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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
最終章. 神の棲まう城
321/327

Chapter294. Final Stage: Puppet of Empire

タイトル【ファイナルステージ:帝国の傀儡】


第三層では激しい戦闘が繰り広げられ、危うく撤退も視野に入る程苛烈なものとなっていた。

しかし黒い増援によって、戦況は一転攻勢からジェノサイドに成り果ててしまう。



【X-RAY。敵殲滅を確認】



生命反応が消えたことを確かめた深淵の槍 隊員は短く告げる。



神に抗う逆賊は徹底的に、跡形もなく始末してやりたいところだが何分物資が不足しているのが事実。

この場で出来ることと言えば確実に死んでいるかどうかの確認だけ。



先に進むため歩兵たちが敵後方だった場所を通ると、血の川が出来ている有様。



だが戦場では良くある出来事の一つ。

取り立てて誰も気にしないが、ここには恐らく何個かの小隊が配置されていたはず。



それをたった10人。

ひょっとしたら片手で数えられる程度で、皆殺しにしたと考えると悪寒がする。



陛下は弔いながら血の海を渡っていく。彼らも国のために尽くした愛国者なのだから。

赤い床を渡った先は第四層。


頂上まではあともう一息だ。









—―――――――











——第4層




あと残すところ一階、と言う場面まで来たのだが何も見られない。

親衛隊が恐らく最後の正規兵どころか戦力なのだろう。



しかし、あの狡猾極まりないコンクールスが何もしない男なのだろうか。



真っ先に疑ったのはブービートラップ。



しかしX-RAY、もとい深淵の槍らの調査によれば、その手のものは見られないという。



なんにせよ油断は出来ない。



QRAQRAQRA……



履帯の音を軋ませながらフロアを登っていると、突如明かりが消えた。



元々窓を全て装甲板で封じているということもあって、陛下と隙間から覗く光以外の光源を喪失してしまったのである。



歩兵たちは陛下自身が発光していることもあって、戦車たちは各々の暗視装置で難を逃れたが、本当の()()はこれからだった。



警戒しながら徐々に足を進めていくと、あるものを発見する。

人影のようだが、なぜかうずくまっているではないか。


まるで糸が切れたかのように。



「姉上……!」



帝国の傀儡となっていたイベル・ワ―レンサットその人だった。




多くの失態を重ねたマーディッシュの代わりに帝国を操り、そして操られる傀儡。

ファゴットの由来の技術により、コンクールスの意のまま動く人形になってしまった経緯がある。



恐らく魔導で操られているなら話が早い、ソフィアは早速魔封じの神槍を振りかぶろうとした瞬間。




『 始 ヒト 神 ヨリ 地ニ 満ちる ガ ため ニ 生まれた 神 ノ かけら なり』




突如イベルがうなだれた状態で浮かび上がり、音声を切り貼りしたような不気味な声を上げた。




『次 ヒト 集まり シ 時 国 ヲ 作りて 富 ヲ ふりまかん』




次第に垂れた首も正面を向き、何度か機械的に角度を変えながら振り返る。

ファルケンシュタイン帝国神話 ヘトゥの教え 第27部4の項。



国の成り立ちについて。




もう人どころか人形じみた動きに流石のソフィアも同様を隠せない。

だが取り戻す絶好のチャンスであるのも同じこと。



ZoooOOOOOWMMM!!!!!!



迷いなく石突でオーラを放つが、そこに姿はなかった。



『神の力はこう使う』



ふわりふわりと浮かび、幻影のようにイベルは漂う。

見えてはいけないもの、そこに実体がありながらも雲のように掴みどころがまるでない。



コンクールスはここまで神槍メナキノンに適合してしまっているのか。



彼女は操られている根源をかき消そうとしても、どうしてもその実体がつかめないのでは意味がない。

悔しいが、神の一族によりも神に最も近い人間であることを認めざるを得ないようだ。



『神とその下請け達よ、心して聞くと良い』



『自らの意思でレジスタンスを結成せず、諸君らは傭兵団と結託し国家転覆をしようとしている事実は変わらない』



『これは歴史上で売国奴と言われても文句は言えない、という意思表示であると捉えてよろしいか』



ソフィアは何も言えなかった。

痛いほどの事実の羅列に黙り込む。それは肯定してしまった、ということを意味する。




『独立軍事組織Soyuzは現にオンヘトゥ13使徒を撃破し、ここまで来ている。悪魔の力を持つといっても過言ではない。現に私が政権を握っているように、この国もこの女のように操り人形になってしまうだろう』



だから何だ。今更そんなことを聞くのか。



未来なんて神の力をもってしても見通せるなら見てみたい。

軍事政権にこれ以上好き勝手をされたら破滅を齎してしまう。



そう考え、悪魔に魂を売ったあさましい女なのだ。



数か月にわたる重い罪は消えることはないだろうし、例え第三者が抹消しようとしても。この自分が許さない。



Soyuzに対して強硬な立場を取ってでも、ファルケンシュタインを重苦しい国から解放しようという意思だけでここまで来た。



やることは全て考えた、そして為そうとしている。



『一つ、私から言っておこう。諸君らは【古き者】達であるということだ。帝政は何をしてくれただろうか?度重なる戦争でいたずらに兵士を増やし、それから仕事を奪って野に放った』



「何?」



ヘルムの裏でソフィアの顔が怒りで歪む。



『横暴を働いた者もいるだろうが、多くは愛国者たちであることをあの男は忘れ、使い捨てたのだ。お前たちがどう言い訳しようが、私はそう考え、こうして国を奪取したのである』



『新しきものを次々と導入し、発展した都市も多い。誰が魔導技術を発展させた。誰があぶれた兵士に仕事を与えた。誰が港を整え港湾都市として育て上げたのか?全ては我々だ』



人民に対する重税は全てこれら軍事に関ることに、使われ発展してきたのは言うまでもない。

これは確かな功績であり、事実の陳列もここまで来ると刃のようだ。



『有望な人間を発掘し、育て、投下する。神が人間を導くのではなく、人間が人間を導く時代なのだ。それと個人的に1つだけ。こう言わせてもらおう』




『 国 の 発 展 を あの男(皇帝) が 行 え た と で も ?』



最後の一言にコンクールスの本音が全て詰まっている。

国に尽くしたにも関わらず、自分達をゴミ屑のように捨てた皇帝への深い憎しみと失望。



それがファルケンシュタイン帝国の過去。

神により生まれし国が残した負の側面。


だからこそ、彼の中には神など存在しなかった。



全ては事実として通達され、機械的に処理を行っているに過ぎない。

たとえ追い詰められてもなおこの有様。



ソフィアを取り巻く光はより一層強くなり、神の怒りに触れた事を如実に表している。



『……できるならやってみるがいい。いや……やってほしい。私以上にできるのなら』



「小賢しい!」



この一言で完全に吹っ切れた彼女は感情的にメナジオンを地面に突き立てた!



ZoooOOOOOWMMM!!!!!!



時間さえ止めてしまうような強烈な青い気迫が一斉に襲う。

イベルはその影響をモロに受け、糸がぷつりと切れた操り人形のように倒れ込んだ。



ヘルムを投げ捨て、散々な目に遭って来た姉の身体を抱く。



「何が……!」


全てを理解できていない姉に、ソフィアはただ一言こう告げた。



「姉上、悪夢は全て……終わったのです……」















—―――――――――――












——第五層

司令部




あの安っぽい操り人形(イベル)を失ってしまったが、役割を終えたのは事実。

神となった小娘はしばらくすればやって来るだろう。



あれだけ身内の事を罵ったのだ、怒りに燃え躊躇なく殺しに来るのは明らか。



だがこれで良い。



「淘汰されなければならない存在とは我々の事なのだ。……時代の幕開けには血を流さなければならない。だろう、ハイゼンベルグよ」



確かにコンクールスは優秀で、帝国でこれ以上頭の回る人間はいないだろう。

そう。()()()()()が大問題なのだ。



跡継ぎとなる人間がおらず、カリスマを失ったファルケンシュタイン帝国は恐らくゾルターン辺りを火種にして内輪もめを起こす。



そうなれば未来永劫燻る火種となり、幾度も幾度も彼と同じような者が現れるだろう。

大概の人間は欲望に満ち溢れすぎている。このコンクールスでさえもそうだ。



どのみち身内の優遇政策を取り、いずれそれが反感を買って終わらない革命の連鎖を繰り返すことになる。



自分の代ではレジスタンスを一掃したからいいものの、人は神に近い人間のように有能とは限らない。

連鎖の渦で、無能が何等かの偶然でトップになった時。



この国は失墜する。



それに人間は決して神になることは出来ない。

寿命や燃え尽きる前に耄碌しだす。


逃れられない絶対的な時限爆弾を抱えている以上、どうしようもないことか。



最も神に近い人間は呟く。



「さて……未来は開けるか?」


次回Chapter295は5月12日10時からの公開となります

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