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Chapter278. Into the Enemy's Core

タイトル【敵の中核】

いよいよ差し迫った帝都攻略作戦。

様々な県を制圧し、足場を揃えたのも全てはこのためだ。



ジャルニエ・シルベー・ゾルターン・ペノン・ナンノリオン。

帝国を支える梯子をいくつも外されているにも関わらず、偵察結果によれば相当な兵力を集結させているという。




首都というのは国にとっての威信だ。

どんな国でも中核まで攻められて抵抗しない。そんな選択肢は無いものとして良い。

なめてかかれば撃退されかねない状況であるが、逆に分かり切っている。




日本には「終わり良ければ総て良し」という言葉がある通り、むしろ締めこそ力を入れなれば意味がない。



つまるところ。

どれだけ敵が弱体化していようと、その場の最適解を突きつけ、徹底的に潰すだけである。



その()()()()()()()()()というものは少し複雑だ。



一度帝都全域にソフィア・ワ―レンサットの勅命を流し、頭数を揃えた動員兵や深淵の槍、正規軍の士気を一気に失墜させる。



それも都市を包囲し、一週間ほど昼も夜も垂れ流して。



大混乱、あるいはガタガタになった中を主力戦車や中戦車群を突入させ、恐怖という感情をトコトン揺さぶるのだ。



動員された未熟な兵士にはガラガラと転輪を揺らし、キャタピラを喰い込ませて進む「異形」

による未知の恐怖を。




正規兵や深淵の槍には、絶望的な装甲と火力。数々の同胞を無残に殺してきた殺戮兵器。

知っているからこその恐怖を味合わせるため。



それでも立ち向かってくる本物の兵士がいるならば、小回りが利く歩兵戦闘車群で一掃する手筈である。

ここで戦車を入れず絨毯爆撃しないのか、と問う人間は5流。




過去にあった大戦でも同様、ロンドンや東京などの首都は凄まじい空襲に遭っているが、いずれにせよ決定打にかける。

それどころか耐久戦をする意思を固められ、戦意をへし折る帝都攻略戦には逆効果だ。




しかし冴島は爆撃や砲撃手段は否定しない。

モノは使いよう。正しい場所で使ってこそ、手段や方法は進化を発揮する。

だが本作戦で使わないのは、意味がないからに他ならない。



手段が揃った今、Soyuzは全力を挙げて動き始めた。

















——————————————










——帝都西地区




異界からの敵がついにこの首都までやってきたこの状況。

ファルケンシュタイン上層部は街そのものを強力な要塞に変えざるを得なかった。




規則正しく色とりどりの石材が並んだ、世界の一大観光地となるような華美な帝都は兵器や軍馬。

それに多数の兵士が行きかっているのも珍しくない。



慣れは異常事態さえも、それをおかしいと認識しなくなるものである。

駐屯地と化した街角で、第14重機動中隊にもなにやら動きがあった。




早速、一人のグレートナイトであるタンタル軍曹が辺りを見回しながら同僚に問う。



「見慣れない武器をぶら下げた歩兵がうろついてる、どこかの隊と合流したのか?」



「知らないのか、第992歩兵部隊の連中だ」



「……992歩兵……部隊?どういうことだ」




聞いた当人がさらに疑問を抱くのも無理はない。



そもそも重機動中隊の主力は馬に乗った重装甲のいわゆる騎士たちが主軸。

歩兵がいるにはいるが、あくまでシューターの要員などに限られてくる。



そもそも機動力を重視した馬とソルジャーやアーチャー、魔導士ではお互いの良さをつぶし合うだろう。

そんなバカな真似を隊長がするわけがない。



加えてこの「992歩兵部隊」とあるが、名前に規模が入っていないではないか。マトモな軍隊であれば小・中・大、または師団やら軍団がついている。



名前を聞けば何人の兵士が固められているのが分かるのだが、そんなのは当たり前だ。

逆にそうしないとおかしい程に。



まだまだ奇妙な点がある。

だいたい、いくら何でも900の大台に達するまでいるわけがない!



ここまでおかしな点が目白押しだと、とてもではないがマトモな部隊ではないだろう。



「動員兵を寄せ集めた連中だ」



怪しい集団の正体は動員された人間、つまり民間人から徴兵された兵士の集まりだという。

タンタル軍曹の顔がどんどん険しくなっていく。



「そういうことか、真面目に考えすぎてたらしい。弾避けにしかならねぇ寄せ集めを送り込みやがって……」



帝国の軍人は多かれ少なかれ訓練を積み、修羅を潜り抜けて来た曲りなりにもプロ。

性格や兵職の相性や練度の違いはあるが、基本のイロハが分かっているだけあって分かりやすいものだ。



相手は尋常ではない装甲持ちだらけで、腕利きでもゴミのように死んでいく戦場である。

その辺にいる素人に武器を持たせただけの集団が役に立つとは思えない。



強いて言えば攻撃を避けるための肉盾くらいか。




「そういうなよ。援護してくれる肉盾よ肉盾。あいつらが持ってるクロスボウが新たに誂えたモンなんだってさ。俺達に回って来てないあたり、持ってる奴は動員されたヤツと見て良い」




流石に上層部も剣や槍を持たせて戦車と戦えとまではいかないらしい。




「だよな、どうりで見覚えがないわけだ。……これで俺らに反応装甲も回してくれてなかったらぶっ殺してた。それか銀の銃でもこっちに寄越してくれよクソが……みんな気味悪い黒パラディン共が持っていきやがって」



しかしタンタル軍曹の分厚い不機嫌の雲は早々に晴れる様子はなかった。


異端軍を殺せる非常に強力な銀の銃。


極めて有効な武器を、どこの馬の骨とも知れないような連中に流しているのであれば、正規軍である自分たちに回してほしいと思うのも無理はない。



「軍曹、それはそう思う。あんな仮面なんて被ってスカした部隊よか、実戦部隊に回した方がいいにきまってらぁね」



そんな愚痴を言い合っていると、この重機動部隊にはふさわしくない騎兵がやって来た。

タンタルが思わず声を上げる。



「おい、どこの所属で誰の命令でここに来てる!死にたいのか!」




装甲がなければ無慈悲に蹴散らされるのがSoyuzとの戦い。

よほどの精鋭でない限り、軽装備は防具としての意味を成さないのは共有されている。



軽装備で機関銃のついた兵器に挑むということは文字通りの「自殺」なのだ。



それにも関わらず軽装で、見慣れないボウガンを携行しているではないか。

同僚から妙な武器を持っているのはほぼ動員された兵士とのこと。



立ち回りに気を使う騎兵に素人が混じれば、隊の連携を崩しかねない。


するとおどおどした様子で兵が答える。



「992歩兵なんちゃらってとこに配属されたんでさ。なんでも重———」



初めて動員された兵士を目の当たりにして、軍曹は全てを察した。

指示がちゃんと伝わっていないところは勿論のこと、眼差しも軍人のソレではない。



武器の使い方を教えてもらっただけの、本当の素人だと。



「もういい、勝手にしゃべるな、帰れ。ちょっと隊長の所に行ってくる」



しびれを切らしたタンタルはこう吐き捨てて、後方へと向かって行った。












—————————————————













——司令部





帝都に網の様に張り巡らされた各司令部。

第14重機動部隊を指揮するのはなんと民家の地下室だという。



ずらりとならぶ石造りの建物は敵の砲火などに強く、強固な構造物の更に下にあるとなると早々破壊されないだろうと学習した結果である。



「失礼します」



タンタルは衛兵に自分が帝国軍所属の軍曹であると証明し、内部へと足を運ぶ。

その最奥では司令官である一人のジェネラル ゴルジ中佐がヘルムを脱いで事務作業をしていた。



「軍曹何か用か。いや用がなければ来まい」



中佐は気だるく問う。目の下にはうっすらではクマが出来ており、特権階級である佐官である様子は見えない。



「動員兵についてです。我が重機動部隊は我ら重装甲騎士の機動連携によって成り立っている部隊なのをお忘れでしょうか。後方援護のために歩兵を持ってくるのは良いですが、あまつさえ素人の騎兵まで配置してくるとは一体何事でありましょうか。」



軍曹が兵士について口を開いた瞬間、ゴルジは()()()と言わんばかりに目線を逸らした。



不誠実な態度を目の当たりにしたタンタルは火に油を注いだかのように続ける。



「連携を崩すような兵士を投下し、勝てる戦いも負けてしまうような仕打ち。さらに武器の配置に関しても我々や怪しげな黒パラディンに新式を配る傍ら、我々は銀の銃1つも与えられないとは正気を疑います」



嵐が去っていくのを待つかのように中佐は目を閉じており、軍曹の言い分が過ぎ去るや否や鋭く一言を突き刺す。



「軍曹。キミは私に説教が出来るまで階級をあげたというのか?同じようなことを手を変え品を変え言ってくる人間はキミで丁度20人だ」



同じような文句は配置されているソーサラーやアーマーナイトはもちろんの事、シューター要員であるソルジャーですら言ってくる始末。



軍曹もそうだろうが、こちらもこちらとて辟易しているのだ。


しかし不平不満は野放しにしていられないのか、目を細めながら説明を始める。



「……動員兵士は一貫してガルシュ式魔導クロスボウを携行させている。練度を必要とせずとも魔導士と同等の火力を生み出せる兵器だ。着弾した瞬間に作動する。

射程が魔導士と比べ劣るが、市街戦においてはさほど問題にならん」



「騎兵に関しても同様だ。馬が扱える人間を動員し、ガルシュを持たせている。機動力を持たせた移動砲台である」



クロスボウの性質は弓よりも銃に近い。



引き金を引けば放てることは変わりないし、一発ごとに弓を引いて所定の場所に引っ掛けて再装填するだけで次弾に移れる。



アーチャーの弓と比べて威力や射程はかなり劣るが、着弾した時点で何等かの魔法発動することで低火力を補っているらしい。


対装甲の話が出てこなかった辺り信用は出来たものではないのだが。



「しかし……!」



そのことも含めタンタルはゴルジ中佐に粘ろうとするが、ここは議会でもなんでもない軍隊であり、最前線。

どれだけ口が上手かろうが無いものはでてこないし、起こってしまったことは止められない。



「既にこれは決定事項だ。これでわかっただろう、配置に戻れ」



中佐の冷酷なひとことで成す術は失われる。

おそらく彼も彼で、さらなる上層部からそう決められており満足に動けないのだろう。



タンタル軍曹はどう足掻こうが好転しようもない状況に嫌気が刺すのは言うまでもない。



なるべく嫌なことを思い出さないように、受け入れるためにも元の配置に戻っていくのだった……


次回Chapter279は3月2日10時からの公開となります。


・登場兵器


グレートナイト

騎士と馬本体に身体能力増強用魔具やブーツを装備し、25mmの装甲を纏ったナイト。

市街地においては無類の機動性を持ち、なおかつライフルが効かず、重機関銃でなければ倒せない。

馬の上に乗っている人間の装備は多種多様で、戦車の弱点に当たれば一発撃破も夢ではない「銀の銃」や手軽な槍投射器ダールを装備した彼らは脅威。



ガルシュ式魔導クロスボウ

動員兵が持たされていたボウガン。

魔法が込められた矢を発射することが可能。兵士に与えられているのは迫撃砲並みの威力の「ヴァドム矢」

射程は短く、アーマーナイトに遮られてしまう弱点はあるが、魔導も使えない役立たずの素人に持たせるのならばコレ。

現実世界においてはグレネードランチャーに近い。

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