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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-4.ジャルニエ城攻略戦
40/327

Chapter 36. Dead or Alive(2/2)

作戦通りであれば敵が1や2であれば槍の射程外から自動小銃の一斉掃射で少なからず動きを止め、また動き出す瞬間にLAWや40mmHEAT弾を撃ち込んでやればカタはつくはずだった。



だが負傷者が多数出ている今そのような余裕はない、だからと言ってこのまま追い出されてこの数の敵がほかの制圧地点に入り込まれるわけにはいかない。



まさに背水の陣と言った状態で必死に帝国軍を退けようとしていたが、50キャリバーでさえ貫通を辞さない恐るべき装甲の前では小銃弾は砂粒同然だ。


 

その時である。

背後から金属音と共に赤い影が駆け抜けていった。まぎれもなく敵の重装兵で、得体の知れないところから挟み撃ちにされているのだろうか。


そう思った隊員たちは反射的にライフルを向けようとしていた時である。



「こちら突入チームG、Fチームの撤退援護する!」


耳慣れた装備品と人影が隊員たちを遮った。なぜかヘルメットを装備していないGチームの隊長であった。これは幻影だろうか、否。隊長の後からは隊員がぞろぞろと集まってくるではないだろうか。



「あのアーマーは味方だ!盾になっている間に逃げろ!」


「爺さんを援護しろ!」


絶望の深い沼に突き落とされたかに思えたFチームを救い出したのは弾薬という希望を託された突入チームGのメンバーたち。


 その一方、ミジューラは盾と持ち前の装甲で火球を受け流しながらチーターめいた速さで敵部隊へと迫る。


彼も地獄の底を覗き込んだ人間であり、これくらいの魔法の雨は容易くはじき返すことができるのだ。

彼は絶望をもたらした悪魔の重装兵の射程にまで入るまで接近すると、手にしていた手槍を渾身の力で投げつけたのである。


——CLUNK!!——



投げ槍は装甲兵の合間に居た魔導士の胴体に深々と刺さった。

すると彼は次の手槍を背負った筒から引き抜いて重装兵へ戦いを挑みかかったのである。



「さて———」



ミジューラは息を吐きながら多数の重装兵に囲まれていた。通常であれば絶対絶命であろうが誰よりも鎧の構造を知り尽くした彼の前ではこれら重装兵は新米に過ぎない。


敵のアーマーナイトは同類を相手することに動揺していたが、敵だと知るや否や、容赦なく槍を露出したミジューラの頭めがけ矛先を向けた瞬間だった。


彼は腰を落とし、敵重装兵に対して足払いを仕掛けたのだ。

槍を構える際には腰を回転させ足を踏み出す必要がある。そこを突き崩せば一気にバランスを崩す。



——GRASHhh!!!



派手な音と共に石材を砕きながら500kg近い重装兵は転倒するとか固定されていないヘルムも重々しい音を立てて転がっていく。


するとミジューラは槍先が襟と並行になるように持ち替えると鎧と自身の体重をかけて手槍を敵の喉に突き立てたのである。


その眼は貴族や司令官のような冷徹な顔ではなく、ただ敵を処理する兵士の顔であった。


絶対的防御力を持つ盾がいともたやすく殺されたと魔導士は知ると、めっきり火球の勢いは落ちていった。



 辺りに血のシャワーが降り注ぐ中、恐れを知らない重騎士たちは目の前の敵に挑みかかる。

左側に目を向けると、もう一人が死角を突いたかのようにして向かってきていることを彼は知っていた。


兜のない重装兵は弱点を晒しているのに等しい。


だが老兵はそんなことなど百も承知、目の前の敵を排除するのに集中を始めた。

腰を入れ、胴体を安定させたまま槍を振りかざそうとした瞬間である。


そのアーマーの懐まで迫りくると胴そのものを回転させながら数百キロにもなる鋼鉄のすねを背中に当てた。


回し蹴りである!


予期せぬ部分からの攻撃を受けた騎士は後ろに倒れ込んだ。そして背後から迫る敵の気配を感じつつ兜のはがれた敵へと飛び掛かり、首筋に槍を突き立てた。


 その瞬間、背後から新たな重装兵が迫りくるではないだろうか。だがミジューラはそれに目をくれる必要はなかった。


——KA-BoooM!!!


突如として敵兵の後頭部に爆発が起きると、力なく崩れ落ちた。突入チームのグレネード・ランチャーが命中したのだ。彼らは精鋭の突入チーム(一新胴体)

互いが補いあい敵を排除するプロフェッショナルの集まりである。



ミジューラがあえて敵に背後を取らせ、突入チームから丸見えの位置まで誘導したというのだ。

彼は鈍くなった槍を思い切り近くの魔導士へと投げつけ、次の槍へと持ち替える。


瞬く間に三人の鉄壁が敗れ去った今、帝国軍の優越と傲慢は死の恐怖と絶望に傾きつつあった。

一度綻びを見つけた彼らを先方に居るGチームのメンバーが逃すはずがない!


ミジューラは恐怖し始めた重装兵たちを狩り立ててゆく。血しぶきが降りしきる中、返り血に染まった彼の顔は敵などという枠組みに取ることができず、純粋な殺戮者と化していた。



戦局が大混乱し、騎士らが作る鉄壁に綻びが生じたスキを縫うように隊員たちは魔導士たちを排除してゆく。

後ろに控えた5人は負傷者やFチーム隊員の撤退を支援している構図が出来上がっていた。



 絶対的装甲を持つアドバンテージは、鎧を知り尽くすミジューラと対戦車火器の補給を受けた隊員が出現したことによって形骸化した。


かつて自動小銃でも止められぬ恐るべき敵は、今や魔導士同様の()()()()()に成り下がったのだ。


 ミジューラはこれだけの絶望を与えてもなお立ち向かう敵へと盾を構えながら猛スピードでタックルを見舞う。


装甲で包まれた彼らの重さは軽自動車にも匹敵し、陸上選手並みの速力で衝突する。

それから導き出される結論は一つ、人間では出すことのできない衝撃が生じる。


———GARShhhh!!!!!


まるで大型トラックがぶつかり合う音が城内に響くと、石材をチョークのように砕きながら地面に引き倒される。


バンパーのように分厚いヘルムが転げた瞬間、命乞いをさせる暇もなく槍が突き立てられた。


その一方、遠距離から攻撃する突入チームへ向けて歩み始めた。装甲もなく一撃で仕留められるからである。


それを許すほどミジューラは愚かではない。


反射的に槍を逃げる魔導士に向けて投げると飛び出そうとする敵の腰をがっちりと固定してみせたのだ。次の瞬間、その重装兵の頭はLAWのメタルジェットによって貫かれた。


敵の亡骸から腕を離すと背中にあった鋭利な手槍の詰まった筒を手に取り、使い果たした筒を投げ捨てる。


 防御の要となっている重装兵を排除し終えたGチームは負傷者多数発生したFチームの撤退を終えると彼らからタスキを受け取るように制圧を引き受けることになった。


鉄壁の人間要塞を突き崩した今、反撃が始まる。






——————————







多くのアーマーナイトを失ってもなお、残された魔導士隊の反撃は続く。

Gチームは侵入口まで目と鼻の先まで追い詰められていた所を翻し、建物の中腹まで攻め込んでいた。


ミジューラは逃げ惑うアーマーナイトと、敵の陣形をさらにかく乱すべく魔法の雨降りしきる中飛び込んでいく。


背後のGチームに魔導士の排除を託したのである。


それでもなお敵の迎撃力を喪失することは叶わず、降りしきる火と文字通り合間を縫って撃ち込まれる雷撃に見舞われていた。


進軍を続けた先にある曲がり角においてはそれが顕著であり、熾烈な戦いが繰り広げられていたのである。


敵は先行させていたミジューラをなんとか足止めしながら、その背後にいるGチームに向けて攻撃を続けていた。


攻撃を浴びせられている側はというと夕立のように降りしきる火球を壁で防ぎ、時折ライフルを2、3発撃つのを繰り返し。



激しい攻防が展開され、戦闘は膠着状態に移行し始めた時のこと。


隊員は制圧射撃すべく身を乗り出した。すかさず火球を撃ち終わった魔導士に向け狙いを定めようとホロサイトを覗き込んだその時。ほんの一瞬だが稲光が見えたのだ。



「退避、退避!」



——BRoomm!!!



彼がそう叫ぶと一斉に後退を始めようとするが、閃光は逃げようとするGチームへ容易に追いつくと、まるで吸い寄せられるかのように小銃に直撃したのである!


彼が持っていたM4は鋼鉄の塊でありながら雷のような電流が流れれば凄まじい熱が生じると同時に加熱された銃弾が一斉に炸裂した。


薬室はその圧力に耐えられずレシーバーもろともポップコーンが出来上がるように部品がはじけ飛ん

だのだ。


彼は咄嗟に銃を放り投げたのが幸いし、破片はヘルメットに直撃したが支障はなかった。


しかし異常な熱を受けたライフルは銃の心臓である機関部がはじけ飛び、それに加えて樹脂製のハンドガードが融解している始末で到底使えるとは言い難い。



「Oh,Shit!」



すかさずサイドアームのMP443へ持ち替えると再び壁際に頬をつけ、そっと外の様子を伺うと身を乗り出していくらか発砲すると隊員を呼び戻したのだった。


 

隊員のM4が破損し使用不能になるというアクシデントが発生したが、それでもなお重装騎士という強力な後ろ盾を得た突入チームは迎撃隊を確実に奥へと追いやっていた。


 Fチームを恐怖のどん底へと叩き落したアーマーナイトは歴戦の戦士ミジューラの圧倒的技量の前ではキツネを狩るように数を減らし、盾は文字通り砕け散っている。


一通り重装兵を撃破したミジューラは周りに転げた兜を持ち上げると、戦車の砲塔を据え付けるかのように装着した。

その様をみた隊長はすかさず隊員の無線機を借りると自分に向けて無線を飛ばす。



【ミジューラさん、それはやめてくれ。区別がつかなくなる】



今までは頭の露出の有無にて識別することができたのだが、区別がつかなくなることを隊長は恐れていたのである。

味方からの誤射を受ける可能性も否定できないからだ。

すると彼は無線で届いた隊長の声に驚き戸惑いながらこう答える。



【こいつはおどろいた。離れていても間合いにいるかのように隊長さんの声が聞こえるとは。魔導は顔を焼いて仕留めるもの、兜なしでは殺してくれと言っているも同然。魔導を使う人間が居ない場では兜を捨てることに致しましょう】



ミジューラはまるでフラメンコを踊るかのような軽快さで四方から飛来する火球をはじき返し、雷の直撃を受け流しながら一切の息切れも見せずに槍を振るってのけた。


おまけにそれでいてまるで平常時のように言葉を紡ぐのである。


【了解。引き続き後方より敵を排除しながら進んでくれ】


融通の利いた答えに隊長は冷徹にこう返した。すると一言だけ彼から答えが届いた。


【——老いぼれの力の限りを尽くす。】


その大陸めいた大きな背中はSoyuzに絶望と恐怖をもたらすものではなく、歩兵を援護する戦車のように見えた。

 

予期せぬ寝返ったアーマーナイトの反撃によって陣形は見るも無残に崩れ去っていた。


瞬く間に急所を突かれ死んでいく防壁を前に抵抗をつづけたところで何もかもが無駄だったが、この先に居るのは司令塔である騎士将軍エイベルであり、この異形の集団を何としてでも叩き出さねばならない。


 敵は既に司令室まで間近な第三線まで侵入を許し、まさに絶望的状況ではあったがこのまま鎧を着たバケモノに蹂躙を許す程落ちぶれてはいなかった。


「ファントン急げ!」


決死で隣にいるマージは声を上げる。あらゆる血肉を切り裂く魔道のひとつ、ファントン。

金属にはまるで傷一つ付けられぬものだが、鋼鉄の塊である重装兵であろうとも動くために隙間が設けられている。


そこに直撃すれば一撃で仕留めることができるだろう。


彼の指示を受けた別の魔導士は急いで本を開くと、魔法の記されたページを血眼になって探し当てると詠唱の準備を始めた。強力な魔導故に集中しなければ使うことができないのだ。



 その間にも戦友は手槍で貫かれ次々と散っていく中、これさえお見舞いすれば逆転の可能性も見えてくる。


時折迫りくる敵に目を向けながら、気を底に沈め心の中で刃を想像する。透明でカマイタチのように万物を切り裂く無常の刃を。隣では必死にフレイアで足止めをしていたがそれも限界に近い。


「しまっ——」


隣で援護していた魔導士が騎士の槍に胸を貫かれたのである。

だがそんな悪夢は終わりを告げることになるだろう。


この距離ならば着実に殺せると確信し、口が裂けてしまいそうな程大きく開け、魔導の名前を叫んだ。


「ファント——」



既に青白く光る刃が生じ、まさにそれが目の前の怪物に向けて放たれようとした瞬間である。一つの拳銃弾と銃声がマージの脳天を貫いたのだった。


その弾丸が放たれた銃口からは白い硝煙が濛々と上がる。照準の向こう側にはM4を失ったあの隊員の瞳がのぞく。


 いかに心強い味方、重装兵と言えども無敵ではない。彼らとミジューラは互いを補いあい、敵を蹴散らしながら建物の最深部へ突き進むのだった。



次回Chapter37は10月10日10時からの公開です

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