Chapter35. Dead or Alive(1/2)
タイトル【生か、死か】
戦車からの砲撃により外の敵を一層した後、なだれ込むようにしてヘリ部隊に積載された一チーム10人に分けられたAからGの突入チームによる城内制圧戦が繰り広げられていた。
BとCチームはジャルニエ城前衛2棟の制圧に成功したが、Aチームの突入した兵舎と思しき建物には火が放たれチームは命からがら脱出に成功するも激しい業火は建物をすべて飲み込むと可燃物すべてを灰に変えていった。
だが戦いは終わらない。
8棟あるうちの3つが機能不全に落ちてもなお敵部隊の主力と司令塔は未だに後衛5棟に残されており、Gチームが聖堂を制圧と同時に重要参考人物の救出に成功したことによってSoyuz側に希望は見えはじめていた。
【こちらGチーム、重参の救出に成功。火災発生のため目標地点から離脱】
【LONGPAT了解。】
隊長は少佐に無線で任務完了の報告を上げている間、隊員たちは残弾数を確認させていた。一つ制圧して終わりではない、城全体を抑えてようやく戦闘は終結するのだ。
今後どこのチームの援護を行くのかわからないこともあり、入念な残弾確認は命を守り勝利に繋がることになるのだから。
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「M4用のマガジンはもう3つしかありゃしねぇ、AKなんてひでぇザマだ。グレネード弾がまだマシに思えてきたぜ、クソッ。ランチャーとサイドアームだけ残ってるんじゃどうにもなりゃしねぇ——隊長、補給しなければ作戦を続行できません」
最早彼らにはろくな弾薬は残されていなかった。
火竜をおびき寄せるために過剰に消耗しており、小回りの効かないMGLと火力が足りない拳銃の弾薬ばかり残されていては支援することさえもままないことは明白であった。
これではチームを支援するばかりかこのままでは足を引っ張ることになってしまうだろう。
「やはり、補給しなければ難しいか。——そういえばBMPには随伴歩兵が居たはずだ。」
隊長は分かっていたかのように歯を食いしばらせながらそう答えた。そんな中視点を別に向けると新しく加入したミジューラに関心のある隊員たちが彼に詰め寄っていたのである
「しっかし分厚いなコレ。こんなのをよく着られるな。あの連中どうかしてるぜ」
ある隊員が彼の纏う深紅の鎧をノックしながらそう聞いた。
その分厚さはガントレットでも想像を絶する重さがあり、これだけでも突入隊員用の装備一つありそうな程である。
改めてミジューラの体を見ると若き頃のシュワルツェネッガーのようで、その異常さを際立たせていた。
「——ある程度の体格は必要だが魔具の力添えがあればこの程度は羽衣に過ぎんよ。」
すると彼は手槍を背中に背負った筒へと入れるとそう答えた。その動きはスポーツ・ウェアでも着ているかのように軽快に動いて見せた。その様に別の隊員は呆れたように言い放つ。
「よく俺らあんな狂ったのぶち殺せたな、どうかしてるぜ」
戦火の中での貴重な休息と思われていたが、隊長はせわしなく無線機片手に各所に連絡を取り続けていた。
【こちらGチームからMOSKVA各機へ、弾薬が底をついた。予備弾薬を割りあてられないだろうか】
隊長は兵士たちを待機させている合間に冷や汗を流しながら額にしわを寄せハインド隊に連絡を取っていた。
弾薬がなければ自分たちは敵軍勢に対しあまりに無力である。
彼は重々そのことを理解していない程愚かではない。
無理な話だがやってみなければ始まらないのだ。
【MOSKVA05了解、予備を積載しそちらへ向かう。】
ハインドからの返答が返ってきた。補給を取り付けることに成功したのである。その言葉に隊長は息を吐き捨てると、返答を送った。
【了解、ランディングゾーンは——】
その時である、ある1本の無線がすべてを揺るがした。
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【こちら突入チームF、敵部隊の抵抗激しく後退中。支援を要請する!急いでくれ!】
それは今まで優勢かと思われたSoyuz側が追い詰められていることを意味していた。
自動火器を装備した突入チームによって今まで順調に制圧していたというのに、競り負けているというのだ。
間髪を入れずに少佐からの無線が全体に伝えられる。
【こちらLONGPATから突入F付近のチームへ、直ちに援護へ向かえ】
【突入チームE、現在 ——GRASHHHH!!! 戦闘中につき——TATAShh!!!—離脱不能です】
隣にいるチームEの無線には激しい銃声と、時折放たれる帝国軍側の稲妻が空気を割く音がまぎれており到底援護に迎える余裕等なかった。
【チームG了解、補給後Fチームの援護に向かう】
そんな中で声を上げたのはGチームの隊長、ニキータであった。ここで立てかけられつつある勝旗を倒すわけにいかない。
一度つけ入るスキを与えてしまえば、優勢状態が不利な状態に傾くことも十二分に考えられるからである。
Fチーム最後の希望は彼らGチームに委ねられたと言っても良い。
隊長は語気を強めながらハインドに連絡を取りつける。
【こちらGチームからCART01へ、至急地点Gに急行せよ。】
【CART01了解。急行する】
車両からの無線を確認し終わると隊長は待機していた兵士たちに向かって声を張り上げて指示を飛ばす。
「これより地点Gに弾薬を積んだBMPが補給に来る、即時補給を済ませ、チームFの援護に向かう!補給に時間を取っていられない、各員弾薬を揃え次第地点Fに集合せよ!」
ただならぬ様子に隊員は温和になっていた顔をすぐさま変えると声を揃えてこう答えた
「了解」
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なぜ自動火器を持つSoyuz突入チームFが後退を余儀なくされたのか。それにはある程度時を遡る必要がある。
扉を爆破していざ突入した彼らが見たのは闇。
それは各チームから報告された通りであり、暗視装置を起動させることで無効化した。
また敵が仕掛けたと思われる深淵という環境も突入チームに味方していたことは事実だ。
一般的に人間は視界からの情報に頼る生物である。
それがつぶされている光一つないここでは触感と脆弱な情報でこちらを頼らざるを得ない。
また飛び道具を使用しての戦闘において、遮蔽物から身を乗り出すという行為自体にも気が付きにくい。
当然ながら飛来する火球の弾道はあらぬ方向に飛んで行き、不燃塗料の塗られた床材に着弾すると氷が解けていくかのように消えていく。
——PATATATA!——
黒が満ちた空間に発射炎はまるで赤い絵具を零したかのように広がっては消えていった。
敵とは違い彼らは技術力によって完全な闇であっても視界が効くのだ。
圧倒的アドバンテージを前に魔導士たちは成す術もなく排除していく。
そんな中、隊員たちはどこか違和感を抱いていた。あまりにも数が少なく、そして弱すぎるのだ。その不自然さを報告したのはある隊員、ベネスティだった。
「隊長、他チームと報告されていた規模が明らかに違います。どうしますか」
話し声が漏れぬよう隊長の至近に詰め寄ってその旨を報告した。投降勧告を蹴飛ばして抵抗を続ける相手が、いざ戦闘が幕を開けると即座に撤退するとはとは考えにくいからだ。
「フラッシュを炊いてもこの数では弾薬の浪費になる。できることは進むことだけだ」
「了解」
隊長はそう切り返した。弾薬の枯渇は事実上弾薬という概念が限りなく薄い敵にとってチームの全滅につながる。
スタン・グレネードは多くの敵を纏めて行動不能に陥らせることができる武器であるが、持てる個数には限度がある。
恐らく数の上ではチーム人員を上回る帝国軍相手に浪費は許されないという判断を隊長は下したのだ。
軍隊は上官の指示は絶対である。ベネスティはそれ以上口出しすることも出来ず、敵の罠が張られているかもしれない敵の根城を慎重に進むことしかできなかった。おおよそそれが最良の選択だと信じて。
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闇で包まれたこの建物の奥に潜む兵士を指揮している人物は騎士将軍ジョーチ・エイベルである。
将軍は彼に万が一中庭に展開する兵が突破された場合、屋内に誘い込み排除せよという命令を下しており、加えてエイベルの周りに異様なほど兵を集め彼を影武者にしようというのだ。
それに対して彼は腕を組み、あることを悩んでいた。
騎士将軍という役職に居る以上、エイベルは部下に対して冷静沈着を装っていたが、彼の悩みの種は
消えることはない。
仮定の話に過ぎないが、ここに来ているのは反乱軍ではなくその背後についている組織ではないかと。
それが正しければ反乱軍以上の兵力を持っていることは明白で自分自身の手に負える相手なのかどうかわからなかった。
だが司令官というものはいつまでも憂いてばかりでは陥落を許してしまうと考え、打てる手は全て打っていた。
「エイベル将軍。敵が第一線を突破しました。重装兵を進軍させますか」
小さな魔力カンテラを持った魔導士が報告に上がった。エイベルは今まで頭にあった雑念を振り払うと
「敵が第二線手前まで来たところで重装と魔導混合隊を用いて排除する。そのためには第三線にいる重装兵らを前に出させよ。またその際、魔力灯を一斉点灯させろ」
ソーサラーは魔導士とは明らかに異なる妖術師めいたローブから手を出し、魔導士を指さして命令を下した。
騎士将軍というのは形骸化した名前であり、実力と能力がある軍人ならば天竺の道となるがこの地位まで上り詰めることができる。
「了解しました。」
エイベルは指示を受け実行する魔導士を横目に執務デスクに置かれた魔導書を手に取ると、周りにいる護衛に命令を出すと司令室を兼ねる執務室の扉は固く閉じられ施錠された。
ここから敵を油断させておびき出してからが勝負なのだから。
突入チームの装備した暗視装置で見る世界は、すべてが緑と白色に覆われた非現実的な世界である。
そのレンズ越しで確認できる敵は進むにつれて数が極端に減ってゆき、挙句の果てには敵がいない区画まである始末。
明らかに兵員を絞っているのは明白で、何かがおかしいとチーム内全体に不穏な空気が漂い始めている。
彼らが建物の中腹にまで侵入したその時だった。
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□
——GRASHHHH!!!——
突如として稲妻が空気を切り裂くような轟音が響く。屋内で夏の夕立を起こしそうな積乱雲が発生したのだろうか、否。雷魔法がほとばしったのである。
だがその狙いは侵入してきた突入チームではなく壁にいくつも掛けられた魔力灯だったのだ。
魔力灯はその名の通り魔力を糧にして照らすものであり、消費魔力は魔導士が指で触れる程度の脆弱なもので何時間も照らし続けることができる。
だが魔法の直撃を受けた今、その光は車のハイビームを炊かれたかのように煌々と光りだしたのではないか!
「グワーッ!!」
暗視装置は微弱な光を人間にも見えるよう増幅する装置である。肉眼ですら目をそむけたくなる強烈な光を増幅されたのだ。
こちらが携行するフラッシュ・バンを逆に炊かれるという事態に陥ったのである。
隊員たちは苦し紛れに半ば暗視装置を投げ捨て、視界を肉眼に切り替えると帝国軍の追撃がFチームを襲う。
「オボボーッ!」
魔導士隊のアドメントがひるんだ隊員に降り注ぎ全身を電が走る。先ほどの光で動きを封じられるのはあくまで数分の間であり、それまでの間に確実に身動きを封じなければならない。
視界のアドバンテージが反転した今、直撃させることは容易い。
凄まじい音に思わず転げて避けた隊員も多かった。視力が回復し、その光景を見た彼らは言葉が出なかった。
「嘘だろ…」
目前には壁のように連なった重装兵が追い立てるように迫ってきているのだから。
思わず血のりが塗られたように真っ赤な装甲、ヒトが入っているとは思えぬ、無機質でスリットが入ったヘルム。そして呆れる程高い防御力。
まるで隊員たちは戦車部隊が目の前に現れたかの絶望と、恐怖を抱かざるを得なかった。
重装兵が出現すると共に城内の帝国軍は決死の反撃に転じていた。先ほどの魔導士はあくまでも敵を油断させるための囮であり、武装解除をした瞬間圧倒的火力で葬り去る計画なのである。
「クソ、ふざけやがって…!」
雷によって行動不能に陥った隊員を抱え、彼は片腕でライフルを隊列に向かって引き金を引き続けていた。敵はこちらをまるで嬲るようにゆっくりと迫ってくるのである。
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これだけであればLAW等で始末はつけられるはずである、それで対処できる筈だった。
そんなスキを与えまいと重装兵の合間から無数の火球が飛来してくる。
「撃たせない気かよ畜生」
ある隊員がマウントされた発射機に手を伸ばそうとしたが、飛来する火球から逃れるためランチャーから手を離し後退する。
スコールの雨粒が全て火の弾に置き換わったかのように降り注いでいる以上、LAWの発射機を立ち上ることやフラッシュを焚くための暇さえも与えてはくれない。
止まれば火球の集中砲火を受けて火だるまになって火葬まで済まされることになるだろう。
その中ですることと言えば、小銃で装甲の合間に居る魔導士に五月雨撃ちを浴びせてどうにか火力を落とすことであるが正確な狙いが付けられる場合の話であり後退を強いられている今それは不可能に近い。
するとある隊員は後退しながら素早くMGLにマウントされたホロサイトを覗き込みむと悪魔のヘルムに照準を定め、すかさず引き金を引いた。
「くらいやがれ!」
筒の抜けた軽い音と共に赤い装甲悪魔の頭へと着弾、炸裂するとメタルジェットが脳を貫通したのか壁を構成する重装兵は像のように倒れた。
一見、強固な肉壁に穴をあけたと思われたその時だった。物言わぬ鎧となった重装兵の穴を埋めるようにカバーしあっているではないか。
彼は戦慄した、死を恐れぬマシーンを相手にしているのと同じだからである。
そればかりか一人が戦死しようとも進軍速度は落ちる事はなく着実にこちらへと向かってきているのだ!
このままではジリ貧になり死傷者も出ることは間違いない、そう判断した隊長は前方の隊員を援護しながら無線を飛ばす。
【こちら突入チームF、敵部隊の抵抗激しく後退中。支援を要請する!急いでくれ!】
そして今に至る。装甲車と見まがう装甲と小銃弾の直撃よりも厄介な火球の雨に晒され隊員たちは傷つき、焼かれていった。
気が付けばもはや侵入してきた入り口が迫ってきており、押し出されてしまうのは時間の問題。
これだけの数を解き放ってしまえば現在戦闘中のチームが挟み撃ちにされてしまい被害が広がるといった最悪のシナリオが脳裏によぎる。
状況は刻一刻と悪化していく。このま焼け死ぬか、悪あがきの末に殺されるか。絶望に立たされた。
次回Chapter36は10月3日10時からの公開です




