Chapter299. Remember the Empire(1/2)
タイトル【追憶】
——ジャルニエ県
神が再び降臨したファルケンシュタイン帝国。
Soyuzによる政権奪還は全てここ、ジャルニエから始まった。到着直後に攻撃を受けたのも、遠い昔のように思える。
陸軍が常駐していた砦は廃墟と化しているが、U.U本部拠点を中心に兵力が揃えられ
常にガビジャバンとジャルニエ一帯を監視することに。
この地域からはロンドンは一掃出来たが、何せ無法地帯からやって来るガビジャバン人が気がかりか。
——同県ハリソン
閉鎖的で無気力な空気が漂っていた街、ハリソンも様変わりした。
近くには鉄道路線「ハリソン鉄道本線」が、またひとたび足を延ばせば直轄の空港が建設された。
さらにSoyuzのもたらした自由は受け入れられ、味気ない軽工業を続ける片田舎から一転。列車一本で行ける保養地とあって、発展したのは言うまでもないだろう。
何せここを根城にしている学術旅団や、休暇の兵士らを相手にした屋台が立ち並ぶ情景がそれを物語っているのだから。
ここには娯楽・観光・飲食が揃っているほか、居酒屋においてあるクレソンもお忘れなきよう。
さらにかつてこの地を一括で管理していたジャルニエ城には大型機発着基地が建設済みで、早くも前近代的な設備から脱却しようとしているのだ。
進化のスピードはとても速い。
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—-シルベー県
続いてはダース山を挟んだ向こう側にある第二の地、シルベーとふもとの鉱山街ゲンツーにスポットライトを当てていこう。
BooM………
絶えずどこかで謎の爆発音やら酔っ払いの喧嘩が絶えない、重工労働者の街。
煙突から白煙が濛々と出ているように、喧嘩や殴り合いで満ち溢れ、相変わらず治安が悪い。
銃声が聞こえないのが帝国らしいが、そこを除けば日本の川崎と言っても過言ではないだろう。
そんな中、警備にあたるのはパルメド・グルード・ガンテルのトリオ。
首都攻略戦後に携わった兵士でも、このような場所に当てられることもさして珍しくないのだ。
【直ちに武装解除し、投降せよ!さもなくば砲撃する!】
どこからかスピーカーの爆音が響く。
多砲塔戦車の悪魔ことT-35が引っ張りだことなっている、まさに混沌を極めたのが此処ゲンツー。
本官さんのような扱いを受けており、化け物戦車が走り回ろうが誰も何も言ってこない。
皆様にはもう日常だと思って諦めて欲しいものだ。
「まーたデパートが動いてら。ったくなんなんだ此処は……んで……アイツ、なんか機嫌いいな。雪でも降るんじゃねぇか?」
脇にいるグルードは鼻歌を歌っているパルメドが気がかりで仕方なかった。
あの真面目男のアラブ人があんな事をすることは見たことがないし、そもそも長い戦歴でも本気で見たことがない。
早い話が奇行だ。
「あのバカまじめなアイツがなんでご機嫌なんだよ。気味悪い、ちょっと聞いてくる」
それはガンテルも同じようで、勇気を出して聞いてみることに。
「おいパルメド、馬鹿みたいにご機嫌じゃねぇか、えぇ?ついに現地妻でも作ったか」
いつも通りの殺気ある目線で見つめると、内訳を離し始めた。
「その口を縫い合わせるぞ。家族から手紙が来たんだよ、よーーやくな」
彼の出身地はシリア。
古代遺跡や砂漠。さらにはダマスカス鋼の生まれ故郷として有名で、風光明媚な砂漠の都会。
だが複雑怪奇な情勢、ISという狂信者などの大乱戦によって平和は乱され、街は瞬く間に死体と鉄屑、瓦礫の山と化した。
遠く異国の地。最早次元さえ異なる命を懸けて働くパルメド。ただ一つの希望と言えば、生死すら分からない家族からくる不定期の手紙。
最近はめっきり文通が絶えており、本当に死んでしまったのかとすら思っていたが
ついに返答が来たのである。
ありったけの給料と手当を送金しているおかげで、ドイツ辺りで暮らしているらしい。
移民差別などがあるが、少なくとも砲撃やらが飛んでこないだけマシだろう。
「……そうだったか、そうねぇ……」
苛烈な背景を細々と聞いていたガンテルは、内容を聞いてどこか神妙な様子で答えた。
帰れる場所なんてあるのか、と聞かれれば答え様に困る。
戦争は終わり、戦う意義を失ったガンテルは今後どうするかを決めなくてはならない。
話を盗み聞きしていたグルードは無理やり話しに入ってきて、辛気臭い空気を吹き飛ばす。
「まー……なんとかなるじゃねぇか、Soyuzに所属してる限りな。次はどこがいい?砂漠か?極寒地か?それかテロリスト皆殺し……なんてな!」
「どのみちクソなのは間違いねぇ。けどな……くいっぱぐれねぇだけ、いいかァ!」
まだまだゲンツーも始まったばかりなのである。
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—-ゾルターン県
ラムジャーとロンドンの蛮行を受け荒廃しきった緑の地獄。
それも、Soyuzによる空軍基地兼用空港の開発や市民の会による復興が進んできた。
加えて難民キャンプと化したポポルタ城塞跡は、本格的な住宅建築が開始。
あとは抜本的なインフラ整備に取り掛かれば、他県と遜色のない立派な地になることだろう。
執拗な地権者がおらず、既にSoyuz第二拠点が設置や計画上では食糧生産プラント
「ブブ漬け」第二工場が建造されることになっている。
県のほとんどを占める、厄介極まりないガイアクススキの駆除方法も確立したこともあって、ベッドタウンにも工業地帯にも転用できる平野が生まれた。
ある種、無限の可能性を秘めていると言っても過言ではない。
——アルス・ミド村
ロンドンや帝国軍の暗部をもろに受けたここ、アルス・ミドではあるものが遂に完成したということである兵士たちが呼び出されている。
なんでも石像が建てられたという。
曰く、わざわざナルベルン自治区から優秀な石工を呼んでまで作られたとのことらしい。
市民の会によって繋がれた自治区とのコネがあるのがゾルターンらしいか。
「ほんっと良くできてるよなァ。まさかさ、こんなことになるなんて思ってもみなかった」
「本当だよな」
Soyuz戦闘車両スタッフが口々にそう言った。
彼らの車両は2K22ツングースカ。
コールサインWASP22と呼ばれた車両のクルーである。
覚えていない、というのも無理はない。
空から襲い来るペガサスに乗った蛮族を血祭りにあげ、アルス・ミドを守った英雄としてこのツングースカが祭り上げられている。
地味に頑張ったストレラ10もお忘れなきよう。
クルーの目の前には、恐ろしい精度で作られた実物大2K22自走対空砲の石像。
さらには精密な人物石像が4体まで揃っているではないか。
あまりに凝り過ぎて、もう鏡でも見ているのと変わりがない有様だ。
どうやらSoyuz提供写真から作ったのだから恐ろしい。
これらがびしりと敬礼して並んでいる他、石碑には英語と帝国・ガビジャバン語で「彼らがいたから未来がある」と記されている。
どこか誇らしげにしている乗員を見ながら、車長はこういった。
「俺たちの仕事はこれで終わりではないぞ、これからだ」
今はゾルターンの治安維持部隊として配置されている現状、あまり鼻の下を伸ばしてはいられない。
次はランクが下り、レーダーがない仕様のシルカではあるものの、やること自体は今まで通りである。
「わかってますよ」
「そりゃもう」
ゾルターンの未来は、戦争の後始末から始まるのだ。
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——ペノン県
——ヴェノマス
なんら変わりない海辺の市街地が、現実世界の人間によって改造された街ヴェノマス。
だがそんなこともどうだっていい。
「何!?竜騎母艦ボールス・ユンデルの船体を買い取っただと!?」
学術旅団支部長 阿部の叫びが木霊する。
「はい。先生が絶対確保したいだろーなーと思って。作りかけの船体を1万8000円で。仕様書はバイト君が貰ってきました」
とんでもないしでかしをやらかした部下の柳沢曰く、2万円弱で購入せしめたらしい。
あまりにも安い値段に驚愕する教授。何も面白くないギャグだが、事実そうなのだから仕方ない。
「でかしたぞ諸君、このまま計画書通り異次元の帆船空母を———」
そんな矢先、勢いよく冷や水が掛けられる。
「建造費なんですけど、別途で60億円あれば完成するそうですよ」
バイト君、無慈悲な一撃に阿部は凍り付いた。
60億円、たとえるなら戦車60両分のカネをどうやって引っ張り込んでくれば良いのだろうか。
どうあがいてもこの膨大な資金、稼ぎようもないし大学やましてSoyuzを蹴とばしても出てこない。
「ちょい、ちょい。バド」
「なんすか」
だが何か妙案を思いついたらしく、冷笑したような顔のバドラフトを呼び出した。
「そうだ文科省を焼き討ちにして財源を持ってこよう。あとついでに財務省も。あそこには無能でカスみたいな民間人しかいないしな」
「それ本気で言ってます?マジ?遊びで民間人を焼き殺しても全然いいってことっすか?なんだよ最高か?」
軍人至上主義思想に染まっているバドラフト、無能でカスのような民間人を殺すことなどまるで躊躇がないことなどは知っている。
一応学術旅団は「そういう人達」としてリスペクトしているらしいが、官庁の人間など魔導の的でしかないだろう。
「おいまてやめろ、やめないか!」
白昼堂々のテロ予告にバイト君が止めに掛かる。
「なんでなんすか、ああいうのはどうせ生きてても死んでても変わんないんだから、ちょっとぐらい、ねぇ?」
「だからやめろ!」
「とりあえずバドラフト君には、赤いパルパティーンになってもらって……私ダースモールやるから」
「やめろっつてんだろ!」
ロクでもない暴走は止まる気配を見せない……。
次回Chapter300は5月26日10時からの公開となります。




