Chapter 54.the dragon muppets(3/3)
聖堂に立ち入ったSoyuzを排除するため、どこの所属と知れぬ帝国軍が仕掛けてきた奇襲から戦闘は始まった。
上からは装甲を射抜くガロ―バンの狙撃、目の前にはニースと呼ばれる未知の対装甲槍射出器や対重装兵用槍ソルジャーキラーを持ち寄った重騎士が展開していた。
加えて火竜まで出撃して帝国軍は敵の殲滅を図ったが決死の努力の元、何とかとしてSoyuzの勝利へと状況は傾きつつあった。
鎧殺しの重装兵ミジューラとケホによって残存していた重騎士を全て物言わぬ死体に変え、リーサル・ウェポンである火竜さえも絶命させた以上残された任務は狙撃兵の掃討であった。
勝利の美酒に酔いしれることのないSoyuzは決して気を抜こうとしなかった。
何せ軽戦車や空挺戦車の装甲を射抜く弓を振り回すベテラン兵が残っているのである。
それ以上に恐ろしいものはないだろう。
それ故に最後の最後まで気を抜くことなど許されないのだ。
DAM!DAM!DAM!DAM!
突如としてBMDの主砲から上部構造物めがけて30mm機関砲が火を噴いた。奇妙なことに敵などいない角度に向けて撃たれている。
少佐は正気を失ったのだろうか。
二階にいるスナイパーたちは油断したところを一挙に仕留めるべく、空挺戦車の砲塔めがけて無数のガローバンの狙撃を始めた。
——QRAM!!QRAM!!!QRAM!!!
あたりには徹甲弾の総攻撃を受けているような金属音が反響しはじめる。
指揮車が総攻撃を受けているというのに、5式軽戦車も砲塔を回して増援が出ないか警戒に当たるだけで、特に手出しすることはなかった。Soyuzは狂ってしまったのだろうか。
否、Soyuzはいたって正気であった。
隊員の一人が二階につながるハシゴを登ると、獲物を狙う蛇めいて二階にそっと降り立った。
そうしてヤマネコのように音を立てずスモーク・グレネードの安全ピンを引き抜き、近くにいたスナイパー向けて転がしたのである。
——Fizzzz——
グレネードを中心にスナイパー周囲が煙に覆われたではないだろうか。ニキータの狙いはこれにあった。
指揮車に囮になってもらうことで突入する隊員が狙い撃ちになることを避け、各個一つずつ敵を排除してゆく算段である。
「——なんだってんだ—!」
煙に覆われたスナイパーは思わずむせながらも謎の煙幕に対し戸惑っていた。
視界が突然効かなくなるのである、目が命の兵種にとってはあまりに致命的である。
思わず彼は近くの敵の存在を探し始めた。ありとあらゆる五感を駆使したが、その苦労は徒労に終わる。
——DLALANG!!!!!——
赤外線式暗視装置を付けた隊員にはその様子は丸見えであった。
即座にAK102で敵が射殺されると、氾濫した河のように歩兵がなだれ込んできたのである。
「なんだ!?」
敵部隊長は思わず声を上げた。突然煙幕が張られた瞬間、連続した銃声がしたからだ。
だがそれに気が付いた時には遅かった。隊員たちの侵入を許していていた上、辺りはダース山の霧めいた煙幕が渦巻いておりまともに視界が効かない環境へと変化していたのだ。
それもそのはず、突入した隊員たちはMGL140を使って赤外線暗視装置に一目映ったありとあらゆる人影に向けてスモーク弾をありったけ放り込んだのだから。
「出てこいクソッタレ——!」
ある一人のスナイパーはあまりのことに錯乱しながらガローバンを振りかざし、音で敵を探すが、五人張りの大弓をさらに巨大化させたような艦砲のような弓では狭い屋内での戦闘に適するはずもない。
むしろ敵に位置を教えたことになり、容赦なく射殺されていく。
――――
□
敵の殲滅をもって戦闘は終結した。
多数の重装兵、そしてスナイパー。到底その辺の傭兵やゴロツキとは思えず、重装兵が身に着けていた鎧は帝国軍標準のものであることがミジューラによって確認されると、疑念はより深まっていった。
戦火が跡形もなく消え去ると、冴島は守衛のアーマーナイトを探した。
彼に最後に話しかけたニキータの報告によれば礼拝者を避難させるために他の祭壇に向かったとのことである。
Soyuzは聖堂騎士団が内通者であることを疑っていた。いくら軍とは別の存在とは言え、敵対国家にいる以上考えないという選択肢はない。
少佐の指示の元、ニキータたちが祭壇の調査に辺り始めたのだった。
暫く嗅ぎまわっていれば、白いメガゾードを見つけることは容易いもので、複数ある祭壇の所に匿っているところを発見する。
【連中を発見しました】
ニキータは鍵のかかった扉のわずかな隙間から内部を覗き込み、息を明いっぱいに殺しながら少佐に連絡を取る。
【了解。仮にも重装の歩兵。重々承知だと思うが、連中には並大抵な火器が通用しない。下手に暴れられたら厄介だ】
【了解】
短く無線越しの会話を終えると、ニキータは扉を軽くノックした。文化的のことを差し置いて、このまま渋っていては進まない。
「——先ほどは失礼した。身の安全は確保した。どうか施錠を解いてほしい」
火災のように燃え上がっていた戦火は周囲に炭化した燃えカスを残しながら沈黙すると、聖堂には吹き上がる山風が吹き込んで廃墟のような様相を呈していたのだった。
——CARSH,CRASH…——thud!
しばらくすると鋼鉄そのものが歩いているような足音がすると鍵が落ちたのか重い分銅が落ちたような音が響く。
ニキータは一幕置いてから扉を開けると、そこには白いアーマーとその背後には同じく白い羽衣を来たシスターと牧師が隠れていた。
「…少し聞きたいことがある。アーマーのアンタに用がある。来てもらおう」
少しばかり声に殺気を含ませながら、非戦闘員の救援に向かった聖堂重騎士にもニキータは圧力をかけるように言ってのけた。
先ほどの戦闘のこともあり気が立っていたこともあるが第一、内通者の疑いをかけられた人間に対して腰を低く接する必要がないためだ
「私は何もしらない!本当だ、信じてほしい!普通聖堂に——」
まるで肉食獣のような殺意を向けられた彼はひどく焦っていた。
訓練とは違う実戦を経験しており、守るための重装兵が死屍累々の様を見れば錯乱も混じっていたがニキータはそんな彼に酷く冷たく言い放つ。
「そのことはうちの上官が決めることだ。俺や、ましてお前が決めることじゃない。」
Soyuz特殊部隊は世界中のテロリストや犯罪組織が仕掛ける情に訴える悪あがきをいくつも見抜いている。当然ニキータやその配下の隊員とて例外ではない。
故に酷く冷淡に、そして素早く制圧する。
それが彼らだ。
―――
□
最重要人物である例の重装兵が少佐の元に連行されると、半ば尋問に等しい聴取が行われていた
「hum、そんじゃあ本当に清く正しい牧師様というわけか。生憎俺は日曜のミサが嫌いなんだ、こんなクソな世の中も救ってくれない神様もだ。おたくらはさぞかし良い食いモンでも食ってその口でたわけた祈りでも捧げてんだろう、ふざけやがって…」
重要性の薄い牧師とシスターの事情聴取を行っていたトムスは嫌味を吐き捨てた。
誰しもが命を懸けた戦いを終えた後で殺気立っており、彼は思わずホルスターから拳銃を取り出そうとしたのを目撃したニキータは、万力のような握力で抑え込むとこう警告する。
「——そのことはわかるが口を慎め。俺だってそうだ。それ以上口を開くんならお前を処分せねばならない」
やり場のない感情をため込んだトムスは彼に言われるがまま手をどける。
彼は一瞬だけ歯ぎしりをすると荒く息を吐いて他のメンバーの常駐する場所へと向かっていった。
その傍ら事情を良く知るミジューラと、部隊の最高責任者となった少佐は例のアーマーナイトの尋問が始まった。
時間の大半は、半狂乱の彼の口にコーラ瓶ねじ込ませてまで抑え込むのに費やしたが、何とかスタートラインにつくと、歩兵部隊の人間と隔離して腹割った話が繰り広げられる。
「——迷惑をかけて本当に申し訳ない、修理に関してはその道のプロを招集し即座に修復に取り掛からせます。このようなモノを招いたのは我々の一存でもありますが、いかんせん待ち伏せを受けたもので。何かご存じではないですかな」
少佐は少しばかり圧をかけながら知りたいことを的確に突き付けた。あからさまに現地に詳しいである人間がいる以上、質問しないわけがない。
聖堂騎士は空のコーラ瓶を床に置き、ヘルムをかぶりなおしてから口を開いた。
「——本当はあんなところに軍隊はいないはずなんですよ、穢れた軍隊が神を守ろうなんておこがましいにも程がある。ただでさえ教皇と帝国軍は仲が悪いんです、どうも聖堂を軍事利用するだとか神の名前を借りた兵器を作るだとかで」
「だから帝国さんの軍とは別の聖堂騎士団なんてところをわざわざ作って守らせてるんでしょう。それからというもの、向こう側とこちらはお互いに関わり合いにならないようにして平穏を保っているのです」
その言葉に冴島の右眉は針金のように右上がりに曲がった。
芝居にしては良くできているか、あるいは本当なのだろう。
新兵でもしないような錯乱具合から鑑みるに嘘よりも誠の方が近いだろう。
「事実、ホーディンの城にある聖堂さえも教会の人間ではない、従軍司祭がいますからな。…特に挿げ変わってからというもの、潔癖と言って良い程に互いを嫌っている程。儂も世間知らずが深い身、それ以上は良く存じ上げないがこれだけは言えるでしょうな」
ミジューラは口添えするように囁いた。事実はつながったが、少佐にはまだ聞かねばならないことがあった。
「——どうも。あと一つだけ。この聖堂には最近になって【絶対に立ち入ってはならない場所】及び【夜な夜な気配がする場所】はありますか。差し支えなければ調べさせていただきたいものです」
冴島は大方理解を終えると、突拍子もなくこう質問を投げかけた。重装兵はあまりのことに白い鎧の中であっても困惑する様子を見せたが兜に拳を1か2回ノックすると
「…2か月前かそれくらいに、ここは連絡のない人間を祭壇に入れるなというお達しがどこからかありました。前々からではありますが第3祭壇の奥深くにある扉には悪魔が封じられている故に立ち入るな、と言われたことを記憶しています」
「調べるぞ。第三祭壇に案内してほしい、あの教徒だけしかいないならその祭壇も開いているはず。立ち入って構わないですかな」
冴島少佐はその発言を聞き取った途端、彼に向かってこう言ってのけた。
砕け散ったパズルのピースが少しずつではあるが、ここの秘密を如実に表しはじめていた…
――――
□
「ちょっと、本気なんですか。悪魔が封じられているんですよ」
「刺激しないよう心がけます」
3つ目の祭壇奥にある扉を前にした少佐たちは聖堂騎士の静止に対して無理を言ってブリーチング・チャージを仕掛けようとしていた。
当然の如く鍵がかけられているだけではなくノブさえも見つからない有様で、どちらにせよ開けることは不可能である。
早速内部を調査するため歩兵チームが解錠準備に取り掛かっていた。まず最初に扉の性質を探るために入念に探りが入れられると、トムスが持ち込んでいたM37を使い蝶番と思しき場所を吹き飛ばした。
———ZDANG!!!——ZDANG!!!
「知らないぞ!私はどうなっても知らないぞ!」
その銃声に驚いた白いアーマーナイトを尻目にニキータが先陣を切って足を踏み入れた時だった。
「厄介なことになったな」
彼がそうつぶやくのも無理はなかった。いざ入ると、5人が入れるかどうかの塵埃が積もった狭い小部屋が存在しており、その中にもいくつもの扉が配置されているのだ。
それに加え妙な痕跡が残っている。
悪魔が居るというホラを吹いて封印していた部屋にも関わらず、この部屋に存在する数々の扉を使用した跡が残っていた。
おまけに鎧をつけた人間の足跡も雑多にある始末である。
「隊長、アーマーでも通れそうです。」
トムスが重騎士と怪しげな扉を二度見しながら報告を上げた。
言われてみれば少佐のような体格をした重装兵でも通ることが可能だろう。
石造り故にそれなりの重さにも耐えられることを考えると、この入り口は聖堂中庭につながっており、突如として現れた帝国軍兵士はここの通路を使って現れたに違いない。
神に祈りをささげる聖なる場所に一気に暗雲が立ち込めはじめたことだけは確かだった。
歩兵チームの一人が念のため写真を撮影し終わると小部屋奥にある扉に関して調査が始まった。そこには水をぶちまけたような文字が羅列されており、内容を伺い知ることはできない。
「悪い、爺さん。なんて書いてあるんだコレ」
ある隊員がミジューラに問う。学術旅団の連中もようやっと文法が解析出来たらしいが、戦闘の専門家である彼らには到底理解できそうにない。
おまけに壁色が露骨に違うため違和感が浮彫になっていた。
「——血に穢れた場所、あらゆる聖者の立ち入りは禁ずる…か。少なくとも悪魔を封じている場所に書くような文言ではないのは確かですな」
「まどろっこしいことしやがって。きな臭いったらありゃしねぇ」
そうして再びブリーチング・チャージを行うと、そこにはタールで塗られた真っ黒い壁が姿を現したのである。
到底聖堂が施工するような耐火構造ではない、帝国軍の施すようなものである。
此処から先、聖者の世界ではなく血肉にまみれた軍人の世界であることを意味していたのである。
行きはよいよい、帰り等はない。
ついに暗黒の世界の蓋が開けられてしまったのだった。
次回Chapter55は1月30日10時からの公開となります




