Chapter 53.the dragon muppets(2/3)
一度退却を許したが、それは勇気の撤退である。戦力を揃えた今、再び背後には逃げることは許されない。BMDの放つ7.62mm機関銃の制圧射撃を背に再突入が始まる。
歩兵たちは軽戦車すら貫く発ニースを持つ重装兵を、装甲兵器らは歩兵を守る盾として動きながら狙撃兵を砲撃し、火竜の接近を阻むように立ち回っていた。
敵重騎士は非常に重量の増すニースの照準をゆっくりとケホに向けようとしていた。
爆発魔道を意図的に発生させ、そのエネルギーを封じ込めておくには恐ろしく肉厚な筒を使わなければならない。
反動の衝撃を何とかアーマーナイトでも耐えうるように重量が増されている発射機は槍と比べて取り回しや狙いをつける速度が酷く遅い。
前にはソルジャーキラーを持ったアーマーが感づかせないように人間肉壁になっていたが、鋭い洞察力を持つミジューラと元Gチームには無駄な足掻きでしかない。
彼によって盾役の合間を縫うように鋼の槍が弓矢めいた速度で投擲されると、ニースを持った重騎士に弾着した。
しかしながら50.CALさえも弾くことのできる装甲には痛くも痒くもなく、むしろニースの照準がミジューラに向けられたその時である!
アーマーナイトの死角から47mm徹甲弾が飛来していたのだ。着弾と同時に信管が作動すると生じたメタルジェットが容易くヘルムを貫いた。
————QRAM!!
まさに一瞬の出来事。
攻防の後には派手な爆発で彩られ、後には脳天を貫かれた死体が聖堂に崩れ落ちた。
それでもなお時間は止まらない。
ミジューラは敵の手にしていたニースを軽々と担ぐと、付近にいた盾役騎士に向けて容赦なく3発同時に引き金を引く。
———BOHUM!!!!!——
レイガンを魔法的にしたような爆発音が辺りに反響すると、槍はアーマーナイトの胴体に残虐に突き刺さる。
射手というものはどんな時であっても自ずと無防備になるものである。
ニースはあくまでもおびき寄せる餌だったようで、ソルジャーキラーを持った二人の重装兵に前と後ろを挟まれていたのである。
危機を察知した隊員は即座にMGLの照準をつけて片方の敵めがけてグレネード弾を見舞ったが、もう一体、背後にいるヤツに当てるためにはもう時間がない。
間一髪かと思われた。
大槍が老体めがけて突き立てられることくらい彼は既に察知していた。
巨大なランスの矛先を脇腹に挟む形に受け流し、強靭な腕力で抑え込んだのである。
ソルジャーキラー。あらゆる歩兵の装甲をニースと同じ原理を用い、槍先だけを杭打機のように打ち出して装甲を貫通させることを目的とした武器。
しかしそれは当てることができればの話。
どんな兵士の骨肉を貫く強力な攻撃であっても当たらねば意味がない。
一閃は虚空を切るとミジューラは舞踏するかのようにターンをして軽やかに大槍を奪い取った。
攻撃を受ければ反撃が待っているのは世の理。彼は槍を再び射出状態に戻し、ペン先のようにソルジャーキラーをくるりと回し急所にめがけて狙いをつけた。
———BOHUM!!!!!——
ニースの時と同じ、魔法的な爆裂音が聖堂に響き渡る。ランスはアーマーナイトの襟もとに深々と突き刺さり、そこから流れ出た膨大な血が槍を赤黒に染めてゆく。
彼はまるで団子の串めいて死体から引き抜いて血糊を払うと、何事もなかったかのように敵に食らいついていき、歩兵部隊はその後を追う。
そんな中、実戦を知らない人間が居た。あの聖堂騎士である。戦場のスイッチがひとたび入ったニキータはそんな彼に向かって新兵をしかりつけるが如くすさまじい血相をしながら言葉を浴びせた。
「なにぼさっとしてる、お前も手伝え!お前も死ぬんだぞ!」
「私は聖堂を守る身、誰彼を傷つけるために槍を持ったわけでは———」
逃げる真っ当な理由を騎士は言ってのけるが、ニキータにガソリンをかけるが如く怒りを燃え上がらせてゆく。
「言い訳するな!敵が排除できないってんなら他のヤツの救助に向かえ!返事は!」
「わ、わわ。わかりました」
「右旋回しながら9時方向に砲撃!」
エンジンの轟音を響かせ5式軽戦車はスナイパーの排除にあたっていた。
砲火力こそ建物に潜む狙撃手を吹き飛ばすことはシリアでの定石である。
戦車は車長の指示によって右方向に履帯を動作させすばやく右に曲がると、内部の装填手は重い砲塔旋回用ハンドルを目いっぱい回して敵に向けて照準を向けた。
「fire!」
———DANG!——
砲手の叫びと共に47mm砲が発射されると砲塔内部には硝煙が充満し、薬莢が吐き出された。
————
□
着弾先である美しい聖堂構造物は無残に砕け散り粉塵が舞い、石造りの盾ごと敵を吹き飛ばしたのだろう。すると突如無線が割り込んできた。
【LONGPATからFeather Cへ、何をしている。榴弾を使ったな、倒壊することを考慮し徹甲弾にて敵を排除せよ】
長年シリアでの戦闘を経験した少佐からの言葉であった。榴弾は障害物を貫通して敵を排除できる反面、構造物へのダメージも大きい。何気ない一撃で生き埋めになってしまうかもしれないのだ。
【Feather C了解】
車長は冴島に言われるまま返事を返すと、車内に響くよう声を張り上げる。
「徹甲弾装填急げ!」
その言葉を聞いた装填手は徹甲弾を取ると砲に押し込み、蓋を閉じた。
それで彼の仕事は終わりではない、照準先に重装兵が居れば足止めすべく機銃を撃ち込んでやる。
特段狭苦しい軽戦車は砲撃の硝煙と鳴りやまない機銃の発砲音、ひっきりなしに動くエンジンで満たされていった。
装甲に守られた棺桶だろうが、現場でライフル片手に敵を撃つ歩兵やその背後で指揮を取る戦地に居る全ての人間に地獄は平等に降りかかる。それに例外はない。
突如、徹甲弾が撃ち込まれたかのような凄まじい衝撃が車体を揺さぶった。
敵の狙撃はその辺のザコが持っているような鉄の弓ではなく対装甲弓ガローバンなのである。
下手を撃てば軽戦車如きの弱点を射抜かれることは間違いないだろう。
一発の着弾を皮切りに機関砲を撃ち込まれているかのような金属音が戦車内を埋め尽くした。
——QRAM!!QRAM!!!QRAM!!!…——
そんな中でも車長は冷や汗一つかくことなく砲手を蹴飛ばしながら指示を飛ばす。
「敵狙撃6時方向、砲旋回急げ!ぼやぼやしてると抜かれるぞ!」
残弾数を減らしながら砲撃の雨は鳴りやまない。
指揮官である冴島少佐も後ろで軍師をしているだけにとどまらない。
BMD-2の軽快な足取りを活用し、火竜の足止めもとい撃破に勤しんでいた。
「——相変わらずでかいな」
少佐は火竜の姿を見てそうつぶやいた。今まで確認した竜の中でゴジラのように巨大であった。
体高はおおよそ4mを超え、MBTを超える幅でこちらに迫ってくる、これを相手にしたGチームや他スタッフらが異常としか言いようがない。
火竜は直立したまま本当のゴジラのように二足歩行をはじめ、ノミをつぶすかのように巨大な爪を振りかざした。
「後退急げ!」
「了解」
あの質量から放たれる一撃は装甲があるとは言え軽量なBMDにとっては死活問題である。
その上機器類がみっちりと敷き詰められた車内で酷く揺さぶられるとなると、最悪死の可能性すら見えてくる。
急いで後退を始めたBMDはふりかかかる火竜の爪を間一髪回避すると、野蛮極まりない爪は聖堂の床を砕き刺さった。
あの爪が最低限の装甲に少しでも掠めたのならば、コルク材のように装甲に突き刺さることだろう。
まるで着ぐるみを着ているような動きに少佐はどこかが引っ掛かっていた。
報告例によれば四足歩行で追跡し、ありとあらゆる生物を恐怖で蹂躙するような咆哮を上げながら炎を吐き出して迫りくると記載されていたはず。
それに対し目の前にしている目標は[捕食対象として最も適当な人間ではなく戦術的価値の高い装甲目標に対し襲い掛かり][咆哮を上げず火のブレスを使用しない]のである。
別視点で見てみれば火竜という皮をかぶり、人間が操っているように見えてきたのだ
「敵目標に向けて移動しながら砲撃を続けろ。何かがおかしい、地頭が畜生にしては良すぎる。近づかせるな!」
少佐が指示を下すと、30mm機関砲が火竜に向けられると薬莢を吐き出しながら砲撃を始めた。
———DAM!DAM!DAM!DAM!
酷く重厚な爆裂音と共に30mm砲弾が放たれると、巨大な薬莢が放り出される。
BMDの主砲の残弾は300が限界で、山のように機銃弾があるものの火竜相手には石礫にもならないだろう。
弾着確認するため冴島はペリスコープ越しに火竜を見つめる。着弾点からは血しぶきが吹きだしており確かに当たってはいる、が。
生物にも関わらず痛覚がまるでない装甲兵器の如くこちらに向けて走ってきたのである。間違いない、この怪物は何者かに操られている。確信した。
「左に旋回しながら前進、口が開いたらブレスが飛んでくる。ファゴットをぶち込んで頭を吹き飛ばせ」
「了解」
アルミ合金で作られた車体が軽く浮き上がりながら、エンジンを吹かして一気に加速し炎の死角に入り込んだ。
その様をただ待っている程、帝国兵は慈悲などない。
軽戦車の砲撃から逃れたスナイパーがこちらめがけて狙撃を浴びせてきたのである!
対装甲弓ガロ―バンの一撃はあまりに重く、一部の矢は車内にせり出してくる有様でありHEAT弾なら間違いに死んでいただろう。
「少佐、敵から攻撃を受けています!」
ガンナーからの悲痛な報告と、車内には装甲を貫く恐ろしげな音が混ざり合いBMDは混沌と化すが、少佐は表情一つ変えることなく冷徹に指示を下す。
「———Feather Cに援護させればいい!100m距離を取ったら9M111をヤツ口の中にぶちかませ!」
まるで翻弄するかのように火竜の周りをドリフトしながら距離を取りつつ適度に砲撃を浴びせて注意をひきつける。
そして怪物の口が大きく開かれると、ミサイルの照準が今まさに業火を放とうとしている口めがけて発射された。
——DANG!SHHHHHhhhh!!!!!!——
爆炎を吐きながら発射機から放たれた弾頭は吐き出された炎をかき分けながら怪物の口めがけて飛んでゆくと、口腔内で炸裂したのである。
その間、わずか一秒未満。現代戦においてはあらゆることがコンマを切った世界で行われるのだ。
——ZLSH!!!!
鉛色の煙が晴れると、火竜は聖堂の床に突っ伏して絶命していた。
—————
□
歩兵の出ることができる環境が整うと、今まで苦戦を強いられてきた随伴歩兵隊も攻勢を一転し、切り込んでいった。
ニキータは遮蔽物越しに気配を殺しながら二階へ上れるハシゴを見つけており、素早く決着をつける気でいた。
【こちらニキータから各員、敵狙撃兵の居る階層へ続く階段を発見した。爺さんはアーマーを、他隊員は上部構造物内を制圧せよ】
その提案にミジューラは戦闘中ながら彼の言葉にこう返した。
【儂のことは結構、任されなされ。——この程度!】
何も戦車たちが戦場の主役ではない。
屋内戦においては数千年が経過しようと歩兵が主役。
5式軽戦車を通じ、敵についての情報が共有されるとニキータたちは驚くべきことを知ることとなった。
小銃の死角となる場所から悠々と狙撃しているのは往々にしてあり得る。
連中が使う矢そのものがBMD-2や5式らを貫通するかもしれないのであるのだ。
それは前世紀的な武器で現代兵器に立ち向かえることを意味する。
ニキータは少佐が狙撃された際に薄々その威力について察していた面はあるが、いざ事実を聞かされると寒気がするものである。
一度彼は突入地点の安全を確保するために火竜を倒し、与力のできたBMD-2Kに援護要請を出すと、隊員たちは上部構造物に居る狙撃兵たちに感づかれないよう気配を殺して集結させた。
ニキータが静かにハンドサインをしながら目線で指示を下すと、颯爽とペアが組まれると、暗視装置を装備し突入に備える。
突如始まった熾烈な戦闘はようやく終結を迎えるのだろうか…
次回Chapter54は1月23日10時からの公開となります
・3連装対装甲槍投射器 ニース (2/2)
近距離ではあるが飛び道具で35mmの鉄板を貫く装甲貫通能力を持つ武器だが、人力で持つのは重すぎて不可能。そのためアーマーナイトなどの魔具を装着した兵士が運用していることが多い。
さらに工作精度が甘いと筒自体が爆発する死亡事故が多発したこともあったせい。
実は隣国ガビジャバンの兵器をコピーしたもの。




