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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-3.ハリソン防衛線
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Chapter 25. Emergency: deployment of GUNSHIPS

タイトル【緊急事態:ガンシップ展開せよ】

謎の軍勢によるハリソン夜間襲撃はなおも続く。


外からの敵襲は機関銃の雨でようやく殲滅ができたが、Soyuzとハリソン防衛騎士団を苦しめていたのは内部からの伏兵だ。



ファルケンシュタイン帝国 国家安全保障省の精鋭部隊深淵の槍。


Soyuzはこの謎の集団の正体であることは知る由もなかった。


平凡な精鋭すらも蹂躙できる人間をかき集め、掟破りの性能を誇る兵器で武装したスパイや国家反逆集団をあぶりだして始末する。


それが本来の役割だったが、軍事政権に移行してからはレジスタンスや再革命や自由を求める集団、それに与した街や県の人間を皆殺しにする部隊へと変貌した。




驚異的な情報網を用いて、検問をかいくぐり続けた皇族の捜索と反乱軍の抹消を繰り返していた矢先、新たにジャルニエ県ハリソンが反乱軍の手に堕ちたと知るや否や襲撃をかけたのである。




Soyuzと謎の軍勢の攻防は長期化しようとしていた。

敵の狙いはSoyuzだけではないために、街の防衛騎士団もその毒牙の餌食になっていく。



ハリソンの責任者と司令官を務める冴島少佐は、当初スタッフによるパトロールカーでの警告と装甲車による排除を目指していた。


敵兵は重騎兵と呼ばれる存在で自動車にも匹敵する機動力を持つこと。

さらに騎士団員の損耗、そしてスタッフも敵からの攻撃により次々に傷ついていった。




なおかつ一部スタッフからは小口径弾の効果が見られないことが報告され、自動火器を持った兵士での排除が難しいという壁が立ちはだかる。



 事態の悪化を懸念した少佐は本部基地から空からの攻撃によって殲滅すべく、本部基地からMi-24(ハインド)部隊の出動を要請したのだった。






—————








 街の中心街で西地区から逃れた騎士団23人を匿うことになったボリス。


彼の駆るBTRの周囲では襲い来る軍勢を退けつつ、バケツリレーのように別のBTRで兵員を防衛騎士団本部へと送り返す作戦を行っていた。



機関銃を使えばこそ倒せるような相手ではあるものの、自動火器がない環境下では絶対に相手にしたくない相手だとボリスは感じていた。



なおかつBTRの砲塔旋回は人力で行わなくてはならず、馬をまるで手足のように使う敵の接近を許してしまう場合もあった。



装甲があるためホースメンから飛んでくる矢こそ痛くないが、自身の後ろにはほとんど餌にされるであろう歩兵が待機している。


心むなしい壁にしかならないが、それでも守り切るしかなかった。


救援に来た空のBTRが8人の歩兵を詰め込むと少佐からの無線が飛来する。



【こちらLONGPAT、北地区に展開中のスタッフ7人が残留中、収容せよ】



北地区にもスタッフが残留しているという知らせだった。

西地区の人間を回収しきった今、のこるはここだけ。


だが不運にもBTRは乗員オーバーで載せきることができない。

再び空荷車が来るまで時間を稼がなくてはならないのだ!



【了解。現在兵員収容不能なため増援を要請し、それまで持ちこたえます】



そう言って無線を切ったボリスだったがこのペースで弾薬が減り続ける、そう考えると弾切れを起こす可能性も脳裏によぎった。


弾が切れた兵員満載の装甲車などただの固い自動車に過ぎない。


するとある団員たちがボリスに向かって口々に言いだした。



「悪いが手伝えることはないか、このまま得体の知れない連中に隙にされてたまるか」



「初めこそ異端人と思ってたが、今じゃ仲間だって痛いくらいにわかった。なぁ、俺たちにできることをやらせてくれないか」



謎の騎士団による襲撃をSoyuzばかりに助けられてばかりでは防衛騎士団の名が廃る。

ましてやハリソンを良く知る人間なのに、この始末を受けていれば団員たちはそうなるのも無理はない。


その意思を組み取ったボリスは指示を出した。



「俺が支持を飛ばす方向にこの丸っこいのについた棒を回してくれ、それだけでも十分に力になる。大至急北地区へ向かえ!」



その一言が飛ぶと、BTRのエンジンは回転数を上げ激しい揺れと共に走り始めた。



「ひでぇ揺れだ!なんだコレ!」



馬でも経験したこともないような恐ろしいほどの振動が騎士団員を襲う。装甲兵器は火力と適切な速力、さらに装甲を持つがリムジンのような快適さはかなぐり捨てている。


それに加えてBTRは棺桶といわれるほどに狭苦しい。


「慣れろ!」


ボリスの怒号が装甲車内に木霊したのだった。





—————







 北地区では早々に防衛騎士団から出撃した軽騎兵が早々に駆け付けていたが無駄だった。


敵部隊はそれすらも虫けらのように蹂躙し、残されているのは辛うじてM4で抵抗を試みいくらかの敵を撃破することができたスタッフだけ。



 物陰に身をひそめて逃げながら、辛うじて流鏑馬連中(ホースメン)こそ狙撃に成功したが依然として小銃弾すら効果がなく、かつ恐ろしい速さで迫ってくるパラディンにはこのライフルで勝ち目がない。



機銃座からも遠く、絶対絶命のそれであった。最早自分らの命は秒読み段階に入っているに違いない。他の連中は即興で偵察などに出ており、動向を探っている今二人が残されていた。



「オイ、無線を飛ばしたが救援なんて来るのかよ。クソ、このマガジンの半分も弾がのこっちゃいねぇ」



建物の隙間に身をひそめたスタッフがこう言った。連中は闇夜にも関わらず的確にこちらの位置を補足し殺しにくる。


暗視ゴーグルがないにも関わらずにこちらにやってきて槍を振り下ろしてくるのだ。


狙撃地点を割り出してきた敵になんとかグレネードを見舞うことで、奇跡的に逃げ出すことに成功したが、二度目はないことはわかっていた。



「やれることはやった、持ちこたえるしかねぇさ、俺のマガジンを1つくれてやる。俺はまだ弾薬が持つだろ」




もう一人のスタッフがマガジンを静かに渡すと、男はそれを静かに受け取った。


連中はファンタジー小説から出てきたザコではない。


まるでスペツナズか何かを相手にしているような感覚だ。

自分たちが生き残るためには静かに息を殺し、機会を待つほかない。



隙間に潜みながら偵察に行ったヤツからの報告を待っているその時だった。



 こちらを見るパラディンと目があったのである。その目じりは血走った獣の瞳のように赤く光っている。


この距離ではあっという間に迫ると馬が脇腹を見せながら騎手が天高く大槍を振り上げた。


もうだめか、こんなクソみたいなところで死ぬのか。


スタッフはそう思った。死期を悟った瞬間、爆音が響いた。



———VLALALA!!!―――



そして圧倒的な光が重騎兵を照らした。あまりの光からか思わず敵はひるむが、その光の主は一体何なのか。スタッフは闇が広がる空を見上げる。


そこには白いハインド(Mi-24PS)がホバリングしていたのである!


本部基地からの増援に他ならなかった。

追うようにしてハインドVが街へと散っていった。



サーチライトによってもたらされた明かりからは逆光で空飛ぶ戦車のシルエットが浮かび出た。


敵地で遭遇したくない存在が味方になった今、心強いほかない!



すぐさま始まる攻勢の巻き添えにならないようスタッフは隙間のより奥に逃げると、純白の救世主は地上に強烈なダウン・フォースをもたらしながら、間髪入れずに機関砲を敵目標に浴びせた。




———DAMDAMDAM!!!




鈍重な音が辺り一面に響き渡ると、その辺りは影も形もなくなっていた。


小銃弾を軽減する装甲があろうとも戦車の上部装甲を貫く強力な機関砲の前にはクラッカーのように散っていく。


ハインド5機の増援によって形勢はSoyuz側に大きく傾きつつあった。


空飛ぶ戦車の異名を持つ攻撃ヘリコプターの速力と空という絶対的アドバンテージを持つ以上、いくら精鋭の騎兵であろうともまるで抵抗できぬまま蹂躙されるのも時間の問題。



防衛騎士団やSoyuzスタッフの大きな脅威となっていた重騎兵は瞬く間に姿を消した。



【こちらcrown01、BTR応答せよ。残留したスタッフを発見。誘導する】



【こちらBTR、了解】



もう一機のハインドPSによって発見されたスタッフに向けて誘導されると空荷のBTRが来ることで、彼らと自力で帰投した兵員の数を照らし合わせ、すべてのスタッフが帰還していることが確認できた。


残りは街に迷い込んだ敵を駆除するだけにとどまっていた。


圧倒的な射程さと防御力の前ではあれだけの猛威を振るった騎兵集団はあまりに無力であり、数時間が経過すると蹄鉄の音がぱたりと消え失せていた……




——————





 諸行無常か、自然の摂理に従い夜明け、日が昇る。



損害確認がハリソンの街中で行われた結果は市民の犠牲はなかったが、その代わり騎士団の7割近くの兵士が戦死しており、無事な兵士はわずか数人だけに留まっていた。


Soyuzスタッフも重傷者が8名も出ており、負傷者はうなぎのぼり。


ほとんどが丸裸に近い警備要員や非装甲の増援が占めており、この世界の戦術がいかに人間を殺傷するのに最適化しているかを物語っていた。



 街中から集められた戦死者は完成したばかりの飛行場に集められ、火葬を待つばかり。


生き残った騎士団員やSoyuzスタッフも業務にあたったが、ガンテルでさえも口を固く閉ざし、皆が何かに取りつかれたかのように顔は死に絶えていた。



 同時に少佐は中将にこの事態の報告を行う事に。

この場の最高責任者は少佐であり、冴島自身も敵を招き入れたことや犠牲を最小限にできなかったことを悔いていた。



「報告ご苦労。敵を招き入れた要員は高度な敵の偽造工作が原因とある。帰投したヘリ部隊が持ち帰ったお前の報告書に目を通したが、X線検査機があればこのような事態になってはいまい。こればかりは流通を整備しなかった俺に責任があるだろう」



「加えて搬入に使われた通行手形だが偽造の痕跡は見当たらない、正規のものになるとあったな。推測する限り軍隊の管轄では当然このような芸当はできないだろう。またこれら検問は騎士団が行っていたこともあり防ぐのは難しいと考えている。正しいものを疑えというのが無理な話だ」



「少佐は予見できた可能性もあるが、これは結果論に過ぎん。お前の指示によってスタッフの死亡者が出なかったことも大きい。この街の人間が皆殺しにならなかったことを鑑みて、これらの不祥事は不問にする。」



無線にて本部拠点に居る中将にこれらの事態に対して報告を上げた。


中将は報告書からの事実を照らし合わせ、報告に対してそう告げると


しかしその言葉尻には棘が刺さるようなものを冴島は感じていた。二度と繰り返してはならない、彼はそう言いたいのだと少佐は拳を握りしめた。



「しかし防衛騎士団の損耗に関しては私の責任です」



冴島は自分が思うことをただ淡々と告げた。BTRをもっと早く出動させていれば、敵の侵入に気が付いていれば。彼の中には自責が渦巻き、鉛のように重い後悔がのしかかる。




「少佐、お前は自分の作った報告書にあるスタッフの証言に目を通さなかったのか。多くがスタッフよりも先に絶対的に不利な相手に向かって立ち向かったのだ。彼らは与えられた仕事を全うしたのだ。俺からも敬意を表す他あるまい」



「その言葉は俺ではなく英雄となった団員にかける言葉ではないのか。身に染みているはずだが言っておく。金で兵器は買える、しかし兵士の命は代えが効かないことを。」




中将はこういうと無線を切断した。英雄たちの眠る飛行場へと厚底の軍靴を向けたのだった。






————






 飛行場には風が草を揺らす音と火炎が英雄を送り届ける音だけが支配していた。



騎士団曰く、ここでは土葬が基本となるが膨大な戦死者を埋葬できる時間がSoyuzにはとりわけなかった。ジャルニエ城を制圧し、ファルケンシュタイン帝国解放の第一歩を刻み付けねばならないためだ。



火葬と並行するように重機で一人一人の穴が掘られてゆく。戦死者90名、既定現実の二度にわたる大戦では表記上の些細な数字に過ぎないが、膨大な原型を保った亡骸を前に少ない犠牲とは言い難かった。


だがSoyuzスタッフはこれらの死をいつまでも引きずるわけにいかなかった。


戦闘行為を行う以上、このような事態になるということ位知っていたし契約書にも記載がされている。


 そんな中、Soyuzには手段が残されているだけ有情であったのかも知れない。


火葬の前に、奇跡的にハインドの掃射から逃れた西地区の敵捕虜と、各装備品を乗せた輸送ヘリコプターが離陸する。


この謎の軍勢は一体何者か知る手がかりを手に入れていたのだ。


本部拠点に急ぐヘリコプターを尻目に少佐は戦死者リストを手にしていた。

文字は解読することこそ叶わなかったがこれだけの人間が死んでいることを少佐は改めて刻み付けたのだった。



 これから制圧をかけるジャルニエの城は、膨大な兵力と兵器を残している可能性がある。


この先、現代兵器がどこまで通用するかわからない不安と、国家という強大な存在を相手にどこまで戦えるのだろうか。



様々な不確定な要素が次々と浮かぶ中、少佐は次の行動を取らねばならない。すべてはファルケンシュタイン帝国解放という依頼を遂行するために。

次回Chapter26は8月8日10時の公開です

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