Chapter263. Battle with no foreseeable future
タイトル【先の見えない戦い】
——駆逐艦モンティパイソン
1隻で3隻の船と、5機の敵航空戦力を相手取ることになった駆逐艦モンティパイソン。
こちらに狙いを引き付けるために単身突撃し、これらすべてを撃沈することになった。
けれど相手がいくら帆船でも、相手の速力は駆潜艇よりも上で侮れない。
——ZDANG!!ZDANG!!
波をかき分け、しぶきを上げながら駆逐艦は海を駆ける。
正面に着けられた連装砲から、天高く飛ぶ竜騎士に向けて砲弾が放たれた。
これらの砲弾は全て時限信管。
一定の時間が経過すると炸裂するようになっており、いくつもの爆炎がぽつぽつと花開き、まるで花火のよう。
対空機銃と違って一発しかないように思えるが、炸裂と同時に見えない大量の破片が四方八方から襲うのだ。
BATATATATA……
更に20mmや40mm機銃の雨が海から空へと降り注ぎ、なおも突き進む様子はまるでやママアラシを思わせる。
それが竜であろうと、気高き天馬であろうと選ばず八つ裂きにし、一人の竜騎士が空中分解しながら海へと墜落していった。
【敵機撃墜】
これで空の敵は残り4つ、状況は少しも改善する前触れすらない。
海上に視点を向けると、射程距離はこちらが一方的に殴れる間柄にいる。
「舵戻せ。1番主砲、撃ち方止め。敵艦を撃て」
ZDoooOOONNNG!!!! ZDoooOOONNNG!!!!
甲板上に巨大な薬莢が1度に2つ飛び出しては、海へと転げていく。
戦艦の主砲と比べると一見して取るに足らないように見える12.7cm砲だが、対空射撃にも転用されるだけあって4秒間に1発の砲弾を正確に撃ち込むことが出来る。
敵からの熱線をかき分けて砲弾は突き進み、側舷に着弾。
【弾着確認】
「塵も積もれば山となる」という言葉を体現したかのように、海賊フリゲート船に着弾すると、木で出来た武装デッキや側面の副砲をむしり取っていった。
防御力の低さが仇となったのである。
それだけに留まらない。
大量の榴弾。
つまり爆発物が凄まじい勢いで可燃物に投射させられるという事は、火の手を呼び込むことを意味する。
【敵艦火災発生、敵機撃墜】
空や海など、逃げ場のない空間においての火災は鎮火できるか否かがカギ。
火の手が轟々と上がっている中でも容赦なく弾が撃ち込まれていく。
VEEEEE!!!!!
空の敵は着々と撃墜していっているものの、モンティパイソン上空に光幕が差し込まれ、
つけいる隙を与えない。
ヤルス・ワ―レンサットからの援護射撃だ。
絞りを大きく散るように発射された魔甲砲は、目に見える熱線だけではなく周囲の余熱も決して馬鹿に出来ない。
枯草に火を放ったように、凄まじい勢いで焼かれていく飛竜。
揚力を失った空騎士の運命は海への墜落、そして海底への片道切符が与えられる。
一方で火災が起きた敵艦はあっという間に火の手が回り、少しずつ確実に海の藻屑となっていた。
所詮は粗悪なガビジャバンの小型船をコピーしただけの代物であり、帝国軍の戦艦にも狩られる脆弱な存在である。
砲塔が油圧の力を受けて機敏に旋回すると、次の道連れになる敵に向けて砲撃を続けていくのだった……
—————―
□
——ヤルス・ワ―レンサット
絶えず対空戦闘が繰り広げられる甲板。
拵えられた対空機関砲がうなりを上げ、薬莢が海へとなだれ込む。
——ZLDADADA!!!!
一時は艦載騎を押し返す圧倒的な数を誇っていたロンドン空賊だが、巡洋艦サウスパークによる発進口潰しや、駆逐艦バイシクルリペアマンによる待ち伏せによってお得意の増援が出せなくなっていた。
事実上残っているのはこのヤルス・ワ―レンサットの周囲に居る手合いであり、敵の弾数はあまり残っていないだろう。
これは離発艦を繰り返していた艦載されたペガサスナイト・ドラゴンナイトたちのお陰でもある。
牽制からドッグファイトと呼ばれる空対空戦をこなしてくれる彼らなくては、強襲用幻影竜母ヤルス・ワ―レンサットが成り立たない。
「敵機撃墜」
これで艦を突く鬱陶しい蜂はひとまずいなくなった。
続いて作戦行動中の兵士を内部に片付けなくてはならない。
この作業を終えないと側面にある副砲の邪魔になるため、あまりゆっくりと作業はしていられないだろう。
天馬騎士は高度と速度を落としながら蹄を飛行甲板に打ち付け、通常の馬の時のように大きくのけぞるようにして揚力を落としながら着艦し、開いたハッチから艦内に入っていく。
一方で竜騎士の方はというと、体勢を垂直に近くして揚力を落とすのは変わらないものの
やや失速しかかりながらも、がっちりと2本の足で足場を捉えて大地に足を着けて見せた。
「右舷飛行甲板、収容完了」
「了解」
かくして回収が完了した訳なのだが、ここで引っ掛かることがある。
まだまだ洋上には船が出ていないと言う事だ。
ロンドンの本拠地に殴りこんでいるというのに、挟み撃ち狙いに出てきた3隻だけ。
海賊沈めに沈めてきたギンジバリスならおかしいと思うだろう。
明らかに出し渋っているのではないか、と。
「1番・3番主砲、収束率5割に変更。偵察部隊を発艦、索敵開始」
いくら自分が海の英雄と言われてきても、人間と言う枠組みの限界はある。
よって彼はこう考えたのである。
敵艦がいないのではなく、見えない位置に「居る」
それに加え、今までの海賊と違い敗残兵か元帝国軍の人間が動かしているのではないかと。
「左舷副砲撃ち方止め。2番甲板、射出用意」
砲術長が指示を出し、射出用意を整える。
宇宙戦艦と帆船の特徴持つ不可思議な艦のため、射出の際には副砲が撃てなくなる。
本格的な戦闘を迎える前に出せるだけの戦力を出す必要があるのだ。
左舷にあるハッチが開き、細長く突き出た飛行甲板に偵察役の一人の天馬騎士が降り立ちカタパルトに固定。
「固定完了、射出!」
——BEEEP!!
木のバネが生み出した強烈な反発力が天馬に乗り移り、加速しながら偵察兵が飛んでいった…
—————―
□
エリーシェン群島沖17km地点
——ロンドン3型フリゲート
視点をロンドンに移してみると、航空戦力がろくに出せないこの状況は非常に不利である。
撃墜されていく数も多いのだが、何を隠そう補填する勢いが露骨に落ちているのだ。
そして一番恐れていた「島からの支援が無くなる」という事態が起きている有様。
この3型フリゲートは遠方にいる未知の巨大船に狙いを定めている。
というのも最新の強力で長射程の魔甲砲を搭載しており、なおかつその使い方も上手い。
旗艦と見て良いだろう。
だが搭載している武装は軽いものがほとんどで、およそ4倍近くある船を仕留められるはずがないのは明白。
何としてでも背後から近づいて、乗員を送り込まなければ勝機はまずない。
だが幸運なことに、敵は気が付いていないようだ。
「全速、回頭しながら接近せよ!」
艦長命令が木霊する。
飛んでくる熱線から察するに、砲配置は船尾と船頭に1つか2つで、旧式戦艦に毛が生えた程度か。
ならばちょうど主砲デッキと、副砲の間に潜り込めば何もできなくなるはず。
するとブリッジで索敵をしていた兵の声があることに気が付いた。
「親方!空から見張りが来てます!」
「待機させてる騎兵を出せ!」
「了解!」
偵察は最優先で叩き落さなくては船の位置を割り出される。
射程が嫌に長い旗艦に居所を突きとめられれば一貫の終わりだ。
駆り出さねば殲滅が出来ないヤルス・ワ―レンサット
見つかれば一貫の終わりのロンドン海賊のフリゲート。
生き残りをかけた激しい戦いはまだまだ終わりを見せない。
防御力も火力もない器用貧乏なロンドンのフリゲートだが、それを覆す程の利点がある。
他の船と比較にならない程の小回りの良さと、すぐに速度が出せることだ。
現実世界の軍艦もそうだが、大きくなればなるほど、重くなるほどなるほど基本的に機動性は悪くなってしまう。
長所を持たせると短所が出来てしまう、そんなジレンマの一つだ。
しかし物は使いようという言葉があるように、一見して勝てそうにない相手でもやり方ひとつで逆転できることがある。
ZAAPP!!!!ZAPPP!!!!
波を切り裂きながら勢いよく海賊船は突き進む。
だが良いことは戦場では起きるどころか、刻々と状況が悪化していくのは分かり切っていた。
「味方が撃墜された!?——ん?引き返した?」
なんと、迎撃に上がった竜騎士が即刻撃墜されてしまったのである。
絶体絶命、背水の陣に置かれた艦長はそんなことを気にしてはいられない。
「このまま突き進め。総員、陸戦用意!」
船は類まれなる高速、時速40kmで迫っている。
スロースターターな戦艦と比べれば猛獣のように素早く、最悪位置が発覚しても迅速に離脱すれば良い。
そのことを艦長は良く知っていた。
だからこそ攻撃要員を全て渡船戦闘要員に全て割り振り、旗艦を乗っ取って自沈させるという賭けに出ることに。
やるか、やって死ぬか。拒否権はハナから存在しない。
「突撃に関して、他船に伝達しました」
ブリッジにいる兵が艦長に問う。
「了解。旗艦を沈めば敵も撤退せざるを得ない」
指揮官を失った部隊は撤退せざるを得ない。軍上がりの船長だからこそ分かるものがある。
今までの海賊は素人に毛が生えた程度でしかない。
だからこそ戦略的価値の薄い目標。
つまり攻撃しやすい目標を狙って返り討ちにされるか、囮に引っ掛かるのだ。
戦争と言うのは敵の頭脳を潰すかが問われてくる。
生き延びるために略奪をするのとでは、まるで勝手が違うことを分かっておかないといけない。
「敵艦発見!」
そのままぐんぐんと進めば全貌が見えてくる。強襲用幻影空母ヤルス・ワ―レンサット。
帆船に連装砲を3基6門括り付け、側面には更に飛行甲板を備える奇妙な融合獣。
「角度よし、そのまま突っ込め!」
——SHHHHHLLL……
そう指示した瞬間、突然信じられない程濃い濃霧が出てきた。視界が1mもない。
天気は晴朗、場所は海。
山のように濃い霧は出ないし、今はもう朝霧が出るような時間ではない筈だ。
視界は最悪のことこの上ない。
そもそも甲板でも迷子になりかねず、人とぶつかってしまう程。
旗艦の位置など分かったものではないし、自分の居る位置も検討が付かなくなってしまった。
一体何が起きたというのか。
—————―
□
時はフリゲート船からの迎撃兵が撃墜された辺りにさかのぼる。
——ヤルス・ワ―レンサット
【BONAN018敵機撃墜】
艦載ペガサスナイトからの連絡が届いていた。
ギンジバリスは今まで目をつけて来なかった、島の西側に偵察兵を送り込み様子をうかがわせていたのである。
【YALTH了解。帰投せよ】
だが撃墜したということは間違いなく敵艦が居ることが確定した。
では武装と装甲が乏しく、小回りと速度が出る船のすることとは一体何か。
言うまでもない、接近して兵を送ることである。
レーダーも何もない以上、近づく際に頼れるのは目視だけとなる。
そこでギンジバリス提督は無線機を取り旗艦に向けて連絡を取った。
【こちらYALTHからSOUTH PARK。これより広域視野妨害を行いたい】
【こちらSOUTHPARK。フィッシャー少将だ。YALTH及びヴェノマスへ。レーダーリフレクタと通信設備を確認し一報せよ
確認が取れない限り視野妨害は許可できない】
ヤルス・ワ―レンサットという軍艦は「戦艦」でも「竜母」でもない。
幻影を発生させる、戦艦の大火力を持ちながら航空戦力を運用できる竜母という船である。
敵には濃霧を、こちらには快晴そのものという不条理を押し付ける存在。
よって敵味方は隙だらけになるだろう。
しばらくすると、ヴェノマスにある本部からの通信が入った。
【V-HQから各艦。レーダーリフレクタ、通信設備点検完了】
敵の大体の位置は掴めている。
味方は濃霧の迷宮に閉じ込められることはない。
【こちらYALTHから各艦。これより広域視野妨害をかける。各艦、計器類で対処せよ】
「偵察騎収容後、視野妨害開始。主砲1・2・3番、収束率は可能な限り下げ散開。方位0。撃ち方はじめ」
敵が突撃している中、突如として濃霧に包まれれば混乱する。
まだ敵位置が確定していないため、散弾を使うことで敵設備を破壊。
あるいは火災を発生させ、見えやすくなったところを精密に消し飛ばす。
言わずもがな。
確実に撃沈するために、ギンジバリス大佐は幻影機能を使ったのである。
VwoooOOOOMMM!!!!!
夥しい数。
まるで夜空に浮かぶ星が一斉に落ちてきたかのように、熱線が放たれた。
拡散するように撃つと砲身への負荷が減り、冷却も速く済む。
その反面、火災を起こせる程度に威力がかなり落ちるのだが、耐火加工など微塵も施されていない船相手でボヤを起こすのには丁度いい。
これで終わりであるハズもなく、次から次へとギンジバリス提督からの指示が飛んでくる。
「索敵と冷却急げ。全主砲、収束率7割に変更」
間髪入れずに艦橋にいた見張りが、ついに露わになった敵艦を発見したようで報告を上げた。
「敵艦発見。方位050、距離12000数5。敵艦火災発生」
火の手が上がると遠くからよく見えるが、敵はこちらの位置がさっぱりわからない。
気が付かれず忍び寄っていたはずが、いつの間にか喉元に刃を突き立てられていたとは思いもしないだろう。
「1・2番主砲、方位050。撃ち方始め。
左舷150度回頭後、3番主砲 方位050で撃ち方始め。確実に仕留めろ」
提督の冷たい指示を受け、魔力充填が完了した主砲から熱線が次々と放たれる。
VEEEEE!!!!!
正確にして、触れたものを全て蒸発させる邪悪な光がロンドンのフリゲートを襲った。
天からの光が悪魔を浄化するように、跡地には何も残らない。
「敵艦消滅」
まだ作戦はようやく希望の光が見えた。
海と空の片づけが終わったら、続いては島そのものに殴り込みをかける。
折り返し地点こそ油断が出来ない。
次回Chapter264は12月20日10時からの公開となります
・ヤルス・ワ―レンサット(主砲)
エネルギー・ビームを敵に投射する魔甲砲は収束率を変えることで水のようにシャワーから水圧カッターのように性質が変化する。この主砲は対空砲でもあるのだ。
・反発式カタパルト
木といった高反発素材を使った射出器。
いわば強力なゴムパッチンなため、速力は出ず準備に手を焼く旧式。しかし蒸気式のようにスチーム源を搭載せずとも運用可能な利点がある。




