Chapter291. Final Stage: Corridor to Heaven
タイトル【ファイナルステージ:天国への回廊】
帝都の中枢である城、その中庭を制圧したSoyuzはいよいよ司令部に殴り込みをかけようと画策していた。
勢いのあまり突撃しても勝てないことは目に見えていたので、困った時の神頼み。
神代の儀を終えたソフィア・ワ―レンサット陛下を投下することに至る。
妙に庭が開けているおかげもあって、ヘリポートとして使うのに申し分ない。おそらくあの昇降機も飛竜格納用に使われていたのだろうか。
しかしながら何事も上手くいかないもので、ある難題がのしかかって来た。
父ヤルス・ワ―レンサットから受け継いだ神の鎧なのだが、これがあまりに重すぎた。
超重装歩兵のジェネラルでさえ3tだというのになんと8tもあると言う。
普通のヘリコプターで運ぶにしては重すぎ、輸送機で運ぼうにもソフィアがいるのは帝都近郊で滑走路がご都合良くあるわけがない。
仕方がないのでCH47Dチヌークを本部から送り、一旦Soyuz陣地に着陸。たった一人の大荷物を抱えて再び舞い上がることに。
——中庭上空
空から見ても、この城は得体のしれない恐怖感を抱かざるを得ない。
そんな中、丁度良く開けた庭にチヌークは着陸すべく高度を下げる。
【Banana01からLONGPAT、着陸します】
【LONGPAT了解】
そんな矢先の出来事。
大荷物の本人であるソフィアが突拍子もないことを言いだした。
「このまま高度を維持してくださる?降りられますので」
「は?」
クルーは脳が理解を拒んだかのような反応を返す。
それも無理ない、飛んでいるのは高度500m、ヘリボーンどころかパラシュートが必要になってくる。
しかし彼女は無粋なものなど持たずに降下しようというのだ。
「そのままの意味でございますが。……重量バランスが大きく変わりますのでお気をつけて」
「………直ちに開けなさい。これは命令である」
ソフィアは念を押す。
クライアントという地位を使いながら、クルーに与圧をかけ後部ハッチを開かせようとしてくるではないか。
「了解」
なんだか微妙に光っている得体のしれない存在に言われたのならば仕方がない。
圧力に屈服した乗員は後部ハッチを展開し、機首が上がることを注意する。
———WooooOOOOOMMM!!!!
強烈な風が舞い込む中、神は舞い降りた。
—―――――――――
□
重力に引かれ、8tを誇る神鎧を身に纏いし神の代行者は上空からほぼ垂直に落下する。
ピサの斜塔、それ以上の高さからの紐無しのバンジージャンプ。
あるいはパラシュートなしのスカイダイビング。
これ以上ない狂気の沙汰だが、これは神の御業。
Zoom……
空中に居られる時間はたったの10秒。中庭の石畳を割りながら地面に着地した。
ヘルムで遮られ表情はうかがえないが、まるで固定でもされたかのように手足を動かすことなく、鉛玉のように地に降臨する。
引いていた顎を真っすぐに。
これから起こる出来事から逃げないという意思表示を込めて、生家を見つめた。
陽炎の如く周囲がわずかに歪み、神の力を持って壁の向こうを透視する。
鋭く分析をかけると、動員兵よりも多く複製されたBMD-4が配置されていることが分かった。
小賢しいマネを考え着くものである。
装甲車両から降りて来た機械歩兵は、あまりの圧力に言葉を発することが出来ない。
神を目の前にして軽口を叩ける人間はこの世に存在しないのだから。
無言のまま彼女は左手で腰元を叩くと、右手に何かを掴んで引き抜いた。
これこそ城攻略の切り札、封魔の神槍 メナジオン。
取り出すなり槍の石突を地面に突き刺すと、猛火でさえも容易に凍てついてしまうような青い気迫を放った。
ZoooOOOOOWMMM!!!!!!
これでしばらくの間、あらゆるの魔導を封じることが出来る。
そして、Soyuz兵員にこう言い放った。
「我、ソフィア・ワ―レンサットなり。後へと続け」
—―――――――――――
□
都にそびえたつこの城は各県にあったものとは根底から異なっている。
それぞれが軍事要塞的な意味合いが強かったのだが、そうはいかない。
ここは将軍、いや王でもなく帝が君臨する聖地。
神話の時代から積み上げてきた歴史を刻み続ける、巨大な記録簿でもあり国家の中枢なのだ。
その扉が主によって開けられた時、神がかり的な空気が一気に漏れ出してくる。
——第一階層
先陣は勿論陛下、後ろには歩兵。
彼らの最後尾にはAMOS-VTTとバックアップ用の5式中戦車が付く。
何せ8tの鎧を装備しているソフィアは進軍速度が遅いということもあって、天へ上る速度はあまり速くはない。
城の内装は晴れやかで、底知れなく不気味だった。
少し観察すればわかるが、敵の侵入を阻むよう全て窓が塞がれている。
それにも関わらず、隅々まで見えてしまう程に明るい。
どこにも照明は見当たらず、降り注ぐ灯は日光のように暖かいではないか。
壁と床の境目には苔やらシダが生い茂り、生命が生まれそうな雰囲気すら感じる。
あまりにも場違いな光景を前に、兵士たちは一瞬だけ怯むが陛下の後を追って城内へと踏み込んでいった。
ガンテルを除いて。
「どうした」
異変に気が付いたのはPKMを持つマシンガンナーのパルメド。
味方でさえ平気で撃ち殺すとんでもないヤツの様子がおかしいことに気が付いたのである。
戦歴が長いのは腕からして確かだろう。
腐っても上級兵職、自分より狙撃がずば抜けて上手い男。
その道のプロフェッショナルである彼が、新兵のように足がすくんでしまっているのだ。
ガンテルは深刻な顔をしながら答える。
「……分からん、こんなの生まれて初めてだ。腰が抜けたとか怖いとかそんなんじゃない、こっから先……人間が入っちゃいけねぇ。それだけしか……わからねぇんだ」
「だが……後戻りできねぇんだろ。やってやる」
逃げ出してきた兵士も同じような事を言っていた。
異世界から来た人間からしてみればある程度抑え込めるのだろうが、この世界の住人であるコイツはその影響をモロに受けているのだろう。
なんとか作戦は実行できそうなのを確かめると、パルメドはグルードにフォローするよう視線を向ける。
「いっちょやってやろう」
ふざけた傭兵風情に見える黒人男のグルードだが、なんだかんだ言って精神的フォローが出来る人間だ。
QRAQRAQRA……
背後に迫る履帯の音に心臓の鼓動をシンクロさせて、兵士は進んでいく。
こうしなければ冷静さを失ってしまいかねない。
今までとは何もかも違う超常的な戦場を現代の集団が駆け上がる。
その先に天国があってもおかしくはない、あまりに空虚な天国のような地獄。
今軍靴で踏みしめている広い通路が、司令部へと続く道。
蜘蛛の糸だと信じて上り続けるしかないのだ。
—―――――――――
□
歩兵とAMOS-VTTが上を警戒しながら上へ、上へと昇る。
しかし冴島が説明していたような動員兵の様子が見られない。
小賢しい透明人間になっても発見できるよう、赤外線暗視装置をかけても熱源は全く映らないではないか。
【こちらSTAG077からLONGPAT。上部足場に敵を発見できない】
【LONGPAT了解。警戒を怠るな】
狙い撃ちされる恐れは無くなったが、その代わり予想だもしなかった出来事が突入部隊を襲う。
「AIEEEEE!!!!」
「開けてくれ!開けてくれ!開けてくれ—————!」
「助かった!」
あまりの狂気に耐えられず、逃げ惑う子羊と化した動員兵の群れだ!
言葉通り、戦う意思どころか武器すら持っておらず民間人と大差ないのは明白。
一部の人間は精神をかなりやられており、もう叫びをあげている始末である。
武装している人間は見られないのはいいことだが、凄まじい数が押しかけている現実は変わらない。
武器を持っていなくとも、群れになれば圧力も凄まじいことになる。
花火大会やらエスカレーターで人が押し寄せて倒れて大勢死人が出た、という事故が起きる程に。
5式中戦車は雑踏事故を防ぐため外部スピーカーからアナウンスを続ける。
「我々Soyuzはあなたがたを保護するためにやってきて、此処にいます。慌てず、整列して後ろへ向かってください。そこに出口があります。くりかえします————」
敵は何をしてくるか分からない。民間人の群れに爆弾を仕掛けている可能性も十二分にあるだろう。
STAG077は中戦車が呼びかける脇で警戒をし続ける。
「まて、落ち着け!いいか、落ち着いて、並べ!いい加減、落ち着かねぇかこの野郎!」
陛下は石像のように止まって動じないが、歩兵たちはそうはいかない。
もみくちゃにされながらも、必死で落ち着かせようと必死だ。
飛び交う銃弾には慣れていても、パニックになった集団と面と向かう例なんて早々ない。
一番考慮しなければならないのは5式やVTTが狙われる事。
人間なら魔法で感電・焼却・一刀両断・爆殺等、数え切れない手数でどうにでもなるが戦車だけは弱点まで近づいて撃ち込まなければ倒せない。
しかも接近する前に、敵が一方的に見つけ出して殺しにかかってくる有様ときた。
ヘタクソが乗っているなら根性で1両くらい破壊できそうなものだが、Soyuzの練度はその辺の軍隊かそれ以上。
仮に1つを死ぬ気で倒したところで、地球上を牛耳る独立軍事組織Soyuzにとっては痛くも痒くもない。
まだまだ控えが無数にやってくることを忘れてはならないだろう。
かくして帝国軍は嫌と言う程、装甲兵器の脅威を思い知らされてきている。
注意が逸れている今が殺す絶好のチャンスだ。
部隊は難民を後ろに流しつつ、歩兵たちは天へ続く回廊を登り続ける……
次回Chapter292は5月6日10時からの公開となります。
登場兵器
封魔の神槍 メナジオン
メナキノンと対になる神槍。無尽蔵の力を与える前者とは違い、メナジオンはありとあらゆる魔法を全て封じてしまう。
その効力は神槍にも及ぶ。




