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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
283/327

Chapter256. Escape from the Flames

タイトル【炎からの脱出】

——WoooOOOOMMM……———



要塞全体に広がった炎がじわりじわりと迫りくる。



これも全て艦砲射撃による所業であり、制圧のために投下された空挺兵や増援。

機甲部隊と言った車両は火の中に飛び込んだ虫同然といえる。



敵味方どころか勝敗の見境もなく、全てを焼き尽くす業火の前では何もかもが無力だ。

焼死しないためにも一刻も早い離脱が求められるのも当然の成り行きだろう。



【LONGPATから各HQ。拠点内にある輸送ヘリを要塞に派遣。兵員を回収せよ】



そのため冴島大佐は敵地が制圧された報告がされると、大量の輸送ヘリを派遣するよう命令を下して今に至る。



しかしこの脱出劇はそうそう上手くとは限らない。


さらに苛烈な艦砲射撃の余波で要塞の出入り口は火の海に閉ざされているという。

装甲がついた車両なら問題ないだろうが、生身の人間では無事では済まない。



それに火の手が回るのはあっという間で、グズグズする1秒間が生死を分けると言っても過言ではないだろう。



各拠点では緊急要請を受け、軍事活動で使用されているようなヘリのみならず、各拠点郵便・貨物用の民生ヘリすらも投入されていた。



【こちらG Career06。応答せよ】



BK-117のパイロットは無線機を取り、要塞に取り残されている兵士に向け連絡を取る。

戦線から離脱した兵士はソ・USEの電源を切っており、返事をするのは主に取り残された人間だけ。



【こちらFall18。現在待機中。回収してくれ】



【了解】


ゾルターンにある第二拠点から飛び立ったヘリはペノンやナンノリオンを超え、いよいよ帝都へと足を踏み入れようといった位置にたどり着く。



「ここ、だよな……」


パイロットは息を呑む。



ゲニフィチニブ要塞だと示す座標。そこに広がっていたのは広大な火の海だった。









————————————










空からでも燃え移って来そうな火の手に怯みながら、BK-117は高度を下げていく。



既に日の出を迎えている新しい朝だというのに、目にはギラギラと燃える炎が焼き付いて離れない。



砲陣地だの要塞だの、ましてや敵地や油田火災の様というにはあまりに手ぬるい。

本当の地獄があるなら、正に此処。一言でそう断言できてしまう程に炎が回っていた。



VTATATA……


地表に近づいていくたびに、キャノピー越しだというのに汗が噴き出てくる。



夜遅くからこの調子で燃えているらしい。

道中で流れてくる共有無線でそう聞いていたものの、火の手は凄まじいままではないか。



【G Career17、離脱します】


降りてくるBK-117とすれ違うように、普段軽戦車を吊り下げているCH-53が天へと昇っていく。



その光景を見て確信した。


今や自分は天国から釈迦が垂らす「クモの糸」なのだと。

絶対に切れてはならないし、ましてや送り届けるまで墜落などご法度だ。



【こちらG Career06。着陸する】



一寸先さえ陽炎で歪んでしまう焼却炉の中、一機のヘリが舞い降りる。



すかさず後部ハッチを開くと、定員を考える間もなく真っ黒な空挺部隊所属の兵士たちがなだれ込んできた。

どれだけ訓練を積んだ人間とは言え、生きたまま火葬される瞬間を今か今かと待ちたくはない。




「待て!まだ回収物がある!」



別の兵士が叫ぶ。



「定員オーバーだ、陸じゃねぇんだぞ!」


航空機の定員や重量超過は最悪墜落に繋がる。決して無視はできない要素。

ただでさえ墜落してはいけないのに、リスクは犯せない。



「んなこたぁ分かってる、まだ離陸重量じゃねぇだろ。ワイヤに括り付けて持ってくるからちょっと待っとけ!」



血相を変えてまで、回収したい存在とは。










———————————————







「何をしようとも崇高な理想は折れぬ、貴様らまとめて始末してくれる!」


自らの牙城は焼かれ、何もかもが破壊されたというのにユンデルは反抗し続ける。

殴られようが、腕がもげようとも軍事政権、いや賢人会議が。



何もかもが効率化され、日の沈まない黄金の理想郷を叶えてみせる。そんな理想が彼を狂ったように突き動かすのだろうか。



【ゲグルネイン】


残された魔力を絞り片手からは火柱を放つ。

こんな悪あがきとはいえ、その威力は決して軽視できない。



「やってくれたな、痛めつけるのにハジキなんか必要ねぇ!喰らえ!エアボーン・暴力!」


見え透いた射線故、ゲグルネインは明後日の方向に向かって行き火災に飲み込まれた。

一度や二度どころか、既に数十回も起きている。



最優先で確保、回収されることになったがこの作業が無駄な足掻きで難航しているのも納得だ。



あまりの往生際の悪さに痺れを切らした空挺部隊の隊員は、鋼鉄のように固く、重戦車のように重たい鉄拳が振るわれる!



コンプライアンス等、問題しかないがこれしか魔封じの方法が存在しない。

そのため無用なエアボーン暴力を振るわざるを得ないのだ。



御託を並べる間もなく、アメリカ的肥満に匹敵する重量を背負いながら行動する隊員の人間離れした致命的ストレートが命中し殴り倒される。



「その程度か、加減しているな。所詮は殺すことはできない腑抜けか」



バカに出来ない激痛にも関わらず、ユンデルは敵兵を煽ってみせた。



「よく口が回るな、針と糸があればその口を縫い合わしてやる」



このような有様なため、無力化プロトコルが取られるのも無理はない。











——————————————









ここで魔導士などを無力化するにはどうすれば良いのだろうか。魔導の弾薬である魔力は精神状態とリンクしているものだ。


憔悴していればその分、量は減る。


つまり反抗する気がなくなるまで、圧倒的筋肉による殴る蹴るの暴行を加えて心を折るか、気絶させるか。



複雑な魔導具を持たないSoyuzにとってこれが一番だ。



殴り倒されたユンデルの肩を兵士が掴み、無理やり立たせると3人による合体攻撃が迫る!

一人は空挺パンチ。もう一人は空挺キック。さらにもう一人は銃のストックによる殴打。


三本の暴行が一つに合わさったとき、驚異的な力を発揮する。



「トリプル・エアボーン・暴力・ターキー」



筋肉を使った強力な一撃が、ユンデルの頭を揺さぶった!



「ヴッ」



気絶させることに特化した攻撃を前に、生々しい声を上げること以外許さない。

無力化プロトコルは成功、ユンデルは手も足も出ないようになってしまった。



兎も角。目覚めるよりも前に、なんとかとして手を打たなくてはならないだろう。



ここで一仕事終えたパンチング・空挺兵は冷静に指示を出す。



「よし、大人しくなった。簀巻きにして川に捨ててこ…いや遠すぎる、ヘリに括り付けろ!」



鶴の一声でBK117の貨物用フックにパラシュート用の強靭なロープ パラコードが結び付けられ、精鋭兵の手によって徹底的に縛られユンデルは簀巻きにされた。



大方の準備を終えると別の兵士が声を上げ始める。



「準備は済んだ!出せ!」



火の海に沈む泥船に居る道理はない。彼の声を耳にしたパイロットは離陸準備に入る。

だが操縦手は知らないだろう。機体の下に一体何が括り付けられているのかを。










———————————————








このようにヘリで離脱できる歩兵はまだしも、投下されたのは何も彼らのような兵士だけではない。

多量の空挺戦車や主力戦車たちも離脱しなければならないのである。



「ここもダメだ」


BMD-4の操縦手が瓦礫を前にして呟く。

艦砲射撃のスコールによって引き起こされた大火災は、要塞構造物の強度を猛毒に犯したかの如く削っていった。



それにより突入は出来たものの、出入口が崩落してしまい閉じ込められてしまったのである。



機甲部隊は状況が悪くなる前に撤収できたものの、4号車だけは歩兵支援のため城塞内部まで入り込んでいたのもあり、脱出には難航していた。



だが何時も現実は非情である。



藁にも縋る想いで見つけた脱出口の多くは瓦礫で閉ざされているという始末。

地面にキャタピラ跡が見受けられることから、後から崩落してしまい、そうなってしまったらしい。




車長はペリスコープから辺りを見回し、他を探るもそう簡単に出てくれば苦労はしない。


見えるものと言えば、埋め尽くすのは燃え尽きた瓦礫と、真っ赤な炎。

そして濛々と上がる黒煙だけである。



取り残された空挺兵を乗せている車両、背には業火。



もう時間がない。



「ありったけを撃ち込め」



DONG!!!DAMDAMDAM!!!!



道が見つからなければ、作ればよい。

その先が火で閉ざされていようとも、鋼鉄板のボディが守ってくれるのだから。



榴弾が爆裂し、30mm機関砲の強烈な砲撃の前にグラスに放り込まれた氷のように少しずつ崩れていく。



その最中、車長は明らかに異質な振動を感じ取った。

第六感が何かを知らせている、彼はハッチを開けて様子を伺う。



「しまった!後退急げ!」



壁が今にも崩れかかってこようとしているではないか!



頑強に出来ていようとも、オンヘトゥすら殺す51cm砲弾の持つ戦略的威力と火災による著しい強度劣化には抗えない。


そのため崩落寸前になっていたのである。



BMD-4が急バックするのと同時に車長は車内に飛び込んだ。



あんなものを喰らったらアルミホイルのように潰されることは火を見るよりも明らか。

どうにか間に合ってくれ。祈るような気持ちで前をひたすら見続けるしかない。



zzZZZZooooOOOOOMMMMM………


途中、城壁は一部が倒壊し、車体すら揺らす凄まじい地響きが彼らを襲う。

間一髪、潰されずに済んだようだ。



一息つく合間もなく、車長は次の指示を下す。



「脱出急げ」


石材を接合する「つなぎ」が限界を迎え、まるで砂粒のように崩落したようである。

ならば乗り越えられないような瓦礫が生じてはいない筈。



BooOOOOMMM!!!!!



残り少ない酸素をエンジンに取り込んで、BMDは気合を入れるかのようにディーゼルの白煙を勢いよく吐き出した。


猛牛の如く突撃すると、アルミの棺桶を大きく揺らしながら無理やり突破。



夏虫の如く火の海に突入して見せた。


ペリスコープから覗く風景は炎だけ。それどころかお世辞には分厚いとは言えない装甲から高熱がひしひしと伝わり、自らがローストされているかのよう。


救いのないオーブンレンジに放り込まれてもなお、空挺戦車クルーは決して揺るがない。



距離にすれば一瞬だというのに、この時が永遠の様。エンジンの怒号だけが車内を支配していた。












————————————————









人間にしてみれば気が狂う程に長いひと時。その一瞬はまやかしに過ぎない。

操縦手の見る視界からは振り切ったかのように赤さと熱が消えた。



「脱出完了しました」



ドライバーが声を上げることもなく淡々と告げる。

これは奇跡でも運命でもなく、自分たちの積み上げてきた実力に他ならないからだ。



「了解」



すると車長は無機質な手つきでソ・USEを取り、司令である冴島大佐に連絡を取った。



【Light armor04からLONGPAT。車両は回収し待機します】


安全な場所であればヘリに回収してもらえれば良い。重量的にも辛うじてCH-53であれば吊り下げることができるだろう。



【LONGPAT了解】



かくして脱出劇は成功したものの、まだまだ気が抜けない。








——————————————










——BK117内



過酷な撤退が行われている途中、いち早く離脱したヘリには安堵の空気が立ち込めていた。

行き先はゾルターンにある第二本部。スタッフ内では「とにかく何もない」ことでかなり有名だ。



「ここ数年の間じゃ一番クソだった」



兵士が悪態を付く。いくら空挺部隊と言っても人間である。

自らが焼け死にそうになったところから逃げ出せて、命をありがたがらないヤツはいないだろう。


一息つくスタッフが多いが、中には輸送機ではなかなか見ることのできない地表を見ているスタッフもおり、様々だ。



「————………グワワーッ!!!何が起きている!」



そんな中、目の保養をしていた一人がある異変を察知する。

ヘリの下に何か金魚の糞よろしく、ぶらぶらと揺れているではないか。


それに何か絶叫するような声が聞こえる。



「なんかぶら下がってんぞ。なんだアレ、ボコボコにされてた敵司令か?最優先目標の」



振り子の錘のように振り回されている物体。

紛れもなく殺人ストレートやエアボーン三位一体を喰らっていた、あのユンデルだった。



よくよく考えれば、彼は意識を失った後に簀巻きにされて空に宙づりになっていたことになる。

声を上げるのも無理はない。



異変に気が付いたパイロットは冷や汗をかきながら喚き散らす。



「嘘だろ、そんな話聞いてねぇ!アイツら、なんてものを括り付けやがった!どうするんだ着陸は!」



何かを括りつけたのは聞いていたが、VIP待遇を受けさせなければならない敵司令とは知らなかった。


パイロット側も一刻も早い離陸を求められており、括り付けた当人らも切羽詰まっている状況故に仕方がない。



「こうなったのは俺たちの責任だ。誘導するから、神経尖らせて着陸だ!」


「無茶苦茶言いやがって……」



行きも地獄、帰っても地獄。彼らの受難は続く……


次回Chapter267は11月25日10時からの公開となります。


登場兵器

・BK117

川崎重工製 民生ヘリ。ドクターヘリ・遭難者救助・輸送とありとあらゆる用途に用いられる。

お値段13億円。

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