Chapter258. Pirate of Venmas
タイトル【ヴェノマスの海賊】
ゲニフィチニブ要塞を制圧した一方で、やはり国際犯罪組織 ロンドンは見過ごせない。
弱体化を成し遂げたものの、いずれにしても重武装化した危険分子。
撃滅する時にまとめて始末できるならそれが最良だ。
奴らが逃げ込んだのは「海」
いわゆる有名な海賊になり、そこのツテを使って再起の時を待っているという。
しかし組織が弱体化したのは否めない。
あくまで存在は限定的で、主にみられる海域は決まっている。
場所はと言うと、海の英雄ギンジバリス提督が統治するギンジバリス市やフェロモラス島沖合ではなく、北西にいったペノン県ヴェノマス沖がほとんど。
陸やら古代兵器を研究してきていい加減、飽き飽きしてきた阿部博士一行は保存、修復されているという「ヴェノマス海賊船」を視察すべくギンジバリス市を訪れていた。
——ギンジバリス市
——廃ドッグ
なんでも海賊船はギンジバリス市までうっかり入って来ていた所を発見され、ギンジバリス氏指揮下で滅多打ちにされたという。
船籍がロンドンのものとなっていたからである。
半殺しにしても飽き足らず、拿捕して市内まで引きずり込んだらしい。
反社会組織への警鐘を鳴らすことを目的としていたが、犯罪組織の内通者兼任の将軍 ラムジャーの目に留まりドライドッグに打ち捨てられている有様だ。
「なんすか、そんなに自分の態度が気に食わないからって当てつけってことっすか」
そんなことなど微塵も知らないバドラフトは阿部に悪態をつく。
仕方がない、元職場に近づきたくないのはどこの世界の人間も同じなのだから。
「パイレーツ・オブ・カリビアンを見てたら海賊船成分が欲しくなったからだ」
そしてこの阿部の一言である。
たかだがハリウッド映画をDVDで見たからと言って、研究したくなったとは身勝手にも程がある。
「付き合わされたんだけど私」
しかもバイト君という被害者がいる。柳澤氏は難を逃れたらしいが。
解説役は船に詳しいギンジバリス大佐が引き受けることになったものの、自由奔放。
統率まるでなしの学術旅団ナルベルン支部の一行に眉を顰めていた。
「勝手に騒いでいるなら私は帰らせてもらう、暇ではない中時間を作って来たのだからそこの点を忘れないでいて欲しい」
ラムジャーに愚弄され、Soyuzに巻き込まれ、厄介者が押しかけてくる。
なんとも気の毒なものだ。
「本当に申し訳ない」
いつも埋め合わせはバイト君がしており、当の火種である阿部とバドラフトはこの態度。
海原先生に嫌われる訳である。
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彼らの船の規模としてはざっと50mあるかないか、おおよそガレー船を思わせる。
ファルケンシュタイン帝国海軍の戦艦の半分程度で、何より細いのが特徴だろうか。
その最中、実際に交戦したギンジバリス提督が解説をし始めた。
「奴らの船は機動性を重視するため、船体が細くなっており、船首が鋭角になっているのが最もたる特徴だろう。
大本は第四次ガビジャバン戦争で使われたガビオン船、あるいはその複製品であることが確認されている」
「この形式では副砲も多くなく、船体後部には武装ではなくドラゴン及びペガサスナイトの着陸場が設けられているのが帝国軍の船と区別する際の違いだ。
我がファルケンシュタイン帝国軍は竜母を運用することによって、偵察騎を出すのに対し、ロンドンは船そのものを偵察・哨戒・護衛・輸送に使われていると記録されている」
やはり船の専門家ということもあって、事細かに船について説明してくれた。
見分ける方法や運用方法の推定までしてくれるのだ、非常にありがたい。
完全に置いてけぼりを喰らっている事務役のバドラフトとバイト君は兎も角として。
「どこの造船所で作られたモノかは知らないが、おおよそペノン辺りが怪しい。そもそもあの県はラムジャーの教え子がロンドンをかなり甘やかしているとかなんとかと聞く。真相はどうかなのか知らないが……」
ロンドン海賊を撃滅したかったが、もれなく内戦を引き起こすことになるため手が出せなかったのだろう。
ギンジバリス提督はラムジャーとロンドンの悪行を無視するよう強いられていたことは想像に難くない。
「かなり手酷く破壊されてますな。というかほとんど沈みかけというか……。
船そのものの防御力はそこまで考えられていない、と踏んでますが実際やりあって……どう感じました?」
「防御力に関してはほとんど無い、というのが率直な推察ではありますが。
副砲の魔力砲がかすりでもすれば小破するものですから、半殺しにするのに手をやいたものです」
どうやら機動性を重視するあまり、防御などはかなぐり捨てているようだ。
その点はどこの世界も陥るジレンマなのだろう。
「武装配置ですが、最低限自衛できればいいと割り切ったモノばかり。
副砲が左右合わせて4門、陸から持ってきたであろう分解できる馬牽引のシューターを増設したデッキに1門ずつ、張り出した追加甲板に設置されていた」
「サルバトーレ級戦艦に使用されているものよりははるかに小型で、威力は高いものの射程は劣ると言わざるを得ない」
反発力で飛ばすバリスタのことを帝国では「シューター」と呼ぶ。
かなり射程距離が長いという結果が出されているが、陸と海のものとでは根底的に規模が異なっていた。
それだけ射程に「差」があり、それは生死に直結してくるだろう。
アウトレンジで一方的に殴られれば、絶対勝てっこないのと同じだ。
追加甲板という言い分からもポン付けしましたと言わんばかりで、猶更である。
「ただの模造品を現地で改修したものに過ぎません。練度も低く相手にはこれっぽっちも」
総合した意見がこれだろう。
戦艦とそうではないフリゲートモドキでは勝負にならないのは言わずもがな。
船、と言うより高機動偵察プラットフォームと表現すべきだろう。
提督がやる気を出せば、ロンドンの海賊などあっという間に壊滅していたに違いない。
そんな矢先、解説を担っていた彼が阿部にあることを聞いてきた。
「しかし今更になってこんな木屑を調査するとは。近々ロンドン海賊殲滅でも始めるつもりで?」
やはり有能な司令官だけあって鋭い。どこか装甲でも射抜かれたかのような気まずさで阿部は答える。
「……おっしゃる通りです。あのアホ共はまぁいいとして。ロンドンの海上戦力がどんなものかを調べるようにお達しが来たんですよ、優先度高めで」
すると提督は陰湿な笑みをうっすら浮かべながら口を開いた。
「それなら結構。いい加減あのラムジャーの手下が壊滅する様を見たかったものですから」
真に怒らせてはいけない人は実在すると阿部は実感するのだった。
次回Chapter259は12月5日10時からの公開となります。
・ガレー船
よく見るであろう海賊船。
人力でオールを漕ぐのだが、風を発生する魔導が存在する異次元世界「U.U」では始動時などといった場面でのみ使用される。




