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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-4.ジャルニエ城攻略戦
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Chapter 44.Teller of Tupolev‘s Bear

タイトル【ツポレフの「熊」の恐怖】


史上初となる次元を跨いだ代表者同士の会談は最悪の結果となってしまったが、それでもなお両者は敬意を払うことは違いない。


応接室から締め出された親衛隊たちや出迎えを担ったスタッフたちは双方をまるで、珍獣のように目を見張っていた。



片方は装甲化されておらず黒と緑の迷彩服を着用し、槍や剣とは思えぬ武器を持っている。


その対岸では鎧で身を包み冗談としか思えない長い槍を持った前時代的騎士が居るのである。



両陣営の代表が応接間にいることから、鬼の居ぬ間に洗濯と言わんばかりに味方同士の話題はそれで持ちきりだった。



そんな中、とある部分だけは異次元間でも交流していた。ポラロイドカメラを持ち込んでいたポルトガル人スタッフ、エリゼウと帝国一兵士が一枚の写真片手に盛り上がっていた。


報告用ではなく個人用に撮影したもので、いくつかの写真には脳が腐ったような発想で撮影したであろう馬鹿げた変顔写真も混じっている。



「かーっ、すっげぇな!うちの城にある肖像画みてぇだ!一枚くれるか?」



ある一人のパラディンが現像された写真を片手にクリスマスプレゼントをもらった子供のようにはしゃいで回っていた。



周りの帝国兵は一切近寄ろうとはしないものの、38度線に分断された重苦しい空気の中では悪目立ちしているのは言うまでもない。



「そりゃそうだ、107ユーロもしたんだコイツは。すごくなきゃ困る」



「ユーロってなんだよ」



写真をくれてやるとエリゼウは自慢げにカメラを威張り倒していた。


それもそのはず、デジタル媒体に写真が移行した今インスタントカメラはもはや化石の如く古めかしい物体である。



Photoshop(フォトショ)で時空を半ば捻じ曲げて加工することや、写真データを流失することもない。

故に持ち込みが許されたのである。


感光紙の無駄遣いとしか思えぬような写真もまとめて手渡していると、両陣営に皇太子殿下直々の命令が走った。



「会談の場が移転になった。親衛隊は帰投し、竜騎士団は我に続かれたし」



突然の親衛隊の帰投命令、一体これから先。何が起こるというのだろうか。



親衛隊を撤退させるのには訳があった。

中将が本部拠点の視察を提案し、皇太子は敵地偵察も兼ねてそれを了承したためである。


地形を無視でき、かつヘリコプター並みの速力を出す事ができるドラゴンナイトを前に馬は足手まといでしかない。


そのため親衛隊に対して帰投命令を出したのであった。



殿下自身の竜は親衛隊の一人が騎乗し後を追う。


嫌でも目立つ異形をポイントマンにして本部基地にどんな形であれ招き入れることはある種危険性を孕んでいる。何故権能はそのような真似をしたのだろうか。





—————





 彼にはある思惑があった。本部拠点では随時大小を問わず兵器類の搬入が行われている。


核爆弾を運べる戦略爆撃機から第二次大戦の軽戦車にソビエト時代のMBTまで。


時代・兵種・用途のものたちが格納庫を博物館へと変えていた。

前線に置くべき戦闘機類に関しては自力でハリソン飛行場へと渡り、重航空機類はその後を追うことになっている。



 そこで権能はあることを思い立った。これらソ連の空飛ぶヒグマを外交カードに変換する方法を。



方法は極めてシンプルかつ原始的である。


これら立ち並ぶTu-95たちを見せつければ良いのだ。


冗談のような航続距離と積載量をもってして恐ろしい速さで飛行することができる怪物を見せつけられれば誰でも恐怖し、戦意はドライアイスのように消え去ることだろう。



そうして帝国内で幅の効く人間を揺さぶればドミノ倒しのように間接的ながら国を揺さぶることにつながる。それが目的だった。


 40分程飛行を続けると、ついにアイオテの草原に浮かぶ島のような人工物群、Soyuz U.U(異世界)本部拠点基地へと到着した。



近くには毛細血管のような有様であるが簡易的ながら開業したハリソン貨物線を何度も試運転のスイッチャーが往復を繰り返している。


皇太子と中将を乗せたBK117(ヘリ)が着陸すると、辺りは工事の行われていたジャルニエの城とは違い、静けさに満ちていた。


聞こえる音と言えば貨物線を通るジョイント音くらいである。



「我々の世界へようこそ」



権能はそう言ったのだった。






———————







皇太子殿下の見たSoyuz本部拠点基地はこれまで視察してきたありとあらゆる軍事基地とはまるで異なっていた。


セメントか何かで出来ていることは分かっていたが地平線のように長い発着場。

そして島のように所々に浮かぶ納屋と巨大な倉庫のような建造物。



堀もなく、虚弱な柵格子だけが草原を隔てているだけである。

到底カタパルトやシューターからの攻撃に耐えられたものではない構造にしか見えず、何なら小隊規模であれば制圧することができるだろう。


ジャルニエ将軍からの報告によれば、国境に配属されるような精鋭をもってして返り討ちに遭った挙句制圧されたとある。いくらエースを寄せ集めた傭兵集団であってもこのような真似はできないだろう。



 一体この奇怪なキャンプに何があるというのか。マーディッシュは辺りを見回すとその答えは残酷な程近くにあった。



火竜を立てに3頭並べたような高さを持つ蛇、それにしては飛龍のように大きな鏃型の翼を携えている。それでいて生気を感じさせぬ出で立ちは像に近い。加えて翼には風車翼までついている。


まさに大陸中の生き物を寄せ詰めた異形、キマイラ。



そうとしか形容できぬバケモノ(Tu-95)がこの拠点に留置されていたのだ。



 すると展示物を開設する学芸員のように権能は皇太子殿下に



「アレには一つの県をそのまま焼け野原に出来るだけの爆弾を積載することができます。拠点からどれだけ離れて居まいが息継ぎをすることなく着実に投下し、無傷で帰還することも容易なことでしょう」


 「これが飾りかどうか判断するのは皇太子殿下にお任せしますが。少なくとも我々は見栄を張らない集団ですから。——物騒なモノを見ているとどうも心がささくれてくるものですから、平和的な施設でも見学なさるとよろしいかと思います。我々はただの戦争屋ではないのです」




マーディッシュは中将の物言いに流石に動揺を隠せなくなってきたのか手を仕切りに動かしながら話を聞いていた。

昔封じ込めた虚弱な自分がこの場から逃げろと言っているのが良く分かる。


この身になったからには敵に背を向けてはならぬ、と軍人の誇りでやり場のない逃避願望を紛らわすかのように権能に対し



「是非拝見したい。そこまで言うのならば大層なものであるのだろう。」



虚勢を張るかのように言ったのだった。





————





 かくして中将がマーディッシュに見せたものは意外なものだった。


整備工場でも、核弾頭に必要な濃縮ウランを製造する場所でも、ましてや火力発電所ではなく建造中の食糧生産プラント[ブブ漬け]。


完全人工光によって栽培された生鮮野菜を、本部拠点やその他拠点へと供給する植物の最前線でありながら、簡易的な食品加工設備も備えている正に食の要塞とも言える施設である。



またこのU.U(異世界)から発見や再発見された植物の大規模研究や量産するための目的も兼ねており、一切の武装が施されていない健全的な建物と言っても良いだろう。



 いざ建造が進む現場へ到着すると辺りは無数の黄色い重機がひしめき辺りではジャルニエの城でしたような悪魔の歯ぎしりするような騒音が響き渡っていた。



どうやら建築途中ながらも施設は稼働しているらしい。


明らかに手塗りで書いたかのような[食糧生産プラント ブブ漬け]の看板と深夜の思い付きで作られたとしか思えないロゴマーク・ボードまで設置されている始末。



「ここの主任の博士は過労にて療養中なためこの場にはおりませんが、ある程度存じています故。この植物生産プラントでありますが、ここで働く人々。ざっと3000人ほどでしょう、彼らの食を維持することができます。最近ではハリソンの防衛騎士団の一件もありスタッフが増えましたから。」



作業音が飛び交う中権能は清々しく言ってのけた。



何もこの施設は武装も何もされていない施設。

だがそれでも皇太子にとっては大きな壁のように立ちはだかったのである。


食糧を自前で作れるということは、攻城の基礎である兵糧攻めができないということを意味する。



 皇太子はそのことに懐疑的なようで権能にこう尋ねる。



「この中で植物を?植物とは外で育てるものではないのでは。」



当然のことである。作物は光がなければ育つことができない。魔力灯でも使おうが失敗したという報告があったことを思い出す。



「——その言葉を聞いた博士はこう返したでしょう。[()()()()()()()()()()]と。いかんせん工事中ではありますが内部は稼働しております。ご覧になられますか」



 その言葉に誘われるままこの怪しい建物へと足を運んだのだった。



 農業は太陽光を与えながら魔力を使い、大まかに舵取りをしながらするものである。


帝国ではそれこそが世の摂理。


だがこの食糧生産プラント[ブブ漬け]の前ではすべてが崩れ去る。

光の届かぬ屋内にて土すら使わず、鋳型で剣を作るかのように野菜を作り続けるという。



今までの常識がまるで通じないこの空間において皇太子は言葉すら出ず顔を引きつらせていた。



「光・温度。ありとあらゆる環境を完全に制御しているとのことで。私は専門外ですが、あらゆる不作、病気、天候不順。それとは無縁。物品のように食糧を作れると言った方がわかりやすいか、と。」



中将がメンゲレの受け売りをしながら皇太子に説明を垂れている一方、ガラスの向こう側では太陽とは異なる赤と青が混ざった薄気味の悪い光が植物に向けて降り注いでいるときている。


あまりのことにマーディッシュはついに頭が回らなくなり、喉奥から声を溢す。


「はぁ」


理屈を兎も角として、彼は激しい焦燥感に苛まれていた。





—————






県をものの一か月で制圧した集団がここまで強固に根付いているとなると、反乱軍のように引きはがすことは難しい。


奇跡でも起こらないことには不可能だろう。


ここまでくれば国を相手取るのと同然であり、小隊ではまるで対応できなかったことも納得できる。



 世界の裏側を見たかのような光景を尻目に、半ば中将からの説明は聞いていたが、あまりの焦りから頭に入ってこないまま施設見学は終焉を迎えた。



息苦しくなるようなプラントから外へと出ると、日は一段と橙色の光を空のキャンバスを真っ赤に染める頃合いになっていた。


このままでは夕闇で視界を確保することができなくなるため視察団は帰路につくことになっていた。

計器を持たない竜騎士に夜間飛行はさらに大きな危険を伴う。


飛行するためには滑走が必要という判断でSoyuz側の滑走路が提供されることに。



宣戦布告をしている以上、いる場所は仮装敵地である。あたりには夜を引き連れてきた鉛のような空気が滑走路に漂う。



そんな中であっても儀礼を怠るわけにはいかない。

マーディッシュは竜騎士団をかき集めると、中将一向に言葉を残した。



「——大変有意義な時間であった」



「それは光栄です。後にお見送りを出しましょう。」



中将は長い文句を期待していたが、それを裏切る形で素っ気ない一言が残されたことにある意味予定調和がとれていることに安堵していた。


その傍ら、マーディッシュはこれ以上口を開けば何が飛び出すか分からない状態に陥っている。



儀礼的な挨拶を残すと飛竜にまたがり、竜具で羽ばたかせるように足で指示を伝達する。


その光景は馬と何ら変わりはなく、時折スタッフは持ち込み許可されたデジタルカメラでその様を撮影するものもいた。



騎手から命令を受けた飛龍は蝙蝠(コウモリ)のような膜の張る翼を力強くはためかせ、暗闇の空へと浮かぶ。


そうしてある程度の高さまで浮かび上がると、さながら航空機のように速力を上げていったのだった。





—————






人間という生き物はいついかなる時代でも空を駆ける存在に心惹かれるものである。


それが気球であろうと、レシプロエンジンやジェットエンジン。はたまたロケットモーターであっても形は変わらない。


恋焦がれるような光景を前に権能は無慈悲に指示を下した。



「総員滑走路から退避せよ。第6重爆撃隊は直ちに発進し全力をもって対象を追跡せよ」




Soyuz拠点を出発した視察団はワイバーンの編隊を成して大地を見下ろす。


ジャルニエの城から離れてしまえばその先はダース鉱山、そしてアイオテの草原と対を成すペーナブ湿原が待ち受けていた。


日が落ちれば地上の街明かりを頼りにしなければならないが、これら大自然の壁が幾度となく人間の居住を阻んできた。



そのため道しるべになりそうな街明かりが形成せず、一度闇が訪れてしまえば一切の方角を見失うことになるだろう。



 空の暗礁で座礁してしまわないよう、多少なりとも飛龍に無茶をさせてこの空域は半ば日没から逃げるようにして通過しなければならない。



 夕焼けの空は美しい。今や鉱山として稼働している霊峰ダース山が見えてくれば飛龍乗りだけが味わえる極上の自然美が出迎えてくれよう。



 万が一墜落するようなことがあっても山を見下ろす距離までは辛うじて山間部空軍基地の人気が存在するが、それを通り過ぎたが最後。


未開の湿地をさまようことになるだろう。



見送りを寄越すと権能は息まいていたが、ここまで離れてしまえば飛龍よりも速力に秀でているペガサスであろうとも到底追いつけない距離にある。



マーディッシュはそう思いながらジャルニエの城を通過し、ダース鉱山に差し掛かろうとした時であった。



———VoooommMMMSHhhhh!!!



遠くから火竜の唸り声めいた音を立てながら背後から巨大な何かがやってきたのである。

初めは小さな影に過ぎなかったが、飛竜やペガサスをしのぐ速度でこちらに迫っているではないか!



それにつれて爆発魔法を唱えたかのような轟音が辺り一面を塗りつぶしてゆく。Soyuzの出迎えとはこのことである。



こちらはアレ(ツポレフ)よりも先に出発したはずである。



そうして邪悪な黒い影が近づくにすれ、その正体が少しずつではあるが垣間見え始めた。


竜騎兵、ペガサスナイトとは比べ物にもならない空飛ぶクジラめいた大きさをしたソレは本部拠点で目にした




キマイラ(Tu-95)だったのだ。





————






次々と明らかになるSoyuzからの合成獣。それは一つだけのこけおどしのように思えた。しかしここで権能の言葉が脳裏によぎった。Soyuzは見せかけが苦手だと。



 なんとあの空飛ぶ鯨めいたキマイラは5頭もいるではないだろうか。


なおかつ楔型の陣形を組みながら飛行しており、随伴する竜騎士団に恐怖が迸る。


こちら側が先に出発したはずであり、あのような図体では速度はまず出ないだろう。


馬車と牛車程の差があることは歴然としていたが、逆に小さなこちら側が遅れを取るという事態が起きている。



絶望をまさに形にしたソレは城の通路めいた長さのある巨体を見せつけながら視察団を通り過ぎてゆく。ヤツの方が高度は上であったことが幸いし、直接的な損害はなかった。




だが火竜の数倍もある大きさの物体が飛んでおり、なおかつ竜騎士の駆る飛龍に追いついて見せた。その事すら酷く受け入れがたいことで、ホラ話だと思い込みたいが、目の前で起こった以上認めざるを得ない。

 


名も知れぬ怪物は視察団を追い抜くと、いくらか速度を落とし背後につくと警邏するように飛行を続けていた。



すると、信じたくもない飛行船の1つがその下腹から何かしらを投げ捨てたのだ。



マーディッシュは竜騎士団に投下したモノの正体を見定めるべく様子を伺うように指示を飛ばすとその答えは火を見るよりも明らかな形で返ってきた。



ダース鉱山の一角におびただしいほどの土煙が水面に広がる波紋のようにぱっと明るくなる。


近くの獣道から察するに城の監視塔3つ分は吹き飛ばしていた。


たった一つの爆弾の引き起こす事にしてはあまりに強大でありマーディッシュはその存在に恐怖する。



 こんなものが首都上空にやってきて、撃墜も叶わず好き放題に爆弾を投下等された暁には1500年の歴史を持つ帝都が地図から消えるのだと。



このことはすぐさま賢人会議にて報告しなければならない、その一心で皇太子率いる視察団は家路を急ぐのだった。


次回Chapter45は11月28日10時からの公開となります


Tu-95

ソ連製ツポレフ設計局から生み出された戦略爆撃機。核を搭載できるだけでなく、様々な用途に使うことができる大型機。図体の割に凄まじく足が速く、最高速度を「ジェット機」ではないのに950km/h記録したという。

たまに日本に不法入国してくる。

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