Chapter285. Invasion City(2/2)
タイトル【市街地侵攻】
遂に帝都市街地へと突入を開始したSoyuzの機甲部隊。
しかし強盗の様に侵入するわけでもなく、3両のチームで組まれた戦車隊と、後ろには歩兵が碁盤の目のように隊列を組んで徒党を組んでいる。
間隔、歩くリズム、歩幅、そして足を上げるリズムさえも一糸乱れぬ行進をしながら。
QRRRRR………ZAC……ZAC……ZAC……
緑に塗られた鉄の死神と帝国兵の命をいくつも奪った兵士が蠢く。
それが東・西・南・北、4つの方向から蝕むように侵入してきている。
異例中も異例。敵がマトモなら狙ってくれと言っているようなものだ。
普段であれば。
だからこそ、1週間にも及ぶ「陛下」による投降勧告をする必要があった。
軍事パレードの講演は、街に残る残党。それか逃げられなかった人間の燻り出しとなる。
現代兵器はファルケンシュタイン帝国の兵器よりも圧倒的に重い。
履帯が軋み、軍靴が刻む轟きは嫌でも遠くへと届いていた……
——西地区地下司令部
ゴルジ中佐率いる第14重機動中隊は連絡途絶、それどころかもう地下室には彼一人しか残されていない。
送り込んだ偵察部隊からは連絡途絶、伝令さえ来ない。
全て逃げてしまったのだろう。
各方面から逃亡兵が続出している報告が届いているのだから、はじめから分かっていたことだ。
逃げるヤツは撃つと脅しをかけてもどこまで効くことやら。
残された現有戦力は自分ひとりだけ。
GRRRRR………
振動と共に地下室の天井から埃が落ちる。
異端軍の兵器は比べ物にならないくらいに重く、敵がそれだけ迫っている証拠に他ならない。
だが何か妙だ、今までの情報を精査するに馬以上の速度が出ると言う。
あっという間に帝都を好き放題巡礼できるだろう。
それほどの速さがあるからこそ、1年足らずでここまで迫られてしまった事実がある。
背を向けたくなるほど、残酷な事実が。
にも関わらず、進軍があまりにも遅すぎる。
敵が何をしたいのか分からないにせよ、もう自分しかいないのだからやるしかない。
装甲厚50mmの兜をかぶり、ニースを担いで。
残弾と脇差代わりの手槍筒を肩に回す。盾は狙いの邪魔になるため持ち合わせない。
チャンスは装填されている3発含めて10回。
アテがあるなら逆に見せて欲しい。
恐らく鉄砲くらいなら弾ける、ガローバンよりも遙かに短い射程のランチャーでどう戦うかは出た所勝負。
しかし装甲を抜けるのか。
「よし、行くぞ」
魔具があっても歩くことしかできない、重い身体を軋ませて中佐は外へと出る。
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□
日の光を浴びると、早速索敵を始めた。
敵は見えないが風や空気で敵が近いと感じることは出来る。鼻を汚すかのような匂いがその証拠。
そのうち敵はやってくるだろう、だが仕留めるためには距離が足りない。
路地裏に隠れながら限界まで引き付け、混乱しているうちに足早に逃げて次の機会を伺うのがベストだ。
走れない位に重く分厚い装甲があれば多少の攻撃など、どうにでもなる。
奴らがやって来た。
QRAQRAQRA………
音だけが聞こえる。
まだ遠い、仕留めるにはまだ少し遠い。
QRAQRAQRAQRAQRA………BRooomm……
過度な集中。
スイッチが入り、極限状態に陥ったゴルジ中佐の耳はエンジン音も逃さない。
ここだと確信して飛び出してみると無数の悪魔がそこに軍団を成していた。
C1戦車の群れ。背後には無数の歩兵戦闘車、さらにその奥には夥しい数の歩兵たち
まるで結晶体の様に固まっている。狙えば撃てる、1両は確実に仕留めて……その手筈。
だが不幸にも残った中佐の理性と士官学校での知識が全てを分析してしまった。
全ての戦力を、好きな場所に。たった一人の戦力を欠片も残さない火力を。
何時でも蹂躙できる。
だが相手はこちらよりも遙かに長い射程を持ちながら撃ってこない。
軍事パレードなのだから。
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その一方で中佐は引き金を引こうとしない。
射程距離を過ぎ、もう目の前に来ているにも関わらず。
脇で爆音を立て音楽が流れる。
『 我は官軍我敵は 天地容れざる朝敵ぞ
敵の大將たる者は 古今無雙の英雄で 』
狙いをつける黒い砲口はこの彼の身体を石にでもしているのか、身体がピクリとも動かない。
ゴルジ。狙え、そして撃て。
チャンスは10回も残っているではないか。
『 之に從ふ兵は共に慓悍决死の士
鬼神に恥ぬ勇あるも天の許さぬ叛逆を
起しゝ者は昔より榮えし例あらざるぞ 』
これほどまでに戦う意思があるのに、身体が言う事を聞かない。
【勝てない】
人間としての本能が、何もかもが無駄だと悟ったのだ。
刻一刻と迫ってくる、緑の悪魔に恐れを為した。
Haf……Haf……
息が荒くなるゴルジ中佐。しかし敵は撃ってこず、進軍を止めない。
今全ての火力が、この自分たった一人を殺すためだけに向いている。
戦場から離れていればその感覚が狂い、恐怖から遠くなるという。
だがこうして前線に立てばSoyuzの恐怖を、その身をもって知った。
『 敵の亡ぶるそれ迄は 進めや進め諸共に
玉ちる劔拔き連れて 死ぬる覺悟で進むべし 』
いかに訓練しようとも、感情を消して装甲を身に纏おうとも所詮は人間。
遥か彼方、太古の昔に刻まれた恐怖という感情だけは削除できない。
『 皇國の風と武士の 其身を護る靈の
維新このかた廢れたる 日本刀の今更に 』
3tをも誇る鉄板が震える膝をねじ伏せ屈服させる。重量がかさんで取り回しの悪いニースが落下。
『 死ぬべき時は今なるぞ 人に後れて恥かくな
敵の亡ぶるそれ迄は 進めや進め諸共に
玉ちる劔拔き連れて 死ぬる覺悟で進むべし————— 』
そして自身はパレードを前にして崩れ落ちた。
冴島大佐の目論見は全てこれに尽きるだろう。
残る司令官は、前線から遠い位置にいるのが相場。それを燻り出して屈服させる。
最も人道的かつ、効率的な制圧だ。
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Soyuzのあまりに速い進軍スピード。次々と降伏していく兵士。
沈んでいく船のようにじっくりと、まるで水がしみ込んでいくかの如く帝都市街地は制圧されていった。
【こちらMonaco06からLONGPAT。西地区、制圧完了】
パレードを行いながら、という低速にも関わらず、反撃を一切受けなかったのはゴルジ中佐の例を見れば分かるだろうか。
【こちらJ-BOX46からLONGPATへ。南地区、制圧完了】
前線から遠のくと現実が楽観的なものに見えてくる。
けれどその現実は考えていたよりも遙かに恐ろしいと、帝国軍は知ることになった。
【こちら————】
東・西・南・北、それぞれ地区を制圧して進む劇団たち。
終点は帝都中枢を担う城へ到達し、無数の装甲兵器がぐるりと包囲してしまうに至る。
最も厄介な深淵の槍は、テーヴァ少将と陛下直々の命令によって待機命令が下されており、邪魔をするなら逆賊とされると放送が流れていた。
軍を動かす牙城の周りには緑がひしめく。
これらは木々といった自然ではなく、武力で政治を転覆しようと画策する殺戮兵器たちだ。
一見して何もかも終わりかに思えたが、正念場にようやくたどり着いたに等しい。
神の力を行使するコンクールスをどう退治するか、である。
かくして調査と念入りな擦り合わせが行われるのであった……。
次回Chapter286は4月20日10時からの公開となります。




