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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
284/327

Chapter257. Deep Network

タイトル【ディープ・ネットワーク】

———本部拠点



「——我々は【魔封じ】に関しては手荒い方法しか知らないもので。その節は申し訳ありません」



ユンデルを前にした冴島は断りを入れた。



Soyuzがなぜこの男を最重要人物と認定し、大佐を尋問官にして情報を引き出そうとしているか。それには訳がある。



度重なる皇太子殿下の尋問中、証言の中で「友人であるユンデルが賢人会議にいる」という情報を手に入れたからだ。



賢人会議。軍事政権ファルケンシュタイン帝国の裏で糸を引く、文字通り闇の政府。

手にしている情報の少なさ故、諜報員を送り込めないSoyuzにとっては雲上の存在といえよう。



使える情報ソースといえば、使い捨てにされたマーディッシュくらいのもの。



しかし、彼に全てのカードを持たされていたかというと違ってくる。

そこで重役として会議にいた、魔導省長官ユンデルが尋問されることになった。



「……それがこの有様だと?異端共らしい野蛮な方法だ、魔力が少しでも残っていれば焼き殺してくれる」



ありとあらゆるエアボーン拳法を受けているにも関わらず、彼は反抗的な態度を取り続ける。

往生際の悪さは空挺部隊の隊長がぼやいていたのも納得だ。



だが後ろの武装スタッフに親指を向けながら、冴島は感情を殺したかのように言い放つ。



「手をこちらに向けるような素振りを見せれば、貴方が炎を出すよりも速く警備が銃弾を叩き込むのでご安心を。——我々Soyuzの兵士はそう訓練を受けていますので」



魔法よりも何百倍も速い銃弾を叩き込めるとの警告。

つまりお前を生かしているのは使えるかもしれないのであって、抵抗し始めたら「次はないぞ」という事である。



これが冴島なりの魔封じプロトコルだ。












—————————————








「まずは最初に確認から。【賢人会議】なる組織は本当に実在するんですか」



圧迫面接のようなドスの利いた声でユンデルに問いかける。


手始めは答えやすいような質問で少しずつ追い立てていく。賢人会議なぞ実在することなど百も承知だが、これで良いのだ。



「……実在しない」



案の定。

皇族が支配しているという大義名分が根底的から崩れるだけあって、やはりそう簡単には吐かないらしい。



大佐はまくし立てるように言う。



「それはこちらの持っている情報と合致しないのですが、ご友人から実在すると聞いております」



友人とはユンデルが一番知っている事だろう。マーディッシュ・ワ―レンサットその人だ。こんなこともあろうと、Soyuzは交友関係を洗いざらい調べている。



異世界案件を情報統制し、世界中の機密情報を浴びるように持っている組織を侮ってはならない。


そろそろ堪えてきたのか、彼は視線を下に向けて黙り込んでしまう。

だが、こんなところで済ませる筈訳があるだろうか。



「答える、答えないは自由の下に保証しますが……彼を始末するかも我々の自由、ということをお忘れなく。出ていくのも自由ですが、同じようなことを考え着いた人間はあえなく装甲戦闘車の餌食になりました」



Soyuzが非人道的な処刑など許すはずもないが、あくまでこれはブラフ。

冴島は一兵卒のように暴力的に追い詰めることはしない。



あらゆる方法を使って吐かせるだけだ。












——————————————












「……実在する。そんなこと位、初めからそのことを知っていたのだろう」



ユンデルもその思惑に気が付いていたようで、吐き捨てるかのように答える。

それとは対照的に、冴島はまるで感情が込められてない口ぶりで質問を続けるのだ。



「——それでは本題の方に移ります。賢人会議のトップの正体について全てお話いただけませんでしょうか」



此処は敵地の奥深く、誰も助けてはくれないだろう。ここは助かる確率よりもリスクの方が各段に高い本部拠点。



人間、誰しも死にたくはない。



「コンクールスという男だ。紫の鎧を着けている。マーディッシュを揺さぶったのであれば知っているだろうに。それとも嬲り殺しにするのが趣味か」



疑念は確証に変わった。この事実は大きいだろう。



「……コンクールスは何か超自然的な力を持っていますか」



事実、実体がないにも関わらず紫鎧の男はSoyuzに対し一方的に干渉してきた。物理的にも、魔導的にも一切説明がつかないならば答えは一つ。



今までの道理が通用しない神通力でも持っているのかどうか。



「いや。コンクールス自体は人間離れした人間に過ぎないが……彼はメナキノンを持っている」



驚くべきことに、男そのものはただの人間だという。


ならば手にしていた神槍がこの超常現象を起こしていたのだろうか。どちらにしても、オンヘトゥ神話に記されていたものと合致する。



「わかりました。何かメナキノンについて知っていることは」


「何もない」



「何?」



魔導学のトップに君臨し、賢人会議に居ながら知らないと宣うなどあり得ない。

冴島は思わず片目の眉を寄せる。


「神が作り出した物体だ、我々の魔導学をもってしてもわからなかった。土台分かるものでもあるまい。どちらにしてもメナキノンは触れざるものだ。神力を直接授けるとあったが、一族以外の者が持てば……」



「遅かれ早かれ、破滅する」



そもそも前提条件が神の一族が使用するとあって、根源的に欲望の塊である生物が扱うような代物ではないのだろう。


膨れ上がった力の代償は破滅によって清算される。


ふと大佐の脳裏にマーディッシュが言ったあることが浮かんだ。



【オンヘトゥ神の末裔であるこのワ―レンサット一族よりも、さらに神に近いような男だ】



欲望という世界から解き放たれた国のために尽くす事しかできない怪物だからこそ、扱えるのだろうか。










————————————————










「では次の質問を。帝都ではどの規模の兵士が動員されていますか」



此処からは目前に帝都攻略戦について必要な情報をピックアップすることに。

向こうから見ればSoyuzは言い逃れの出来ない侵略者。



賢人会議の欠片であるユンデルを見れば明らかだが、国・民族・思想。これら全て破壊されることを何よりも嫌うように見える。



そのことはあらゆる国でも同じことだろう。



「——陸軍3個師団と、残存する全ての航空戦力。防衛騎士団。その他にも国家保安の部隊……深淵の槍が動員されている」


三個師団、こちらの規模でいえば3万人近い兵員が投下されていることになる。

それに戦いは数を揃えるのが勝利への第一歩。



治安維持のための防衛騎士団と、数を集めてくるのは予想できていたが軍隊ではない組織である深淵の槍までも帝都防衛に参加させるのか。



冴島は口を曲げて考えこむ。



地の利があるのは防衛側なのは常に変わらない以上、下手に市街戦に持ち込むのは危険だ。

師団ならまだ装甲車両を投下しナンノリオン戦のように掃討・制圧できるが深淵の槍がいる以上危険すぎる。



それに騎兵部隊とはユンデルは一言も口にしていない。



つまり所属の「ソーサラー」「アーマーナイト」が投下されていてもおかしくないのだ。


量産型一騎当千のような練度を持つような存在を倒すには、自動火器を持つというアドバンテージが通用しない。


どちらにせよ、新たな手を考えなくてはならないだろう。







———————————-








さらに質問は続く。



「帝都に【オンヘトゥ】と呼ばれる戦略兵器群が温存されている可能性は?」



Soyuzが一番恐れているのは、鬼気迫った帝国軍が懐の自爆スイッチを押してしまうこと。


事実、ナンノリオン戦では追い詰めた結果、質量攻撃を主とする空中要塞ベルハトゥの涙が投下されてしまったことがある。


その際はありったけの戦闘機や攻撃機、捕獲した超兵器を使って破壊した。



恐ろしい数のミサイルや機関砲弾を使ってしまったため、あれからそれなりに時間が経っているとはいえ稼働できる航空機は6割程度。



なんにせよ存在するなら存在するで、芽が出る前に手を打っておきたい。



「存在しない。兵士を集めているのはそのせいだ。ヤツの発明とは言え、オンヘトゥ13使徒の建造には並々ならぬ税金と手間、そして人員が費やされている。戦艦を建造するのとはまるで訳が違う、今後の外交において重要な札をよくもやってくれたものだ」



どこもそうだが戦艦や重巡洋艦、空母といった比較的大型になる軍艦を作り上げるのにも、年単位を費やす事は当たり前。



それとは「一線を画す」というのだから、一体どれくらいのリソースが割かれたのか想像を絶する。



「尋問を終了します」



究極兵器が出て来ないのは良いとして、考えることが増えてきた。

圧倒的な数の帝都と、兵器の性能が左右されにくい市街戦が待ち受けている。



さて、どうするか。




次回Chapter258は12月2日10時からの公開となります

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