Chapter49. Ace knight and black Pegasus(2/2)
戦場に訪れる安堵は壊されるためにある。
両者重力に体を蝕まれ息を上げながら残党狩りに移るべく機体を持ち上げた時である。
彼ら2機に接近するドットが現れたのである!
速力は今までのペガサスより遅くドラゴンであることは想像に難くない。絶対的優位であるゼロに対して果敢に挑みかかってくるロートルとは、気が狂ったのであろうか。
だが戦場は狂気と常に隣り合わせ、こういった場合が一番気を張り詰め中ればならないのだ。
ワイバーンの羽が霧と雲を切り裂いて竜の背をこちらに見せながら旋回を始める。
今までとは何かが違う、赤いフラッグをつけたドラゴンナイト。二人は隊長騎だと確信した。
結局のところ発狂しようがしまいが敵に変わりはない。
山下とオブライエンは隊長騎を撃墜すべく後を追う。速力に秀でたゼロでは到底振り切ることは不可能である。
そんな中、追跡していた敵がキャノピーの中から消えたのである。
これが視認できない敵の正体である。山下は即座にレーダーに視点を移した。
可視光を捉えるのがパイロットの瞳ならば、電波をとらえるのが電探というもの。
今さら悪あがきをしても無駄だ、彼はそう思った。
だが異様なことが起きていたのである。レーダーサイト上に移る敵機が異様な程速く機体に近づいているのだ。追いついたという比ではない、まるで止まっているかのように。
「しまった!」
感づいた時には遅かった。4番機に凄まじい揺れが襲い掛かった、一体何事だろうか。
山下は上を見上げた。するとその正体が少しずつ現れてゆく。
そこにいたのはせわしなく羽ばたくワイバーンに乗った騎士だった。
忘れていた、相手は航空機のような挙動をする竜騎兵なのだと。
生物故ハリアーのような空中静止も可能。
雲隠れしながら通り過ぎるゼロを待ち伏せ、槍の射程範囲に入った瞬間攻撃を仕掛けてきた。
通りがかり相手レーダーを使っているが故に欺かれたのである!
相手にしているのは紛れもなくエースで違いない。
ゲルリッツが深々とソルジャーキラーを突き立てると、速力さ故に槍は振り切られる。
念のために鋼の槍を持っておいて正解だ。
手ごたえからするに仕留めきれていない、中佐は実感した。一つくらいの敵対的未知飛行体に傷をつけたとしても同じような強敵が6つもいるのだ、到底勝ち目がない。
しかし彼の闘志は燃え上がっていた。
それが騎士の魂というもので、かつてのガビジャバンであれば部下たちで狩り殺すことができただろう。
優秀な部下たちの猛攻を振り切る存在を相手しなければならないのだ、無機質になってしまった戦場を見慣れていた中佐にとって新鮮に思えた。
「——どこまでやれるか、いくぞ——」
歯を食いしばり無謀にも反乱軍に挑むべく手綱を引き速度を上げ、その影を気配と音を探りながら敵を探す。
バカでかい音を立てる上に図体がでかいため察知すること自体は簡単だ。
しかし敵も何らかの手段で透明化してもこちらを見つけることができるらしい。
生憎透明化をはがす手間が省けた、そのまま目立つように連中の目前で派手に旋回してやれば何の警戒もせずに食らいつく。
ゲルリッツはダース山を縦横無尽に飛び回り、か弱い餌を装う。
すると大きな音を立て首無し飛龍がこちらを追いかけるのと同時に鋼鉄の嵐が空気を引き裂き始める。
——FRON!!!FRON!!FRONM!!!——
「やはりここで仕留めるなら飛び道具がいるか」
中佐はそうつぶやきながら鋼鉄の台風の目を見極め、敵に悟られないよう微細に高度を下げつつ
自身に魔術をかける。
【イルイーサ】
体の色が空に溶けだしてからが勝負。上からの不意打ちではペガサス同様、宙返りをして攻撃をされる恐れがある。
下からであれば竜騎を一撃で撃墜する飛び道具が使えないだろう。
加速をし続けた飛龍にブレーキをかけ、そのまま静止するように指示を飛ばすと鋼の槍を取り出して首無し飛龍の心臓を狙うべく精神を全て矛先に集中した。
—————
□
時はペガサスの存在が知れた時に遡る。
ペガサスの情報がゼロからOV-10に伝えられていた。
偵察機はただ現場を見ることだけが任務だけではない。
本部と中継の役割も担う、重要なロールがある。
戦闘機部隊から寄せられた報告を伝えるべくパイロットはハリソン飛行場に連絡を取っていた。
【こちらOSKER01、HQ、ゼロに匹敵する敵の出現が報告された、至急Lethal各機を出撃願う】
【ハリソンHQ了解。スクランブルをかけるが現地に向かうまで時間を要する】
本作戦を指揮している冴島少佐から増援を呼び寄せることに成功した。
Lethalのコールサインを持つ航空機隊はMiG21-93で構成された空対空ミサイル運用部隊。
今までのレシプロ機を凌駕する音速で飛行できるだけではなく誘導ミサイルを持っている心強い味方だ。
少佐は原則的に保険としてこのようなバックドアを残しているのが功を奏したと言っても良い。
そして時はゲルリッツが鋼の槍を片手に待ち構えていた頃に戻る。中佐を追いかけるのはオブライエンの機体であり、そうとうに気が立っていた。
「クソッ、槍如きに負けるかってんだ」
トリガーを握り、レーダーの情報を基に20mm機関砲を滅多撃ちにしていた。
敵との距離は次々に縮まってゆくと同時にゲルリッツの槍が近づいていく、まさにその時だった。
——KABooooM!!!——
付近で謎の爆発が巻き起こったのだ。
突如竜騎兵隊に襲い掛かる爆発、その正体こそOSKER01が呼び寄せたMig21-93が放ったミサイルに他ならない!
しかしながら機影は見えず、ジェット機の音だけが遠くで響いていた。
もとより音速で動き回る現代戦闘機を撃墜するべく開発された代物。
レシプロ戦闘機以下の速力しか出せない飛竜を撃墜することなど造作もないことだった。
電波の目を持つR77はいくら透明化して可視光から逃れようとも頭隠して尻隠さずも良いところ、爆発を警戒し離脱しようとしているワイバーン相手にも情けはない。
次々とやってくる誘導弾は離脱を図る彼らに容赦なく着弾してゆく。
「奴らの攻撃は追ってくるというのか」
ゲルリッツ中佐は思わずこう口走ってしまった。
高速で動く飛行物体を追いかけることができるのは人が乗ったドラゴンナイト。
それとはまったく違う弓矢めいた速度で飛来する存在はまるで見たことがない。
どうなっているのかまるで理解することができないだろう。
ただ並外れた竜騎士動体視力が、逃げ惑う部下を追う何かが着弾する様子だけが垣間見ることができた。
だがそんな彼も余裕ぶっている暇など与えてはくれない。ミサイルはあくまでIFFで敵味方は区別できるものの、それが誰であろうとお構いなくやってきたのである。
咄嗟にワイバーンを盾にした瞬間、空中に爆炎と破片の花が咲いたのだった。
【こちらfighter01からハリソンHQ、敵目標の沈黙を確認、帰投する】
【ハリソンHQ了解】
熾烈な空中戦はMig21-93の登場、そして司令官撃墜によって幕を閉じた。
戦闘機部隊の戦いはこれで終わりだったが、地上部隊はこれからが本番である。
周辺一帯と空軍基地の制圧が残っているのだから。
次回Chapter50は12月26日10時からの公開となります
登場兵器
MiG-21-93
UPGとも。ロシアのMiG21改修機体。
R77などの対空ミサイル・そのほか対地ミサイルを搭載し、エンジンを一新されて原型がどこにいったのか分からない最新鋭の機体。チャフ・フレアをばら撒けるディスペンサを搭載しており、現代的に仕上がっているのだが……
エンジンはbisのままなので欠点を受け継いでいる……




