表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
304/327

Chapter277. Unexpected pit stop

タイトル【予想外のピットイン】

唐突だが、銃弾が効かず爆風を受けてもビクともしない装甲車両たちは決して無敵ではない。


当然のことながら、許容量を超えた物理的エネルギーを前にすれば破壊されてしまう。

子供が繊細な玩具を振り回せば壊れてしまうのと同じ。


ただそれが冗談のようなカネがかかっているか、そうではないかの違いだろうか。



多数車両の損失、それが導く結果は部隊の再編成。

何が投下戦力として使えるのかを最初から考えねばならないという事である。








——ペノン県ヴェノマス

タランティーノ港



所変わってここはペノン県ヴェノマス。


曰くイタリアのベネツィアを模して造られたという、海と繋がる水路が血管の様に張り巡らされた都市は今やSoyuzの軍門に下ったのは周知の通り。



帝国第二の主要地ナンノリオン。そして隣接する帝都に近いだけではなく、海に面した立地ということもあり北極近海に繋がる第二ポータルからの物資輸送の一大ターミナルとなっていた。



此処へ運び込まれるのは主に装甲車両たち。

異邦人が作り上げた理想郷は、今や市街を駆けずり回った鉄騎兵たちの母港。なんとも数奇な運命だろうか。



美しい海岸線に、真似たとはいえ整備された水路とレンガ造りという歴史の一ページから切り取った風景を上書きするかのように居座る船が一隻。



Soyuz所属の輸送艦ペタ・マックス。

全長200m 排水量1万トンクラスの大型船である。ここまでは戦艦などと肩を並べるが、その幅はまるでクジラだ。



しかしあまりにも大きい建造物に慣れてきた我々は、口々にフェリーのようだと口を揃えてそう言う。



——ペタ・マックス船内



船の内部に一足入れば、そこは巨大なホールが広がっていた。

キャンバスのように広がる空白を全て埋め尽くすオリーブドラブや銀色のトラックの群れ。

中には弾薬・飯・建設資材がぎっちり積まれているのは言うまでもない。



そんな次々とトラックが出撃していく最中、一人の格の良さそうな男と担当者が書類を見ながら話し合っている。



「貨物トラック出ました、それとCV90 C 8両、確かに搬入しましたので」



黄色ヘルメットにライトセーバーのような誘導灯で固めた担当者と相反する中佐の階級章。



「確認した。悪いな、急に車両を寄越せと注文つけて。部下が弾道ミサイルを振り回して破壊されたなんて言ってきたらしばき倒してたぞ。なにをやってんだアイツらは……馬鹿な理由で車両壊しやがって…発注するの俺なんだから……」



彼こそがSoyuz勝利の立役者 堂島中佐だ。

トンデモ兵器をホイホイ持ち込めるのは堂島がすかさず発注するからで、着いた肩書は()()()()



しかし今回ばかりは言い訳としか思えない理由で、注文したとあって機嫌が悪い。

通販番組とは訳が違うのだ。


スタッフも不満があるようで少しばかり嫌味を返しながら、淡々と告げる。



「でもその発注を受けて運ぶのは我々なんですよね、あと積み荷はBMP-Tがかなりあって、中戦車がちらほらあるみたいです。相当な念の入れようですね」



積み荷があまりに物騒かつ、猛烈にきな臭いため見つかれば目的を聞かれるのは必須。

とてもではないが異次元に行きますなどと口が裂けても言えない。



そんな地球規模の機密を掻い潜ってくるわけなのだから、現実世界から異世界までの航海は気が休まらないのも納得だ。



「なんでもそろそろ敵の首都を攻め落とすらしい。市街戦になるかもしれないから戦車は脇役、主役は歩兵戦闘車なんだと。どうなってんのかよくは知らんが」



「海の運び屋ですからね我々。中戦車に関しては稼働車の補填もあるみたいです」



いよいよ迫る帝都攻略戦。

地球上の誰にも口にできない秘密を抱えて運んできた、恐ろしく物騒な武装類は全てこのためにある。



運び出された武装は補給部隊の手に渡っていく……













————————————











港から陸揚げされた物資類は重いモノと軽いものに分けられる。



重量も役割も馬鹿にならない車両や戦車砲弾といった重貨物は先に船から運び出され、橋を架けてもらい陸地に繋がる郊外へ。



小銃用の弾薬と言った比較的軽量なものは水運を使う小舟に積み替えられ、一旦は張り巡らされた運河を流れペノンの陸地に向かう。



あえて2回に分けて分離しているのは、渋滞を起こさないための堂島中佐の気遣い。

塵積って山となるという言葉があるように些細な配慮でも決して馬鹿に出来ないものだ。



悪戯に燃費を喰う車両類は電車乗り換えのように更にトレーラーへと積み替えられながら軽い荷物と合流。


そのまま前線である帝都とナンノリオンの境、ゲニフィチニブ要塞へと向かう。







——ゲニフィチニブ要塞



船からトレーラーと乗り継ぐ長旅を終えた装甲車両たちはここで下ろされる。


ここも焼け跡が多く目立つものの、やはりSoyuzによって破壊・整地され盆地のスケールモデルのよう。



だが顔ぶれはいつもの火力と装甲を備えた主力戦車たちではなく、新顔のCV90やBMD-4等の添え物が目立つ。


更にはVTT323や、それに120mm連装迫撃砲塔ユニット を装着したAMOS VTTなどの奇妙な物体さえ散見される始末。



どこか怪獣映画に出てきそうな古めかしい車体とSF作品のような砲塔はとてつもなく嫌な予感がするが、貴重な戦力なのは言うまでもない。


アンバランスすぎて嫌な予感しかしないが。


いつもはRPGやミサイルに爆散させられているような彼らだが、今度攻め込むのは帝都。多くの人間が住み、国を動かす中心だ。



それ即ち、そこで起きる戦闘は小回りと瞬間的火力を求められる「市街戦」が予想されるだろう。




だが敵の喉元まで追い詰めているだけあって、彼らの目には無数の装甲車群は悪夢以外の何物でもない。圧力をかけるための存在なのである。



また無駄な死人を増やさないために主体砲が指で数えられる程度で、冴島大佐は都市を砲で焼く意図はないらしい。

去る者は追わず、危害を加えてくる者は撃つスタンスと言えよう。



このような事情のため、歩兵戦闘車らが補給を受けるとなれば必ず見られる光景がちらほらと散見され始めた。



「最近の空挺車はダメだな、なんでこうまぁ機関砲をつけるかねぇ」



身体に弾帯ベルトをランボー。はたまたそれ以上に巻き付けた補給部隊の兵士たちである。

補給する対象が多すぎる時は車種を絞って、できるだけ弾を持ってから補填に回るのが彼らの流儀だ。


1発そのものが重たくなる砲弾ではそうはいかなくなるのだが。



手間が短く済む分、やはり体力がどんどんと削られていくことを無視して車両へたどり着くと、周りで給油しているスタッフを尻目に砲塔をよじ登る。



「弾だ、砲弾のほうは待ってくれ」



「よぉし」



来たことを知らせるや否や機関砲用の弾薬ベルトを紐解き、端を車長用ハッチにそうめんのように流していく。

いつの時代もそうだが、武装を内蔵している車両は補給も骨が折れるものだ。



「あとコイツが機銃の54Rだな、確認忘れんなよ」



続いて小ぶりで、間違いなくアクション映画の俳優が巻いている弾帯を内部にいるスタッフに釘を刺しつつ流し込む。



同じ7.62mm寸法でも長さが西側系の51mm、東系の39mm。

更には54Rという非常に紛らわしい規格が使われている。


わずかに大きさが違う他に形も異なり、使える銃と弾が一致しなければ当然撃てない。

なまじ数百発単位で運んでくるため、間違えれば洒落にならないのは明白だ。



「ヨシ。この感じ54Rだな、弾薬箱(アモカン)の記載と違いねぇ。あとは砲弾だけだ」



「わかってる、砲弾はバーッとやる予定だから後回しになる。文句つけんなよ、そういうやり方なんだから」



各所、休日のショッピングモールよろしく兵士でごった返す。











————————————














補給が着々と行われている一方で、いよいよ差し迫った最後の戦い 帝都攻略戦についてのブリーフィングが行われていた。

車両たちを操る戦車兵は勿論、制圧のために不可欠な機械化歩兵部隊が一同集う。



鶴の一声は何時もの男 冴島大佐から。



「敵首都攻略戦についてだが、本作戦は前提として大規模な戦闘をしない」



敵国にとって首都とは正に国家の要というのは言うまでもない。そこを守るために相手は決死の覚悟で抵抗してくるはず。

それにもかかわらず戦わない腹積もりでいろというのはどういう事なのだろうか。



勿論、策の一つくらいある。



「作戦直前に首都全域に投降を呼びかけ、陸は車両から、空は音声と共に航空機からビラと共に呼びかけてから制圧する」



「調査によれば敵首都は広大かつ5つのブロックが存在しており、投降を促しつつ戦意を削ぎ、少しずつ切り取りながら無力化する流れだ」



「本拠地である牙城については無血開城する段取りではあるが、投降を聞き入れられなかった場合は再検討を行う」



大義がなければ、まして戦う意思がなければSoyuzに対して立ち向かえない。



なんにせよ命とのやりとりも、部屋の掃除だって結局は人の意思がなければ成しえない事である。

それさえへし折ってしまえばこちらのもの、あとは広大な陣取りゲームと化す。




「しかし投降呼びかけは薬にも毒にもなりえる。それに敵を追い詰めている以上、何をしでかしてくるか予想できない。

投降するフリをして自爆してくる可能性も十二分に考えられるが、それを理由に白旗を上げてくる者に攻撃するなど言語道断」




逆も然り、人の意思というのは強力なもの。

中途半端に戦意を粉砕できず、逆にたきつけている今、本当に何をしてくるかのビジョンが全く見えない。


故に、極限環境である戦場では何が起こるか一切分からないのである。




「我々は蛮族でもない、規範を持った()()()()である。そのことを肝に銘じ、作戦を遂行せよ」



だからと言って悪逆の限りを尽くしてよい理由に歯ならないだろう。

傭兵なのだから、この次元には一切関係ないのだからという身勝手な言い訳は通用しない。

Soyuzとはそういった秩序ある組織だ。



「投降を促す声明の準備が出来次第、帝都制圧作戦を実行する」



このファルケンシュタインという地で何度も戦ってきたが、最終局面に来て敵の動きが全く読めないでいる。



短いながらも、異次元で培ってきた経験が役に立たないかもしれない。

初めて来た頃と同じで、すべてが振り出しに戻ったと言えよう。


終わり良ければ総て良し、終わりこそ良くなければ何もならない。

だからこそ冴島大佐はより一層気合を締めつつ、首都制圧作戦へと取り掛かるのだった…



次回Chapter278は2月24日10時からの公開となります。


・登場兵器


AMOS 120mm連装迫撃砲システム

120mm砲弾という戦車砲にも匹敵する大火力を発射できる。迫撃砲とあるが、真っすぐにも急角度にも発射可能。見た目が戦艦の連装砲に似ており、どことなくSFっぽい。

……なんと砲塔1個で旋回・射撃管制・半自動装填機構などなどを全て内蔵しており、砲塔を搭載できる車体さえあれば取り付けられる。車体が無くても船でも搭載例あり。


本当に車体さえあれば戦車だろうが装甲車だろうが関係ない。


323式装甲車(VTT)

北朝鮮の装甲車。中国の63式装甲兵員輸送車をベースに車体を延長し、武装を砲塔を搭載することで大幅強化。ロケット砲なども搭載しており、ただの雑魚と甘く見るなかれ。

割と車体が大きい。


AMOS VTT

割と大きな車体に、使い勝手の良い大火力砲をポン付けしてしまった。「できてしまった」

砲塔バスケットを拡張、乗員スペースを潰して無理やり搭載。もともとAMOSがそうできているのだから仕方がない。

明らかに嫌な予感がする・見ているだけで不安になる・アスペクト比を間違えた画像と言われようは酷いが使い勝手は非常に良い。

死角がなく、好き放題に乱射でき狙いも正確で扱いやすい、とのこと。

弱点は砲撃した後に車体がやたら揺れることくらい。


CV9040-C型

正式名称がやたら長い歩兵戦闘車。

ボフォースの40mm機関砲という強力な主砲を搭載しつつ歩兵を運ぶことができる。

石造りの建物でもウェハースのように貫通して敵を粉砕し、搭載した兵士で制圧を掛ける。

市街地戦においてうってつけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ