Chapter276. Blast Held by a sacrifice
タイトル【生贄の抱く爆弾】
何者かのスパイ、それよりも無残な操り人形と果てたイベル。
後を尾行していた冴島は弾道ミサイルそのものを振り回す、超常的な力を前に成すすべなく逃げざるを得ない。
物理法則を完全に無視した神力で車両もろとも火星17が舞い、大佐を押しつぶそうとしながら迫る。
BANG!BANG!
何度も背後へと発砲しながら逃げる冴島も必死だ。
相手に狙いを定めながら後ろ向きに走り、リリースボタンを素早く押して役割を終えた弾倉を落下させながら排出。
ポケットに押し込めたマガジンを素早く装填し、下がり切ったスライドを勢い任せに引いた。
ガバメントは既に8発分、既に一本分を撃ち切っている。
それ即ち。今さっき銃底にねじ込んだ1本がなくなれば抵抗する手段を失う。
もう既に足と腕を撃ち抜いているはずだが、まだ追ってくるあたり頭を撃ち抜いたとしても殺せるかどうか知れたものではない。
こうして格納庫最奥で始まった騒動は、あっという間に手前に置いてある主力・中戦車領域へと到達。
車両のいくらかがミサイルの下敷きになって破壊されたが命あっての物種。後の事は後でいくらでも考えれば良い。
そんな修羅場の中、冴島はあることを考えた。
陽動は別として普通は騒動を大きくすればするほど、増援を呼ばれ退路を断たれてしまい、裏で仕込んでいたことがバレてしまう。
だからこそ工作員は逃げるという手段を選ぶ。
しかし、あの端末は自分の事を執拗に殺そうとして来ている。
高度なスパイを送り込める帝国がそんな不合理なことをするだろうか。
バカにできないリスクを背負い込んでまで自分の命を狙う理由はたった一つ。
操り人形を操作している人間が「こだわっている」からに他ならない。
神の力を使いつつ、ピアノ線を手繰っているのは誰となると答えは出たようなもの。
賢人会議の頂点にいる人間。恐らくコンクールス本人かその取り巻きだろう。
そうして脳の半分で考え、もう片方で戦っているうちに遠巻きから足音の群れが聞こえてきた。
増援部隊がついにやってきたのである!
すると冴島は糸を引く人間に向け、あえて挑発する。
「あんな悪趣味な人形で殺せる程、俺は甘くはないぞ」
————————————
□
命からがら脱出した大佐の目の前には、本来ここにいるべき警備16班やグレネードランチャーなどのそれなりの重武装を施した対応班が来ていた。
明らかに遅いと言わざるを得ない。
格納庫周辺は離れている上に、頭数も多い16班の面々が丸ごと隔離されていたのもあって、大佐に時間稼ぎをしてもらう羽目になってしまった。
「何が起きているんです」
班長が冴島に問う。
彼らも知らない側の人間である。
何か尋常ではない事が起きていることくらいは理解出来ていたが、事件の全体像が見えない。
「重要参考人が車両を振り回して暴れている、制圧しろ」
「車両を!?」
「そうだ。よりにもよって火星17を、だ。いくらか撃ち込んだが止められない」
こうして責任者と反している間にも格納庫からは災害のような轟音が響く。
世界最大の弾道弾を車両もろとも振り回しているのだから無理もないだろう。
ポルターガイストが赤子のように見える超常現象相手に、どう立ち向かうか考えていた時である。
GROOOMM!!
格納庫の骨とも言える構造材が着実に破壊されていくかと思いきや、何かとてつもない重量物が落下するような音を残し、時間が止まったかのように静かになった。
すかさず警備兵が集い、冴島の逃げて来た入り口から恐る恐る倉庫を覗き込む。
あるのはめちゃくちゃになったBTRと一部損傷した戦車、そして紙くずの様に至る所が拉げたミサイル本体だけ。
「もぬけの殻です!」
しかしあるべき存在であるイベルだけが忽然といなくなっていた……
———————————
□
冴島がイベルから逃げ切った後、これらの猛攻はぴたりと止んだ。
増援としてやってきた警備兵と共に改めて庫内を隅々まで確認すると、跡形もなく消失しているではなかろうか。
流石に神力の息が掛かっているといっても、端末にも限界というものもあるからか。
端から見れば騒々しいオオカミ少年とも捉えられるような事案。
「いくら大佐が無茶苦茶な人間だからといっても、火星17のミサイルをストローみたいに曲げることなんてできませんからね」
しかし、あり得ない壊し方をされた兵器類を見た彼らは口々にそう言い、現場検証が始められた。
幸いにも端末は監視カメラに気が付いていなかったらしく、散々暴れ回る姿がHD画質で録画されている。
冴島大佐のオオカミ少年疑念はすぐに晴れるのも時間の問題か。
生きていた数台のカメラで記録された映像を再生してみると、目を疑うような瞬間の数々が再び蘇る。
「なんだコレ。パソコンとかに入れるなんとかシミュレーターじゃあるまいし」
「久々に死ぬかと思ったぞ」
尻尾を撒いて逃げる大佐と、マウスカーソルを動かすような乱雑さで巨大ミサイルを振り回して迫る敵に誰しも凍り付いた。
BTRなどの装甲兵器が紙くずのように破壊されていく中、逃げ切った冴島も大概おかしいが、そもそも映像の破壊力が強すぎるため咎める者は誰も居ない。
そんな心霊動画よりも遙かに恐ろしい記録を見ていると、中で調査を始めたスタッフチームが帰ってくる。
「徹底的に探したんですがね、やっぱりいませんよ。足跡はあったんで「存在」はしていたみたいですが。いくらコマ送りしてもパッと消えちゃって」
「やっぱり突然消えたとしか説明のしようがないんですよ」
果たして真相とは。
————————————―
□
——翌朝
追跡できないものを何時まで追い続けるのは得策ではないと判断されたのか、消失したイベルの捜索は断念。
夜が明けてから現場検証が行われることに。
「火星17は誰がどう見たって使えませんねコレ。誰がどう見てもわかりますが」
警備兵が冴島に報告を挙げる。
一番損傷が激しいのはやはりマウスカーソルよろしく縦横無尽に振り回されたアレだろう。
いくら一発が強力だからと言って、所詮は発射器。防御力がそこまであるはずがないのである。
「それに軽装甲車両はかなりの数がひどい損傷を受けてますね、もはや鉄屑です。
あと戦車もひっくり返ってハッチが潰れたのもいくつか。後々の作戦に支障がでなければいいんですが」
続いて派手に壊されていたのは歩兵輸送車など、比較的防御力が薄い車両群。
もはや修繕できない程に損傷。
具体的に言うとシャーシがグチャグチャにされており、ここまでくれば廃車の二文字が相応しい。
色々と使い勝手の良い車両だけあって、なかなかに手痛いトコロだ。
それはそうと、一番厄介なのは様々な戦車が工場送りレベルの傷物になってしまったこと。
5式中戦車のような中途半端な重量の車両が専ら餌食になり、ハッチが潰れただの、砲がダメになった車両も少なくはない。
壊れ具合にもよるが、火砲や制御装置周りが根こそぎやられるとU.Uにある工場では修繕は不可能である。
「わかった。こうなった以上、部隊を再編せねばならんな……」
冴島はこの状況でどう動くのか。
———————————
□
——某所
その一方、Soyuzの知らない人知れぬどこか。
ハイゼンベルグとコンクールスは夜中にも関わらず、得体の知れない魔具に囲まれながら何か策動を働いていた。
そこには電池が切れた玩具のように動かないイベルが鎮座し、手足にぽっかりと空いた銃創が少しずつではあるが修復が始まっている。
「端末はこちらに転移して無事なものの……完全にしてやられましたな。専門外の魔導をやるものではなかった。私の責任です」
冴島の見立て通り、糸を引くのは賢人会議の中枢。
作戦立案はコンクールスで実行と準備はハイゼンベルグと言った具合である。
「お前が全ての原因ではない。この件の失敗は魔導を取り扱うお前のみならず、柔軟な操縦が出来なかった私の非でもある。往々にしてそういうものだ。足掻きになるだろうが、敵陣営をかき乱せた」
その目的は魔導で複製した兵器をもっと増やす事。
予備員の本格的な動員を始めたが、Soyuzに立ち向かえる絶対的戦力は少ない。
急遽動員した兵士は自ずと現役の人間と比べると練度は低いだろうし、兵器の対策を文字や聞いただけでしか知らない。
数は増やしたとして、信用できる戦力が少ないのである。
少しでも勝利へと傾けるため、本部へと体のいいラジコンへと調整したイベルを送り込み、戦略レベルで影響を及ぼしそうな兵器をコピーしていく算段だった。
事実、手段と方法を開発・実行者がそれぞれ改良を加えたお陰で神と化したソフィアに怪しまれはしたものの、妨害されずに済んだ。
しかし計画というのは考案段階では問題が姿を現さないもので、実行した所は予想もしない出来事の数々が起きてこの有様である。
「しかし私は絵描きのような裏方が向いている。この手の類は深淵の槍の長官にやらせるべきだったが……使っているモノがものだ」
深淵の槍系統の関係者に、神槍メナジオンを扱っている衝撃的な事実を絶対発覚させるわけにはいかない。
そんな事情もあって、二人だけで無茶をしてしまったのも失敗の要員か。
「では私はこれで。氏もお休みになられたらどうです。私同様の才覚も休まねば発揮できますまい……」
夜遅くということもあって、ハイゼンベルグがそう言うがコンクールスはこう返す。
「忠告はありがたいが、私はまだやるべきことがある」
帝国の闇は夜になって、より一層動き始めるのだった……
次回Chapter277は2月17日10時からの公開となります。




