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Chapter272. At the gates of the Imperial City

タイトル【帝都の門前にて】

ここはファルケンシュタイン帝国の中心地 帝都「アルノグル」

今までナンノリオン・ペノンなどといった県で区切られていたが、アルノグルだけは例外である。



太古の昔に不毛の丘陵地に都が開かれてから、はや数千年。

国家機能として重要な省庁や議会が立ち並び、その下には石造りで出来た市街地が立ち並ぶ。




軍事政権になる前、ヤルス・ワ―レンサット皇帝が治世するよりもはるか前から存在していた、歴史がとても長い都市だ。

我々が知る中では日本では京都、中国の長安等が一番わかりやすいだろうか。



そこがついに攻められるという前代未聞の事態が起きている。



というのも4度に渡ったガビジャバンとの小競り合いは、ゾルターンやペノンで食い止められており中枢までの侵入を許していない。



有史以来の大事件に混乱しつつも、国家元首であるイベル・ワ―レンサットの指揮によって防衛準備が進められていた。




——オベクロン城



丘陵地の頂上、都を一望できるオベンクロン城。

窓を見ると寄木細工のような市街地が飛び込んでくる、風光明媚な帝国の中枢とも言える場所。



しかしすべての窓が鋼板で裏打ちされた今、それは過去のものだ。



そしてコンクールスは賢人会議のある地下の隠し部屋に足を運ぶ。

議長席に着くと、国家安全保障省の長官から早速鋭い質問が飛んできた。




「ユンデルが捕虜となった情報が入った。

そろそろ、何か具体的な勝算があるのであれば是非ともお聞かせ願いたい」



顔なじみのメンバーが一人いなくなった。

それよりも国家の存亡がかかっていることを忘れてはならないだろう。



士気を保てているのは敵が侵略してきているのが大きい。

戦わねば滅びるということが分かり切っていて、やる気を出さない人間がいるか。




「長官。我々は優秀な指揮官を温存していることをお忘れなく。最もたる脅威は射程であるという分析が出ている以上、それを封じれば肉薄できるだろう」



装甲が分厚く、いかに攻撃力が高くとも戦車は人が乗って使うもの。やろうと思えば意表を突いて間近に近づくことが出来てしまう。



ハッチにロックが掛かっていたとしても、ソルジャーキラーでこじ開ければ良い。

それ以前に、無力化するだけで儲けものだ。




「しかし兵にやる気がなければ勝てる戦いにも勝てなくなる。そこでイベルを演説用に使うが、ファゴット。よろしいか」




だが投下する戦力は駒以前に一国の兵士、ないし愛国者。

賢人会議という本物の影手が見えていない以上、アジテーションはまだ使える。



使えるものは全て使って得とせよ。そういった気概が必要だろう。




「ほっほっほ、何を水臭いこの程度で嫌というとでも?この前はボロが出てしまったからの。そこだけ気をつけておくれば良い」



コンクールスはダークマージに話を振ると、素直に快諾してくれた。

彼はなおも続ける。



「また戦闘が開始次第、兵士に対する詳細な指示はお上経由で私が出す」



お上経由、というのは自身の命令をイベルの勅命へと変換することを指す。



マーディッシュがその座にいた頃からやっているが、首を挿げ替えてと言うもの反発されず話がすぐ通るようになった。



洗脳しているので当然だが、いちいち意図などを説明する手間が省けて助かっている。



「魔法省の長官が捕虜になった件だが、すぐ代わりの人間を配置する。瓦解も防がなくてはならないだろう。また試験を前倒しし、シューターにも例の対空射出槍の配備を進めている。以上だ。」



有能な人間がいなくなったが、今を嘆いていたとしても敵は進軍を止めることはない。

死んだ人間は帰ってこないのと同じこと。



かくして会議がお開きとなると、賢人会議の面々は本来の仕事へと戻っていくのが恒例。

そんな中、コンクールスはファゴットに声をかけた。



「私用だが、少しばかり付き合ってはくれまいか」



「何用じゃ?」



酷く冷たい表情なままファゴット、いやハイゼンベルグはローブの下から顔をのぞかせる。

影の独裁者は狂気の科学者に何の用があるというのか。








————————―









各々部屋を退出し、薄暗い会議室に二人だけとなった。

ここではもはや演技の必要はない、暗黙の了解である。



情報が洩れないことを確認したコンクールスは友人として、あることを言う。



「これならよかろう。一つだけ、この私から言っておきたいことがある」



「今更かもしれないが、念を押しておく。亡命できる場所は必ず作っておけ。諸君の才能を絶やすのはあまりに惜しい。必ず生き延びろ」



この一言にハイゼンベルグは目線を一度落すと、わずかに笑って答えて見せた。



「……風来坊からここまでのし上がった私がその程度を考えていないとでも?

——————私はまだ死ぬわけにはいかない。侵略者共にも、ここの人間にも殺される訳にも。」



「私にはやることがまだ残っている、それも一生をかけてやることが。今はその途中に過ぎない」



自らの才能を純粋に賞賛してくれたことはうれしく思う。だがここで終わりかというと決してそうではない。

自ら設計した大口径魔甲砲、オンヘトゥ13使徒に最高傑作のベストレオ。



それもまだ足りない。



世界を混沌に陥れる高潔な兵器はファルケンシュタインではない、もっと別の所。



そう、自らの故郷。

地球儀で描かれた現実世界に投下しなくては野望が実現しない。



帝国側から現実世界に通じる穴を開けるまで、絶対に死ぬわけにはいかないのだ。



正負のどちらでも良い。自らの功績を消えることのないよう楔として打ち込むまで。










————————―













天は人の上に人を造らず。

賢人会議という雲の上にいる組織が、この帝国に存在しているのは下士官や兵士といった末端の人間がいるからだ。



帝都防衛のために投下された3師団という大きな括りから枝分かれした1部隊

第14重騎動中隊に視点を移そう。



「こんなとこにシューターなんておいて何がしたいってんだ」



所属の操作要員が文句を言いながらクインクレインを組み立てていく。

彼ら兵士が文句を言うのも無理もない、敷設される場所はなんと民家の屋根上にぽつりと一つだけ。



これも上からの指示なのだという。


固定飛び道具の強みは、集めて一斉砲火することで敵を根絶やしにすること。

まだまだ物資があると言うのにこの有様。



強みを殺すような配置にどうにも納得がいかない。



「こんな場所に仕掛けたってなぁ、狙い撃ちにされるだけだっつの……」



そうぼやいていると、想像以上に声が大きかったらしく地上にいたグレートナイト下士官の耳にも入ってしまったらしい。



下から怒号が劈いた。



「御託を並べるな、作業を進めろ!——…ようやく届いたか。」



これから殴りにでも来るのかと思った矢先、いきなり声量が落ちる。どうやら何か物資が届いたらしい。

弱点を晒し、殺してくださいと言っている状況を変えられる物資とは何なのか。



兎も角、そんなことを気にする暇はない。


殴られないためにも必死で固定作業に入っていると、別の作業をしていた筈の同僚が屋根に上がって来た。



「おい、射出用の槍をこれに変えてくれってさ。ついでになんかつける部品もある。俺ァシューターのことなんぞ全くわかんねぇから、とりあえずおいてくぜ」




魔具を着けて作業しているおかげか、酷く重いとしても軽々と持ち上げることができるのだろう。

要員にそう言い残すと、重い槍束の入った木箱とそれとは別のナニカを置いていく。



「この期に及んでなんだよ……なんだコレ。なんか書いてあんぞ」



度重なる無意味な指示に対して苛立っているというのに、さらには追加の案件。

酷く機嫌を悪くしながら槍の入った箱を開いた。



突然すぎることに、固定作業を終えた3人のシューター操作兵が集まる。



「追尾槍、一つ限りに着きよく考えて使う事…だぁ?ふざけやがって、どんだけ……あ、フタ裏に続きがある」



「魔具を取り付け後、速度を出している空の敵に向けて狙いを着けよ。——はいはい、んでこいつは……」



ベルハトゥの涙での戦闘時に竜騎兵に持たされた誘導ダールの拡大版。

早い話がミサイルだ。



風魔法を付与した追尾槍だという。

スコープ代わりの魔石と部品一式を装着し、槍さえセットすれば、地対空ミサイルの出来上がりとなる。



「1・2……マジかよ!3発しか入ってねぇ!」



そんなことは兎も角、射出用の槍を数えていた兵士が声を上げる。

入っていたのはたったの「3発」



高価だというのもあるのだろうが、流石に3回しか撃てない飛び道具などゴミ同然。



「なんなんだアイツらは……!」



「これでどう戦えって言うんだ」



苛立ちを沈める筈が、火に油を注ぐ結果となってしまった。









————————―








これも第14重騎動中隊の一面だが、中隊の主役と言えば重装甲化された騎兵 グレートナイトである。



彼らにも最新装備が惜しみもなく供与され、今はそれらの取り付けが行われていた。

届けられたのは「ユンデル式魔甲感知装甲」なるものらしい。



「これ以上重くなるのは御免だ」



一人の重装騎兵グレートナイトが呟く。パワーアシストのための魔具を人馬共に付けられ、その上から分厚い装甲が施されている。



アーマーナイトに劣るとはいえ、ライフル弾程度では倒すことは出来ない。



だがユンデル式の装甲とは根底的に異なり、大っぴらに配備できるようになった半面、重量が増加してしまっている。


動きやすさは深淵の槍所属パラディンとはどうしても差が出るのだ。




別の兵士が全身に着けられたブロックに対して窮屈そうに首をひねり、肩を回す。



「ってもこのハコ1つ1つが弾避けなんだろ?ありがたいけどよォ、そうじゃねぇんだよなぁ。お前もつけてみろよ、どうせレンガ塗れにする必要なんてないらしいし」



行動できないという訳ではないにせよ、常に機動力が求められる騎兵にとって大きな足かせとなるかもしれない。



それだけのリスクを負う代わりに、あらゆる飛び道具を感知。

爆破魔導ヴァドムで吹き飛ばして相殺できるらしい。



特殊装甲を着けた兵は訝しむグレートナイトへと勧める。



「おお」



気が進まない様子だったのが一転、動きを邪魔しない場所に着けられることを知るや否や

感銘の声を上げる。



中空なのか重さは大して増えず、関節にさえ付けなければ動きを邪魔しない。


あまりの掌返しにブロックまみれのグレートナイトは呆れながら呟く。



「食わず嫌いかよお前は」



かくして、最終決戦へと準備を進めていくのだった。



次回Chapter273は1月20日10時からの公開となります。


登場兵器

・グレートナイト

上級騎兵パラディンとは趣が違い、装甲が取り付けられた騎兵。馬と人間両側にも魔具が付けられたうえで運用される。

装甲は25mmとアーマーナイト程度ではあるが、銃弾を弾く機動戦力の出現はあまりにも脅威。


槍程度を装備した歩兵では絶対に勝てない。

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