Chapter 32. Empire of Holy war(1/3)
タイトル【帝国の聖戦】
帝国領土におけるSoyuzの確固とした地盤を得るため、そして依頼された軍事政権からの解放の第一歩としてジャルニエ城に奇襲することになった。
戦車部隊、そしてハインドV 8機から構成されるガンシップ中隊とおびただしいほど詰められた80人の突入制圧3個小隊によって作戦がはじめられる。
だが予期せぬ謎の組織[深淵の槍]によるハリソンへの襲撃と、それに伴い迎撃態勢を取らせてしまったことによって森林でゲリラ戦を仕掛けてきた帝国軍歩兵小隊のように蹴散らすこともできず、むしろ制圧に手間取り苦戦を強いられていた。
帝国軍は決して昆虫程度の頭脳をふるうわけもなく、的確で確実な戦術によって抵抗し、城内部は半分も制圧することも出来ていなかったのである。
この城はディズニーランドに建てられたものではなく火と殺しの魔法がモノを言う地獄に建てられた城なのだから。
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Aチームの突入した建物は敵の仕掛けた罠により火災が発生したのを除くと
B,Cチームは制圧に成功、後者は内部図を発見する功績を残し、すかさず本部拠点に画像データ群が転送された。この地図を読める人間の下へと届くように。
【こちらHQからLONGPAT.旅団に翻訳をさせたものを送信する。それぞれのチームに伝達せよ】
その答えは思うほか早く少佐の下に来ることになった。本部拠点には頭のおかしい学者連中と、この国の文字を解読することのできるスタッフがいたのである。
ネジどころかシャーシが外れた彼らには関わりたくないがこの成果には脱帽せざるを得ない。
【LONGPAT了解。敵司令の位置は判明したか】
少佐は権能にそう問う。最重要であり、図を見るよりも無線を飛ばした方がはるかに速いからだ。冒険気分で宝探しをしているのとは訳が違う。
【図上に司令位置は確認できず。機密情報のようだ】
長丁場の双六、総じて賽の目は2しか出さないものだ。少佐はそう思っていた。
大抵、軍の指揮を出している場所は敵の攻撃とは真逆の位置にある。ヒトラーの作らせたベルリンの地下壕のように。
ここから先は破壊ではなく、この巣の奥にいる女王を仕留めなくてはならないのだ。
翻訳された見取り図は各それぞれチームが突入している建物に応じてすぐさま送信された。
もう一つの目標【重要参考人物の救出】に限りなく近いチームが居た。彼らは突入チームG、入り込んで居た場所は聖堂。
それを裏付けるようにバージンロードのように長い廊下を進んでいた。不気味なことにここにはチームAのように敵が隠れるような遮蔽物、または部屋もない。
殿堂には外から響く自動小銃が吐き出すヤジのような銃声とくぐもった爆発、ステンドグラス越しに見る城内からは土煙が濛々と上がっていた。
まるで人気のない廃墟に放り出されたかのような状況に突入チームは不穏な空気を感じ取ってはいたのだが、決して恐れることはなかった。
ブービートラップが仕掛けられているかもしれない、奇襲されるかもしれない。
そう思いながら互いの死角を補いあい、この廃ホテルのような廊下を進んでゆく。
【こちら突入チームG、屋内に突入した。内部に敵影なし。】
隊長ニキータはライフルの照準と自らの視線をそらさずに報告を上げる。
Aチームでは待ち伏せを受けたとあり彼は特段気を張り続けていた。
どれだけきらびやかなステンドグラスが並べられた神を祀り上げる場所であっても人間とは残忍なもの、手段を択ばないことを良く知っていた。
【こちらLONGPAT了解、強大な戦力を秘匿している可能性がある、注意せよ】
【了解】
隊長は少佐との無線を切ると、彼は強大な戦力とは一体何かを考えていた。
このようなスペースには到底戦車を運び込めるほど広くはない代わりとして天井が異様に高い。
横幅を取る大型兵器を大量に隠し持つのは不可能だとしても、縦に長いものを一つ運び込む程度ならできるだろう。
しかしその縦長の物体とは何かがわからなかった。戦闘機等ないことが示されたここに何があるというのか。隊長は野暮なことを考えるのをやめ、任務に徹した。
まるでサメの歯をあしらったかのようなステンドグラスの紋章が床にスポットライトを作りながら真っ黒い影は聖堂の奥へと進んでいった。
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多くの場合、ジャルニエの城は長い廊下の先に大きな広間がある旧来の貴族的城の様相を色濃く残している。
完全に装甲化どころステンドグラスの撤去されていない聖堂は証拠の一つと言えよう。
ガラスに彩られた紋章はジャルニエ領主ベラ家の由緒正しい竜の牙をモチーフにされた絶対的力を意味する。
城とはかつて莫大な力の象徴として建築された絢爛なもので、それが戦火の火に遭い改築され今に至る。
それでもなお手の加えられなかった場所があった。
ファルケンシュタイン帝国に伝わる神話に出てくるオンヘトゥの神々を祀った聖堂である。
神を崇め、長く苦しい戦いに立ち向かうために作られた聖域と言っても良い此処は、明かりが取り入れられ安堵をもたらす造りは戦中であっても姿形を保っていた。
神々に血なまぐさい人間の愚行を見せるわけにはいかなかったからである。
礼拝する人間も偶像を立てる人間も消えた地上を照らすように、日差しが差し込む。
視点を変えればこのような教会めいた建物であれば倉庫に転用できるはずであり、戦略的に重要かつ聖堂の地下には独房がある。
それにも関わらず伏兵もなく、騒ぎに便乗して逃亡しようとする人間も想定されるこの場所はあまりに手薄としか言いようがない。
Aチームが受けた破壊工作から鑑みるに敵は何からの策を打ってくることは間違いないがそれが何かの予想は全くつかなかった。この世界には現実世界の常識がまかり通るとは限らない。
突入チームはついに奥の礼拝堂へと続く扉へとたどり着いた。当然ながら内部から施錠され侵入することはできなかった。
そのため導爆線をまとめたウォーバル・チャージをダクトテープで貼り付けるとすかさず電気雷管をセットしようとした時である。
「なんだこの地響き、作業を終えてとっとと退避する。こいつはぁまさか…」
その異変にいち早く気が付いたのは爆破工作を行っていたある隊員だった。
扉の向こう側からこちらに何かしらの揺れが伝わってくる、少なくともエンジン類や車両の生み出すようなものではない生々しい揺れ。
すかさず彼は急いで雷管をセットすると、ライフルを構えなおし全速力で退避した。
揺れの正体は本能でわかっていた、この向こう側にいるのは紛れもなく恐怖をもたらす存在に間違いないと。彼は冷や汗を拳に滲ませながら走った。
——GASH…—GASHhh!!——GRASHhhhhh!!!!——
地響きが始まってから少しも立たない間に、床の揺れは増していった。
まるで今から厄災が起きることを告げるように。
それどころか何かが扉を突き破ろうとする音まで聞こえてきた。
恐る恐るその発生源である礼拝堂の方向へと隊員たちは視線を向けると木の扉は時折、布のように揺れているではないだろうか。
加えて一度音が鳴るたびに木の扉は無残に砕けてゆき、内装も伺える程だ。
明らかに人間ではない存在がトイレのドアをノックどころか突き破ろうとしている。
彼らは思い知らされた。これが悪質な幻覚や幻聴ではなく、今まさにここで起きていることだと。
次回Chapter33は9月13日からの公開になります




