Chapter 52.the dragon muppets(1/3)
タイトル【竜を操る者】
冴島少佐の指揮するBMD-2Kと5式軽戦車は鋭い岩石をかき分けながら聖堂へと足を進めていた。
軽戦車と比較して細い鋼鉄の履帯をきしませ、軽油の血をエンジンで燃やして真っ白な煙を吐きながら小石を踏みつぶして進軍する。
能雑で狭苦しい鉄の棺桶の中、どんどんと大きくなってゆく聖堂を前に少佐の直感は揺れ動いた。
この聖堂は大層立派なものである。
山の頂上という極めて建造が難しい箇所に建てられたノイスバン・シュタイン城めいた出で立ちであり、神に祈りをささげるためには神さえもケチをつけないだろう。
だが裏を返せば、巡礼に訪れにくいが故に人が立ち入りにくく、そして聖地であるが故に怪しまれない【まさかこんな所にあるとは思わないだろう】といった場所でもある。
麻薬カルテルの抗争に介入し幾度もコカインの隠し場所を見つけていた少佐はそのような思惑に人一倍敏感だ。
斜面を登り切るとついに大聖堂の全貌が現した。
山のとがった頂上そのものを作り替えた紛れもなく違法建築のような造りでありながら、青空が真上に広がり、下には山肌と霧の分厚い壁が阻む。
聖なる地にふさわしい立地である。
外装はというとヘルシンキにある大聖堂を思わせる純白の石壁で作られており、不気味なほどに大きい。聖堂というよりも軽い城と言っても良いほどに。
しかし周りには巡礼者と思しき人間は見られず、ひどく人気が見られない。まるで廃墟のような空気を感じた少佐は、確信したのだった。
【LONGPATより各員。随伴歩兵隊の合流後、突入を開始せよ。】
冴島はすかさず随伴歩兵に指示を下す。
軍事施設の疑いがあっても外見は宗教施設である。
いきなりの破壊はコンプライアンスどころか世界中から非難を受ける事態になるだろう。
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随伴歩兵隊の点呼を終えると邪魔にならないようBMD-2Kと軽戦車を停めると、ハッチから冴島少佐が地に降り立った。
彼は周囲を見渡し、敵が潜みそうな場所に大方目を通すと、ニキータに周囲の警邏命令を出しながら遠方に視線を向ける。
ジャルニエの城と大差のない門には守衛と思しき白い重装兵が一人立っていた。
少佐は懐から双眼鏡を取り出すと、ピントを重騎士に合わせながら様子を伺う。
レンズから覗いたアーマーナイトは今まで見たことのあるソレとは異なっていた。装甲は白く塗られ、縁取りには金色のエングレーブが施されているのだ。到底それらには何のタクティカル・アドバンテージなど見出せない。
「——将軍、白地に金色の装飾が施された重装兵はご存じでしょうか」
冴島は双眼鏡を覗き込みながらミジューラに問う。
「帝国軍の標準色は血の煮えたぎる深紅。白は聖堂専属の聖堂騎士団。深淵の槍やましてや帝国とは別の私兵。最近ロンドンが幅を利かせていますからな、マンノース聖堂でもついに雇いはじめたとは。世も末なようで」
彼の口ぶりからするに帝国軍とは別の存在であることが示唆されたのだった。冴島は世界史の教科書では古には教会等が権威を持っていたことを思い出した。それならば私兵くらい率いていても何の問題はない。
それでいても疑いが晴れぬ少佐は車両・歩兵部隊に待機するように告げると、AK102のスリングを肩にかけた後に門へと足を運んだのだった。
改めてマンノース聖堂を見上げると何かのテーマパークと見間違えるほどである。
世界は違えどやはり神聖な空気が渦巻いており、今更になって違うのではないかという思いがあるが確証がない限り、そこは安全とは言えない。その考えに従って歩んでゆく。
少佐が守衛のそばまでに近寄ると、むしろ向こう側から接触を図ってきた。
「——ちょっと失礼します。どこのどういう方か存じ上げませんが、聖堂内にいかなる武器を持ち込むことは禁止されています。」
敷地内に入ろうとした冴島に対して白い重装兵は彼の進路に立ちふさがると、こう警告を述べた。聖なる地において血泥を呼びよせるものなどは言語道断なのだろう。
それに対して少佐は疑いを掛けながら答えた。
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「言い訳をするつもりじゃあないが、あなた方も鎧を着こんでいる上に槍までもっているじゃないか。守衛ならばここまでする必要はないのではないか?巡礼する人間からしたら堅苦しいだろう。」
彼は相手の正当性を引き出すような誘導尋問を仕掛けた。情報を集めなければ何もはじまらない。ある種誘導された重装兵は冴島の質問に対してこう答弁した。
「…職務上、止むを得ないためこのような装備をしております。念のため、身分を証明できるモノなどをご提示願います。手形でも構いません」
その言葉に冴島は眉を寄せた。この世界の人々はこちらのありとあらゆる文字で記されたものを読むことができないのである。少佐はひとたび離籍するように守衛に言うと無線機を取り出した。
【こちらLONGPAT,申し訳ないが将軍に来てもらいたい】
要請を受けてから少し合間を置いて青に塗り替えた鎧を揺らしながらミジューラがやってくると、守衛に話しかけた。
「こちらの方々の身分は儂が保証しよう。我々は何もここを攻めようとしてきたのではない。」
すると白い重装兵は槍を片手にヘルムに親指をつけて、考え込むようなジェスチャーをしながら不可思議げに返す。
「——そうでしたらどこかの傭兵ギルドか何かでいらっしゃる?」
「そんなところです」
ミジューラに対する問いに対して冴島は言葉を濁しながら遮ったのであった。
かくして、守衛の監視下と他礼拝者がいる場所への立ち入り禁止の条件で随伴歩兵隊と少佐、そしてミジューラの立ち入りが許可される形だが。
相当に警戒されているが、武器を持った外客という怪しさの塊である以上止むを得ないと冴島は思っていた。
「最近、ジャルニエから入ったロンドンがシルベーで勢力を広げていましてな。ここマンノースも礼拝者を装ったコソ泥があったばかりでこんな体制をとっているわけです。
最近じゃあ軍が新たに出た反乱軍ともめてるなんて聞きます」
お目付け役として守衛を他の人間に任せたのか、聖堂重騎士は少佐たちを監視しながら世間話を口にした。
冴島は人が隠れられそうな上部構造物に目を通しながら情報を引き出すべくこう打って出た
「先ほどは野暮な質問をしたことをお詫びしよう。しかし我々もこの近辺には詳しくない。ロンドンについて詳しく話していただけないだろうか」
ロンドン。明らかにイギリスの首都そのままな名前ではあるが、その実態は現地スタッフから断片的にしか聞くことができない。
得られる情報と、不信感を抱かせないためにこの話題をチョイスしたのである。
「ロンドンを存じ上げないとなると、相当平和な場所からのお出でなようで。隣国ガビジャバンを総本山にする、ならず者集団です。私も聖職者の端くれですからあまり汚らわしい言葉を口にできませんが、ありとあらゆる悪事に手を染めているとだけ」
「最近だとジャルニエ将軍の軍隊の音沙汰がなくなったのと同じ頃でしょうか。奴ら急に幅を利かせてきて。それなんで私みたいなアーマーナイトが派遣されたのです。
軍の人間はロンドン退治にあまり本腰を入れていない上に傭兵を雇用するだけの費用も捻出してくれず、我々のような聖堂騎士がやるしか…」
意外なことに彼はロンドンについて詳しく説明しだした。言いぐさから察するに、聖堂騎士は防衛騎士団とは別の所属の兵士。
軍がSoyuz討伐に力を入れ始めたことがわかる。
歴史といい、政治といいどこの国でもややこしい事情があるものである。目の前にいる白い重装兵も巻き込まれている一人にすぎないのだろう。
「どこも厄介な事情を抱えてるものですな。」
冴島はどこかかみしめるように答えた。
マンノースの大聖堂に一足入れば輪にかけて神聖さが増し、人が建造したものとおもい難いほどに神々しい。
世界遺産や秘境を生で目にしたような圧倒感に普段から冷徹きわまる少佐であっても少し押されるほどである。
そうして聖堂重装兵に案内されるまま、宗教施設か懐疑的になるまで広い中庭に迎えられた。
緑と純白石材のコントラストがまたなんとも美しい。
庭には大きな木の蓋がされているが、それを除いても素晴らしい光景に違いない
「少しすれば使っている第2礼拝堂も開くでしょう。その間までしばしお待ちいただくことに———」
守衛の話を小耳には挟みつつ、冴島とニキータは自分らに向けられる殺気に感づいていた。中東の市街戦のように自分に向けられた照準。それを逆探知すべく攻撃を誘っているのだ。
暗がりになっている上層階通路に一筋の光が反射し、一つのきらめきが零れ落ちたその時。
少佐は懐から拳銃を素早く取り出すと、真剣の素振りの如く振り向いて発砲したのだ。亜音速弾丸と鉄芯のような細く鋭い矢が交差する。
鉛弾は柱に当たったのか跳弾を起こし、矢は石材に深々と突き刺さった。
石材に突き刺さるほどに鋭利な矢、まるで徹甲弾めいて鋭い見たこともない代物である。
だが冴島はこれに見覚えがあった。
対装甲弓ガロ―バン。
帝国軍精鋭狙撃兵、ガンテルの使っていたものと同じスナイパーと呼ばれる兵種が使う物体である。
直撃すれば即死する一撃をかすめてもなお狙撃を避けるため常に移動しながら冴島は冷徹に指揮を執る。
「5時方向から狙撃、歩兵隊は狙撃兵を排除せよ。」
付近にいる歩兵に命令を下すと無線機を取り、待機中の車両たちに向けて連絡を取る。
【こちらLONGPAT、敵の攻撃を確認、直ちに現場に急行せよ】
神々に祈りをささげる聖堂で、血をぬぐう戦いが始まろうとしていた。
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戦いとはほんの些細な動作から始まるものである。かつて第一次世界大戦という地獄を生み出した皇太子暗殺事件のように。
冴島の指示を受けて歩兵たちが狙撃兵をいぶりだすのと時を同じくして、聖堂からどこからともなく赤い重装兵が展開し始めたのである。
「なぜだ、なぜ軍の人間がここにいる!」
聖堂重騎士は突如出現した帝国兵に対して演技とは思えないほど驚愕していた。
ニキータ率いる歩兵チームは彼を敵内通者として扱わず、狙撃兵と包囲する形で現れた帝国重装兵の排除に向かう。
いかに敵から見えにくい暗がりであろうとも、チームが装備する赤外線暗視装置の前では丸裸同然である。ミジューラが他方面からの狙撃から守るべく盾となりながら敵兵に向けて照準を向ける。
———PATATATA!!!!
石材に空薬莢が散らばると同時に弓とは比較にならないほどの数の小銃弾がスナイパーめがけて降り注いだ。
だが敵の狙撃兵もバカではない。
攻撃を受けた瞬間に遮蔽物めがけて走り抜けていったのである。
その間1,2発もらいながら安全地帯に駆け込んだが最後、ニキータの指示する暇もなくMGL140を手にした隊員が追撃と言わんばかりにグレネード弾で遮蔽物ごと吹き飛ばして沈黙させた。
なおも他方面からのガローバン狙撃と増援としてやってきたアーマーナイトの進軍は続く、これ以上の戦局の悪化は見られないとニキータたちは思っていた。
——Rattle…———
そんな予想を覆すように地面は地響きをはじめたではないか。地震だろうか、それとも火山の噴火だろうか。それとはまったく違う未知の揺れが歩兵チームを襲う。
だがジャルニエを制圧したGチームの面々にはこの揺れにはひどく覚えがあった。
GRRAAASHHHHH!!!!!
庭奥の大きな木床が轟音とともに粉砕されると、砂と粉塵が混じった大きな煙幕柱が現れた。高さ4m、砂埃から除く恐竜的シルエット、断片的に見える赤い肌。火竜である。
動きを止めるかのように降り注ぐ狙撃、重装兵の肉薄。
そして精鋭突入部隊Gチームの本能恐怖を揺さぶり、抗いようのない絶対的脅威として立ちはだかった怪物までが出現したのである。
こちらを消耗させた挙句重装兵や火竜で殲滅しようという魂胆であることは間違いない。
【ここで死ねませんな】
ミジューラでさえ無線でこうつぶやくほどであり、決死の覚悟さえなければ退けられない背水の陣に陥ったのである。
装甲戦力4。
四方からの狙撃で動きを停められており歩兵部隊はまともに動くことができず、撤退を余儀なくされた。
そのわずかな時間を稼ぐため榴弾を放った後にスモークを炊くことで遠距離攻撃を防ぎつつ何とかとして後退に成功したのである。
古今東西、何事もむやみやたらに挑み続けることが勇敢と言い難いのと同じこと。それは次元が違おうが関係はない。
こうして背後から聖堂に侵入した軽戦車とBMDと合流すると、ようやくここから反撃が始められようとしていた。今まさに雪辱を晴らすべく進軍を始めようとした時、少佐に向けてある無線が飛び込んだ。
【筒を3つか4つ束ねたような武器を持った騎士には留意なされ。あれは対アーマーナイト兵器、ニース。儂の装甲ですら射抜く槍を飛ばしてくる。直撃すればただでは済まない】
ヘルムの内側に仕込まれた無線機からミジューラがこう忠告した。かつて起きた隣国の戦争にて投下された装甲狩り兵器、その恐ろしさは重装兵である彼が身に染みてわかっていた。
【LONGPAT了解、最優先排除目標に設定。似た相手は腐るほどしてきている。】
【FeatherC了解。狙撃兵を排除しつつLONGPATを援護する】
履帯が軋み、エンジンが高鳴れば反撃が始まる。
登場兵器
BMD-2K
ソ連の空挺戦車。輸送機からばらまいて高い機動力を活かして敵を翻弄し、対戦車ミサイルで敵を打ち砕く。
紛らわしい3文字シリーズの一種で指揮を執るためにより良い無線設備を搭載している。
空輸するために車体が軽く、それによりヘリコプターからぶら下げても何ら問題ない。
アルミ合金で出来てるのが仇となり、戦車と名乗っていながら防御力は主力戦車と比較した場合、鉄板とティッシュペーパー程の差がある。
・3連装対装甲槍投射器 ニース (1/2)
専らニースと呼ばれる武器。3本の筒にトリガーを着けたような見た目をしているのが特徴。
単装版のダールも存在している。
射程は50m程度で35mm相当の装甲を貫通できる「手槍」を爆破魔導の力で発射可能。
屋内で戦う軽装甲車両にとっては非常に脅威。
しかしマスケット銃よろしく撃ち尽くした後はまた先端から詰めなければならないのが辛い所。




