Chapter255. Vipers
タイトル【忍び寄る毒蛇】
高速移動する超重歩兵、実体のない怪異空挺戦車を打ち破った部隊は、ついに司令部の扉へとたどり着く。
大要塞の中枢ともあってか、重厚な鍵で封じられ隙間から光や風一つ漏れ出さない程密閉されている。
【こちらFall01。司令部へ到達】
【LONGPAT了解。司令官は帝国にとっての最重要人物だ。無力化し、確保せよ】
【了解】
ユンデルはその名前が装甲の方式となっている程の優秀な人物だ。
それに帝都によく顔を出していたことから、帝都攻略戦における「銀の鍵」になってくるのは間違いない。
殺すには、あまりにも多くの情報を握り過ぎている。
しかし相手も相手。高火力の魔導を乱射されれば分が悪く、連行する際にも何をしでかすか分かったものではない。
如何に消耗させて確保するかが重要だ。
「スモークを展開。一気に勝負をつけろ」
先ほどの戦いで弾薬は余り潤沢とは言えない。ならばこの肉体を武器にして戦うだけ。
手元のライフルやRPGと言った重火器の残弾は指で数えられるだけしかない。
扉前についた兵の手にはスモーク・グレネードはもちろんの事、MP443やナイフといったサイドアームを片手に控える。
BANG!BANG!
隊長が突入のハンドサインを送ると、カギに向かってAKを発砲し役に立たないよう破壊。
暫く合間を置いた後に、わずかに空いた空間からスモークを投げ入れた。
鉄筒の転げる音と共に噴き出た白い煙が辺りを、視界を全て覆いつくしていく。
お膳立ては済んだ。
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いよいよ敵が司令部に来てしまった。絶体絶命の危機だが2つの関門である程度数は減っている筈だろうとユンデルとその部下は踏んでいた。
ならば待ち伏せしてやろう。
そう言わんばかりに各々が魔術によって透明化し、可能な限り死角から闇討ちしようという作戦。
しかし事はそう上手くは運ばない。扉を打ち破っても敵が入ってこないではないか。
少し間を置いて何かが転げだす。
「煙幕か……!」
ユンデルがそう言う間もなく、煙幕によって視界が閉ざされた。これでは狙いをつけることはできない。
深淵の槍の持つ生命力を感知する仮面でもあれば良いが、無いものねだりをしてもどうにもならないだろう。
「どこに居る……!」
随伴する精鋭ソーサラーは神経をとがらせ、襲撃者へと備える。自らが透明化していることを忘れており、混乱しているのは明白。
そんな矢先。
「クソッ!」
目の前からナイフを握った手だけが煙に撒かれながら現れたのである。
寸分狂わず、喉元を切り裂こうとする刃先を間一髪で躱した。見えただけ運が良いのだろうか
精鋭ソーサラーの焦りは加速する。向こうから見て、こちらはかなりあやふやに映っている筈。
煙幕も相まって、狙いをつけてもぼやける。
正確に急所を一突きできるまで狙いを着けられるものか。
しかし、なんとかとして煙幕だけは晴らさなくてはならない。
腕を後ろにたなびかせ、ゲグルネインの火柱を放とうとした瞬間、黒い影が一瞬だけ見えて動きが止まる。
何かにぶつかった訳でも、壁があるわけでもない。
動けないのだ!
真っ黒い装備を身に着けたSoyuz兵士が、抑え込んでいるからに他ならない。
即座に関節を無理な方向に回され、激痛が走る。
それにも関わらず、空挺部隊の兵士の表情は仏頂面のままだ。精鋭を喰らう、その上の怪物に迷いはない。
そして迷いもなければ、躊躇する気も更々ない。
「uh……!」
凶悪なサバイバルナイフが肩筋に突き刺さり、鮮血が石畳に垂れる。どこから来るか分からない恐怖と痛み。
徹底的に精神を追い詰めることで、Soyuzにとって脅威でしかない魔法を封じるのだ。
異変に気が付いた味方も、冷酷な戦闘兵器である空挺兵が逃す訳がない。
気が付いた時には、完全に組み伏せられた後に万力のような力で首を絞められ気絶。
如何に選りすぐりの上級魔導士とはいえ、戦いの基本は魔法でも武器でもなんでもなく、単
純な「格闘」である。
残されたのはユンデルたった一人。
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——BANGBANG!!!!BLATATA!!!
拳銃やサブマシンガンによる制圧射撃の雨が降る。
部下が二人も手に掛けられ、残されたのは自分だけ。この最悪な状況を打開するため、ユンデルはこの煙幕を晴らし、後ろにいる敵兵を吹き飛ばすことが先決だ。
反射的に両手を合わせ、ある魔法を頭に浮かべ具現化する。
【ベレッタス】
副砲用の魔甲砲を人間の手で放つ、極めて不安定で強力な魔法。
人一人容易に蒸発させる強力な熱線が手のひらから放たれ、あの忌々しいスモークの幕を薙ぎ払った。
装甲越しに人をローストする圧倒的熱量を前に、煙幕など抗えない。
重々しい曇天から一転、晴れ渡った夏空のように視界がクリアになる。目線を這わせ様子を伺うも、随伴兵を倒した筈の敵が見当たらないではないか。
そんな刹那、背後からかすかな殺気を感じ取った!
「背後を取った程度で私は欺けない」
後ろから喉元へと一直線に突き立てるナイフを自らの手甲で受け流しながら、振り返る。
距離を離すべく、懐から短刀を取り出した。
「——そんなこと、ハナから関係ない」
空挺兵は拳銃とナイフを構えて静かにそう返す。
軍人至上主義のトップに君臨するだけあって、エンジニアとしてではなく軍人としてもそれなりに強い。
だが毛の生えた程度の人間との決定的な違いは、人間を消し飛ばすことなど容易な魔導が使えるかどうか。
ドサクサに紛れてユンデルは距離を取る。
ヤツを仕留めなければ明日はない。
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【ベレッタス】
VEEEE!!!!
有無を言わさず熱線が空挺兵を襲う。
掠めたら最後、そこだけもぎ取られるかのように蒸発する「死の魔導」を間一髪躱し、何としてでも距離を詰め、発砲。
BLAM!!BALM!!
咄嗟にトリガーを引いたが、弾丸はユンデルの胸部めがけて飛んでいく。
ここまで来ておいて、数多の魔導技術を発明してみせた彼がそこまで甘いだろうか。
QRAM!!
光るガントレットに9mm弾がはじき返された。
分厚い装甲板で身を守っている訳でも、何かで逸らせたわけでもない。
制圧射撃の流れ弾も少なからず、確実に当たっているハズ。
重量をそのままに、施した物体は何倍もの耐久性を得ることができる。
自分自身で開発したユンデル式装甲を着込んでいるのだ。
残弾は残り16。
替えのマガジンがあるとは言え、撃ちつくせばナイフ一本で戦わなくてはならない。
間合いが勝敗の全てを握る格闘戦においては勝てる見込みが闇に葬られる。
いくら悲観しても先は始まらない。
勝ち筋は来るものではなく、自らが掴むものだ。
一つに絞られた目標に何発もの銃弾が浴びせられる!
各々は装甲を貫通できなくとも、その衝撃は確かに伝わるだろう。
似たような存在であるアーマーナイトをいくつも蹴散らしてきたSoyuzにとって、弾かれるのはもう慣れっこだ。
動きが止まれば、死に繋がるのは言わずもがな。
硝煙が昇り、粗熱が取れないうちに銃口がユンデルの額に向けて突きつけられる。
「ただちに武装解除し、投降せよ」
無機質で鋭い言葉が響き渡った。
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夜中から始まった戦闘は日の出と共に終結を迎えることに。
司令官のユンデルは他の捕虜は別に本部へと輸送され、尋問を受ける予定となっている。
未だ謎に包まれているファルケンシュタイン帝国の中枢部に関して「よく」知っている人物は彼しかいない。
だが戦場は勝てば終わり、と
まだまだ、やることは山の様に残っていることを忘れてはならないだろう。
——運河上 戦艦尾道
「よし、いい調子だ。絶対岸に擦らせるなよ!」
無線機を手にした船員の声が響く。
川べりに接触しないよう、細心の注意を払って監視しているのだ。
今回の要塞戦でなくてはならない存在である戦艦尾道。
校長先生が口を酸っぱく「家に帰るまでが遠足」というフレーズを繰り返していた通り、作戦終了後はさっさと撤収しなくてはならない。
船と川幅に余裕がある大型巡洋艦サウスパークはさっさと引き上げてしまったが、尾道は辛うじて入るズボンに無理やり押し込んでいる状態だ。
流れを相殺する形になる「遡上」よりも、川の流れが強く影響してくる帰りこそ危険性はぐっと高まる。
正に行きはよいよい帰りは怖いと言ったところだろうか。
こうやって船員を立てて入念に下っている、という訳である。
そんな矢先、尾道の側面があろうことか右側へと寄り始めた。この状態、非常にマズイ。
「……ダメだダメだダメ。もう少し左だ左!ほんとにわかってんのか——よし。いいぞ、その調子だ調子」
大きく揺れ、岸壁と接触危機一髪というところでなんとか船は運河の中心へと軌道を修正していく。
「……ドライドックねぇのにどうやって治すんだよ、ダクトテープじゃ済まねぇぞ」
こんなこともう何回目だろうか。監視役の水兵は途中で数えるのを止めた。
徹夜で砲撃していたと思ったら、神経を使う仕事を放り投げられれば悪態の一つや二つ転げ出るのも無理はないだろう。
敵の攻撃で焼かれるのか肝を冷やすのもそうだが、こうした精密作業もなかなか堪える。
しかし何か一つ忘れてはいないだろうか。
親の仇のように51cmや30.5cmといった戦艦クラスの砲弾を撃ち込んだゲニフィチニブ要塞。
榴弾のもたらした強烈な爆風と炎は瞬く間に内部を火の海に変貌させたことを。
日が昇った程度の時間で炎の勢いが衰える訳もなく、その魔の手は帝国のみならずSoyuzにも忍び寄っていた……
次回Chapter256は11月18日10時からの公開となります
・登場兵器
ベレッタス
魔力式のエネルギー砲を人間からでも発射できるように改良したもの。
砲台からは格段に威力・射程は落ちるが、魔導士やソーサラーの火力をさらに底上げされたのはまた事実。装甲を貫通しずらい兵職だけあってジェネラルといった超重歩兵や軽装甲の車両を蒸し焼きにできるのは強い。




