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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-4.ジャルニエ城攻略戦
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Chapter 40. Raising a flag over the Soyuz

タイトル【Soyuzの旗の下に】

日が昇り、そして水平線に沈むまで続いた熾烈な戦闘の先に勝利を得る事ができた。


見事華々しい勝利を得ることができたSoyuzは制圧したジャルニエ城を接収し、帝国の政権奪還の足掛かりとして大規模な改造が施工されることに。



敵側の勢力の戦死者は74名、将軍含め捕虜となったものは6名となっておりSoyuz側は重傷者2名、軽傷者8名ということを鑑みると大いなる勝利と言えるだろう。



 兵舎と思われる建物と聖堂は帝国軍の戦闘によって焼失。

ヘリの離発着に転用可能な飛竜発着場に関しては爆破されていたものの、整地を行えば再利用することができる状況だった。



改造にあたってはハリソン防壁市街の修繕と整備、さらに飛行場を作り上げた建設機械師団が行うこととなり制圧したにも関わらず相当数の重機が入り込むという異例の事態になっていた。



加えて捕虜となったジャルニエ将軍ホーディンと、元ナンノリオン県の将軍であることが当人の証言で判明したミジューラに対して尋問が行われる一方。


ジャルニエ城に収められた書物等を解読すべく調査旅団が出入りし始めていた。






————






昨日まで火竜が火のブレスをまき散らし、無数の重装兵が迫る絶望的な戦局であったとは思えぬ程の有様であり、Soyuzは攻めることから一転し本格的な調査と補給に入っている。



四六時中戦う事だけが彼らの役割ではないからだ。



かつて敵目標と呼ばれた城には建設師団によって鉄パイプの足場が組まれ、帝国の旗の代わりにSoyuzのロゴマークが入った旗が掲げられられ、軍門に下ったことが分かるだろう。



あたりにはアーク溶接の火花が飛び散り、重機の重苦しい音が銃声に成り代わって支配していた。



ほとんど戦車砲による直撃を受ける事のなかった城は、大方の施設が流用可能であったが、焼失した棟と聖堂を前にした作業スタッフは思わず頭を抱えていた。



「こりゃ更地にしないと始まらねぇぞ…」



丸焦げになった建物は強度が大幅に下がり、この世界の建築レベルからすると倒壊しても何ら不思議ではなく、今後の安全のためにも解体は至極当然の判断である。


すると付近に調査に出ていた旅団出身の学者はスタッフに対し、魂が抜けたかのようにこう言った。



「遺産だがなぁ…仕方がないか…」



 その一方、作戦の終了と共に回収された無数の突入部隊と重要参考人、そして敵司令官を乗せたヘリはハリソン飛行場を経由しながら草原立ち並ぶ本部拠点へと帰投。


 その翌朝になってから二人の将軍(ジェネラル)に対し、少佐の帰投を待たず、権能中将自らが尋問するという異例の事態が巻き起こった。


ミジューラは兎も角として、武装を没収されたホーディンに敬意を払い、一人ずつではあるが聴取がはじめられた。

 


「いやはや、よく眠れたでしょうか。ミジューラ・ヘン・アルジュボン将軍殿。」



ミジューラは司令室にて招かれると、弩級めいた男が部屋奥に腰かけ、軽く挨拶をした。目の前にいる人物こそSoyuzの将軍、権能である。


まるで国家首脳が会談するかのように権能に座席を案内されるとミジューラはこう返した。



「しかし驚きですな、草原にこれほどまでの城塞を建設するとは。竜騎兵もさぞお持ちのようで。あの道路などはそうなのでしょう。そちら側の兵に背中を預けた身ではありますが相当の手慣れで大きな助けになったものです。そして…——殿下もよく考えなさる」



彼が視線を中将に向けると、近くにいるソフィアを見つけてそう返した。当人の知り合いということで来たのである。



「お褒めに預かり光栄です。ある種、選ばれた精鋭だけがここにいるのですから当然ではありますが。殿下とお知り合いであるとは聞いていますが…」



中将はさっそく本題に入るべくミジューラとの距離を詰めてゆく。



「私は将軍を追われた身、ミジューラで結構。殿下は私がナンノリオンの将軍だった頃になりますかな。皇帝陛下がまだ玉座に座しておられた時から顔見知りで、幼いころから我が県の視察に来ていたと記憶しております」



「殿下が軍によって幽閉されてからは私の差し金でハリソンの方に出した…はずだったのですが、まさかこのようなことになるとは」



その言葉を聞いた中将はクライアントの方に視線を向けると返答を促した。



「——ええ、大体は彼の言う通りです。その縁で幽閉から逃げ出すことができましたし、なんと礼を述べたら良いことやら」



 そのことを確認すると、中将は両手の指を組み本題へと移ってゆく。



「知る限りでよろしいので…この国の情勢のことについてお話頂きたい。」


ミジューラはしばらく深く目を閉じてから静かに語りだした。



「あれは…隣国カビジャバンとの戦争が終わってから3か4年後のことでしょうか」


「私も戦争返りの身でナンノリオンの統治を一任されてからしばらく経った頃、ある県の将軍たちが手を組み、軍閥系組織…名をモガディシュと言いましたかな。それが結成されたのです」




 「将軍というのは殿下と私のこともありますが大抵は皇族との交流を持っていまして、彼らが次期皇帝に選ばれなかったお方、マーディッシュ・ワ―レンサットと手を組むと、皇帝陛下がご静養されている時に乗じて将軍らの持つ兵士で皇都を襲撃し、帝国を乗っ取った」



「本国より軍隊の指揮を悪用したと言っても過言ではないでしょう」



その言葉に中将は真摯な目線を向けながらその話を黙って聞き続けていた。するとミジューラはこう続けたのだった。



「彼らの理想は軍人の理想郷を作ることでした。戦争が終われば兵士は用なしの邪魔者、それに何分マーディッシュ殿下も軍人でしたから。おおよそ連中に国民の懐柔と外交役を引き受けているのでしょうな」



「ですが国を動かしているのは殿下とは異なる別の集団と見ていいでしょう。彼らは軍拡の費用を得るため、これまでとは桁違いな税を課しただけではなく生産物に対して一定の基準量を設けました。——それも税同様、無理難題と言っても良い量を」



「それに反した場合、反逆者と見なされ、軍隊が送り込まれるのです。私は民を守るためこれまで通りの税を課し、本国からの警告を見て見ぬふりをしていましたが…英雄とあれども世俗が変われば反逆者」


「……かくして見せしめに処刑されるまでに至った訳です。」



中将は冷徹な眼差しを彼に向けながらある質問をしたのだった。



「ええ、ありがとうございます。——深淵の槍、という名前の武装組織を存じ上げていますでしょうか」



[深淵の槍]その名前を聞くなりミジューラは眉を反応させ、ソフィアは一瞬凍り付いた。

彼らの反応を見た中将は依頼人に対して気の毒とは思いつつ、ミジューラからの反応を待つ。



「——老い耄れの古い記憶にはなりますが。本来深淵の槍という組織は軍とは別の国家安全保障委員会の独立した部隊です。一言で言い表すならば()()()()()()であります」



「皇帝陛下に忠誠を誓い、帝国を破滅させる反逆者を密かに見つけ出し排除する…精鋭以上の集まりです。

おおよそモガディシュが殿下を連立したのは、恐らく政権を掌握した後も彼らの手に掛からぬようにしていたのやもしれませぬ。



「……帝国がこのような国になってからは、殿下の命令で動いているのではないかと」



彼の言う言葉は中将の頭にあった疑問と全て合致した。


なぜハリソンが陥落したと知られたのか、何故深淵の槍に襲撃されたのか。



権能の脳裏を縛る知恵の輪がはじけ飛んだ今、対策が走馬灯のように浮かびだしたのである。

しばらく時間をおいてから思い出すように中将はこう切り出した。



「——Soyuzに対しての契約について話は伺っています。なんでも給与は無償で良いと。我々の規約に反しますな。兵の活躍の有無にかかわらず戦闘や作業に従事したのならば対価を与えねばなりません故」



するとミジューラはこう答えた。


「…私は虐げられる帝国の民の為に槍を手に取ることは理解いただけて幸いですが、先の短い老い耄れが金を貪るわけには行きますまい。ですが規約というのならば…」



「——ひとつ、傲慢を言うのであれば。ハリソンのように解放した街の復興のため私の給与を寄付するということはできませんかな」



その提案にしばらく権能は目をつぶると、こう切り返す。



「——極めて異例な形になるがそれは可能ではある。ともあれミジューラさん、貴方はこれからスタッフとなる。これからは将軍扱いされないことを承知してほしい。Soyuzは平等だからだ。ご理解していただきたい」







——————






 こうして元将軍の旅立ちと決意を見届けた後、四六時中鉄道建設工事のため轟音が響き渡る本部拠点基地に別の将軍が迎えられた。


ジャルニエ城、県を牛耳るジェネラルであるホーディン将軍である。彼の相手をするにあたり権能は一際気を入れ終わると武装したスタッフに囲まれた彼が司令室に迎え入れられる。



「ほう、何やら周りで建造しているせいか騒がしい。一体何を建設しているかをぜひともお聞きしたい。私こそがジャルニエ将軍ベラ・ホーディン。貴公との理性的な会談を望んでいる」



半要人として連れられた彼は深紅の羽衣に高い襟を携えたまさに貴族と言った出で立ちをした初老の男。

肩には金色の装飾が施され胸元には勲章が光る。相対的に中将が貧しく見えたのか、どこか(あざけ)たような態度を取っていたが権能は文化の違いと割り切り会話の切り口を開いている。



「私はここの拠点の総司令官、権能中将と申します。——建設しているものについては軍事機密につき話すことができない。無礼を承知ではあるが、いくつかのこちら側から聞きたい事項がある。それにお答えしていただくだけで構わない」



中将は将軍の態度に対して少しばかり威圧をかけながら本題へと入ろうとすると、ホーディンは圧力を察知してかまるで攻め込むようにしてこう告げた。



「中将、質問をする礼儀というものをご存じか。こちらに聞きたいことがあるならばまずは私からの質問に答えてもらいたい。まずは貴公の指揮する軍団の所属、目的から述べるべきなのではないか」



その言葉に思わず中将は眉間を寄せそうにはなったが、親指で目尻を撫でると将軍の質問についてこう答えた。



「我々は独立軍事組織Soyuz。どこの国に所属しない兵と解釈していただければそれで構わないでしょう。我がSoyuzでは匿名を希望する人物、または組織から依頼を受けこの帝国の軍事独裁政権を奪還することを目的にしている」



権能はその質問に対して社訓を再生するように答えると、ホーディンは吐き捨てるようにつぶやいた。



「——雑多な傭兵の集まりに負けたという事か」



将軍と中将、どちらも多数の人間を指揮する身であるため捕虜の尋問という光景は影を潜め、両者情報を引き出しながら司法取引の様相を呈している。



特に将軍は最低限のgiveでより多くの情報を引き出そうと躍起になっていた。

反抗勢力に一度屈したものの、再び城を奪還すべく反抗心を燃やしていることを押し込めながら中将の様子を伺いながら攻めの攻勢を崩さない。



「所属は。一体どこの国から差し向けられているのだ」



そのことに対し、中将はあえて情報を出したのだった。



「日本SOYUZ総指令部管区、横浜本部基地だ」



「そのような国家はウァスオン大陸には古今東西存在しない。そのような妙な国など——」



発音もしたことのないような国名が飛び出てきたのである。始めは世迷い事かとおもっていたが目の前の男からはそのような貫禄を感じない。



「言葉が悪かったことは認めよう。あえて言うならば交わることのない海の向こう側から来た、そういった他ないだろう」


中将はかみ砕くようにして再び真実をぶつけた。


彼自身でも信じがたい、夢としか思えぬような事実を将軍にぶつけてしまえば質問に答えたという名分を押し付けることができる。


少なくとも礼儀をわきまえているホーディンに対し、受けの一点から攻めへと変えることができる。その狙い通り、将軍はあまりの事実に目を背け頭を抱えながら口を開いた。



「たわけたことを…そのようなことはありえない」



ホーディンは理解を拒むように言った。


次元を超越してくることなど正しく神でなければできない所業である。


これが運命だというのか、さすればいかに残酷なのだろうか。

今まで味わったことのない理解の及ばぬ存在、未知への恐怖がホーディンに襲いかかる。



 Soyuzの所属を明らかにした辺りより将軍は冷や汗をかき始めていることを中将は見逃さなかった。思わぬ形ではあるが中将のチェス駒を動かす番が回ってきた。



「ジャルニエ城近隣に点在する軍事基地の位置を吐いてもらう。我々は既に検討はつけてこそはいるが何分確定させなければ意味がないのでな。将軍、あなたならその重要性は御存知の通りでしょう。」


中将は降りかかった威圧を返すようにして問いを投げかける。


そう、フェンサーFの偵察によって広大な範囲を知り得ることができていたためである。


ジャルニエの城が判明したのもその賜物であるし、未だに地名などは判明しては居ない市街が無数に発見されている。


しなければならない事と言えば、ただ現地に赴くだけなのだ。それほどまでにSoyuzは情報を持っていた。



「私はジャルニエの統治を任されていた身であり、他県の軍事事情などは知る由もない」



「どの県も生産量を増やし本国からの支援を漕ぎ着け、信頼を得て我が身を可愛がるので精一杯なのだからな。ジャルニエとシルベ-との県境となるダース鉱山には飛竜隊が配属されている」


「管轄は私ではないが修道院付近を半地下にした拠点だとは聞いていた。

そこの将軍が鼻を高くしていたことを覚えている。管轄が私でない以上、規模まではそちらで調べるべきなのではないだろうか。私に頼ってばかりではなく」



その言葉を耳にした中将はメモ帳を片手に証言を記録していくと、更に尋問は続けられたのだった。


 その一方、Soyuz拠点ハリソンでは飛竜を使った速達郵便で、ある一通の手紙が届いていた。その手紙を分配するため手にした騎士団員は目を丸くして声を上げた。



「なんてこった!国からの伝書だ!」



触れることすらおこがましいと思うほど肉厚かつ牛乳のように白い高級紙をふんだんに使われ、封書が紋章の入った蝋印で封が施されていた。


その紋章は鷲があしらわれているものであり、ひと目見ただけで国からの達しだと理解できた。通常視察予定の将軍へ送付されるものであり地方都市に送られることは異例である。



宛名にはこう記されていた。[帝国第二皇女ソフィア・ワーレンサット]と。


次回Chapter41は11月7日10時からの公開になります

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