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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-3.ハリソン防衛線
28/327

Chapter 24-1. Battle of Black Knight

タイトル【黒騎士との死闘】


 ――VoooMMM―――


市内ではBTRがディーゼルの吐息を吐き出しながら、ようやく現場に到着すると騎兵と並走して熾烈な戦いが始まっている。


ホースメンらは並走するBTRの装甲を活かして銃撃して倒し、救援に駆け付けていたが、それでもなお敵の攻防は止もうとしない。




街が入り組んでいることを利用し、砲塔の死角からの槍撃を受け応戦しようとガンナーはハンドルを回すと、砲塔内には銃撃を受けたような金属音が木霊し始める。


敵が騎兵に気を取られていると判断したホースメンがこちらに向けて矢を放っていた。



それも一言も話すことなく連携しているときている。



ガンナーを務めるボリス中尉は手玉に取られたことを悟るのと同時にあることに気が付いた。


装甲にホースメンの相手を任せながら囮に14mm機関銃を浴びせていると、鎧が土壁のように崩れながら敵が落馬していったのだ。


使っている弾は徹甲弾であるにも関わらず。


「бля!よくも手玉に取ってくれたな」



速度を落とし、再び上げるのを繰り返しながら距離を離すホースメンを確実に殺すため、ボリスはPKの引き金を引きながら、ハンドルを人間業とは思えぬ速度で回転させながら砲塔を向ける。


そうして敵にあらん限りのソビエト魂のこもった弾をねじ込んだ。



 回収地点まで目と鼻の先、この地獄に救急車が到着しようとしている。



その傍らロシア人コノヴァレンコ少尉は赤灯を回しながら街中を走り回り襲撃を知らせに回っていた。


少佐の指示によって敵騎兵の排除に転じてからというもの、助手席に騎士団員を無理やり乗せてガンナーにしている。


後部座席にはありったけの弾薬を詰め込み、ガソリンの限り騎兵を倒そうというのだ。



「なんだこの、まぁいい、この分けわからんヤツ、どう使えばいい!」



猛スピードで石畳の街を駆け抜けていく中、騒がしいエンジン音と激しく揺れる車内でソルジャーは半ば叫ぶようにコノヴァレンコに問う。


弓とは到底似つかない鉄と木の塊(PKM)を持たされて使えという方が無茶であり疑問も当然だった。


「木のとこを肩に当てて先っぽをあのクソたれ連中に向けて持ち手にある金具を引けばぶち殺せる!撃ちすぎると銃身が赤くなるしそれ以上撃つと溶けるから注意しろよ!」



パトロールカーのダッシュボードに設けられた引き出しが時折ガタガタと揺れ、飛び出そうになるほどの振動を受けながら雑にそう答えると、西地区へと向かった。


 その道中は凄惨なものだった。街角の通りには力尽きた騎士団員たちが転がっている。


原型こそ保っていたがそのほとんどが集団のまま倒されているのがほとんどだ。


あの騎兵一人で数十二ンの相手を皆殺しにできるのである。

相手にしている存在がどれほど恐ろしい存在か、このヴァレンコは思い知らされることになった。



「чёрт!」



コノヴァレンコは唇を噛みながらより一層ハンドルを握りながらそう言った。Soyuz側よりも騎士団側にここまでの損害が出ているにも関わらず自分は何もできなかったのだ。



 しかし後悔も懺悔の隙すら敵は与えてくれない。こちらを追ってくる黒い影が居るではないだろうか。敵である。鈍い金属音と共に後部座席のガラスが砕け散る。



「後ろだ!」



助手席から身を乗り出すと、ソルジャーはそう叫び助手席から身を乗り出し、引き金を引くとすさまじい銃声が後ろへと抜けていく。



コノヴァレンコの雑な指導から手慣れたのか彼は馬を殺してから足止めし、騎手を射殺すると助手席に座り込む。

そして何もない街角を通り過ぎた時であった。



—GRASHHH!!!!――



突如として蹄鉄の音が響くと同時に、大剣ヴェランダルがパトロールカーの助手席ドアを貫く!


用なしと言わんばかりに扉は後ろへと転げていった。

コノヴァレンコが窓を見るとなんと騎兵が並走しているのである。


待ち伏せされた挙句騎兵に挟み撃ちを受けていていたのだ!



сука Блядь(クソ野郎)!ふざけた手ばっか使いやがって」



激しく揺さぶられる車内で彼は助手席から敵を離すべくハンドルを激流のように右に切り、車体を思い切り馬に向けてパトロールカーを思い切りぶつけたのである。


それを察知したのか敵は槍を構えながら馬をそらしていくが車の応答性には敵わなかった。



 バンパーが吹き飛ぶような衝撃を双方が襲った。思わず騎兵はよろめきながらこちらに顔を向け、槍を向けた。

やられるかもしれない、そんな一瞬をコノヴァレンコは逃さなかった。



連中はどういうわけか顔を覆っていない、そのことに気が付いた彼は懐からマカロフを取り出すと騎兵の顔向けてトリガーを引いた。


BANG!BANG!


兜でも吹き飛ばせればいいと思っていたがその銃弾は顔に直撃したのである。

力尽きた敵兵は道へと落ちると樽の如く転げていった。



しかし安堵は束の間、左側に居る冗談のような大剣を持った敵が残っているのである。



「ドア返せこの野郎!」



思い切り歯を食いしばりながら、パトロールカーのハンドリング性能を存分に生かして死に損ないの敵に向けてハンドルを切る。


それを悟ったパラディンは思わず速度を落として逃れようとするが、車を自由自在に操って峠を攻めることを趣味にしているコノヴァレンコの狙いに、止まった今どのようにあがこうが無駄なのである!



——CRSH!!!!――



再び衝突音と激しい衝撃が両者を襲う。


だがコノヴァレンコとその助手、ガンナー・ソルジャーの二人は相手同様、戦闘態勢を取り続けていた。


大剣を振り上げるわずかな間、半ば射撃しながら縫うように照準を騎手に向けて弾丸をねじ込むと地獄へと落ちていく。



「ぶち殺してやったぜ」



ソルジャーはシートに背中を預けると、思わず一息ついた。見知らぬ人間に得体の知れない武器を持たされ敵を殺し続けていたこともあって頭が追い付いていないが、どこの馬の骨とも知れない敵を蹴散らすことを最優先に考えるようにしていた。



 ガソリンを湯水のように使いながら痛々しいまでに傷ついたパトロールカーを走らせていると、ついに目的地が近づいていた。



最も過酷な戦闘地になってしまった西地区である。



旅立った騎士団の英雄が次々増えていく中、パトロールカーはサイレンを鳴らしながら派手なエンジン音を響かせただ走っていた。



Soyuz側の装甲車両が戦線に投下されてからというもの、装甲兵器には損害が与えられない為にハリソンに侵入した騎兵は数を減らしていたが、想定を超える数の敵兵が侵入していたこともあり次第に反撃に転じられるようになっていた。




 外から侵入する深淵の槍の排除こそ完了していたが、西地区には多くの数が残っている。


騎兵と歩兵の部が悪い中、対抗することが可能な防衛騎士団所属の軽騎兵が駆け付けたが圧倒的な練度差と小銃弾をはじき返す鎧の前では有効打を与えられないでいた。



「——クソッ――」



勇敢にも深淵の槍に立ち向かった騎兵もその一人だった。街角で敵を見つけた彼は、不意を突いて槍を突き立てた。



そこまではよかった、ゴロツキであればその段階で刺殺することができたが奴らは根底的に違う。

奇襲を予期していたかのように敵はこちらを向いていたのだ。



それどころか槍を受け流し、そして素早く大槍で彼の胴体を貫くとホースメンが止めと言わんばかりに恐ろしい精度で馬上にいる人間の脳天向けて何発もの矢を撃ち込んで確実に仕留めた。



 BTRをてこずらせた連携力を前に駆け付けた軽騎兵は山賊相手のように蹴散らされ、騎士団員の損耗は進む一方だった。



その中で圧倒的に不利な歩兵という立場で立ち向かう男がいた。アラブ人のパルメドである。



ボディーアーマーは剣で大きな切り傷が付き、弾薬箱のついたPKM機関銃とアクション映画のように弾薬ベルトを身に纏った姿はまさに死線に放り込まれた獣そのものであった。



真っ赤になった機関銃の銃身を抜き取り、地面に投げ捨てていた時である。



敵パラディンに襲われそうになっている団員を見つけたパルメドは急いでサイドアームの拳銃を抜き、頭めがけて乱射した。激しい金属音と共に何かがはじけ飛ぶ音が響く。



気をこちらに向けようという試みだったが、すかさずカバーに随伴していたホースメンがとりついた。まるで特殊部隊を相手にしている動きに絶叫しながら銃身を取り付けると、思い切り引き金を引いた。


無線で増援こそは呼んだが、到着するまで時間を稼がなくてはならない。対抗できるのは自分しかいない今、使える手数は使っておくしかなかった。



「畜生、お前じゃない!」



ホースメンは54R弾という大きな弾薬を使った数十発もの弾丸を浴びると次々に鎧が砕け散っていき、全身をハチの巣にされた後に落馬した。


馬はどこかに行ってしまったが、気にしている猶予は最早ない。



パルメドはそのまま向こう側にいるパラディンに向けて銃弾の雨をぶつけると、兜を吹き飛ばしていたおかげもあって銃弾は脳天を貫通し、敵は力なく落ちていく。



 それでも彼は息を切らしながら退避が必要な人間を探し続けていた。


手にしたPKMは軽量で持ち運びが容易な機関銃である。


だがその重さは7kg強とM4の二倍近い重量を振り回しながら全力で走り抜けていくことを繰り返していたため訓練された熟練兵士であっても疲弊は隠せない。


思わず銃身を杖のように突いて体を動かそうとしていた時だった。


「助けてくれ!」


その声に無意識下で反応したパルメドは燃え尽きそうな体力と執念を無理に燃やして、駆け付けると、そこには住民と思われる中年の男が槍を手にした歩兵に襲われているではないか!



Soyuzによって馬等の流入が止まった中でも業務を遂行すべく、なけなしの槍を手にして歩兵として戦うことになった騎兵なのだろう。



どんな大剣よりもはるかに重い機関銃をパルメドは持ち上げ、思い切り声を上げた。



「逃げろ!こいつらは俺に任せりゃいい!」



すると敵歩兵はくるりと槍を向けパルメドの方に向かってきた。


人質を利用することで騎士団員をおびき寄せようという魂胆だったが、圧倒的射程を持つ機関銃の前では槍程度のリーチ差は埋められることもなく、無慈悲な弾幕が敵を貫いた。



その時である。彼の背中を打撃のこもった斬撃が襲った。



もう一人、斧を持った待ち伏せしていたのだ。思わず地に倒れるが、なんとかあお向けにした瞬間、追撃とばかりにその身に分厚い刃が振るわれるのを辛うじてパルメドは機銃を盾にすることで防いだのである。



 押しつぶされそうなほどの力を受けながらサイドアームの拳銃を抜こうとしたが



「よりにもよって…!」



拳銃は残酷なことにホールドオープンしていたのだ。

それは弾切れをこれでもかと思い知らされる光景が広がる。


ここまでかとパルメドは腹をくくった。押さえつけられている今機関銃は使うことはできないし、なおかつ取り回しの悪いこの銃では接近戦の精鋭を相手するのは分が悪い。



成す術がないかと思われたその時、遠方から今にも爆発しそうなほど激しいエンジンの音が響いてきた。





————





——WEEEEEeeeeeee!!!




街中の銃声をかき消すような大音量を響かせバンパーが外れ、片方の扉が外れたボロボロのパトロールカーが迫っているではないか!


そう、コノヴァレンコを乗せたパトロールカーに間違いない!


激しく車体を揺さぶりながら曲がり角をヘアピンカーブのように曲がると、その姿を現した。



それどころかエンジンの回転数をますます上げながらこちらに迫ってくるではないだろうか。


既定現実の人間でもこの光景から逃げようとするものではあるが、敵兵は斧で押さえつける傍ら腰に着けていた剣を抜くと籠手回りを光らせながらパトロールカーに向けて投げたのである。



魔具によって力添えされた上で投擲された剣はスピードを伴って運転手側のフロントガラスに突き刺さり大きなひびが走る。



「邪魔だ、そいつで窓を砕け!クソ、風通しよくしてくれちゃって」



コノヴァレンコはギアを5速に素早く変えると、アクセルを思い切り踏み込んでそう言った。市内では曲線が多いことから速度を出さずにいたが、この時は関係なかった。


スピードメーターがぐんぐんと上がると同時に燃料を食い散らかし、燃料メーターは反比例するように減ってゆく。



助手席の団員が効率よく殴れる形をした銃床でひびの入ったガラスを砕きながらコノヴァレンコに聞いた。



「なにをするつもりだ」



「ひき逃げに決まってる!【緊急車両通ります、道を開けてください】」



彼は車外スピーカーでそうアナウンスしながら、みるみるうちに加速してゆく鋼鉄の凶器で、間髪与えずパルメドのそばにいる敵だけを跳ね飛ばした!


不自然なことに吹き飛ばした時の骨の砕ける耳障りの音ではなく、小動物を弾き飛ばしたかのような軽い音と共に吹き飛んでいった。




それを見るなりコノヴァレンコはありったけの力でブレーキを踏み、タイヤは石畳と擦れて白煙を上げ始めてからしばらくしてからミサイルめいたパトロールカーは止まった。




 あれだけの速度で弾き飛ばしたにも関わらず骨すら折れているように見えない。

傷ついた車のドアを蹴飛ばしてコノヴァレンコはソルジャーと共に外に出ると真っ先に走った。




「状況はどんなだ」



コノヴァレンコはそう言いながら傷ついた野獣、パルメドのそばへと駆け寄る。

巻きつけられた弾帯の下にある野戦服は所どころ赤く滲み過酷な戦闘が起こっていたこと意味していた。


その声に息を切らしながらパルメドは立ち上がると、彼が逃がしたはずの中年の男も同じように駆け付けると



「あんたら同じ異端の連中か、彼は斧で背中をやられた、僕の恩人だ、助けてやってくれ」



その男の言葉通り、パルメドの背中には重い斬撃を受けた痕跡があった。


今まで蓄積した疲弊と傷で正気ではいられないような状況だったが、パルメドは機関銃のストックを杖にして立ち上がると



「いいんだ。俺は丸腰のヤツが襲われてる姿を見過ごすほど落ちぶれちゃあ、いない。

少尉、俺は団員をやれる限り逃しました。ダメだったやつもいますが。同じ味方です、全力は尽くした方だと。」



その雄姿にコノヴァレンコは黙って聞いていると、敬礼をしてソルジャーを呼びつける次いでに無線機を取る。



【こちらボリス、騎士団員23人回収したいが。車両に乗り切れない。とりあえず8人は車内にて収容、応戦しながら増援を要請してくれ。西地区の警備スタッフは自力で帰投したらしいがシフトに入っているパルメドを出してくれ】



その無線はBTRを乗り回して騎兵を排除し続けていた中尉からだった。その報告によればパルメドの逃がしていた団員は鋼鉄の箱舟にたどり着いたことを意味していた。

 





—————






【コノヴァレンコ了解。一等軍曹を回収し帰投する。】




無線をそう答えて回線を閉じると、パルメドに向けて一度敬礼してからこう告げた。



「パルメド一等軍曹、ご苦労だった。逃がした騎士団員は後にBTRに収容されるだろう。中尉の腕前を信用しろ、問題なく事は進む。」



その最中にもパルメドは少しずつ崩れ落ちていきながら言葉を返そうとしていたとき、すかさずあの男が肩を支え、口を開いた。



「異端人と言って悪かったよ」



その言葉がコノヴァレンコに投げかけられると、こわばった表情を緩めて答えた。



「なんといわれようが使命を果たす。これがSoyuzだと俺は思っている。」



その様は暗闇であってもわかるほどに凛々しい姿だった。かつての帝国軍人のようなその姿を想起させた。


 コノヴァレンコはパルメドとこの男を弾薬で満ちた後部座席に乗せると、パトロールカーのハンドルを握り帰投する。



男は馬を必要としないこの貨車に驚いてはいたが、さらに驚愕すべきことが起こっていた。強烈な向かい風が襲い掛かってきたのだ。



「блин!修理代をあのクソ共からむしり取ってやるからな」



傷ついた車のエンジンをふかす音がこの街に木霊する。しかしその音に混じって絶え間ない銃声が混ざっている。


今までの命がけで戦ってきた一幕はこの戦闘の一局面にしか過ぎないのであった……


登場兵器


・対装甲大剣 ヴェランダル

本格的にアーマーナイトが出現する以前の鎧を貫くための馬上剣。

全体的に巨大だが、槍のようにグリップがかなり長いのが特徴。斬るよりも殴りつぶす形に近い。

当然貫通能力も凄まじく、車のドアを容易く貫いてしまった。

こんなのモノで刺突されれば命はない。

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