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Chapter275. Bubble mirage (2/2)

タイトル【うたかたの夢】

——本部拠点 夜21時


冴島は待った。


日が暮れて真っ暗闇になり、丁度人間の警戒心が下がり始めるその時を。

その矢先、巡回のスタッフに声をかけられた。


これだけの立場の人間がふらふらとうろつけば流石に目に着くのは当たり前か。



「大佐、どちらへ?」



「警備の査察だ。本当に強化されているのかこの目で見たい」



あくまでも名目は査察。


現場主義的な性格からして矛盾はなく、不自然ではないだろう。

尾行のミソはボロを出さないこと。怪しげな行動を敵だけではなく味方にも悟られてはならないのだ。



尾ひれがついて兵士が無駄話をし、それをターゲットが耳にする。

回り巡った結果生じる、バタフライエフェクトを未然に防ぐのが重要だ。



通路に出た冴島は辺りを伺う。


現場責任者として警備の人数は把握しているが、中将の言葉には嘘はないらしい。

2人チームが4人に増強されている上に死角となりうる暗がりにも照明が炊かれている。



増員された分の兵士には気の毒かもしれないが、我慢してもらうしかない。

文岐路に立った彼は目を皿のように細くして、首を回さず視線だけで目標を探す。



暗がりが存在しないこの場では、輪郭がぼやけることなく像がくっきりと確認できる。

権能中将のもたらしたまさかの好条件。散々偽装してきたゲリラをこの目にかかれば見逃す訳がない。



そんな矢先、一人の女性が出てきたではないか。

服装はSoyuz制式の制服でも、かといって現代的な私服でもない。古典的なドレス。


歩き方を見るに高貴な人間と見て良い。



イベルだ。









——————————————










目標を見つけた獣はすかさず後を追った。

しかし相手に感づかれないよう尾行するにはどうすれば良いか。



あたかも自然の成り行きに見せかければ人間は気が付かないものである。



歩きスマホを根絶する、または歩きたばこを絶滅させたい主義の大佐にとって立ち止まって存在感を消す手立ては無いように思えた。



いるではないか。巡回している部下という最大の存在が。

やはり、物事はもっと簡単に考えるべきである。



「おい、ちょっといいか」


その辺をうろついていたMGL140を持っているスタッフに声をかけた。



「大佐、どうかなされましたか?」



「ちょうどガバメントをオーバーホールしていて丸腰なんだ。PPを暫く貸してくれないか」



勿論方便である。


それを表すかのように彼の視線はイベルから離れていない。

相手は神器の息が掛かっている以上、これから何が起こるか分からないこの状況。



現行犯で逮捕しようと増援を呼ぶ前に殺されては話にならない。

時間稼ぎが出来そうな武器を調達する必要がおのずと出てくるのだ。



「ええ、いいですけど……弾撃ったら補填するの忘れないでくださいよ。中尉に貸したら全部撃ち切って返されましたんで」



「わかっている。それにしても中尉の件は聞き捨てならんな。ちょっとアイツには精神を注入しておこう」











——————————












時には物陰に身を潜めながら気配を殺してはや10分。



10月と言っても夜は冷える。

そんな寒空の下、気が付いてみれば居住区エリアから遠く離れた場所に来てしまっていた。


ここも警備が増強されてはいるものの、元の警備がそこまで厳重ではなかったこともあり必然と監視の網目は荒いように思える。


さらに尾行を続けている最中に、ふと視線をよそに向けた。

そこには簡素ながらも頑強な造りになっている格納庫が視界に飛び込んでくる。



「……戦車格納庫か。アレはまだ知られてはいない」



Soyuzの機甲戦力の要。戦車や装甲車たちの寝床。

ソフィアではあるまいし、まずもって一般人。上品な人間が近づくような場所ではない。



それにしても警備を強化したハズなのにこうも目の粗いザルよろしく人間が居ないのか。


責任者の顔をしっかりと覚えている冴島はソ・USEを手に取ると、声を限界まで殺しながら連絡を取る。



【警備16班長、応答せよ。一体どこで何をしている】



最も目を光っていなければならない場所に兵士を配置していないのは明らかにおかしい。

これではただのマヌケではないか。




【こちら警備16班。異常な……ん!?バイオテック自販機コーナーに私共々スタッフがいるんだ、それになんだこのキャラメルマキアートは!買った覚えないぞ!一体どうなっている!】



さも変わった所が見受けられない様子だった班長の様子が一転する。



本来大佐のいる格納庫で目を見張ってなければならないにも関わらず、あらぬ方向。

選りにもよってバイオテックの自販機コーナーに歩哨共々いるという。



それに気が付いてない辺り、恐らくあの端末と化しているイベルも同様。



無意識下で持ち場を離れる様暗示をかけられていたと見て良い。

経緯は不明ながら、恐らく昼間のうちに術なりをかけた可能性が高いだろう。



【こちらこそどうなっているのか聞きたい。直ちに持ち場に戻らせろ】



杞憂は疑念に。そして確信に繋がった。

今のイベルには神器、あるいは強力な魔導の息が掛かっていると。








——————————————









——Soyuz本部拠点 戦車格納庫



装甲兵器には電気自動車のような電子ロックが一切掛けられていない。

様々な種類の車両が立ち並ぶSoyuzとあって、車ではなく入れ物。



つまり格納庫自体に頑強な電子錠が掛けられている。ピッキング程度ではとても開けられるような代物ではないのは明白だ。



しかし、物事はシンプルに考えるべきである。鍵がこじ開けられなければ扉そのものをこじ開けてしまえば良いのである。



———GASHHHH!!!!!


イベル。いやその形をした人間端末は扉の隙間に爪を立てると、まるで障子戸を引き開けるかのようにして鍵を破壊して開けてみたではなかろうか!



「……信じられん」


とてもではないが、人がなしえる業ではない。

加えて最小限しか開けて音を立てないという念の入り様。芸が無駄に細かいと言わざるを得ないだろう。



自爆スイッチを押されることは無くなったが、それでも人間を超えた存在を現行犯逮捕しなければならないのだ。



冴島は懐からガバメントを取り出すと、安全装置を解除。

深く息を吸いながらハンマーを起こし、音が出ないようスライドを引く。



PPも同様にセーフティを解き、ストックを伸ばして準備は完了だ。



手に負えなければ殺す。最悪の準備が整った。











——————————————











戦車格納庫、と一口で言っても様々な物体が鎮座している。


おなじみのT-72らは勿論のこと、5式中戦車やVTT装甲車。



BTR80に留まらず、なんと最新鋭の弾道ミサイル「火星17」などがずらりと並べられ、隙間から覗く博物館と言っても差し支えない。



ドローンは帝国軍兵士を何人も血祭りにあげてきたであろう戦車たちに微塵も興味を示さず、奥へ奥へと進んでいく。



主力戦車・中戦車・装甲車を抜け、ちょうど装輪装甲車類のエリアでイベルは歩みを止めた。視線を読むと、



BTRの方には向いていない。無数のタイヤがひしめく何かの発射台と思しき物体。



まさか。冴島は血の気が引く。


火星17を複製しようとしていたからだ!



操縦者の目当ては大型弾道ミサイル「火星17」

世界で最も巨大で、多くの弾頭を積載できる超長距離兵器。




それが自ら移動できるミサイル発射器となってこの世に生まれ落ちた、抑止力にも悪魔にもなる恐るべき存在。



此処に配備されているのは通常弾頭だが、やろうと思えば核の炎で帝国中を包むことだって容易い。


脆弱でまだ破壊可能だったBMD-4がコピーされればあの有様だというのに、戦略兵器が餌食になったら。



そう考えただけで悪寒が止まらない。



PP-2000の照準を端末の頭に向けながら構え、冴島は冷たく勧告する。



「何をしている」



一瞬手をかざそうとする動きが止まるが、大佐の呼びかけに対してイベルは全く答えない。



知らされていた性格とは合致しない素行。

振り向いた途端に、魔法で作られたファントンの刃が一気に出現。冴島に襲い掛かる!

しかし、この手の類に騙されていると思ったのか。



PLTATATA!!!



格納庫に置かれたBTRに身を隠しながら、尚も追ってくる刃を弾丸で叩き落した。

肩と頬でソ・USEを押さえながら本部へと連絡することを忘れない。



【こちらLONGPAT。第三格納庫で非常事態。総員戦闘態勢、直ちに増援を寄越せ!】



更に複製されないよう火星17から引きはがそうと、引き続き射撃を続ける。



この手のサブマシンガンは1つの弾倉に30発の弾丸が押し込められているが、引き金を引き続ければアッと言う間に無くなってしまう。



それだけ発射速度が高いのだ。

しかし向こうも向こうで手をこまねいている訳ではない。



敵は神器の息が掛かっているだけあって、近くにあった火星17のミサイル本体が磁石のようにイベルの手に引き寄せられていく。


自動車どころか並大抵の軍用装甲車よりも重量があると言うのに。



「冗談じゃないぞ」



ガバメントは予備に2つマガジンを持ってきてはいるが、時間稼ぎできるかどうか。

それ以前に殺されやしないか。



迸る殺気を察知した冴島は、咄嗟に盾にしていたBTRから飛び出すと直後巨大なミサイルが一気に貫いた!



GRRRRSH!!!!!!!!!!



格納庫まるごと貫通するような大きさの槍一振り。


そんな物体が軽装甲車程度では止まることなく、さらには乱暴に振りまわされる玩具の如く冴島を薙ぎ払ってきたではないか。



PATATATA——…CRACH!!



不幸はまだ終わらない。

あんなものが近づいてきたら終わりだ。決死でPPを撃ち続けると、銃弾が出なくなってしまった。



銃の故障でもなんでもない、弾切れだ!

やけにコンパクトだと思っていたが、マガジンを銃床にしていなかったのである。



あの兵士からマガジンをいくらか頂戴しておくべきだったと後悔しつつ、ガバメントを抜きながら吐き捨てた。



「兵士だけじゃ抑えられんな、……しかし、どうする」



装甲車両を置いている場所で戦闘が発生しているため、当然機甲戦力は出せない。


一番手っ取り早いのはやはり生身の兵士。

止められるか、この脅威。



次回Chapter275は2月10日10時からの公開となります。


登場兵器


・PP-2000

ロシア製サブマシンガン。折りたためば拳銃並みのサイズになり、ストックを伸せば安定して射撃することが可能。

ロシア国内で1つあれば何かと便利な短機関銃である。何かと。


火星17

北朝鮮虎の子、「世界最大の」自走弾道ミサイル。たまに日本へ飛翔体でとんでくるのはコイツであることも。

その大きさは圧倒的。搭載できる核弾頭のもたらす抑止力は無限大。

メディアに露出する機会がかなり多く、マーキングが恐ろしくかっこいい。

画像検索すると、あなたのモニターは幸せで満たされる。

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