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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-4.ジャルニエ城攻略戦
35/327

Chapter 31.Black armor killer(3/3)

敵によって引き起こされた火災。


前進もできず、後退も逃避もできない。

隊長は考えた、炎が何もかもを覆いつくすまで間に敵を撃破し、窓を見つけて脱出しなければならない、と。



相手が戦車並みに大きく、そして小回りが利かなければロケット弾をお見舞いしてさっさと退避することができるだろう。


だが相手は人間並みに小さく、何よりも全裸同然の大人と同等に速いのがネックだった。



「ファッキンボルト!」



隊員たちは必死に応戦する。各員それそれぞれ最低1本のLAWを携行していたがバック・ブラストの関係で迂闊に発射はできない。


対抗できる数少ない手段のひとつであるグレネードランチャーの弾数もお世辞に潤沢とは言えないときている。


「クソッ!」



MGL140を持たない隊員は携行している自動火器で応戦するしかできない。



人を容易く殺すことができるライフル弾がまるで戦車を前にしたかのように時折火花を散らしながら弾かれてゆく。


弾を撃ち切ると、即座にマガジンを跳ね飛ばし、有無を言わせず交換すると、レバーを流れるように引いて装填。


その間わずか2秒を切る勢いである。そのわずかな間、アーマーナイトは止まっていた。


銃弾を防ぐことができても流石に衝撃を殺すことはできないのだろう。Soyuz特殊部隊の前に止まった標的には必ず死が訪れる。



———Pom———BoooMM!!——



わずかなスキを見せた敵に間髪入れることなく向けられたMGLの照準。


ためらいもなく引き金が引かれると、重装兵の頭に向けてグレネード弾が発射されたのである。弾が着弾すると信管が作動し分厚い兜をメタルジェットが貫いた。


 脳天を貫かれた敵重装兵は力なく床に倒れ込む。


——GRASHH!!!


あれだけの攻撃を受けながら色が剥げただけにとどまっていたのである。兜には小さな穴が開き、血が石材を赤く染めていく。


だが目の前には別の重装兵が突入チームを命がけで排除しようと迫っているだろう。

死ねば焼かれ、生きていても焼かれる。双方命を懸けた戦いだ。






————






火の手は時間の経過と共に増していった。次第に棟の奥で起きていた火災は可燃物を喰らいながら隊員たちのいる中ごろまで広がり、同じように棟内の気温もただならぬ程高くなっていた。


Soyuzと切り札である重装歩兵班たちの戦いは未だに決着がつかない。


だが得られたことは大きい。

アーマーナイトへの銃撃は効果がなくとも動きを止められることはすぐに伝達され、実行に移された。


——QRAM!! QRAM!!!———


鋼鉄を纏った悪魔は銃弾を弾きながら走りはしないもののこちらににじり寄ってくる。


衝撃を殺せない中でもフルバーストを受けながら、こちらを殺すためだけに迫る様はまさしく悪魔。

銃撃が止むとすかさずグレネードの一閃が飛んでくる。


その時である、爆炎にまぎれて大きな影が鼠色の煙から飛び出してきたのだ。


重装兵を盾にして重装兵が再び飛び出してきたのである。



 全身を鎧で包んだ悪魔が全力で走ってくる様は隊員たちに絶望で支配するには十分すぎる巨体と、装甲同士が擦れ合う金属音が炎で明るくなった兵舎棟にくっきりと映る。



 その様にただ一人動けたのは隊長だけだった。腰元にマウントされたLAWの安全ピンを咄嗟に引き抜くと、発射機を伸ばし思い切り声を上げながら引き金を思い切り押し込んだ。



「喰らえ化け物め」



凄まじい爆音と共にバック・ブラストが巨大な火炎の幕に大穴を開けると、瞬きする合間もなく重装兵に直撃した。すると肉と金属の塊に成り果て、崩れ落ちていった。


敵の数は二人となり、絶対絶命の危機を突入チームはこの状況を打開する希望が見えはじめた。



「グレネード弾は一発残せ、でないと焼け死ぬぞ。生き残りたければ弾に気をつけろ」



隊長は空になった発射機と共に吐き捨てるようにそう言った。





———————





 辛うじて突入チーム側が優勢に転じていったが、それでもなお立ちはだかる重装兵の前では余裕はない。


自動小銃の総攻撃を受けてもなお、こちらへ向かってくる恐るべき存在を前に、数少ない弾薬で立ち向かうのは一種の賭け。

こちらの弾薬を撃ち尽くせば接近戦での勝ち目は到底ない。



隊員たちの持つカービン銃の予備マガジンもついに尽き果て、最後の一本がずしりと重さを残す。

もうこれしかない。


炎で視界全体が陽炎で揺れる中、意を決した一人の隊員が走り抜けていった。



「こっちに来いクソッタレ!」



サイド・アームの拳銃を抜くと絶叫しながら重装兵へと発砲を繰り返した。


一見蛮勇に見えたが、彼には策があった。当然注意をこちらに向けることに成功すると近くの兵寮の扉を蹴り破るとその床に転がり込むと、後を追って顔も見えぬ鎧を着た大男が立ちふさがった。



前掛けのような巨大な装甲をまるまる着用した挙句、全身を鋼鉄で包んだ銃弾が効かぬ悪魔。彼は今にでも逃げ出したくなるような恐怖に屈しなどしない。



今まさに襲い掛かろうとする重装兵に向け、ライフルの銃口を向けるとありったけの銃弾を叩き込んだのである。



———TATATAATA!!!!!



乾いた銃声と雨粒のように弾丸が跳弾する音が混ざり合う。

重装兵がひるんだわずかな間に空になったライフルを放り出すと、腰に着けられたLAWを引き出した。


照準器を起こす暇もなくアーマーナイトは槍を振りかぶり咄嗟に仕留めようとかかる。



「地獄に送ってやる、ふざけやがって」



頭に狙いをつけると引き金を握ると、ランチャーから飛び出したロケット弾は投げられた槍と交差するように飛翔していく。


その間はコンマ秒の世界、分厚い装甲の先にある頭を貫通する頃放たれた槍は彼の肩をかすめる。



肩から鉄臭い血がじわじわと滲み鋭痛が降りかかりながら隊員は立ち上がると、兜に大きく煤かぶった重装兵に目をやった。右手を突き出しながらモニュメントのように立ち尽くして死んでいた。



「エイリアンにぶちかましたかったぜこの野郎」



彼の悪態と共に亡骸は崩れ落ちた。


中ほどに広がっていた火災は寮室を巻き込みながらついには最深部まで到達しようとしていた。

残りの重装兵は目の前にいるこの一体だけになったが、時間はコンマでしか残されていない。



絶望的な状況下にも関わらず敵は逃亡しようとする素振りさえ見せず、あろうことかこちらににじり寄る。

あたりには薪を燃やしたかのような音と鉄器が擦れ合う音だけで満ちていた。



 隊員たちはすかさずLAWを取り出すと、あっという間に発射準備を終え神経反射的速さで引き金を強く握りこんだ。



——ZRASHHH!!!!!——KaBooooMM!!!



雷のように爆発の閃光に遅れて爆音が返ってきた。

火がジャーキーをあぶるようにじわりじわりと侵略するおかげか、光景は陽炎でぐにゃりと曲がり火の粉が舞う。


敵目標に寸分狂わずロケット弾を直撃したはずである。

いかにふざけた装甲を持っていようが対戦車HEATに勝てるわけがない。


彼らはそう考え銃口を下に向け様子を伺う。



——QRASH、QRASH——



 しかし敵は倒れていなかった。砂塵が晴れると憎き重装兵は前かがみに盾を構えて立っていた、違う。そればかりか地面を揺るがしながら向かってきているのだ。


 LAWの弾頭はこの程度の盾はガムの包み紙のように貫くことができる。


それは()()()()()()()()()()に限られる。



放たれた弾頭は空間装甲(スペードアーマー)に着弾したように減退し、最も分厚い胴体を完全に撃ちぬくことができなかったのだ。


加えて当たり所も悪く、下腹部とあって即死にまで至らなかったのである。



「残りを排除する。脱出経路の捜索と爆破作業急げ」


隊長は彼らへ指示を飛ばすと、ランチャーを渡された隊長を除き作業へと移っていった。

ホロサイトを覗き込むと際立って赤いポインターを混ざりこみそうなほど赤い兜へと向けた瞬間、指を折るようにトリガーを引いた。



【こちら突入チームAからLONGPATへ、敵部隊排除完了。現在敵工作によって火災が進行中、脱出する】



ランチャーの銃口の先には動かなくなった重装兵が転がっていたのだった。






————






 その一方、隊長の命令を受け隊員たちは業火燃え盛る中、必死で脱出経路を見出そうとしていた。


炎は隊員たちを焼こうする寸前までやってきており、後戻りすることはできない状況まで追い詰められている。



奥の食堂めいた部屋には当然使用可能な出口があるのだろうがフラッシュを受け、行動不能になった兵士を片付けるほどの弾薬は残っていない。


寮室はあろうことか針の孔のように小さい採光用の窓では脱出することができないだろう。



手段は一つ、木で裏打ちされ封じ込められた廊下にある窓を爆破することだった。



 無論、このまま隊員一人に一本与えられたLAWでは多くの数に対して太刀打ちできず、周りは火の海で出来ることも限られている。



そのため煙突現象を避けるために穴をあけてから、ここでようやく脱出へ移ることができる。使用できる寮室はわずか2つ。


二つの爆発によって煙突用、そして通路用の風穴を開けてからが勝負、下手すれば突入チーム全員に考えうる最悪な死が待っている。


それにあたり寮室内から発射することで、ランチャーから出るすさまじいバックブラストを封じ込めることに成功した。


それでもなお発射機を持つ隊員の視界の端には火炎が迫りくるほどである。



「このままパティにされるってか、クソみたいだな!」



彼は叫びながら安全ピンの抜かれたLAWを解き放つと、ランチャーを放り投げ即座に床に伏せた。


耳慣れた爆発が終わると、急いで脱出口へと向けて走り出した。ここでしくじるほど突入チームは素人ではない。

一つだけぽっかりと開いた窓に群がると底が抜けたバスタブに水を流すように隊員は流れていく。



【こちら突入チームA、脱出に成功、棟が密封されていたため延焼の恐れなし】


【LONGPAT了解、待機せよ】


火が煙突用の穴へと吸い出される横、彼らはボディーアーマーを焦がしながらギリギリで逃げ延びることに成功したのだった。隊長は人員の確認をしながら端末で報告を上げた。



 この戦いはまだ、始まったばかり。もうもうと煙を吐く窓を視界に入れながら隊長はひと時の安堵を噛みしめて次の戦闘へと備えるのだった。

次回Chapter32は9月11日10時からの公開になります

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