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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-1.ダース山飛行場侵攻
52/327

Chapter48. Ace knight and black Pegasus(1/2)

タイトル【エースナイトと漆黒のペガサス】


「7班撃墜、16班撃墜、21班墜落、第2小隊全滅。2班撃墜、22班墜落———」


空軍基地内部に設置された伝声管から次々と撃墜されていく竜騎兵の報告が上がっていく。

そんな中でもゲルリッツ中佐は異様なほど冷徹さを保ち続けていた。



「そろそろ第9中隊が出る頃だろう。相手は6騎。だがここまでの損害が出ているということは相当の脅威であることは間違いないな、私が出る事になるとはな。腕が鳴るものだ」



中佐は竜騎用の鎧をつけながら射出所へ向けて悠々と歩いていた。



胸当て、ヘルム、そして膝とすね当てを装備し、鋼の槍とは別の大槍(ソルジャーキラー)を片手に竜の待機する出撃ハッチへとたどり着いた。



 ゲルリッツが出撃すべく槍を抱えながら足を踏み入れるとカタパルト操作要員のソルジャーが彼に状況報告を上げる。



「第9中隊は4番ハッチから無事射出されました。また、現在多くの兵が敵に触れることさえ叶わず次々と撃墜され、反撃は困難と思われます」



状況は悪化の一途を辿っていた。地上にも敵が観測されたためそちらには透明化竜騎部隊を差し向けたが未だ兵が帰還していないため、おおよそ今も戦闘はつづけられていることだろう。



「わかっている。——私が代わろう、その強敵。この目で見なければならないからな」


報告を受けた中佐はワイバーンにまたがると鋼の槍を竜具に装着すると、左手で右手のガントレット・インナーを引き延ばして指先までしっかりと密着し馴染ませた。


これが彼の出撃前の手癖であり戦いに集中するための儀式とも言えよう。



「蒸気充填開始!」



「ハッチ解放確認!」



その裏側ではそれぞれの作業を担うソルジャーたちが万全の出撃を行うべく封鎖扉につながるワイヤーを巻き取り、蒸気を射出器に回す。



「——空か…。ゲルリッツ・へーべ、出撃する。」



「射出!」


中佐は声高らかに宣言すると同時に蒸気溜めから解き放たれたスチームがシャトルを押し、1騎のドラゴンナイトを射出したのだった。



ゼロを目の当たりにしたゲルリッツの瞳には何が映るか。





————






 【こちらfighter05、速力の違うやつがくる!】


ドラゴンをかとんぼの如く叩き落しながら空を駆ける5番機からあたりに連絡が飛んだ。


【fighter04、応戦する!】


随伴する4番機は一気に旋回をかけて速力違いの敵めがけてスロットルを一杯にして追跡をはじめる。


激しい戦闘に巻き込まれる形で霧は晴れ、前のような不手際を踏むことはない。


コックピット中にレシプロエンジンと空を切り裂く音で満たしながら格子キャノピーとレーダーを駆使して謎の存在を探す。



「どこだ、どこにいやがるんだ」



時折邂逅する竜騎士を機銃で叩き落しながら照準越しに辺りを見回す。


上下左右、あらゆる視点を駆使して狙いをつけていた時、荒々しい岩肌から今までとは明らかに違う一筋の真っ黒い影が横切った。


ヘリ程度の速さしか出せないドラゴン乗りとは速力も雲泥の差で今乗っているゼロに匹敵するほどである。



パイロットである山下は間違いないと確信し操縦桿を切り、影を追う。



 いくらワイバーンよりも早いとしてもレシプロ戦闘機最高峰と謳われた軽快な動きにあっという間に背後についた時だった。



こちらに何かが迫っている!




「——天馬だ!」




恐ろしい速力で迫ってくる相手は白馬に純白の翼をはやしたペガサスであった。驚きも何もない、今自分の命を狙っている連中であることに変わりはないのだから。



機体に迫ってくるヤツは機銃や機関砲の死角となるナナメ上に取り入っており、宙返りには時間がない。

山下は暴れ馬の操縦桿を力いっぱい倒し機体を右に傾けた。



———GRAAASH!!!!



機体に重苦しい衝撃が走る。主翼を槍持つ馬騎士にぶつけてやったのである。


空駆ける騎士と比べて図体が大きい機械で動く鷲だからこそできる所業。

機体はバランスを崩すが、山下は歯を食いしばって、か細い桿を引き続けることでようやく姿勢を整えたのだった。




—————






 戦いはそれで終わりではない。


バランスを崩したのをいいことにペガサスがこちらに取りついた。

山にぶつからないよう速度を落とし、雲交じりの霧を突っ切りながら照準にとらえた敵に機関銃を浴びせている。


速力を落としたのが仇となり距離は次第に詰められはじめたのを山下は待っていた。



彼は操縦桿を引きながら地面に背中を向けようと機体を操る。


指はきしみ、高速で動くが故の機動で生じるGに耐えながら、残り少ない機銃弾を使い切る勢いで全滅させてやろうと青色の鉄格子を覗き込んで引き金を引こうとした時のこと。



 ペガサスの連中も同じように宙返りをしてみせたのである。

ドラゴンを上回る機動力と速力を持つ存在、それが天馬(ペガサス)騎士なのだ。



それに気が付いた時にはすでに遅かった。



12mm機関銃のフラッシュが明いっぱい炊かれていたのだから。


ゼロを手玉に取った彼らは水しぶきを散らしたかのようにバラバラになると、ぐんぐんと高度を上げて山下に再び襲いかかった。



 相手は騎士になった零式艦上戦闘機。

性能差が埋まった以上、どこまでやれるかはそれを操る人間次第。


山下は歯を噛みしめながらペガサスを追う。飛んでくる火の球や雷は痛くも痒くもないが、槍を持った奴が機動力で近づかれた暁には矛がコクピットを貫くだろう。


もうなりふり構っていられない。彼は無線機を取ると



【fighter04からGUNER-B!俺の後ろについているのを落としてくれ!】



激しい重力のゆりかご(コックピット)で揺さぶられながら援護を飛ばした。



【だめだっつてんだろ!歩兵を守るのが精いっぱいだ!随伴の奴らのイグラでも敵が多すぎてロックオンできん!】



山下に対しボリスは怒鳴りつけるようにして答えた。



地上ではシルカや軽戦車隊が、無数の透明化した竜騎士に文字通り駆られている状況が続いており、手一杯だった。


いくら撃ち落としたとはいえ50騎以上の騎士が展開しており歩兵の持つイグラでは味方と敵の区別がついてもドラゴンとペガサスの区別など毛頭つかない。


山下は絶対絶命かと思われた。



 だが天は彼を見放したわけではなかったのである。



【fighter02からfighter04、お前は一人じゃない!援護する!】



2番機パイロット、オブライエンの駆るゼロが駆け付けたのである。


【こいつらは馬に乗ったゼロだ、絶対に寄り付かせるな!】



山下からの無線にオブライエンは



「馬に乗ったゼロか…——やってやるか」



ふたつのゼロは黒い天馬を追い始めたのだった。







—————

 





———PEEP——DLAAAAA!!!——PEEP——



地上ではシルカがひっきりなしに機関砲から火を噴き続けている。


ジェット航空機に対抗するために作られたものに対し、音速以下で飛来する竜騎兵を落とすことは造作もないことだろう。


相手はヒットアンドウェイを繰り返す上、こちらの死角を突いて来ようとあらゆる方向から来るため漏らしが発生することになる。



それに加え隊長命令で携帯地対空ミサイル イグラ―(9K38)を使用することになっていたが、これも影響していた。


ある程度の距離から狙うMANPADS(ミサイル)の性質上、至近距離で動き回り、ロックオンが難しく対象を探している間無防備になる。


その上どこにいると知れない敵から護衛しなければならない。



度重なる問題が地上部隊を阻み、戦局は泥沼と化していた。



熱源を探知する赤外線式暗視装置を使ったとしても相手は300km近くで飛行しておりサーキットを走るフェラーリを目で追うようなものである。



戦闘機パイロットならばできて当然のことであるが、彼らは特殊部隊であり至近距離で高速目標を射撃するような訓練を受けてはいない。



いかに特殊部隊とは言え神ではないのだ。



だからといって甘んじて殺されてはたまらない、人間だからこその限界の中あがくしかないのだ。

あろうことか傷ついたゴードンに対し、死体に群がるハゲタカのように竜騎兵が向かっていた。


戦車は対空砲のように仰角は取れずシルカは歩兵を守るために稼働中。



「やれることきっちりやってから死んでやる」



だが彼もただ死ぬのを待ち続けているばかりではない、激痛が走る肩の寿命を削りながら

9K38(イグラー)を構えるとロックオンをつけていたのである。


どうせ死ぬのならば足を引っ張るのではなく、後続の礎になるべく覚悟を決めていた。


見えぬ敵が風音を立てながらゴードンを食い散らかそうと迫っていた時、ニキータが立ちはだかる。



「竜だけにいい思いなんてさせるか」



食いしばるような声でゴードンの目前に躍り出ると暗視装置越しにライフルの照準をつけ、無数に襲い来る敵に対してセミオートに切り替えて発砲を繰り返す。


今まで照準がつかなかったのはかく乱するように移動していたから。


動きが読める相手に特殊部隊は後れを取らない。



———BANG!BANG!——



銃弾をもろに受けた竜騎兵は虚空から次々と姿を現した後、地に落ちる。

それでもなお恐れを知らぬ竜騎兵の手は緩むことはなかったが、それはSoyuzも同じこと。


イグラ―を持った歩兵の周りから不気味な金切り音が響く。シーカーが赤外線を放出する敵を探る音である。


そしてキャンバスで優雅に飛行する竜騎に対してロックオンを終えると、迷いなく引き金を引いたのだ。



——PLEEP—DAM!SWOOOSH!!!!!



一度射出されたミサイルは一瞬バランスを崩すとロケットモーターに点火し、目標に対して弾けるように加速していく。


満足に弾着観測する時間等ない、誘導装置からただの空筒を取り外すと、新たなミサイルを装着した。


そうして再びどこにいるか知れない敵を探すのである。


 シルカが無数の弾薬を吐き出し続けた甲斐もあり、地上部隊を襲う竜騎兵は大きく数を減らしていた。


いくら旧式と言え、レーダーの目とコンピュータの照準から音速を出すことができない敵目標を落せないほどおんぼろではい。



一つの方向から何度も襲い掛かるワイバーンは注意をひきつける囮だったが、砲身が許す限りのバーストを受け続けていればまさしく溶けるように数が減るのだった。



対空砲火を潜り込まれてから数十分もしない間に瞬く間に敵は撃墜され続け、歩兵のイグラに叩き落されてから、付近のシーカーやシルカ自体のレーダーからにも敵は映らなくなっていた。


地上部隊を脅かす敵を退け、Soyuzサイドは一時の勝利をつかめたと言っても良い。


だがそれ以上に厄介なことが起きていたのである。



「残り弾数は68、気を取られすぎたか」



ボリスはこう車内で悔し紛れにこう吐き捨てた。

補給ができないとあれば弾薬は限りがある。


ある点では地上からの援護を防いだ帝国軍の勝利でもあったとも言えるのだった。



 空に上がっても白い地獄は広がっている。

突如竜騎兵が視認不能になった上、ゼロに匹敵する能力を持つ天馬騎士との連携に手を焼いていた。



地上部隊からの報告によると透明人間と同じ原理で見えなくなっているそうだが、レーダーが付いているため、いくら見た目を誤魔化そうが無駄なはず。


ファンタジー世界のゼロはなんとか1騎になるまで追い詰めていた所はよかった、だが連中はこちらが透明化しても()()()()()()()()()()ことを学習していたのである。



ペガサスの有り余る機動力を利用しワイバーンの群れに隠れながらの差し詰め空中ゲリラ戦を仕掛けてきた。



「小賢しい手を使いやがる」



オブライエンが舌打ちしながら、機体を宙返りさせた。

それだけではない、竜騎兵隊に向けて急降下し始めたのである。


Gが彼の体を蝕み、鋼鉄の翼が空気を切り裂く。

そしてキャノピーの外からは迎撃すべく火球や雷が流れ星のように降り注ぎはじめた。


あまりの重力に機体が悲鳴を上げるが、構うことなく20mm機関砲の引き金を思い切り引いた!



———BLATATATA!!!!



曳光弾が混じりの鉄の嵐が情け容赦なく襲い掛かる。


鉛の風雨に当てられた彼らは実体化していき、飛竜の翼が引き裂かれバランスを崩すと騎士に直撃し埃のように落ちていった。


翼を失った竜の中には空中分解しながら、きりもみ回転しはじめて墜落するものすらいる。


まさに虐殺と言わんばかりの雲海を突っ切るようにゼロを追う敵機が現れた。



「食いついたか!」



 まるで航空機を相手にしているのと差し支えない速力でこちらに迫ってきた相手にオブライエンは歯を食いしばりより一層の殺意を込めながらキャノピー間近にいる天馬騎士を睨んだ。


十二分に敵を引き付けた今。

離脱しようと旋回しようとした時、冗談めいた大きさの槍がこちらに向けられたのだ。



——BLASH!



なんということだろうか、槍が杭のように射出されたのである。旋回が間に合ったことが幸いし、矛先はキャノピーをなんとか掠めたのだ。



「山下!やっちまえ!」


一撃必殺の槍を欠いた騎士は大きなスキを生んだ。そのことを間近で見ていたオブライエンは無線越しながら決死の勢いで叫び倒すと、即座に20mm弾がペガサスを肉片に変えていった。


「やったな、オブライエン。これで最後だ」


これで一旦戦場に安堵が訪れた、はずだった……


新たなる脅威が迫る。

次回Chapter49は12月20日10時からの公開となります


登場兵器

・9K38 イグラー

歩兵が携行する地対空ミサイルで、MANPADSと呼ばれる兵器ジャンルの一つ。

攻撃ヘリコプターといった低空で飛ぶ脅威に立ち向かえる救世主と言えるだろう。

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