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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-4.ジャルニエ城攻略戦
41/327

Chapter 37. Zero Dark Thirty (1/3)

タイトル【ゼロ・ダーク・サーティ】


突入チームGは襲い来る敵を排除し終えると、ついに扉で固く閉ざされた最深部の到達に成功した。


かつてFチームを苦しめ、そしてここに居る彼らをも苦しめた存在を全て掃討した此処は静寂が訪れている。


確かにここが司令塔であるならば、何等かのアクションをするはずであり、あまりにも奇妙に見えたがGチームには一つの可能性が見えていた。間違いなくこちらを待ち伏せしていると。



 相手の有利な間合いに入るにあたってその準備は入念に始められた。

扉を爆破した後にフラッシュを炊き、敵の行動を止めている数秒以内にクリアリングをかけて護衛を排除した後に司令官を捕縛するというもの。



隊員らは仰々しい扉に体を張り付くと、分厚い木板の合間から凄まじい熱波が漏れ始めている。

即座に周囲の石壁に触れて内部で火災が起きているか確認すると、壁は死体のようにひんやりとしていた。


火炎放射器でもここまで指向的にはいくはずがない。今までの火球とは異なる敵が待ち伏せしていたことが決定的となっていた。


しばらくすると爆風にまぎれる形で扉が吹き飛ばされると熱波の正体がついに明らかになった。



「なんてこった」



隊員は思わずそう声を上げてしまった。


彼が見たのは炎の巨大な壁が波打ちながら火球同然の速さで駆け抜けていくものだった。こんなもの直撃でもすればその場で火葬されることは間違いないだろう。


あまりのことに手にしたグラッチ(MP443)を握る手が緩みかけたが、立て続けに奇怪なことは続いた。


隊員たちをかすめた火壁は一度曲がり壁へと直撃すると、凄まじい数の炎を飛び散らせながら炸裂したではないか!



「——ググルネイン(超破壊魔法)か。ソーサラーがいるとは厄介な。一筋縄ではいかぬか」



ミジューラは籠手を握りこむだけではなく歯も噛みしめながら苦言を呈した。

まるで今までの火球とは比べ物にならない威力と範囲、さらに制御を備えた魔導を前に突入チームは臆さずに作戦を実行するのだった。






————






 文字通り強力な火砲(ググネイン)を振るう存在が敵対しようとも、特殊訓練を受けた彼らは突入作戦を妨害することは叶わず作戦は進められる。


隊長のハンドサインを基にスタン・グレネードが投げ込まれると、太陽を何千倍も明るくしたかのような白いマグネシウムフラッシュとジェットエンジンの音にも匹敵するすさまじい轟音が響きわたる。


 魔法に対して耐える事のできるミジューラが先行。


すると無力化したはずの周囲から巨大な縄がまとめられたかのような電撃を襲うが、全身を鋼鉄の塊で覆った挙句アースの役割をしているアーマーの前では何も意味をなさない。



フラッシュバンを炊いてもなお魔導士とは比べ物にならない攻撃を見舞う存在とは何者であろうか。

妖術師めいたローブを着た男が目の前の重装兵に向けて吐き捨てるように言葉を投げかけた。



「貴様、寝返ったのか」



その正体は騎士将軍エイベル。護衛を盾にして閃光から難を逃れたが、凄まじい轟音は防ぐことができずひどい耳鳴りに苛まれていた。


エイベル自身は若干の聴力と戦闘を続行可能な視力をかろうじて保っていたのである。


それに対し、ミジューラは蛇の這うようなひどく低い声でこう答えたのだった。



「儂の顔を忘れたとは言わせぬぞ。騎士将軍エイベルよ」



重装甲の塊であるヘルムを持ち上げ、Gチーム隊長のヘルメットを片手に返り血に塗れた素顔を見せる。


そこには将軍にのみ許された貫禄と、鉛のように重い気迫にエイベルは思わず片足が後ろに伸びてしまった。


戦える兵士もおらず、悪あがきしかできないにも関わらず彼は抵抗を試みようと右腕を突き出した。



【ギドゥール】



その時である。エイベルの上には曳光弾のようにくっきりと見える燃え滾る隕石が浮き始めたと思うと、雹のように一斉に降り始めたのである。それぞれが石壁を火砲が直撃でも受けたように石材は砕け、ぽっかりと穴が開く。


見た目こそ派手だが、追い詰められた人間の錯乱した攻撃を冷徹な制圧マシンであるGチームごときにあたることはない。


ましてマトモな照準がなされていない攻撃などなおさらである。



 すかさず隊員たちはクモの子を散らしたかのように散り散りになると、エイベルの四肢にはレーザーサイトの赤い点がぽつぽつと現れた。それと同時に隊員たちの拳銃や小銃から飛び出た銃弾が手足に向けて射出される。



「——グッ」



焼けつくような熱さと剣を深く突き刺されたような鋭痛、さらに弾丸が生み出す大きな運動エネルギーによりエイベルは倒れた。


一発でも行動不能になる小銃弾や拳銃弾をその身に受けたのだ、体はマトモに動くはずがない。

彼を突き動かしていたのは騎士将軍であるというプライドだけだった。







———







役に立たない手足を使わずとも腹筋を使い上体を起こすと、口に魔力を集中し始めた。口を大きく開け、白い刃を作り出そうとしていたその時である。



突如何かが口に押し込まれ、ファントンは激しく減退し消え失せた。よく見るとその物体は黒い金属棒のようなもので、喉奥まで突き立てられえづきそうになる。


視線を上に上げると気味の悪い黒い鎧をつけた男が映ると、その男はこう言ったのだった。



「ここまでだ。洗いざらい司令のいる場所を吐いてもらう。少しでもおかしな手品を見せたら頭を吹き飛ばす」



エイベルは是が非でも思い知ることになった。このような連中と一人のアーマーナイトごときに蹂躙されたのだと。



壮絶な尋問の末、Gチームはついに司令官であるベラ・ホーディンの居所を突き止めることに成功した。


偵察機から撮影された航空写真と図面を照らし合わせた結果、入り口の見合たらない塔に司令塔があるという。



それに加え、妨害工作として破壊された飛竜発着場近辺に存在する飛竜格納舎にその秘密があり、その最深部にある半地下通路が唯一、その塔へとつながっているという。



【こちらGチームからLONGPAT、敵司令潜伏先を特定。敵破壊工作地点付近の家屋最深部から侵入可能な模様。さらに重参回収の際、ヘリの積載重量を超過する可能性大。別途輸送ヘリコプターを要請する】


そのことを隊長は報告しながらミジューラを運ぶために新たなヘリを要請した。


何分ハインドには8チーム64人だけを積載できるようになっていたし、要人を輸送するためのヘリが待機しているはずである。


いくら無理に詰め込んだとしても歩く装甲車の名前をほしいままにする恐ろしく重い鎧では重量超過で機体が浮かばないことは明らかである。


【LONGPAT了解。ヘリ(CH47)はハリソン発着場より離陸する。到着までしばらく待機せよ】


【了解】


少佐はそう告げるとついに戦いも最終段階に入り始めた。

敵士官を無力化した今、残されたのはジャルニエの城を牛耳る司令官である将軍を排除し制圧するのみ。








————


Soyuzは決着を急ぐべく付近のチームを総動員し最も防御が手厚い司令塔を陥落させるべく動き始めていた。


万全の体制を整えるため制圧を終えたA・B・Cチームが合流させ、不測の事態に備えるため敵司令部から最も遠い地点にいるGチームを強行着陸した輸送ヘリに回収し上空に待機。


またBチームでは行動不能に陥った隊員を担いで回収地点へと移送し弾薬の補給を受け再び突入することとなった。



「Cチーム、リーダー以下8名異常なし」



チームが集められると点呼が行われた。Bチームのウェイグ一人だけが行動不能になっていたことを除くと、23人となり突入の準備が刻一刻と迫っていた。


半分以上が戦闘中に制圧されてしまった以上、ジャルニエ城庭園を迎撃する兵士は皆無と言っても良く、破壊された飛竜発着場までたどり着くには妨害を受けずに進むことができた。


この司令部突入チームのリーダーはAチーム隊長が務めることに。



敵工作を受けたこともあり半数が暗視装置を装備し残った隊員は裸眼状態で突入準備が進められる。



破壊された飛竜格納舎の扉には元Aチームのメンバー10人が詰め寄った。

すると鍵の有無を確認するや否やマスター・キーを発砲して錠前を吹き飛ばし、隊員と入れ替わるように隊長はわずかな隙間から様子を伺うとチームに向けて静かに告げる。


「突入開始」


その一言が放たれた瞬間、空気がかき混ぜられるようにして隊員たちがなだれ込む。


照明の落とされた屋内は明かりが落とされていた薄暗く、暗視ゴーグル(NVG)をつけた隊員が先行しながら辺りを捜索する。格納庫的役割をすることもあり内部では竜自体に装甲を施すための固定具などがそのまま残っており人の気配は感じられなかった。







———








本当にここにつながっているのだろうかと思ったが、重要地点であるためいかなる罠が自分たちを待ち構えていると考えると自ずと緊張の糸は緩むことはなかった。


 しばらく突き進んでいくと、先行する隊員が不審なものを捉えた。


「おい、なんだ。」


「1時方向、でかいのが居る。」


彼らが目の当たりにした光景は不可解なものだった。


まるで巨大なスロープのようなものが不気味に蠢き、それに伴い物音がするのだ。明らかに戦車の類ではないことだけは理解できた。


次に犬猫などの小動物かと疑ったがこの大きさは幻覚や何でもなく、巨大な何かが存在することに間違いない。


「どうした。一体何があった」



隊長が裸眼でその方向へ視線を移すと何やら視線を感じた。この殺気、ヒトのものではない。

そのことを理解すると彼は反射的に感覚をナイフのように鋭く研ぎ澄ませ、ライフルを構える。


先の薄闇にはこちらに見つめる二つの赤い点が映っていた。


絶望が再びここに君臨した、まさにその瞬間である。


 

——BrrrrrooOOOOOOMMMM!!!!!




突如として格納庫に人類が捕食されていた時代を呼び起すにはあまりにも十分な咆哮が響き渡ったのだ!


隊員たちは悪魔が今まさに目の前にいる。戦車やガンシップを相手にした時と比べ物にならない、本能に逃げ出したくなるほどの絶対的な恐怖。


 隊長は震える手を押さえつけながら、生唾を飲み込むと無線機を取った。


【——こちらAチームリーダー。報告にあった怪物と遭遇】


 

隊長の声は確実に聞き取れるものではあったが、言葉の節々は恐怖に震えていた。

彼には炎のように真っ赤な鱗を持つ、人間の数倍はある図体をした未知の生命体。


火竜を前にどんな人間でも恐怖を抑え込むことなど不可能だった。


その報告が無線に乗って突入チーム全体に波及すると、Aチームに向けて無線が入った。



【こちらGチームからAチームへ。怪物相手にハンドガンや自動小銃といった携行火器は通用しないぞ。外へおびき出してヘリや戦車でなければ倒すことができない。

繰り返す我々の持つ携行火器は効果がない、気を引くこと位はできるが倒すことは不可能】


【二人で喚きながら攻撃するとヤツらは食いつく。何とかしておびき出し撃破してくれ!】



差し迫るAチームの危機に対していち早く反応したのは火竜との戦闘経験のあるGチームである。


有事の事態に備えるべく上空にいる彼らにとって助言することしかできないが、アドバイスを受けた彼らには絶望ではなく立ち向かう勇気を与える事ができた!



【了解、Bチームは外壁を爆破して進路を確保せよ。我々はこの怪物の誘導を行い外へ出す。Cチームは戦車隊に連絡急げ】



Gチームの力添えを受けたAチームリーダーは絶望の沼から希望の光をつかみ取ると、今まであった恐怖を振り切ったように冷静に指示を飛ばした。


【Cチーム了解】

 

Bチームは格納舎の爆破に急ぎ、Cチームは外の戦車隊に連絡を取るように動き始めた。

ここで一気に押し込んでしまえば勝利は確固たるものになるだろう。ジャルニエ城、最後の作戦が幕を開けた。


 火竜が配置されているという事は逆説的なことではあるが、何の変哲もないこの建物に戦略的価値があるという事を裏付けていた。


Gチームを恐怖のどん底に叩き落した脅威の存在が再び立ちはだかるが、Soyuz相手に同じ手が通じるほど甘くはない。



 格納舎からは時折銃声に混じって悪魔が人を食らうようなおぞましい巨音が響くが、外からの攻撃を通すための抜け穴を開ける作業を続けていた。


Bチームは施錠された側面扉へと回ると素早く爆導線を巻いた板を迷いもなく張り付けると信管をつなげ壁へと退避した。


【こちらBチームリーダー。山側扉を爆破する。退避せよ】


【了解】


無線でAチームの退避を確認できた途端、即座に信管を起動させた。

オレンジ色の光が一瞬走ったと思うと、ズガンという鈍い音と共に砂埃が舞い上がった。

爆破されたことを確認すると工兵は壁から走り出して確認に入る。すると訓練通り風穴がぽっかりと開いていた。


 爆破により通気性の良くなった格納舎では怪物を足止めする段階からおびき出す段階に進む。Gチームの報告通り銃弾は火竜にとって小石を投げられているのも同然であり、ライフルだけで対抗し続けているのなら全員怪物の胃袋に放り込まれていることに違いない。


———PTATATTA!!!!


Aチームは自動小銃の引き金を引き続ける。無数の薬莢を吐き地面にばらまきながら例の火竜相手に携行火器で足止めをかけていた。


爆破によって希望の出口がこじ開けられると隊長が指示するまでもなく、後方から飛来する弾幕をかいくぐり二人の隊員が飛び出した。この怪物を罠に陥れるためにはそれなりの餌が必要だからである。

一人が火竜の頭に向けて、もう一人がLAWの安全ピンを引き抜く。


「おいクソッタレ!聞こえてるか!頭にケツの孔増やしてやるからな!」


「ビネガー漬けにしてやるぞオイ!」


彼らは皆目理解することのできない訳の分からない陰謀論を叫びながら誘導が始まった。


 その一方、Cチームは何もしていないかのように見えた。だがそんな彼らには重要な役割が課せられていた。それは誘導地点の決定である。


Cチームリーダーは端末に受信した航空写真をディスプレイに転送すると、どこからともなくボールペンを取り出し、パネルに現在地点を書き込むと無線を飛ばす。


【こちらCチームリーダーからYOGA-readerへ。支援砲撃を要請する。我々の現在位置と砲撃地点を記入した画像を送信する】


それと共に端末で画像を送信すると電波に乗ってダルシム側の小型ディスプレイに表示されると、ダルシムは無線機片手におよその判断を下す。


【YOGA-reader了解、現在位置からでは届かないため支援砲撃には時間を要する】


【Cチームリーダー了解】


そう言ってダルシムは無線を終えると砲手に弾道計算するように指示を飛ばす。

Soyuzが使うT-72は画像が共有できるよう、ディスプレイこそ取り付けられているが自動的に砲を操作してくれる程面倒を見てくれはしないのだ。しばらくすると砲手はメモ帳を片手にこう答える。


「車長、勘定が終わりました。計算によると東300mに移動する必要あります。」


「了解」


砲撃位置を決定したT-72はディーゼルエンジンを吹かすと、キャタピラを地面に食い込ませ湿った土を巻き上げながらゆっくりと進み始めたのだった。

次回Chapter38は10月17日公開です


・登場兵器

火竜

4m近くある超大型爬虫類。

極めて凶暴であることから手なずけることはほぼ不可能。

そのためファルケンシュタイン帝国軍では処刑用の猛獣として飼育されていることが多い。

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