Chapter289. Final Stage: Reviving Nightmares
タイトル【ファイナルステージ:蘇る悪夢】
——KA-BooooOOOMMM!!!!GASHHH!!!
一点に集中砲火を浴びせた結果、無敵を誇る帝都の城壁に大きな穴が開いた。
素早くシュノーケルを着けた架橋戦車が乗り込んで、堀に橋を架けていく。
しかし装甲兵器に乗る面々には感極まって叫ぶ者は誰もおらず、むしろ眉間に皺を寄せる人間ばかり。
爆発の後に立ち上る鉛色の煙、赤外線暗視で見ても何が何やらわからない。
ペリスコープ、つまり肉眼で硝煙の煙幕にいる何かを探している最中。
大きな影を捉えたCV90砲手が短く言った。
「やっぱりな。大型目標だ」
爆炎に紛れてちらつく戦車並みに背の高いシルエット。
その正体など知ったことではないが、ロクでもないものには違いない。
「了解。一旦データ照合に回す」
この影には見覚えがある。
ジャルニエ城で特殊部隊を多いに苦しめた「火竜」と呼ばれる危険大型生物だと。
作戦では橋が架かり次第、突入するように言われてはいるが綺麗にフタをしていて邪魔になる。
【こちらMonaco054からLONGPAT。敵、大型目標確認。照合して欲しい】
【LONGPAT了解】
車長は画像をソ・USE経由で転送し、指示を待つ。
どのみち殺るのは確実だとしても場所が厄介だ。
こんなデカブツ1匹殺すことは容易いが、穴の中で倒れたら出入りできなくなる。
どう出るか。
—――――――――
□
データ照合が完了し、据え付けのソ・USEにデータが送られてくる。
ジャルニエ城での戦闘で初投下された4m大の巨大爬虫類。
見た目通り真っ赤で口から炎を吐き、どういう訳かHEATに耐性を持つ。
BEAWP!!
情報をかみ砕く間もなく、煙の中からビームのような火炎が飛び出した。
人を平気で襲って食べる凶暴な生物らしいが、近代戦は装甲の有無がモノを言う。
【LONGPATから各車、散開し撃破せよ】
本部から言われるまでもない指示が飛びこんできた。
橋上に載せるわけにはいかない以上、このドラゴンの末路は悲惨なものだった。
DONG!! DONG!! DONG!! DONG!!
機関砲弾が横殴りになって火竜を貫通。
ほぼすべてが通常弾あるいは徹甲弾である以上、人食いの化け物は一瞬にして消え去った。
脅威は無くなった今、機甲部隊は着々と橋を渡るために動きはじめたその時。
CV90の車長と操縦手に見慣れない光景が現れた。
「———なんだこれ」
操縦手が呟く。
今まで見たことのない光のスポットライトで、車体が照らされているではないか。
コンマ数秒、走馬灯のように車長の脳裏にあることがよぎる。
屋内制圧Gチームとタッグを組んでいる、5式軽戦車乗りと話した記憶。
『怪しい光で照らされたら、敵にロックオンされている。光が細くなる前に全力で逃げろ』
現状、それと寸分狂わぬ状態に置かれているのだ!
「全力で前進、それからドリフトだ!」
声を張り上げ操縦手に指示を出す。
何といってもCV90は軽戦車、立ち上がりが速い。
だが無情にも光が収束していき、どんどんと細くなっていく。
例えそれが秒単位の事であっても、非常スイッチの入った彼にはスロー映像のように見えてしまうのだ。
VoooOOOOMMMM!!!!!
激しいエンジン排気と共に車体は急加速、さらには曲がり角もないのにレース顔負けのドリフトをして見せたではないか。
【こちらJ-BOX 07被弾。】
何も選ばれたのは54号車だけではなかったらしく、一部の車両はモロに受けてしまったようだ。
コールサインJ-BOX。つまるところ分厚い装甲のT-72で良かったが、歩兵戦闘車に直撃すれば命はない。
DDDDDDD!!!!!
直後、軽戦車のあった位置に凄まじい勢いで隕石の雨が降り注ぐ。
これこそ遠距離攻撃魔導 ギドゥールの神髄。
咄嗟に指示を出していなければCV90は鉄屑と化していたに違いない。
邪魔者があまりにも多すぎる。
付近にいるAMOS-VTTに援護をするように無線を飛ばした。
【こちらMonaco054からSTAG077。敵の攻撃が邪魔だ、援護してくれ】
【STAG077了解】
—――――――――――
□
——中庭昇降機
文字通り瞬殺された火竜。
敵の射線に居たのが悪いが、そもそも死線に入らねば攻撃も出来ない。
撃っていいのは撃たれる覚悟のあるヤツだけ、とはよく言ったものである。
既に相手は竜に対する経験を積んでいるのは言うまでもないだろう。
管理兵はいつ砲弾で死ぬか分からない恐怖と戦いながら、伝声管に向かって叫び続ける。
【火竜がやられた!氷竜では歯が立たない!魔竜と『アレ』を出す準備をしてくれ!】
杖を持ったソーサラーが足止めをしているが、練度の高い軍団にとって対処は容易。
突破されるのも時間の問題か。
そう思っていると、中庭の後ろから何かが迫ってくる音がし始めたではないか。
「やっと出られる!」
「もうこんなのやってられねぇ!」
凄まじい数の動員兵だ!
ぽつぽつと正規の軍人も混じっている始末であり、呆れても言葉が出てこない。
道が開ければ誰だって窮屈で異様な城に閉じ込められたくはないのだろう。
だがこの昇降機担当の兵士はある判断を下した。
異端軍もといSoyuzは捕虜や逃亡兵を丁寧に受け入れる。
その間、敗北主義者共を盾に魔竜を出撃させる時間が稼げるのではないか、と。
体のいい盾だ。
味方を撃つのは気が引けるが、動員兵は市民というダニである。少しくらい殺しすぎても誰も文句を言わないだろう。
ファルケンシュタインとはそういう国なのだ。
【緊急発進急げ!】
Soyuzと帝国。どちらにも時間が残されていない。
—―――――――――
□
頼みの綱の火竜を細切れにし、それを履帯でさらに踏みつけてひき肉にしていく。
そうしてついに、城への機甲部隊突入が始められた。
背後からは120mm迫撃砲や戦車砲による援護が続けられ、まさに破竹の勢い。
CV90の54号車もその一両だったが、クルー全員は石畳を一枚踏んだ瞬間、ある感覚を覚える。
感情や理性、本能とは全く違う第六感が何かを捉えているのは確か。
「なんだ……ここは……」
操縦手と砲手が思わず言葉を漏らしてしまうのも無理はない。
今も砲火を猛烈に撃っているにも関わらず、地球上で見て来た何よりも美しく、そして途方もなく虚ろなのだ。
【こちらGUNCAREER 072からMonaco054一体どうなっている】
ペリスコープを覗いて目で見なくても分かる、いや分かってしまう。タッグを組むVTT323も同じらしい。
身も気もよだつ天国のような、地獄。
相反するそれがグチャグチャになった場所、揶揄のしようがない。
それが神の城だというのか。
無神論者でさえ、人間が絶対に立ち入ってはいけないと悟ってしまう。
そんな空間が広がっているのだ。
装甲車両でさえこの有様である、異様すぎるに閉じ込められたなら気が狂うに違いない。
「……質の悪い悪夢だな」
車長は深くため息をつきながら嘆く。
GRRRRR……
しかし無情にも昇降機がせり上がり、扉が開くのが世の常。
目の前に現れたのは再び竜。同じ存在ばかりを呼び出してきて芸がないものだが、砲手が反応するよりも早くブレスが浴びせられた!
「……!」
一瞬にして視界がどす黒く、時には稲妻が迸る濃霧に包まれる。
しかしクルーも無能ではない。
「右に回り込んで撃て」
KA-BooOOOMM!!!……BPHooOOM!!
辺りでは砲火が炸裂して破片が散っているというのに、この首長竜はミンチになっていないではないか。
それに何か火薬ではない爆音も混ざっている。
【こちらMonaco054視界不良につき、右旋回して回り込む】
【GUN CAREER072了解】
やるべきことはやらねばなるまい。
砲手は即時に赤外線暗視装置に切り替え、敵を補足。
するとようやく異世界の恐竜がその姿を現す。
予見していた通りと言うべきか、車長の直感は当たっていた。
関節部を守る黒いユンデル式の鎧、そして全身を鱗の代わりにレンガブロックが覆っている。さながら戦車に着ける爆発反応装甲のようだが、ところどころ剥げていた。
これを名づけるなら大方、装甲魔竜だろうか。
DAMDAMDAM!!!!
即座に40mm機関砲が火を噴く。
飛竜はこれよりも威力が弱いもので倒せた、ならば必ず殺せるはずである。
あのブレスは炎などの類ではなく、強力な魔力そのものを吐いていると聞く。
故に視界が闇に閉ざされ稲妻や隕石。
さらには火柱などが飛び交っていた。
どれも歩兵戦闘車に当たれば致命傷。
わかっていてやったなら、最高にして最悪の嫌がらせと言える。
BPHooOMMM!! BPHooOMMM!!
たしかに着弾はしたが、感触が違う。
分厚い装甲で水しぶき如くはじき返された訳でもなく、だからといって貫通したわけでもない。
爆弾に火をつけたような爆発が起きたが、見た目こそ派手なだけ。
確実に倒した、という感触がないのだ。
そんな疑惑が確信に変わる。
GaaaAAARRRRRRR!!!!!!!!!
「着弾確認。——倒していない!」
暗視装置に映る真っ白い影は動き、咆哮を上げているではないか!
CV90の主砲である40mm機関砲。
第二次大戦の軽戦車並みかそれ以上の貫徹能力を持ち、ハインドPに積んでいるマシンガンとは威力の桁が違う。
何故だ。何故殺せないのだ。
車長は焦る。次々とショートしていく頭脳からどうすれば良いのか、最善の答えを導こうと足掻く。
—―――――――――――
□
【Monaco054からGUN CAREER072。主砲が効かない。120mmでも戦車砲でもダメかもしれない】
【……了解、こちらGUN CAREER072足止めにかかる】
弱音ではなく、事実だ。
あの感覚は戦車砲でもダメだろう。
何か強力なもので砲弾などを打ち消し合っているか、弾そのものを消し飛ばしている。
撃ってみて、当てみてわかったことだ。
確証なんて、まして理屈なんてどこにもない。
なんなら当てても何も傷一つ着けることしか出来ないが、足止めはできる。
足止めして、道を作ってやる。
自分よりも装甲も武器も脆弱な相棒VTT323の車長は既に答えを出していた。
【Monaco054了解】
「道を作るぞ!未来への道を!」
車長は言い聞かせるように声を上げる。
やれることを成し、そして例え燃える屑鉄になろうとしても。
焼けた屍は進む兵士の盾に。それどころか空へ上る階段の一段になるだろう。
そのために、CV-90・VTT323装甲車・AMOS-VTTは背を向けずに戦うのだ。
何度も何度も蘇る悪夢を、倒せ。
次回Chapter290は5月4日10時からの公開となります。




