心の一振りが剣同様かそれ以上に速いのだ。無論このような一撃を食らったのならば命はないだろう。



迫りくる多数の兵士を砕いては蹴飛ばし、時折三次元機動を駆使して蹂躙していると、小隊の中に戦える人間はいなくなっていた。


エリートとされる彼らは地に伏し、少佐はどこか軽蔑したかのような眼差しを向ける。



「勇者は器用貧乏であると言ったはずだ」



サルバトーレは所詮この程度の集団だとタカをくくり、息を浅く吐いた瞬間である。


戦闘不能かと思われる同僚から剣を強奪するとある一人の勇者が二刀流で襲い掛かってきたのである。


思わぬ不意打ちに対して少佐は咄嗟にシールドで受け止めた。

だが相手は殺してやると言わんばかりに、片方の剣で少佐の首根向けて突き立てようとしたのである。



ギリギリと鋼鉄同士がいがみ合い、少佐と勇者の顔が目と鼻先まで近づく。


ふと彼が少佐の顔を見ると、ザコどもを片付ける冷たい顔ではなく真の精鋭を前にした猛獣王の如く獰猛な顔つきであった。


それも一瞬、サルバトーレは足元のブーツに渾身の力を込めると跳躍力をフルに生かした猛烈なタックルを見舞って兵を突き飛ばしたのだ。



本来装着者を人間業とは思えぬ高さまで跳ね上げるエネルギーすべてが、膝蹴りに集中する結果になり、蹴鞠(けまり)同然に歯向かってきた勇者は吹き飛ばされる。


彼はそんな中でも剣を地面に突き刺して辛うじて姿勢を立て直した。距離を取るとサルバトーレはこう言ったのだった。



「名と階級は」



互いに緊迫した空気が流れる中で、その兵は質問に答える。




「アシャンティ・ボラン、階級は伍長です」


すると少佐は年甲斐もなく歯を見せつけながら口を緩ませ、


「その名前、覚えたぞ」


その顔は今までの冷酷なものではなく、メッキではない才能を見出したかのような顔であった。

無限の闘争心の元、サルバトーレ少佐の修正は続くのだった。未知の敵を相手にするためだけに。

BTR-80K

序盤に搭乗していた80の指揮車タイプ。

無線機を搭載しており、動く司令塔と言ったところか。


ソ連の車両にKが付いたらこのような指揮型だ。

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