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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-4.ジャルニエ城攻略戦
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Chapter34.Empire of Holy war(3/3)


 かくしてGチームは恐るべき強敵、火竜を撃破することができたが余韻に浸る暇さえ与えられない。

怪物の吐き出したブレスによって聖堂は今まさに燃え盛る火炎に飲み込まれようとしていたのだ。まさに理不尽とも言えるが、その中でも彼らは任務を果たさねばならなかった。


 隊長は退避していたチームを急いで呼び集めると、急いで礼拝堂へと向かうように指示を受け要人の救出へと向かった。


彼は退避している時に見ていた訳のついた見取り図データを思い浮かべていた。

それには聖堂奥の礼拝所奥に隠し扉があり、そこの地下に重参が投獄されていたと記されていた。ちょうど主要の建物と隔離されているここは囚人を封じ込めることに関しては理に適っていると言えるだろう。


——— 



楽器や蝋燭のない燭台、そして壇上とベンチがずらりと並ぶ悪魔の居所(礼拝堂)まで戻ってくると、隊長の持つ端末に表示された画像を基に大捜索が行われた。


この世界の見取り図というのは正確な測量機器を使用せず作成された杜撰極まりないものであり、どこの扉が独房に通じるか等知る由もなく隊員たちは砂漠に落ちた砂粒を探すが如く必死に探し回った。静寂で満たされた礼拝堂だが、この後ろには火災が迫っている。


「地元の教会よりバカでかいモン作りやがって」


ある隊員は床や壁の石目の一つ一つに目を通しながら、悪態をついた。人が大量に詰め込めることができるこのホールの中で、漠然として存在する隠し通路を今すぐ見つけろというのは、いかにプロである彼らには無理難題である。


「オイ、何やってんだ。時間がないんだぞ」


彼はある隊員に声をかけた。眉間にしわを寄せ、メトロノームのように指を触れては離しを繰り返していたのだ。


「ちょっと真面目に考えてみろよ、隠し通路ってのはエロ本と同じようなもんだ。どこに隠したいか考えてみろ。お前ならどこに隠す?普通、人がまず見ない場所に隠すだろ。普通はベッドの下だ。すると——」


「壇上だ!」


 二人は顔と声を合わせると、おもむろに壇上の元へと駆けあがっていった。


「出てこいエロ本、お前はベッドだろうが俺はシーツの下だ!」


———


隊員は支離滅裂な叫びをあげながら床面に手を突き、コンタクトレンズでも落としたかのように探し回る。


どれもセメントでも触れているかのような冷たい感覚ばかりだったが、ふと祭壇の付近になると、木目が手袋に引っ掛かるような感覚がほとばしった。


その感触に彼は目を細め、重点的にその周りを探すと明らかに場違いな取っ手を見つけたのである。

試しに渾身の力を込めこじ開けようと試みると、扉が開かないまではよかったが鍵穴がどこにも見当たらない。彼はためらいもなくライフルの下に取り付けられたアンダーバレル・ショットガンを取っ手の反対側に向けて発射した。


——ZDOM! ZDOM!


12ケージの重々しい銃声が二回響くと、止めとばかりに扉を足で踏みぬいた。板切れは真っ暗な底へと落ちてゆき、しばらくすると闇に飲まれた。ここが地下へとつながる独房の入り口であることは間違いなかった。


「悪趣味なことしやがって。隊長、入り口を発見!」


隊員はここに居る全員に居場所がわかるよう高らかに声を上げた。


「了解、各員NVGを装着し突入せよ!」


隊長はその声にこう返すと、それを聞いた隊員たちは暗視ゴーグルをつけて独房への一口へと固まった。おおよそ一人ずつしか通り抜けられないような幅の通路だがそれに臆することなく突入チームは素早く、そして着実に侵入していったのである。


———


 帝国郊外に位置するジャルニエ城では政治犯を軟禁する独房としての側面もある。

国に居る雑多な犯罪者ならば家畜小屋めいた独房に投獄されるが、元貴族や将軍などの地位の高い人間である場合ここ、ジャルニエに収監されることになっている。


帝国の納税義務と新たに設けられた生産ノルマを無視し続けた挙句国家反逆罪の容疑がかけられ、納税に従わない他県将軍への見せしめにナンノリオン県を統治する将軍ミジューラ・ヘン・アルジュボンが独房の中に閉じ込められていた。


近日中に処刑予定だったが反乱軍の奇襲に備えるべく予定は先送りにされたのである。


戦乱時であろうと警備は強固でなくてはならず、竜飼いも兼任する重装兵ジョーンスベルは非常時であろうともこうして見張りを続けている。


重要な仕事であることに間違いはないことは百の承知ではあったものの不謹慎ながら暇を持て余していた。自分が戦線に赴くことになったならこの世の終わりだが、そうではない今魔力灯が放つ黄土色と朱色の合間めいた光を浴び続けていると睡魔が当然の如くやってくる。


だが鉄格子の先にいるのは、かの英雄、ミジューラ・ヘン・アルジュボンその人だった。

魔道都市マガアリオで生また高貴な血統を持つ人間だが、その実態はただの戦えぬ貴族ではない。


独房の向こう側、手錠と足かせをつけられた彼は、選ばれた重装兵から専門の訓練と武術を学んだ上で昇格するジェネラルなのだ。



その証拠に鉄格子の外から覗くアンジュルボンの顔はまさに戦士であり眠気を覚えるたび彼の顔をみて自分を戒めていた。

 その時である。突如として聞いたことのない重苦しい爆発音が地下牢に響き渡ると、礼拝堂へとつながる非常路の天板が階段から転げてきたのである。


「クソッ!」


思わずジョーンズは盾を構えながら背負った槍入れから手槍を一本引き抜くと、物音があった場所へと一歩を噛みしめながら向かってゆく。火竜ウェルベが殺されたに違いない。

心の底から湧き出る恐怖を無限の怒りに変えながらその場所へ歩み寄っていったのである。まるで燃え盛る火炎を身に纏ったかのように武者震いする彼はまるで火竜のように恐れを知らず、敵を迎え撃とうと首を洗って待っていた。


————



その一方、突入を果たしたGチームは救出作戦の最終段階に入っていた。

隠し通路を封じる扉を蹴りぬくと、狭い通路に暗視装置を作動させた隊員たちが静かに地下へと駆け抜けていく。


NVGから覗いた地下牢獄は昼間のように明るく、今まさに迫りくる敵の姿をくっきりと映していたのである。階段を下り終え、隊員たちは一斉に壁へと張り付いて向こう側の様子を伺った。敵は一人、看守と思われる敵が一人と分かると作戦は始まった。


「貴様らよくも火竜(カルビン)をやってくれたな!」


突如として鎧の奥から確固たる殺意が渦巻いた声が発せられた。だが今のGチームは生と死をかけた地獄の連携バトンをつないできたプロを前に冷静さを欠いた標的に過ぎない。

重装兵は異様に殺気立ち、感情のままこちらを追い込むかのように着実に歩んでいる。彼らはその程度に思っていた。


 すぐさま突入のハンドサインが送られると、ありったけの銃弾全てをアーマーナイトへぶつけた。


——BANG!BANG!!— PLALALA!!!!———


拳銃、サブマシンガン、残り僅かになった小銃弾すべてが浴びせられると分厚い装甲は水しぶきのように弾かれていった。だがそのエネルギーは着実に鎧を着た人間に容赦なく牙を剥いたのである。全身をメイスで殴られたかのような衝撃が一斉に襲われた今まともに動ける人間などいないのだ、いくら貫通は防げても衝撃までは殺すことはできない。


 スリットの向こうにいるジョーンズは歯を食いしばって憎き敵に足を向けようとしたが、袋叩き同然の殴打を受けている今、体はピクリとも動きそうにない。


 動く敵を正確に排除するよう訓練を積んだ隊員たちの目前で止まること、即ち待ち受けているのは死である。敵が進めなくなったと判断した瞬間、銃撃を浴びせていた隊員は火器を構えたまま膝をつくと、それを補うようにMGLを持った人間が重装兵の頭に狙いを定め、引き金を引いた。


——PONG——BooMM!!—


40mmHEAT弾のメタルジェットは兜に着弾すると、命をかすめ取るように敵の脳天を貫通したのだった。


 囚われの身である重要参考人、ミジューラ・ヘン・アルジュボン。名前こそは知られているがその顔を知るものはチーム内において誰もいなかった。一人が撃破した重装兵の死亡確認を行いながら独房を進んでいった。


鉄格子の向こう側に目を通すとまるで中東テロリストが人質を閉じ込めておくような劣悪な環境だった。辛うじて便所の役割をする穴と蓋ぐらいは設けられているが、それでもなお恐ろしい拷問所と言えば誰しもが疑わないような独房が連なっていた。


その多くには人は入れられておらず、残ったものと言えば生活感のある空の牢屋である。おおよそ処刑台に送られたことに違いなく、人道的という概念がないこの世界においてどのような末路を辿ったかは言うまでもないだろう。



 隊員たちは地獄へと出荷される死の屠殺場を進み、その突き当りにようやく人間が捕らえられているのを見つけた。

そこに居たのは貼り付けにされたイエスのように項垂れた初老の老人だった。足音に気が付いたのか彼らに向けて視線を向けた。


「あんたがミジューラ・ヘン・アルジュボン、だな。」

 

 隊長は膝をつき、老人に目線を合わせてそう問う。


「いかにも。」


老人は短くそう答えた。そのことを確認した隊長は死亡確認をしていた隊員を呼びつけ、金属用の持ち手のついた糸鋸を使いカギの切断に取り掛からせた。


————



そばにいた隊員は鍵本体を押さえ掛け金に切れ目を入れたと思うと、すぐさま錠前を切り落とした。

 解錠し終わった独房へと押し入ると、鋸を持った隊員は足枷と手錠の切断作業に入ると同時に隊長は説得を始めた。


「我々は皇女殿下に依頼され皇族系反乱軍に手を貸す組織のものです。貴方の救出に参りました。外には救援が来ています。」


隊長はそう言いながら顔色を伺うとしばらく俯いたままのミジューラは顔を上げてこう答えた。


「…申し訳ない。儂が若ければこのようなザマになることはなかった」



侵入口に迫ってくる火を見張る一人を残し、Gチームはミジューラに対して軽い質問をすることにした。この国の内情、そしてジャルニエの城に関して情報が得られるかもしれないと考えたからである。

 足かせと手錠を切断すると、彼は左手首を握りながら拳を作っていた。そんなところに隊長は問いかけた。


「この城の司令塔がどこにあるか知りたいのですが」


すると彼はネジの巻き終わったオルゴールのように語り始めた。


「——城は国の要、囚われの身の人間に告げる筈もないだろう。知っている人間には大方見当がつく。騎士将軍か、あるいはここに居た火竜使いの重装手だ。ヤツだけは誰を処刑するかを聞くために将軍の居る場所に行く必要があるからだ。 

ここの将軍は処刑に火竜を使う。その一匹をここに置いたはずだが、貴公らがここに居るということは竜を打ち破ったのだろう。」


その言葉に隊長は冷や汗をぬぐった。先ほどの重装兵を撃破し、完全に殺してしまったのだ。だが得られた2つ情報は大きかった、良い方は騎士将軍がその居所を知っていることである。悪い方の知らせはヘリの総攻撃を浴びせてようやく倒せた怪物が一匹だけではないということだ。


「ええ…どうも。貴重な情報提供、感謝します。それと聖堂につながる出口以外に出口はありますか」


隊長は質問を続けた。聖堂側には火の手が回り、脱出には大きな危険を伴う。それ以外の出口があればそれに越したことはない。


「そうか…あそこは聖堂につながっていたのか…。もう一つの出口は無論存在する。そちらが大方最も使われている出入り口だ。完全武装したあの看守もそこからここに来る。心してほしい、こちらから出れる、ということはあちら側も多くの兵を置いているだろう。」


そのことを言い終わるかと隊長は思ったがミジューラはなおも続けた。




「…儂も貴公らのおんぶにだっこになるわけにはいかない。力を貸そう」


隊長と目を合わせて力強く言った。その眼は弱弱しい人質や見せしめにされていた富豪ではなく隊員と大差ない、修羅をくぐることを覚悟した目のそれであった。

 するとそばにいた隊員はそんな彼を丸め込むようにこう告げる。


「丸腰の人間を外のクソみたいな戦地には連れては歩けない。申し訳ないが——」


「儂はまだ動ける。それ以上に死を待つばかりだった此処から出られた恩義がある以上、それに答えねばなるまい。」


ミジューラはその言葉をはねのけ鉄格子の外に出ると、辺りを見回わすと、倒れた重装兵を指さしてこう言った。


「あの兵士の鎧であれば力になれるだろう。だが儂一人では難しいところもある、手添えをしてはくれまいか」


その言葉を耳にした隊員は思わず耳を疑った。ボディーアーマーを来た人間どころか歩く装甲車並みの防御力を持つ、狂った厚さの金属板を身に纏うというのだ。自分たちのような訓練した人間でも着る事ができるはずもないことも輪にかけていた。


「ご冗談を、あれは——」


「あれは動きやすい方だ。かつて将軍だった頃はアレよりも重いものを着ていた。」


彼はまるで戦車砲に装填された徹甲弾のような眼光を隊員に向けたのだった。



————



「本当にいいんですか隊長、重要参考人物ですよ」


言葉をことごとく遮られていた隊員が隊長に食って掛かる中、打倒した重装兵の装備品を剥ぎ取りが行われようとしていたのである。救出するはずの人間が戦うことなど考えられないことであり、彼は困惑と混乱しながら隊長に質問したのだ。


「俺はあの目を見た、あれはラスベガスで金貨をばらまいている人間じゃあない。

俺たちと同類、死線を潜り抜けてきたプロフェッショナルだ。俺の独断は間違っていることかもしれないことは覚悟している。それに出口は多くの兵員が配置されていることに違いない。我々も消耗している以上、奴らに優位に立てるかわからない。戦力が得られるならそれに越したことはない。」


その言葉の裏で隊員とミジューラの手によって軽自動車並みの重さを誇るアーマーナイト解体作業が始まっていた。


籠手や巨大な胸当て、おおよそ大人一人分と同じ重さとしか考えられない兜を取り払われると、血まみれになった兵士から身ぐるみを剥がしていく。


「想像よりも着込みが傷ついていない、これなら魔具として使える。ブーツもだ。すまないが腕のも頼めるだろうか」


そう言うと手慣れた手つきでインナーを着るとガントレットの留め具を外した。続いて隊員たちはトーストのように軽々持ち上げようとしたが、この赤い籠手一つだけで装備品一つをまとめたような重さが襲う。思わず断面を見るとバームクーヘンのような分厚さにも関わらずこれが全て鋼鉄となっており戦慄を覚えざるを得ない。


「釣りの錘には最適だな。ああ、クソッタレが!」


隊員は歯を噛みしめ、ようやっと金具を止めると漏れ出すようにそう言った。


「この厚さと重さが鉄壁を生むのだ。文句は言っていられない」


籠手を装備すると嵌まり具合を確認するかのように一、二回握りこむとランタンのように光りだした。彼らは魔法を絵空事だと思っていたが、この光景を見て存在を確信させられた。おかしなトリックがあろうがなかろうが、この場では存在しているのだから。


魔具と呼ばれる装備を付けた途端、みるみるうちに分厚い装甲が装着されていく。そのたびに人間味は薄れ始め、警察官マーフィーのような出で立ちに隊員たちは総じて理解のできないと言わんばかりの顔をしはじめる。


「兜だが…」


残りが兜になるところまでミジューラの装甲化がなされると、隊長が割って入った。


「人の頭の中身がへばりついているものを使わせるのは勘弁してほしい。代わりに俺のヘルメットを使ってほしい。突起一つ押せば暗闇でも見れるようになる。」


隊長は暗視ゴーグル付きのヘルメットを無理やりにでもかぶせると、彼は鋼鉄の手を使って整えながら答えた。


「だがこれだけあれば問題ない。お役に立てて見せよう」


それと同時に見張りを立てていた隊員が声を張り上げた。


「火災がこっちまで来ています、早急な脱出を!」


「了解、総員脱出せよ!」


再び、新たな戦いが幕を開けようとしていた。


次回Chapter35は9月26日10時からの公開になります

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