Chapter253. Threat of Magical Technology
タイトル【魔甲技術の脅威】
——午前6時
6時間にわたる艦砲射撃によってゲニフィチニブ要塞の戦力は全て無力化。
空挺部隊と増援の歩兵部隊により排除しきれなかった残党を全て片付けた後、地下司令部へと突入が始まった。
施工に携わったカナリスによれば、要塞地下はジェネラルさえ通れるほどの広い幹線と、それらをいくつも短絡するバイパスで構築されているという。
空挺部隊とBMD-4が進む傍らで、さらに後出しで情報が飛んでくる。
【あ、そうだ。いくつかは踊り場みたいな大広間が2つあるんだった。まぁそうだな、優秀な君らなら、こっちの考えていることくらい分かっても当然だろう?】
恐らくすれ違うために、このような広いスペースが設けられているのだろうか。
嫌らしいことに彼はこれ以上のことは口にせず、無線を切ってしまった。
普通なら不満が出るだろうが、精鋭たちにはこれだけで十分。
むしろ間の伸びた、妙に長い話をされるよりはいくらかマシだろう。
しかしそう言った場所があるなら、敵はかならず防衛陣地を構築してくる。
バリケードや固定砲座、あるいはこちらが予想もしない強力な兵器か。
侵入する敵に対し、待ち伏せした上で迎え撃ってくることだろう。
BMDを中核に据え、ショートカットのある壁にはAKを構えながら暗視装置をつけた兵士が進む。
やはりと言うべきか、照明は全て落されており一寸先は闇。
ナイトビジョンを使いながら一つ、また一つとショートカット口を監視するが敵の姿が見当たらない。
恐らく潜んでいるにしても、曲がり角などに息を潜めているのだろう。
闇雲に襲い掛かっても、ただ返り討ちにされるだけだと敵も分かっている。肝心な時。
恐らく空挺部隊が前進も後退も出来ないタイミングで奴らは牙を剥く。
各々の兵士はそう思いつつ、地下を進む……
———————————
□
——第一ホール
ある程度進んでいると、部隊は大広間に放り出された。
通路さえ広いというのにさらに一段と広く、まるで合唱団でも呼んで讃美歌でも垂れ流せるような面積を誇る。
そんな矢先の出来事だった。
——BLATATATA!!!!
後方から銃声が響く。
精鋭の読み通り、後ろから攻撃を仕掛けてきたのである!予想は出来ていたこと、彼らは反撃を試みる。
それだけに留まらない。
バリケードで蓋がされているホール奥から何か常軌を逸脱した速度で何かが近づいてくるではないか!
GEEEEEEESH!!!!!
ジェットエンジンのような爆音と、金属の擦れる不協和音を立てながら一気に距離を詰めてくる敵兵がいる。
コック帽のような細長いヘルムに50mmというBMDを軽く凌駕する超重装甲。
真っ赤に染められた鎧の悪魔こと帝国軍のジェネラルだが、歩くことしかできない重歩兵ではない。
シールドやマントはなく両手には剣。
背中にスラスターパックを着けた、超高速重歩兵である!
屈強な装甲の代わりに、リクガメのような足の遅さだったジェネラル。
それに推進器を取り付けることで、空挺部隊のような対戦車兵器を持った歩兵に対抗することが可能となった。
所詮は扱える人間が極めて限られ、量産が憚れる一点もの。
だがこの場において、無類の強さを誇るのは間違いない。
帝国軍においても、防御に特化した存在は「遅い」という時代は終わったのだ。
———————————
□
——部隊後方
突如受けた奇襲。通常であれば裏を掻いた作戦、となるはずだった。
しかし人間を超える精鋭、その中でも様々な修羅場を潜り抜けてきた男たちにとっては
お見通し。
既に多くの兵が接近させないよう、弾幕を張っていた。
だからと言って、油断は禁物。
敵は閉所戦闘に有利な勇者と、背後から援護してくるソーサラーが連携を取っている状態。
自分達もそうだが、相手の練度も決して馬鹿にできない。
的にならないよう、常に移動しながら一人一人を確実に仕留めるべく、AK102を持った兵士は戦うのだ。
隕石をあてずっぽうで打ってくる魔法使いはどうとでもなるが、最も脅威なのは勇者。
魔具の力を活用。弾幕が届かない壁を走りながら牽制として、一人のスタッフに向けて手斧を投げてくる。
グレネードランチャーと言った強力な武器を使用される前に仕留めようというのだ。
頭に直撃すれば銃弾同様、カチ割られて死ぬ。
銃弾と変わらないソレを兵は最小限の動きで躱し、照準内に敵を捕らえた。
BANG——BLAM!!BALAM!!
ライフル弾の強烈な一撃を受けた勇者は回転しながら倒れる。
そんな刹那、死角から剣を振り上げてくるもう一人の敵兵が迫っていた!
先ほど倒したヤツは囮に過ぎない。
頭脳がそう結論を出す前に、反射的に身体が動く。
牙突をすかさず銃のレシーバーで逸らし、銃口を敵の胸元へと突きつけ、無慈悲に引き金を引いた!
BANG!!BANG!!!
何発もの銃弾を受けた敵勇者は瞬時に物言わぬ死体へと変わった。
しかし一息はつけない。
自分の屍を越えてゆけと言わんばかりに、火力支援を担うソーサラーがこちらに向けてギドゥールを放ってくる。
DOMN!MOMN!!!
一見して終わりがないように思えるが、彼らの中では攻撃を避けるだけで良くなったとも考えることができる。
1秒という時間を与えるだけでも痛手だというのに、射程範囲に入るまで時間がかかる剣使いなど、屋内制圧チームを凌駕する怪物部隊の相手になどならないのだ。
完全に仕留め切れない限り、攻撃されれば反撃されるのが世の常。
CRAP,CRAP,CRAP
巨大な6連シリンダーが次々と回り、対人榴弾を放っていく。
信管が起爆すると、辺りは破片の嵐が吹き荒れる!
爆風だけの魔法「ヴァドム」とは違う、凶悪な暴風雨はチャンスを伺う勇者や、後方で目障りな隕石を降らす邪魔者を全て黙らせた。
【敵兵排除完了、援護へ向かう】
【Light armor04了解】
訪れた静寂に、ただ無線機から零れ落ちた声が響く。
———————————
□
——前線 BMD-4車内
「後方にいる歩兵を優先して排除せよ」
鋭い車長の指示が流れ、車内には機関銃・機関砲の爆音が反響する。
この場で避けなければいけないのはジェットパックを背負ったソードジェネラルではなく、後ろにいるニース持ち。
装甲車両という牙城を崩すために、まずはこちらを引き付けて随伴歩兵を排除。あとは煮たり焼いたり好きにすることなどお見通しだ。
ならばどうするか。
主砲を撃ち込んだとしても倒せるのは一人。
その辺の歩兵とは異なり、破片でまとめてなぎ倒すようにはいかない。
それに爆風は視界を遮り、稲妻のように動き回る超重歩兵にスキを与えてしまうだろう。
BLTATATA!!!DAMDAMDAMN!!!!!!!
鋭く砲塔が旋回すると機関砲と機銃が暴れ狂い、薬莢が地へと転がる。
銃弾の雨が丁度一人のアーマーナイトの動きを止めた矢先、30mm徹甲弾がボール紙のように胴体を貫いた。
ハナからあの高速移動する鎧武者は最初から眼中にない。
剣如きで空挺戦車を倒せるわけがない以上、最も脅威となるのはこれら対装甲火器を持った兵士だけだ。
【こちらLight armor04 援護は出来ない。死力を尽くし、排除せよ】
一人倒したことを確認した車長はすかさず歩兵に向け無線を飛ばす。
お互い死地にいるため応答する余裕はない、そのため一方通行の押し付けとなる。
敵味方、お互い負けるわけにはいかない。
———————————
□
GEEEEEEESH!!!!!
高速移動時にミュールが石畳を火打石のように引っ掻き回し、火花が散る。
常に振り子のように動き続けることで、限りなく被弾するリスクを抑えながらつけいる隙を探しているのだ。
勇者などを虫けらのように蹴散らす精鋭部隊にも関わらず、既に負傷者すら出ている始末だ。
幸い、ボディーアーマーに仕込まれた防刃セラミックプレートが首の皮一枚をつなげている状態。
常人では銃弾すら当てるのすら不可能にも関わらず、並大抵の攻撃は全て意味を成さない。
その上スピードスケートなど鼻で笑うような超高速で縦横無尽に駆け抜けていると来ている。
もはや装備の性能ではなく、今まで培ってきた「身体能力」がモノを言うのは言うまでもないだろう。
———GEEEEEEESH!!!!!
魔導推進器が噴射され、ジェネラルは3tという重量をものともせず、瞬時に時速数百キロに加速!
そんなゲニフィチニブの悪夢が狙っているのは自らの脅威となるRPG16を持ったスタッフだった。
コーネリアスとの教訓もあり後退していたが、ゲニフィチニブの悪魔の前に間合いという言葉は存在しないのと同じ。
「——しまった!!」
空挺兵のボディーアーマーに覆われた胸元が、凄まじい衝撃と共に切り裂かれた。
だが、あり得ない筈の鋭い痛みが迸る。
ジャケットに目をやると、セラミックプレートが粉砕された上から斬られているではないか!
頼みの綱の板ですら通用しなくなっている、そう嘆くより前に援護が入ろうとした瞬間。
——DAAAAASHHHHH!!!!!
周囲に落雷が巻き起こる!魔導士にしか使うことを許されないアドメントが炸裂したのだ。
それもそのはず、片方の剣は魔具。これなら二刀流にも関わらず、もう一つの剣を使わなかったのも合点がいく。
【Light armor04 敵を排除】
立ちはだかる壁はこの超重装剣士だけ。
道筋は少しずつではあるが良くなっているのは事実で、このまま押されるばかりは居られない。
そこで隊長はその真逆なことを言い出した。
【Fall01からLight armor04 後退する。援護を頼む】
【了解】
光は見えているにも関わらずこの判断、一見してとても精鋭の人間が下すものには思えない。
生身の人間を殺すことに特化したあの怪物に歩兵が太刀打ちできないのなら、空挺戦車が始末するまで。
しかし、ジェット噴射で動き回る相手に敵うのか。
空挺部隊の兵士たちはそんな疑問を一切持たない。
何故なら、兵士がツワモノから選びぬかれた人間ならこのBMD-4の乗員もその名の通り、人間を超えた「怪物」なのだから。
さぁ、反撃開始だ。
———————————
□
———GEEESH!!——GEEEEEEESH!!!!!
空挺兵の後退を察知した人型の高速移動体は追撃しようと一気に距離を詰める。
獲物の代わりに居たのは大がかりな空挺戦車。
通路を完全に封じる形になり、装甲の壁となって立ちはだかった。
剣では傷一つ着けられない相手だと悟ったジェネラルは後ろへと下がり、様子を伺う。
ほんの一瞬だけ生まれたチャンス。装甲の内側で鋭く車長の指示が飛ぶ。
「スモーク展開、一気に仕留めろ」
BAMBAM!!
車体に仕込まれたスモーク・ディスチャージャーから発煙弾が放たれ、辺りには赤外線さえ遮る白い煙幕が視界を埋め尽くす。
剣豪にとって、それどころか生身の人間にとって情報の多くを占めるのが「視覚」
それを突然奪われれば誰とて踏みとどまるだろう。
瞬く間に姿を隠してしまう。赤外線も欺瞞する強力なスモークの前ではBMDの光学機器も歯が立たない。頼れるのは砲手のカンだけだ。
迷っている暇はない。
分厚い煙幕の中からギラリと光る砲口が見えた直後。
——DAM!!DAM!!…
機関砲が肩パッドに直撃し、超重歩兵の腕が操り人形のように激しく揺さぶられた!
DANG……!!
試し撃ちは上場。無慈悲な主砲から放たれた寸分の狂いもなく胴体に突き刺さる。
凄まじい圧力から生じたメタルジェットが内臓組織をズタズタに破壊した末路は言わずもがな。
暫くすると、足元を折られた石像のように悪魔は倒れた。
【こちらLight armor04 敵全滅を確認】
牙を剥いてくる敵は居なくなった。
第一層、突破。
次回Chapter254は11月4日10時からの公開となります。
・隕石魔導ギドゥール
上級魔導士ソーサラーのみが運用している高等魔術。
一発で軽戦車などを鉄屑に変え、主力戦車類でも少なからずダメージを与えることができる。
兵士一人が運用できるとあってソーサラーがとんでもない脅威なのが分かるだろう。
危害範囲を拡張・精密化を行える「杖」を手にすれば壁を挟んだ向こう側にいる敵も攻撃することができ、厄介さは増してくる。




