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Chapter274. Bubble mirage (1/2)

タイトル【うたかたの夢】


「火柱は手から少し離れて放たれているな。それはビームも同様で……」



「当たり前だろ。当てれば人が生きたまま火葬できるんだから、撃ってる側も熱くない訳ないだろ」



学者肌というものは全てを解説したく堪らない生物である。

しかし、こうした定義付けは何かと重要だ。



それに強力な魔導を放つ場合、手からわずかに放つのが上級魔導士としての基本テクニックである。



それは兎も角。

物理学者チームはハイスピードカメラで撮影された映像をパソコンに取り込んで、習性と言わんばかりにゲグルネインと新魔導を比較しにかかった。



「うわ、私だよ私。……それにしたって1秒を無残に切れるとかどう考えてもおかしいだろ」



動画という存在を見た帝国の人間は大方こんなことを言うものだが、慣れたのか学者たちは華麗なまでに気にしていない。



「止めてくれ。ここから巻き戻して……そう、これだコレ!間違いない!」



丁度ベレッタスが放たれてしまった時点から、少し巻き戻す。


恐らくこれが帝国の文献にあった、つかみどころのない魔力から何かしらのエネルギーに代わる、中間的存在。



魔力中間体と呼ばれる超高エネルギー体、それが撮影された決定的瞬間だ。




決して魔法はおとぎ話や適当な宗教のでっち上げではない。

しっかりと理論と実験で組み合わされた「()()()()」であることを証明した、動かぬ証拠である!




しかし学者の論理は終わりを見せない。



「なんだこのエフェクトみたいなの」



リーダーであるドクが呟く。


2つの魔導を比較した際に、安定され改良されたゲグルネインに比べ、ベレッタスは少尉の背後に何かモヤ、分かりやすく言えばエフェクトのようなものが写っていた。



「だから言ったんだ。この魔導は人が撃つんじゃなくてモノ向けだって。なんか漏れるんだよね、しかもこれすげぇ危ないし」



曰く、魔力中間体が漏洩してしまっているのだろう。超高エネルギー体が漏れ出ている上に、ゲグルネインよりも扱いが難しい。



温度測定データによれば温度は抜きんでて高いわけではない辺り、失敗だと言わざるを得ない。

繰り返しになるが、魔導も技術も結局のところ積み重ねなのだ。


そんな矢先。ドクの持つソ・USEにある連絡が飛び込んでくる。



【こちら本部から各Soyuz拠点。帝国政権の中枢人物を確保した】





出会いと予想だもしない災害はいつも突然だ。










————————―








ここから場所はうって変わって帝都。


政権の傀儡、テープレコーダーこと イベル・ワ―レンサット。



長男であるマーディッシュの失脚によって、次の人形が必要になった。

何故そうした傀儡が必要なのか。



軍事政権はあくまで皇族の方針である、そんな言い訳づくりのために他ならない。

裁判や法律などもしかり、国家にとって形式というものは極めて重要だ。



でなければ国家保安委員省に目を着けられ、深淵の槍によって排除されている。



神の血筋を引く者がトップにいるからこそ、レジスタンス抹殺や邪魔になる貴族。

その他ありとあらゆる反乱分子を一掃してみせた。



兎も角、ゲニフィチニブ要塞で保護された彼女はすぐさま戦線の後方である本部拠点に移送され身内と再会するに至る。




しかし、こんなことは突然起きた。前触れも何もなく、あまりにも突拍子もなく。





——本部拠点 司令部




「この一件、中将閣下はどう思われますか」



めでたいと湧き上がる中、冴島大佐は権能にある疑問を投げかけていた。


何しろ彼にしてみれば引っ掛かるところがあるらしい。



イベルは賢人会議にとっての防虫剤や農薬といった存在。

これを手放した時点で軍隊でも何でもない黒騎士に襲撃されてしまうのは明らかだ。



あれだけ地固めをしたがっていた軍事政権が、自ら内部崩壊を招くようなことをするだろうか。



逃げて来たにしても、恐ろしい情報ネットワーク網を持つファルケンシュタインの中核。

脱走するにしても相当の気合と根性が必要になってくる。



しかしそれよりも、何かが上手くできすぎている。まるでうまく乗せられたかのよう。

そんな冴島に芽生えた確証のない()()()が、違和感を抱かせていた。




「冴島。お前の言うように精神鑑定やら何をやらせても、何も異常はなかった。クライアントも同様のことを言っている」




「俺も何かおかしいとは思ったが、いかんせん尾ひれがつかめん。だが、何かがあると踏んでおいた方が良いのはお前と同じだ。警備を増強し、監視を続行しておこう」




上司の権能も同様に、薄々罠ではないかと感づいているらしい。

だが、あまりにも証拠がなさすぎる。



因縁を吹っ掛けて調査しようにも、恐らく何も出て来ないのが関の山。

ただの杞憂で終わってしまうことだろう。



強いてできる事と言えば監視と警らの強化ぐらいか。



「承知致しました」



冴島は現時点でこれ以上の対応を引き出すことは出来ないと悟ったのか、手短に返す。



上司の事は絶対なのが軍隊という組織、言うことには従うしかない。





果たしてそうだろうか。













————————————―









仮にも神。

人類の上位存在であるソフィアが何もありませんでした、と本当に言ったのだろうか。



冴島は内心あまりにも疲れすぎて神経過敏なのではないかと疑いつつ、とりあえず発見した際の事情を聴取するため尋問室へと向かった。



「どうにも殺風景で、尋問にかけられるのは良い気がしませんね」



連れて来られたのはゲニフィチニブ要塞での作業中、警備を担当していた何の変哲もないスタッフ。

それが大佐クラスの人間と背水の陣でドヤされるのはとても気分が良いものではないだろう。



「隅にパキラの鉢植えでも置いておけば良いか?どのみち俺とこうして対面はしたくないだろう。話せ」



冴島は冗談を交えながら話すように諭す。



「はい。……っと、丁度工兵部隊が昼飯に入るころ…12時15分くらいだったのを覚えてますが、妙なことが起こったんですよ。誰も信じちゃくれないんですけどね」



やや前振りが長い。

そうした場合、隠し事ないし信じられないことが起きた時の人間特有の反応だ。

何かを隠し持っている。



「……何もないトコロからぽっ、っと出現したんですよ。見間違いなんかじゃあありません。ありゃそうとしか説明できなくて。あ、俺GOproつけてたわ。多分その映像を見れば分かると思います」



「何?」



あまりに突拍子もない事実に大佐はそう言う事しかできなかった。










——————————————












Soyuzの一部兵士は戦争犯罪などを抑止するためや、戦場で何をしていたかを記録するためにアクションカメラを着けている。


着ける意義は戦場のリプレイを確認したいときに非常に役に立つ、というのは言うまでもない。



映像を確認していると、彼がゲニフィチニブ要塞の帝都側に配置されていたことが良く分かる。

12時近辺まで時間を飛ばした時に、それは起こった。



ちょうど誰も向いていない。


つまりこの兵士しか見ていない場所にイベルと思われる女性が「転移」してきたではなかろうか。

あまりに都合の良すぎる位に。



「……確かに、お前の言うことは真実だと認めよう」



杞憂が疑念に変わった。


明らかに不自然だ、あるべき数個の段階を全て飛び越えてきている。

しかし証拠がないという事実も揺るがない。



仮に工作員として送り込んでくるのであれば時期が遅すぎる。


本格的に勝ち目がなくなるゾルターン陥落前にスパイを送り込むべきだ。

そんな初歩的なミスをする筈がない。




相応のブレーンがいるのだから。




論より証拠という言葉あるように、仮説をいくら積み上げて行っても仕方がない。

では次は何をすべきなのだろうか。


冴島にはアテがあった。



神の座を継ぐ者ソフィア・ワ―レンサット。現代技術で分からねば、次は確証のある神頼み。



権能が「違和感などはなかった」とは言っていたが、あくまで立場のある人間として適当なことを言えないだけであろう。



筆舌にしがたい、第六感のような何かに気が付いている筈と踏んだのだ。

——本部拠点 VIPルーム



返答を聞きたいという先走りを抑え、ノックをしようとしたその時。



【どうぞ、おはいりになって】




頭の中に殿下の声が響いた。やましいつもりなど毛頭ないが、どうにも心臓を握られたような感覚にじんわりと冷や汗が滲む。



いくらなんでも神の力を実用的に使いこなし過ぎではあるまいか。



何はともあれ。


曲りなりにも許可は貰ったためIDカードと生体認証を済ませて踏み入ると、微弱にも神々しく発光している殿下がいた。半年前の姿とはまるで似ても似つかない。



「失礼します。少しお伺いしたいことがありまして、先日保護されたイベル氏についてですが、お会いに?」



ここまでくれば後は分かってくれるだろう。立場抜きに本人の洞察力のみで十分だ。



「いえ。どうにもきな臭いと思いまして。イグエルの又聞きではありますが……当人に話を聞いたところ、突然身に覚えのない要塞にいたとか」



「細工がされていない訳がないでしょう?」



あのような場所から帰ってきたのだから、積もる話があるだろう。

だがそれが全て抜け落ちているというではないか。鋭いソフィアが疑問を抱かない訳がない。



どうやら思っていることは同じようである。



これらの情報を纏めると、命がけで逃げかえって来たわけでも何でもなく、要塞前にぽつんと出現し保護された形となる。


帝国の策謀と見て良いだろう。



「やはりお気づきでしたか。……そこで一つ。無意識下に刷り込むような催眠は魔導テクノロジーで十分に可能でしょうか」



そこで踏み込んだ質問をしてみることに。



「十分に可能、それどころか人形と同じようにまで深く暗示をかけるより容易い筈。しかし……証拠が出て来ない。あやふやなモノがどうのこうのと騒ぎ立てるような立場ではない以上、なかなか言い出せなかったのですが」



ありもしない話を振りまいて下手な混乱をさせるわけにはいかない。確実な証拠がなければ真実だとしても、ただの陰謀論に過ぎないのだ。



薄々気が付いていたとしても、なかなか言い出せなかったのも腑に落ちる。



「では質問を変えましょう。何故そうしてまで送り込む必要が?」



スパイであれば深淵の槍で良い。

むしろそうした方が怪しまれない場合だって多いのではなかろうか。



現地スタッフをかなり雇用しているSoyuzなぞ潜入にぴったりで、素人を入れるよりも確実だ。



「ただ、何者かの影響下だと仮定した場合……残念ながら姉上はただの遠隔操作で動く端末に過ぎません。操れる人間は大方知れていますから、おそらく……」




今のイベルは正気ではいるが、無意識下で何かするように仕込まれている可能性が極めて高い。



ソフィアやイベルといった皇族であればSoyuz異世界本部基地の中核に接触することは困難ではないだろう。下手なスパイを送り込むよりも。



Soyuzが決して触れられたくない、文字通りのデーモンコア。それは紛れもなく……



「自爆用核弾頭の起爆による本部拠点消滅か、あるいは戦力増強のため、こちらの兵器を複製するか……どのみち我々を混乱させようとしているのは確かですな」




世界に終末をもたらすハルマゲドンの再来。











————————―









このまま放置していれば良からぬ事が起きてしまう。

迫る危機に対し、ソフィアは神妙な顔つきになりながら淡々と推測を述べる。



「しかし、このことに気が付いているのは恐らく貴方と私だけ。拘束しても、恐らく操作している人間が別の場所に転移させる。私ならそうします。」



「今の姉上は神か強力な魔導の力を発揮できると考えても良いでしょう。それに。先に動かれないためにも、このことを知っている人間は少ない方が都合良い……」




急にワープさせることが可能ということは、それを端末に悟られずに実行できるということ。



今のイベルには神器、あるいは極めて高度な魔導の息が掛かっている。

ならば操縦している人間の匙加減でどこでも移動できるのだ。



簀巻きにしたところで無駄な足掻きだろう。



だが何かお忘れではなかろうか、もっとシンプルで簡単な方法を。



「私が単独で尾行し、怪しい素振りを見せたら現行犯で取り押さえます。私一人では止められないなら貴女のような増援を呼べば良い」



確実なのはやらかしている場面に偶然遭遇し、無力化する。


万引きやピンポンダッシュも。そしてこんなスパイとて同じこと。

ダメならダメで、さらに戦力を呼んで意地でも止めれば良い。



冴島は胸元にしまったガバメントをうっすら見せるような仕草をして続ける。



「物事はあまり難しく考えすぎない方が良いことだってあります」



「ご忠告をどうも。難しく考えすぎるのは私の悪い癖なので……」



今まさに、Soyuzを揺るがす泥棒を逮捕する大作戦が始まろうとしていた……


次回Chapter275は2月3日10時からの公開となります。



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