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Chapter270. Proclamation

タイトル【宣言】

視点を現在進行中の戦争、ファルケンシュタイン帝国に移そう。


既にSoyuzは首都に至る県、すべてを制圧し、中心まで迫っていた。



終戦間際になってくると一般的には負けている側の悲壮や末期感が漂ってくる。

こちらの方はドラマ性が多く語ることが多いし、確かに話としては絵になるのは確か。


だからと言って追い詰めている側が高笑いしながら酒をかっ食らっているかと言われれば違ってくるだろう。


戦う仕事もさることながら、書類仕事も必然的に増えてくるのだ。



これがなかなかに辛い。



ユンデルの証言から帝都には3万近い兵員が投下されており、ただでさえ不利になりがちな市街戦に持ち込むのは得策ではないと判断。


そこで重輸送機から散布する勧告文と放映するための原稿を書くことになった。



「——ということで直筆文をお願いさせていただいた次第です」



本部拠点に居たソフィアに、冴島は一筆書いてもらうようお願いに参る。後ろには権能中将や、どこからか湧いてきたフィッシャー少将など、味のある面接官が盛りだくさん。



現実世界では早々見られない、人間の上位存在 神を前に誰しも内心戸惑っているが、此処にいるのは高貴な軍人たち。それを一切見せない。



「ついにこの日がやってくるとは思っていました」



自らの国民に降参せよ、という旨の文章を記すのは並大抵ではできないだろう。

それも暴走している集団としてではなく、侵略している側として書かなくてはならない。



帝国の成り立ちからとして軍隊が暴走しているのは言うまでもないにせよ、酷なのは天地がひっくり返っても変わらない残酷な真実が突き刺さる。



こうした皇族としての立ち振る舞いが試されるため、日々レクチャーが行われてきたのだろうが、最悪な形で実践する形となってしまった。









—————————————










文に詰まった時にはとことん筆が重いものである。

Soyuzはそこまで酷ではない。冴島はあるものを差し出した。



「……参考になるかどうかわかりませんがコレを」


差し出された文章は3つ。



「私の祖国が似たような状態になった時に出された文章です。1つが放送原稿、もう一つが声明文。最後は散布するビラ用に書かれたものです」



俗に言う「兵に告ぐ」と呼ばれた文章群。

帝国と同じような状態に陥った時、事態を収拾するために発布されたもの。


勿論、学術旅団が使っているダザイを使って翻訳済みで即座に読むことができるだろう。



これ以上抵抗せず投降せよ。もし抵抗をするならば神に対する反逆者とみなし、容赦なく排除する。

というのが主な内容だ。



神の後継者がその場にいて、それが征伐に動いていること。

また無用な争いを避け、謀反を起こした中枢部だけを狙い撃ちにしたい。



奇しくもそのような状態がいくつも折り重なったからこそ、この文章たちが手本とされたのだろう。


そしてあえて直筆文という形を取ったのにも訳がある。

元はと言えば帝国を納めていたのはワ―レンサット皇帝で、先代の神の後継者。



神という立ち位置と力を正式に継いだ、新世代の人間が自ら考え記した直筆文と肉声は事態を鎮圧させるための非常に強力なファクターとなる。



いざ、執筆開始。












————————————————









———3時間後



かなりの時間を消費して完成した文章をダザイにかけて査読にする3人。



「兵に告ぐ成分が多すぎますね……冴島、どう思う」



「お言葉ですが、もう少し……こう。戦意を削ぐようなワードが欲しいとは思います。投下される戦力が膨大なので、少しでも削げれば」



苦悩の末に出来上がった文章は、手本に引っ張られ過ぎていたようで独自性に欠ける。

この場では良いだろうが、後々このことが発覚した場合が恐ろしい。



「独自性……オリジナリティ……」



殿下は唸りながら原稿用紙に万年筆を立てる。


それからというもの、一応、な形が出来たのか何時間もかける必要もなく、すらすらと筆を滑らせること30分。

次の文章が完成した。



「ちょっとオリジナリティが出すぎじゃないですかね、中将」



フィッシャーが翻訳文を見て言葉を詰まらせながら権能に耳打ちする。



「確かに。いや、前よりはだいぶ改善されたとは言え……どういっていいかわからんな……」



普段からお堅い戦艦男。


そんな中将が腕を組み、本気で困惑させる代物が完成してしまったらしい。

最早ジョーク兵器の類として運用できるのではないかと思う程。



マトモな将校にこのような血迷った考えをさせてしまう程の文章だ。



「非常に申し訳ないのですが、やり直し……ですね」



気まずそうに冴島が次の原稿用紙を渡す。



「Uhh……」


確実に後世に受け継がれるような文章。著者であるソフィアは臆することなくペンを執る。







——————————————








「 我が名前はソフィア・ワ―レンサット。ヤルス・ワ―レンサットによって選ばれ、神槍を受け継ぎし正当なる後継者である。


これを読んでいる民や兵、士官は来るべき新しい秩序のため誠心誠意、国に忠を尽くしてきたのであることは承知の通りである。



だが、勅命が発せられたのである。

帝国軍に所属する兵は皆、復帰せよと神 ソフィア・ワ―レンサットからの勅命が下されたのである。


あくまで抵抗を続けるならば、神の意思に背くこととなり逆賊として容赦なく排除しなければならない。



この世に生を受け、誇り高き軍人として生きてきた諸君らが、反抗的な態度を取るならば偉大なるファルケンシュタインに背くことと同じである。



今からでも決して遅くはないから、直ちに抵抗を止め投降し、神の下へ帰結せよ。

そうすれば長きにわたる間違いも許されるのである。



優秀な兵である諸君らが戻ってくることを、我 ソフィア・ワ―レンサットも心から祈っている 」



権能がすらりと一文を読んで見せた。公の場に出ることが多い中将だけあって、一切噛まずに読めるのは流石というべきか。



「まぁ、このようなモノでしょうか」


冴島の評価も上々。

一応これで朗読する原稿は完成した形となる。



しかしソフィアの考えは鋭利なナイフのように現実を突き付けてくるのだ。



「それでも「まだ」書かなかければならないモノはあるのでしょう?」



あくまでもまだ途中。

問題は上空から散布するビラについてなのだが、原本からかいつまんでセレクトする必要があるのをお忘れなきよう。



気まずそうに冴島大佐が次の要件を口にする。



「その通りで。—————次はビラの原本を書いていただきたいのですが……」



帝都攻略戦3種の神器が揃うのはもう少し先になりそうだ。












———————————————









「おっせーな……Fuckが……いつまでかかってんだよ!小学生の作文か!」



マディソンが待ちくたびれたのか悪態をつく。


それも無理はない、新聞さえも擦れてしまう輪転機の前でひたすら待ちぼうけをくらっているのだから。



ちょっとした伝達ミスがあり、かれこれ6時間ほど暇を持て余している。


というのも彼に与えられた仕事は大量に複製されたビラを運びだすこと。


地味極まりないが、どこの組織でも縁の下の力持ちや、こうして目立たない場所で働く人間が必要不可欠。



しかし原本が届かなければコピーのしようもなく、こうして待ちぼうけを食っていたのである。


死ぬほど忙しい中での6時間は流れる様に過ぎていくが、いつ来るかわからない状態で待つ6時間はもはや苦痛耐久試験。



人間、なにかと虚無を耐えることが一番精神に堪えるのだ。


それに苦行をしていたのは彼だけではなく、機械のオペレーターも同様で専用に設けられた印刷室には異様な空気が漂っているのだった……


次回Chapter271は1月6日10時からの公開となります。

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