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Chapter279. Operation: Drawing out

タイトル:【ドローアウト作戦】

動き始めた最後の戦い 帝都攻略戦。

幕が切られることも、ましてや決戦を告げるゴングなどが響く訳もなくファルケンシュタインの命運を分ける戦いはいきなり始められた。




——帝都西地区




————sssSSSWWWWWWW!!!!!



「敵騎接近!」


ファンタジー世界そのものを象徴する石造りの街を、MiG29が凄まじい勢いで駆け抜け

低空故に空気を切り裂く轟音が響き渡る。


塔に据え付けられた空襲警報の鐘と共に兵士たちが叫んだがもう既に遅い。



「クソッ!クソッ!」



屋根上シューターの兵員が嘆く。


そう、あまりにも速すぎるのだ。

照準で追いかけようとしても、速度差や手動で狙いをつけるには限界がある。



いくらハンドルを精一杯回したところで、あっという間に振り切られ一回転してしまう始末。


竜騎兵の何倍という速度を出せる戦闘機にとって、攻城兵器に毛が生えた地対空兵器など敵ではないのだ。



———Bophom!!



東地区から待ち構えていたシューターからは発射出来たようだが、戦闘機は目を疑うような鋭い切り返しで空へと昇っていく。


しかし瞬く間に魔力が尽きて、クインクレインから放たれた大槍はあらぬ方向へと飛んでいった。



その直後である。

空から何かが降って来たではないか。爆弾でも機銃弾でも、白い姿は季節外れの雪でもなかった。



しんしんと降る謎の物体。

その渦中にいたタンタル軍曹は馬を降り、盾を構えながら落下物に近づく。



「んだァコレはぁ……」



一見して魔具や爆弾のような仕掛け物には見えない。

紙にしては不気味なほど白すぎるが、ただ丸まっているのを止めているだけだ。


何かしらのブービートラップかと疑いつつも封を切り、巻いてある紙を広げる。



「…何ィ…?」



「どうしたタンタル。招待状か?」



しかし軍曹の様子がおかしい。額に青筋を浮かべ、手はよく見えれば震えていた。



「クソッ!あの野郎ども、俺達を舐め腐りやがって!」



一体どのような内容だったのか。







————————————————











「今からでも遅くないから原隊へ帰れ

抵抗する者は全部逆賊であるから射殺する

お前達の父母兄弟は国賊となるので皆泣いておるぞ

    ソフィア・ワ―レンサット」



内容文はたったこれだけだった。

だがこの文字列がタンタル軍曹を本気で怒らせるには余りにも十分。



国家のため軍隊に身を置いて、新時代に反抗する反政府勢力を狩り尽くしたのに。

これほどまでに国に尽くしておいて今度は逆賊呼ばわりとは何事か。



更には署名にはソフィア・ワ―レンサットの名前がある。

国家を上げて血眼になって探していた最後の「旧世代の残党」



それが逃げ切った上に今までと何もかも違う、異端の軍隊を引き連れて侵略を良しとしているのだ。

逆賊、それ即ち自分達を殺すがために。なにもここまでされる謂れなど一切ない。



あまりに頭に血が上り過ぎて訳が分からなくなってくる始末だ。



「なんだよお前、見せてくれたっていいじゃねぇか」



同僚が声をかけるが、今のタンタルにとっては火に油。



「この野郎、読みたきゃ読めよ!」



感情が赴くまま、鼻をかみ終わったチリ紙のように丸めて投げつけてしまった。



「何もそんな当たり散らすこたぁねぇじゃねぇかオイ。あーあーあー。アホみてぇに高い紙をぐっしゃぐしゃにしやがって。読めるかなコレ、ばあさんみてぇに皺が付いて……」



しかし軍曹の心が揺れ動いていたのもまた事実。やり場のない感情がぐるぐると渦巻く。


今までしてきたこととは何だったのか。たかが旧世代の残党が言っていることではないか、気にすることはない。



時には同士討ちだってやり遂げて見せたのに。

自分達だけ何故こんな目に合わなければならないのか。



動揺が不安を呼び、それは少しずつ形になっていく。

戦うプロの軍人故に自分の所業を。達成した武勲を根底から翻されることには想像以上に弱い。



「武器は俺たちに優先されない、動員兵士のお守はしなくちゃいけない……どうしたってこんな目に合わなきゃいけねぇんだ」



軍曹がこっそりと吐き捨てる。

人間とは自分の意義について気にしないだけで、問われれば気になってしまう生き物である。



その傍ら、遙か上空の彼方。

超高高度と呼ばれる聖域ではTu-95の群れが帰路についていた。



【こちらMachida023 第一段階完了。これより帰投する】



【J-HQ了解】



先ほどの戦闘機が囮。



かくして地対空兵器に悟られることなく第一段階であるビラの散布は完了。戦略爆撃機は任務を終え、一旦ジャルニエ大型滑走路へと帰投することに。



最初の揺さぶりは上々。Soyuzの次なる手とは。

















————————————————


















何時どこから攻めてくるか分からない非常事態であるため、交代しながら日夜警邏を忘れない。



それは降伏文書が散布された日、そのまた翌日もビラが雪のように降り続いた。

積もりに積もった洋紙はまるで雪の様。



夜明けと同時に出撃する偵察のドラゴンナイトも珍しくなくなった風景の一つだが、何かがおかしい。



「なんでぇアイツら、すぐ引き返してきたぞ」



夜中も警備にあたっていた同僚が空を見上げ、ふとそんなことを呟く。

一撃離脱ではない航空偵察兵が出てきて即座に帰る、そんなことはありえない。



周囲を見渡すと、呑気に寝ていた動員兵が伸びなんてしているが、タンタルを含めグレートナイトらは皆身構える。



「って、ほんのついさっき出たばかりだろ。そろそろ頭数揃えてきやがったか……」



それは盾とソルジャーキラー、さらには反応装甲まみれの軍曹も変わりない。

しばらくして伝令兵が叫びながらやって来る。



「敵がすぐそこまで来て、包囲されそうだ!戦闘態勢急げ!」



夜の間は視界が利かないのをいいことに、敵は相当な大群で帝都を囲んでいるという。



さぞかし装備を揃えていた黒騎士が警邏していたというのに、配置を間違えたせいでこの様である。

司令部がとてもではないが落ち着いているとは思えない。



それとも向こうの進軍速度が異様に速すぎるのか。恐らく両方が折り重なった結果だろうか。



しかしここからが問題。



包囲されつつあるということは、ジャルニエに配属した大部隊を消し去った長距離兵器群の射程に入っているだろう。

更には強力な装甲兵器類が突入してくることも確実。



どれだけ最新装備を固めたとしても、異端軍の装甲兵器には槍の錆びにされてしまうこと間違いなし。



指令のゴルジ中佐が出す指示だってどこまで信用できるか怪しいものだ。

差し迫った刹那、バディを組んでいる同僚は軍曹にあることを漏らす。



「タンタル、俺は当たるかどうかわからんダールとヴェランダルしか持ってない。敵にあったら素人共の総攻撃に目が眩んでるうちに俺が囮に出る。んで、お前がソレでやれそうなのをやっちまえ」



もう何時戦いが始まってもおかしくない。生き残るためには無理だと承知していても殺るしかないのだ。



「やれることはやってやるさ」



タンタルは悟られないよう返すが、本音は全く持って違う。



いくら火力を寄せ集めて総攻撃したところで、向こうが比較にならない程の一発で何もかもやられる。



更にはこちらがバディを組むということも敵も承知している筈。

囮が近づく前にすぐにやられ、次に死ぬのは自分だろう。



緊張は続く。














————————————————












いつ始まってもおかしくない戦闘。場の空気はピアノ線のように張り詰めている。

竜騎兵がひっきりなしに飛び回っては帰還を繰り返していた。



しかし何時まで経っても爆破や戦火の一つどころか、伝令がやってこないではないか。

命令があったのはほぼ夜明けだが、いつの間にか昼になってしまっている。



近くにいるのは何も知らない素人ばかりで戦闘配置命令が出ているため自由に動くことができない。



かれこれ5時間以上この状態が続いており、タンタルもいらだちが隠せない。

そんな中でどこかへ走る伝令を見つけたのか思い切り怒鳴りつける。



「どうなってやがる、おい、本当にどうなってるんだ!」



「それが、何もしてこないんです、ぐるっと回っているのに」



「何も!?」



軍曹は思わず食って掛かってしまった。

総攻撃が始まるかと思ったら、敵はただ「その場所にいるだけ」なのだという。



攻撃する意思などはないのだろうか。


だが、ナンノリオンでの戦いでは大勢の死人が出ているあたり和平の使者のような性分ではないのは分かっている。

異端軍お得意の飛び道具が飛んでこないとなると不気味極まりない。



そんな昼時の出来事だった。




【勅命が発せられたのである】



虚空から女神と見まがうような声で突如呼びかけられた、お告げか。

否!


遠距離から凄まじい大音量で何者かが話しているのだ!











————————————————











——帝都門前4km前



Soyuzの動きはどうかというと、夜間に作戦に参加する機甲戦力を集結させ入り口まで肉薄。

そこで作戦の指揮を執る冴島大佐は、何があったとしても帝都に足を踏み入れるなと通達していた。



帝都攻略戦において重要なことは2つある。

最初に投下されている兵士の戦意を削ぐ。


2つ目は強制的に帝国軍に協力させられている住民を味方につけること。


戦場を動かすのは多くの兵士であり、その牙城を1週間かけて崩していくが肝だ。



そんな特殊な事情もあってか、BMP-Tら歩兵戦闘車や戦車に混じって兵員輸送車に恐ろしく巨大なスピーカーを着けた車両もちらほらと見える。



【繰り返す、勅命が発せられたのである!】



車両群から凄まじい音量でソフィアの声が響いてきた。

爆音の正体は巨大なスピーカーを着けた装甲車ことZS-82心理戦闘車。



最大出力で流せば6km先、選挙街宣車どころか新幹線の警笛を遙かに凌駕する超音量でスピーチすることができる。



今流れている音声は神の代行者ソフィア・ワ―レンサットの肉声を中継し、帝都の隅々へと発信しているのだ。



【お前達は上官の命令を正しいものと信じて絶対服従をして、帝国の未来のため誠心誠意活動して來たのであろうが、間違っていたのである】



【我がソフィア・ワ―レンサットの名において投降せよと命ず。この上、お前たちがあくまでも抵抗したとならば、神に背くこととなり天下の逆賊とならなければならない】



殿下は神としての座を継ぐ者として、一人の皇族として。そして未来を望んだ者として続ける。




【正しいことをしていると信じていたというのに、それが間違っていたと知ったとならば、いたずらに反抗的態度を取って背き、逆賊としての汚名を永久に受けるようなことがあってはならない】



【今宵、諸君らの背負った原罪は我 ソフィア・ワ―レンサットが誠意をもって報いることを誓う。よって、どのような者であろうと上官などに対し、早まることをしてはならない】




【今から決して遅くはないから、戦闘に参加しているすべての人民に告ぐ。直ちに抵抗を止めて投降せよ。——繰り返す……】




苦心の末考えた演説を、抑揚もなく。

誰もが聞き取ることができるはっきりとした、迷いのない声で淡々と告げた。



なんと、これが1週間も続くのだ。



戦いとは常に根競べ。


それも始まったばかりに過ぎない……

次回Chapter280は3月9日10時からの公開となります。


登場兵器

・ZS-82

武装を撤去したBRDM-2偵察車に冗談か何かと思うような巨大なスピーカーとテープレコーダーを搭載したダイナミック心理戦車両。

テープレコーダーを再生する方式のため軍の流したい曲を「広範囲」に「大音量」で「休みなく」垂れ流すことが可能。

騒音に何かとセンシティブな昨今。聞きたくもない音を四六時中垂れ流すコイツを前に、あなたは正気でいられるだろうか?

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