Chapter268. Battle of the Underground Labyrinth
タイトル【地下迷宮の戦い】
前の入り口が塞がれていたにも関わらず、いきなり背後から何故敵が出現したのか。
制圧部隊が抱える疑問の1つだった。
確認した時には待ち伏せはもちろんのこと、怪しいものは一切見出すことが出来てないこともあり猶更である。
部隊は行き止まりから引き返し、襲撃を受けた場所まで来ていた。
「ここで襲撃されたんだな」
「ええ」
斧マニアと戦車のお陰で何とかはなったが、これがいなかったらと考えると寒気がする。
【Two-hornからロジャー。敵は物音を立てた直後に襲って来た】
いかに魔導を使えども虚無から現れることは不可能なので、調査を進めることに。
戦車からの無線状況から考えると、幻術等を使われたことはあり得ない。
それに幻惑させてきたとしても、Soyuzスタッフのつけている光学機器で見破れるハズである。
「それに出てきたのはソルジャーにソーサラーとかの軽歩兵ばかりで」
斧マニア曰く、アーマーナイトやスナイパーなどは見られなかったらしい。
待ち伏せしていた連中ならば出てきたにも、関わらず。
何か引っかかる。
帝国軍もとい異世界において行動半径がヒトと変わらず、確かな壁となる重装兵の存在は欠かせない。
弱点と言えば、ひどく重く横にかさばること位だ。
そのため軍事施設などは、軽戦車が通れるほどの大きな幅を取るのが定石。
まさか。いやロンドンの連中ならあり得る。そう直感したロジャーは兵士に命令を下した。
「壁を調査しろ」
「了解」
似たような地下施設を襲撃していた彼は隠し通路があるのではないか、と感づいたのである。
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□
「やっぱりな。ありましたよ隊長、短絡路が!」
先ほど魔導士を屠った勇者エイツィンが声を上げた。
やはり想像通りと言うべきか、ロンドンはこのバイパスを使って挟み撃ちにでもしようと考えていたのだろう。
隠し通路付近で事切れていた敵はソルジャーキラーを手にしており、狭い通路内で火力と貫徹能力で
撃退するつもりだったのは明白。
戦車兵が耳にした物音は、恐らく蓋を蹴とばした際のものだったに違いない。
十二分に壊滅しうる危険な罠が仕掛けられていたのである。
「わかった、エイツィンが先行しソーサラーと軽歩兵は後ろに続け」
人間を送り込めるというのは、当たり前だが別の場所に繋がっていることを意味する。
ロジャーは彼の端末から発進されるビーコンを見ながらこう命じた。
「了解」
盾を構えた戦士は一際狭い隠し通路に足を踏み入れる……
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□
地中に張り巡らされた点と線。
かなり突貫工事で作られたようで、これでは重装甲を着込んだ兵士が動けないのも無理ない。
道理で出てこなかったのだと納得がいく。
魔力灯が炊かれている訳もなく、更に地中ということもあって光の1つもなかった。
頼れるのは赤外線暗視装置と、一定間隔で放っているアドメントだけだ。
直線状にスパークが弾けている他にゴーグルにも不可思議なカゲが映っていないあたり
本当に出尽くしてしまったのだろう。
分かっている範疇では。
その傍ら、ロジャーらの後方部隊はビーコンを見守りながら逐一反応を伺っていた。
付近で止まっていたドットが再び動き出し、交差すると奥へと向かっていく。
【こちらロジャー、敵兵は】
地下二階は全く持って未知の領域ということもあって、彼は先行するエイツィンに連絡するが、なかなか返事がこない。
暫く経ってから、うめき声が混じりながら返答があった。
【敵兵排除。今の所見られず】
【了解】
このダンジョンは果たしていつまで続くのだろうか。
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□
——地下第二層
BooooMM………
地下をもう一回降りてみると、敵兵の数はほとんど見られず代わりにより一層強い海風が肌を打ち付ける。
あまりにも強いため上下左右を見渡すと、構造自体もダメージが入っていた。
第一階層を貫いた51cm砲がここで起爆し、大惨劇になったのだろう。
敵は籠ったまま陣地を砲弾に貫通を許し、そして吹き飛ばされてしまったというのが大まかな流れか。
先ほど忍び寄って頭をカチ割った敵以外、ここには人員すら配置されていない有様。
スプラッタ映画のような惨状になっていて、流石に気の毒になってくるが兵士が居ないがらんどうなのは進むのにうってつけだ。
かくして隊長ロジャーの位置を参照しながら進んでいると、B1階と繋がっているスロープを発見。
分かれ道の先が見事なまでのサンセットビューになっており、爆発の余波で崩落したのだろう。
もしもここに居たら、と言う事を考えるだけで恐ろしくなってくる。
「これ爆破で行けるか?」
「いけそうですね」
エイツィンは味方のソーサラーと行き止まりをどうするか話し合っていると、どうやら爆破できそうとのこと。
ただし勢いで爆破しては元も子もないため、一旦指揮官に連絡を取った。
【こちらエイツィン。現在通路の向こう側に到着、発破しますか?】
【ロジャー了解。指示を与えるまで動くな】
【了解】
ダンジョンは常に仕掛けとの戦いでもある。
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【退避完了、発破作業にかかれ】
【了解】
まさかここに来て爆破式トンネル開通などするとは思わなかったが、ロンドンの地下施設では日常茶飯事である。
というのも、往生際が悪くバリケードを作ってきたケースもあるので慣れっこなのだ。
だが、開通に使う爆破魔導【ヴァドム】だが、爆風だけでも迫撃砲の直撃にも匹敵する。
軽装甲車両なら大ダメージを受ける威力を前に人間が耐えられるはずもなく、吹き飛ばす方、される方両者は退避が欠かせない。
でなければ死ぬからだ。
部隊は遮蔽物に隠れながら周囲を警戒。
杖を持った先任者が意識を集中させ、矛先を瓦礫の山に定める。
——BPHoooOOMM!!
崩れた残骸が強烈な勢いで四散した。
直撃すれば肉体が砕けると言われているヴァドムの威力がしみじみと伝わるだろう。
高さ的にまだまだ戦車が奥に立ち入れることを確認すると、履帯を軋ませながらゆっくりと2号戦車たちが後を追う。
——第二階層
地下二階に部隊がたどり着いても尚、ロジャーは索敵を怠らない。
丁度侵入してきたのと反対側。
島の裏側から海風が吹き付けていることが改めて良く分かる。
恐らくその先に繋がっていたのは発進口。
サウスパークの猛攻でガタガタにされ、51cm砲が止めを刺したのだろう。
しかしこの地下壕を潜ってみて分かったことがある。
限られた面積の島を活かすため、小腸のようにうねりくねっているのだ。
つまりそれだけ構造強度が落ちており、砲弾が貫通してしまうのも無理はない。
しかし敵がこれだけ配置されていないのも奇妙な状況ではある。
静かすぎる、気味が悪いくらい静かだ。
「ここにも敵がそこまでいなかったのか?」
「ええ、排除した一人以外は。それもかなり妙だったんですよ。人気も死体もないのに血の匂いだけはするんです」
敵を見かけたという勇者も、何か違うと踏んでいたらしい。
人気がないにも関わらず、鮮血の匂いがするのは明らかにおかしい。
惨状と言い表すならば亡骸が転がっているものだし、それすらないのは不自然極まりないのだ。
「了解。留意して進め」
もぬけの殻となったB2階を突き抜けて、制圧部隊は進む。
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□
——第三層
丁度このB3フロアで丁度スロープは途切れており、恐らくこの階層が最後になるのだろう。
しかし3次元ではいくらでも通路を伸ばせる以上、ひょっとしたら別の場所に下へと繋がる通路があるかもしれないが。
かくして暫定的な最深層へとたどり着いたロジャー達。
ここは異様な様相を呈していた2階よりも奇妙、どちらかと言えば異常な事態が起きていた。
「火災でも起きてるんですかね、隊長。我々は後ろで控えていた方が」
「……了解。それにこれを見ろ」
身内の意見を参考にしつつ、彼は壁際に転がっていたあるものを指し示す。
そこにあったのはソルジャーだったであろう亡骸。
焼き焦げている上に下半身はなく、残虐極まりない手腕で作られた惨殺死体かと思われたが、ロジャーは続ける。
「よく見ると刃物を受けたような跡がない、どちらかと言えば食いちぎられた跡だ。
……恐らく内輪もめよりも厄介なことが起きていると踏んだ方がいい」
異世界に広く普及している竜騎兵やペガサスナイトといった航空戦力は、何が何でも動物を利用せざるを得ない。
飛竜、ワイバーンは雑食とはいえ肉を喰らい野生帰りした個体は討伐依頼が出されるほどである。
分かりやすい話がクマ牧場のクマと言えばそれらしいか。
そのような危険性物が、ロンドンのような適切な管理とは言えない中飼育され、このような状態に陥った場合。
腹を空かせた上位捕食者たちは人間を喰らうことしか頭になくなるだろう。
この焼かれ、食いちぎられた死体がそれを証明してしまっている。
人気も死体もなく、ただ血の匂いがしたのは解き放たれた猛獣が獲物を喰らっていたから。
そのテリトリーに足を踏み入れた突入部隊。
いや侵入者もとい「エサ」を感知しないほどケダモノは鈍い生き物だろうか?
GRRRRRRRRRRR!!!!!!!!!
洞穴の奥底から恐怖という恐怖、克服したハズの本能に眠る絶対的な感情を呼び起こすような咆哮が響く。
ここでの敵はロンドンではない。
猛獣だ!
次回Chapter269は2024年1月2日10時からの公開となります。
今年もご愛読ありがとうございました。




