Chapter273. Black Zone
タイトル【黒の領域】
いよいよゲニフィチニブ要塞への本格的調査が入ることに。それは帝都攻略戦における足掛かりをつくるために他ならない。
だがその前に、ある重要な尋問が行われていた。
聞き出す内容と言えば、今までSoyuzが見たことがない、まったくもって新しい熱光線を放つ魔導について。
学術旅団の調査によれば、接収されたソーサラー向けの魔導書には一切記載されていないことが判明。
また、今までの帝国軍捕虜に尋問しても全く知らないという。
幸いにも直撃や掠めた兵士は誰も居ないものの、誰もが口を揃えて「掠めただけでも無事では済まない」と証言している。
続々と登場する帝国の新戦力を見過ごすことが出来ず、かくして調査を開始された。
対象となったのはゲニフィチニブ要塞から回収されたソーサラー。ほとんどが火傷や負傷している者が多く、昏睡状態で回収された兵すら居る始末。
そんな中、奇跡的に無傷だった女性の上級魔導士 ザンダリル少尉をポポルタ拠点にて尋問することにした。
「Ah~……恐らくそれは【波動計画】で生まれたベレッタスってやつだよ。ま、久々にあんなクソみたいな魔導は。ギドゥールよりもクソな魔導はそうそうない。にしてもだ、像かあんたは、顔が。顔が固まってんよ」
「その計画は一体なんだ」
尋問官であるボリスは冷やかしに対して眉一つ動かさず、続けるように促す。
「軍事機密だ。わからん。大体常識だぞ常識」
大それた計画とあって、流石に帝国。情報に対するガードは分厚い。
少尉と言えども軍事機密という分厚い壁を知ることは出来ないのである。
だがボリスは何か知っているだろうと踏んでいるのか、やたら彫りの深い顔に影を作って無言の圧力をかけ続けた。
鉛の様に重たいオーラに、少尉は嫌々持論を述べる。
「そうだな、あー……っても計画そのものは大したもんじゃなあい。戦艦とかの魔甲式副砲があると思う、分かる?アレだよ。アレを人間から撃てたら強いんじゃないか、とかなんとか」
「それよりもなんだそのトコトン動かない顔は、壁か?」
魔導は人間を媒介にして甚大なエネルギーを放出させる。
人を一瞬で消し炭にすることができる火柱を生み出すゲグルネイン等いい例だ。
しかし使えば無くなるが、物体を媒介にすることもできる。
それがゲニフィチニブ要塞にあった無数の戦艦陸揚げ砲など。
そこで頭のいい人間があることを思いついたのだろう。
物体に出来るのだから、人間でも放てるのではないか、と。
「……全く最高だよ、ほんと全く。魔導を扱ったことのないヤツにはわからんかも知れないけど、魔法には人間に出力させるのに向いている奴とそうでないのがある。
扱ってみてわかったが、アレはダメだ。とにかく誰がやっても暴走する。大体、収束しないんだ、わかるか?」
「そもそも。魔法ってのは多くの人間に、同じ形で出せないといけない」
手から熱線を出す、恐らく数々の失敗が積み重なったのだろう。
拡散しすぎて威力が担保できない。
あるいは逆に強すぎて手を蒸発させてしまった場合も十二分にあり得る。
「それに、だ。焼くならゲグルネインの方が暴走しない」
血で安全マニュアルが塗られているように、魔導も公にならない惨劇が積み重なって制式採用されるのだ。
あまりにも不安定で、威力こそ凄まじいが統一化が図れない。波動計画とは失敗だったのである。
現実世界の人間が求めているファンタジックで、まるで夢のような代物。
それでも特有の苦労は尽きないのだ。
「そうそう、前にくれた棒の焼き菓子なんだかはっきりしないヤツ。あれ1箱くれたら撃ってやるけど、見る?」
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本来であれば、帝国について知見がある学術旅団が送り込まれる予定となっていた。
だがゲニフィチニブ要塞は艦砲射撃によって生じた大火で全て焼かれてしまっていることを忘れてはならない。
火に焼かれた建物は構造強度が熱による劣化や炭化で各段に落ちる。そうなれば足掛かりをつくる以前の話。
まずは焼け残ったものを解体すべく、工兵部隊が送り込まれることになったのだ。
——ゲニフィチニブ要塞
兵者たちの夢の跡。
この要塞に黒以外の色は存在しない。
何もかもが真っ黒に塗りつぶされ、兵員が配置されていた監視・管制塔は痕跡を残して跡形もなく消えている。
設置されていた夥しい数の魔甲砲も同様だ。
まず小さな砲台は残骸を探すのすら苦労し、戦艦から陸揚げされてきた主砲は原型を保っていない程に破壊し尽くされている。
残っているものと言えばベストレオの試作主砲ぐらいのものだろう。
それも半壊しており回収できる物品があるかどうか怪しい。
確かに、ここには地獄があった。
工兵部隊が入るころには燃えるものがなくなって鎮火はしたらしいが、白煙が濛々と立ち込めている。
それどころか、地下のパイプラインにはいつ爆発するか分からない魔力のパイプラインが走っている始末。
ざっくり言うと火薬がどっぷり詰まった部隊で工事することになるだろう。
とてもではないがマトモな現場だとは言えない。
ともあれ冴島大佐がここを拠点に最後の戦いをする以上、やらねばならないのは同じこと。
そうして現場に足を踏み入れると、どうにも筆舌にし難い、甘ったるい異臭が鼻を突く。
恐らくこれは。工兵の面々は口には絶対に出さない。正体は分かっているが気にした瞬間戻れなくなる。
Soyuzに属して仕事をするには気にしていいコトと、そうではないことがあるのは言うまでもないだろう。
往々として、そういったスキルが求められるのだ。
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GAAAAA……
作業を始めると、戦車の代わりに今度は重機が要塞に居座るようになっていた。
倒壊の危険がある場所はクラッシャーと呼ばれる、巨大なカニのようなハサミを着けた装甲ショベルによって豪快に解体。
あまりにも巨大すぎる時はアームの先端に削岩機が付いたブレーカによって切り取るような形でバラバラにしていく。
かくして押しつぶされる心配がなくなった時点で、大きな残骸はドーザーが。
ブレーカで粉砕した欠片など、通称ガラと呼ばれるような比較的小さなものは、布袋に放り込んで人で運び出すのだ。
「全くよく焼けてんじゃねぇか。そのおかげでガラがすぐ砕けて困っちまう」
作業員の一人が皮肉のように呟く。
インクでも溢したかのように辺りは真っ黒。当然瓦礫も全て炭化してしまっている始末だ。
そのおかげで、運ぶガラは持ち上げるたびに崩れて仕事が増えるばかり。
こんな凄まじい火災の中、戦っていた空挺部隊や歩兵部隊の人間にはよくローストされなかったものである。
「ドーザー通るぞ!」
そんな矢先、装甲ドーザーが通ることを知らせるため作業員が叫ぶ。
直後、バケットを挙げたキャタピラ着きの猛牛が轟音を轟かせ次の場所へと向かって行った。
履帯の痕がつくが、そんなのは構う暇などあるものか。
しかしこの惨状。
尾道や巡洋艦がしこたま暴れたらしく、油圧ショベルやドーザーが何往復したとしても終わりが見えてこない。仕事をする身とすればこれ程苦しいものはないだろう。
だがその割に、冴島大佐から「可能な限り片付けろ」とお達しが出ている。
大雨で何もかも滅茶苦茶になった市街を1日で全て片付けろと言われているようなものだ。
「片付け途中の部屋が一番きたねぇとは正にこのことだよなぁ、どこいっても変わらねぇよ」
作業はまだまだ終わりを見せない。
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作業を始めて6時間が経過した。
煙と異臭。瓦礫の散らばり具合はマシになったが、完璧かと言われればそうではない。
まだまだ壊して片付けを繰り返さなければならないが、彼らも人間。
ぶっ続けで作業すれば事故に繋がってくる。
火薬庫の上でダンスをしているような現場なら猶更だ。
装甲ドーザーのオペレーターにも休息の番が回って来たようで、車体を背にして休憩を取ることに。
「どうやったらあんなデカい砲台を片付けりゃいい、地下のパイプラインに付け火してぶっ飛ばした方がいいぜ……」
ボヤキを聞いていたのか、ガラ運びをしていた作業員がこう返す。
「んなことしてみろ、大目玉喰らうぜ。それで……どんくらい残ってんだっけ」
しかし、端々には仕事の話。
休んでいる時に耳にしたくない内容、ダントツ一位だ。
「このタイミングで一番聞きたくないことを聞くよな。6時間かけて始末できたのが陸揚げ艦砲4つだけ、更地にするには2週間かかるだろコレ」
軍事政権がその威信をかけて重武装化した要塞、破壊して崩しやすくなっているとはいえ
莫大な時間がかかるのは言うまでもない。
壊し屋から土建屋。
あらゆる建設野郎の巣窟こと建設機械師団を呼びたいが魔力パイプラインが邪魔をする。
だが厄介なことを考えるより、今は休息に勤しむべきだろう。
ふと一息つこうとした時、無情にも武装スタッフの叫びが木霊した。
「重要人物を確保した!本部に連絡を!」
災難は重なるばかり。
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——ポポルタ拠点
魔法の力をもってしても人間が熱線を放つことは不可能か、あるいは著しく困難である。
しかも帝国の中でも知っている者がかなり限られる極秘研究だ。
その真相を明らかにすべく、物理学チームは段ボール単位でのカロリーメイトを用いて少尉を買収し、実験に取り掛かることに。
定番のハイスピードカメラ、赤外線式デジタル温度計と観測する設備が準備されていることもあって、ポポルタ線にていよいよ検証が始められた。
「テハジメにゲグルネインから。説明いるかコレ?流石にうちの国の喉元まで来てるんだから知ってるだろ。きっと。やる意味はもっとあるか?」
少尉は圧倒的な資本により買収されたのが気に食わないのか、どうにも反応が悪い。
「存在は知っていますが、記録映像が残っているのがフレイアだけなので」
研究員が言う通り、上級魔導を観測した映像はこの場でようやく世界初となる。
そもそも手品でもなんでもなく、超高温の火柱を出す瞬間の映像がそもそも存在しないのもあるが。
「まぁ1秒を何百に切り刻んだ記録なんてつけるヤツなんているわけないしな、危ないんだコレ。軍用魔導だから。よし、行くぞ!」
【ゲグルネイン】
少し身構えると、手を重ねて中心に三角形をかたどった。
そんな少尉の魔導フォームは3か4mありそうな巨大な火柱が出現。
そのまま的に真っすぐ進み、直撃するや否やはじけ飛んでいく。一撃を受ければ恐らく命がない炎の塊がいとも容易く発射できるのはつくづく恐ろしい。
上級魔導士だけあって、キャンプファイアのようになっている標的を見ても涼し気だ。
「それで次、ベレッタスなんだけども…時間がかかるんだ。乱発はできない。だからクソの極みなんだけども。あー……ふぅ。……ィイイイヤァアアア!!!!!!!!!!」
しかし手から放たれる熱光線は事情が違うようで、かなり状態を整えてから叫ぶ。
VEEEEEEEEEE!!!!!!!!!
何の脈略もなく、空気を切り裂く激しい音を立てながら極彩色の帯が放たれたではなかろうか。
明らかに今までの魔法とは違う、異質なものなのは言うまでもないだろう。
今度ばかりは炎とは次元が上らしく、燃えていた的が「蒸発」してしまった。
「やっべぇ気功砲じゃん」
核兵器のような様を見せられた研究員は慄くしかできないが、少尉が詰る。
「あー……クソ、疲れた。一発でこれなんだからダメだよダメ。乱発できなきゃ火力ソーサラーじゃないから。これよコレ。大事なのはソレなのよ。あと気功砲ってなんだよ」
魔導は日進月歩。
そう簡単には超強力な魔法が生まれるわけではないのである。
続いては映像判定の時間だ。
次回Chapter274は1月27日10時からの公開となります
・ベレッタス
極秘で研究されていた魔導。
対装甲性能はあまりないが、ビームよろしく人間を蒸発させられる。
元々、砲にできるのだから人間にもできるだろう。という火力増強コンセプトで考えられていた可能性が高い。




