Chapter252. In Purgatory (2/2)
タイトル【煉獄の中で】
砲台を壊滅させ、ついに始まった陸上部隊と空挺兵団の投入。
ヘリからやって来た増援隊と機甲部隊は要塞地表の残党狩りを、降下部隊は内部の制圧を担う。
本丸を抑える精鋭スタッフと比べて歩兵と機甲部隊は地味ながら、奥へ入っていく兵を挟み撃ちから守る重要な役割があるのを忘れてはならない。
だが、ここは帝国一の魔導技術者ユンデルのホームグラウンド。
残党とはいえ、今まで配置されていたソーサラーとは一味も二味も違っていた。
——VEEEEEEE!!!!!!!!!!
「なんだ!?」
なんと魔力式艦砲のような熱線が飛来したではなかろうか!
幸いなことに、その一撃は歩兵部隊を掠めたが、直撃すれば凄惨な最期を迎えることになるだろう。
既に辺りは火の海に残骸だらけで稼働しているような砲台はない。いるのは精々ソーサラーやらの魔導歩兵戦力だけの筈。
それにも関わらず、何故これほど強力な攻撃が飛んでくるのか。
「コイツら、まさか手のひらから撃ってんじゃねぇのか」
スタッフが反撃ついでに弾切れを起こし、マガジンを変えながら呟く。
兵器の代わりに人間がその肩代わりをするのが帝国軍のやり方。
同じ魔力を媒介にするのであれば、術者の負荷等の複雑なことを抜きにして、理論上では可能と言える。
肝心な威力は主砲級の魔甲砲どころか側面についている副砲にも及ばない。
それでも強力なエネルギーを伴った熱線であるため、ボディーアーマーを貫通し焼き殺してくるのは確実。
脅威以外の何物でもない。
そう言った厄介極まりない存在を前に、することと言えばたった一つしかないだろう。
「——よし。撤退急げ」
【Spare01 火力支援を要請する】
部隊長はあることをするため、兵に撤退するよう指示を下すと無線機を手に取った。
背後には究極の戦艦と巡洋艦。
目障りな害虫は火力で焼き払ってしまえば良いのである!
————————————-
□
——同刻
空挺部隊侵攻ルート
これら艦砲を手から放つ重ソーサラーは空挺部隊の進行ルート上にも確認されていた。
所詮は火柱を放つ敵兵と大差なく、増強されても特段問題ないかと言われれば答えは違う。
何故か。
尾道・サウスパークによる夥しい数の艦砲射撃の余波によって砲台以外の設備も根こそぎ破壊されていたからである。
厄介な砲台はもちろんの事、要塞への侵入口も崩落と言って良い程に破壊されており、手持ちの爆薬で発破して突入することは不可能。
そのため辛うじて使えるような入り口を探さなければならないが、この増強された火力要因が邪魔をする。
無線機から指示が下る。
【尾道から各員。オーディナンス・インバウンド。ETA90シエラ。直ちに退避しろ】
火力支援に伴う退避命令。90秒後に51cmや12インチ砲弾が飛んでくることを意味する。
恐らくヘリからやって来た増援部隊が要請したものだろう。
機甲部隊がついていたとしても、そう簡単に突破できるような場所ではないのはどちらも同じ。
むしろ手間が省けたと言うべきか。
——BLATATATA!!!!——DAMDAMDAM!!!!
撤退を援護するため、BMDが機関砲と同軸機銃を撃ちながら敵を引き離す。
迫りくる時間、飛来し続ける攻撃。果たして。
——————-
□
——着弾90秒前
「後退しつつ制圧射撃に移れ」
車長の冷徹な指示が装甲の中を木霊する。
砲撃されれば装甲の薄い空挺戦車BMDもその影響を如実に受けることになり、それどころか強烈な爆風をモロに受ければテツクズになってしまうだろう。
だがそんな死地においても、役割は全うしなくてはならない。
これまでの敵に対して狙いをつける精密射撃から、機関砲や同軸機銃をフルに使った制圧射撃で撤退を援護する。
DAMDAMDAM!!!!BLATATA!!!!!!
エンジンからの白煙、30mmの大きな薬莢を放り投げながら残弾の限りを尽くし乱射し続けるのだ。
砲塔内に詰められた弾薬ベルトが残り時間と同じく湯水のように減っていく。
——着弾1分前
DAGDAGDAG!!!!!
「寄るな寄るな!」
この要塞にいる先軍915、ボゥール曹長の率いる戦車たちも例外とは言えない。
砲手に同軸機銃を撃つよう指示し、車長の彼は防盾という板切れがついた連装グレネードマシンガンの引き金を引き続けていた。
こういった場合、とにかく弾をばら撒くに限る。一発屋のミサイル類よりも機銃の方が良い。
「時間がない、もう十分だ」
前線からある程度後退したことを確認すると、曹長はハッチを閉じて戦車の中に戻るのだった。
———————————-
□
FEEEEEEL!!!!!!!
空気を切り裂く甲高い音が背後からやって来た、そう感じたのはほんの一瞬。
瞬き禁止、視界がわずかに暗転した次の瞬間、辺りが業火に包まれる!
これが科学を極めた文明が繰り出す「魔法」
人影、残骸。何から何まで爆風の前に無に帰すのだ。中戦車と同等のジェネラルでもそれは変わらない。
さらに魔力脈を掘り起こして引火させ、要塞は極彩色で彩られる。
それが何度も、何度も。
空から、いや遙か彼方の運河から飛んでくるのだ。
反撃手段を失ったゲニフィチニブ要塞に、しんしんと重砲弾の雨が降りしきる。
大炎上している砲台跡にも無慈悲に降り注ぎ、城塞を消滅へと追いやっていくほどの火力。
市街地を跡形もなく吹き飛ばさなくなった、現代の生易しい戦争では見られない恐ろしい光景だ。
これこそ、砲兵師団にも匹敵する戦艦から放たれる、「敵地を地図から消すような」攻撃。
終わらない悪夢以外、何があると言うのか。
「コイツは……なんだ……」
遠方から様子を伺うボゥールは口にすることしかできない。空爆、砲撃、重対艦ミサイルの着弾。
ありとあらゆる、この世の終わりと評される光景を見てきたつもりだが、それとは次元が根底的に違う。
厄災だ。
———————————-
□
艦砲射撃による援護は幾度も押し寄せる波のよう。
火力支援の渦中にいなかった空挺部隊や各々兵士は尾道の恐ろしさをまざまざと思い知ることになった。
あれだけ立派だった城塞も、長く続いた苛烈な砲撃によって跡形もない。
たった一日、それどころか数時間で反撃能力や自慢の防御力も失い、あとは頭脳である司令塔を制圧するのみ。
この膨大な衝撃と破壊の渦によって入り口は崩落。歩兵の持つ小道具程度ではどうにもならない筈。
だがここで考えて欲しい。
人間が持ち運べる物体では不可能かもしれない。
しかし、そんなものを軽く凌駕する恐ろしいものが雨の様に降って来たことを。
【侵入口を発見、突入する】
爆薬の流星群は勝利への活路を開いた。
際限のない破壊は全てを無に帰すだけではなく、時に何かを生み出し得ることだってある。
【LONGPAT了解。各部隊は各々の判断で突入を開始、付近のLight armorは突入を援護せよ。展開中の機甲部隊各車はその場で待機、警戒を怠るな】
合図を受け取った冴島は、各地に散らばるBMDに突入部隊を掩護するよう指示を下す。対歩兵には滅法強いのがファルケンシュタイン帝国軍の定石。
どれだけ死に体でも抜かりなく、悪足掻きを全て封じた上で確実に攻め落とすのだ。
【Light armor01了解】
消えかけた大火災もまた火の手を受けて、より一層燃え上がる中、作戦は進む。
———————————-
□
——ゲニフィチニブ要塞
——地下B1
ファルケンシュタインの城塞、その通路は広い。
ジェネラルやアーマーナイトと言った特段重く、幅も取る歩兵を使う以上、縦横無尽とはいかないまでもBMD-4が入れるだけの空間は担保されている。
瓶口に嵌ったコルク栓のように詰まることはないが、ここで問題となるのは「司令部の位置」
攻撃が減退し、最も防御の固い地下なのは言うまでもないとして、虱潰しに制圧する訳にもいかない。
そんな時、如何にも上流階級的な声が無線機になだれ込んでくる。
【ここからは僕が道案内をさせてもらう。なんせこんな時間だ。飛びきり苦いコーヒーを口にしながら寝ていたら、その時点で案内は終わりだと思ってほしい】
この要塞についてある程度の知見を持っている、カナリスだ!
【……この要塞、司令部までの道にはいくつかの短絡道がある。平常時にショートカットとして使われるのは勿論だけど、こうした非常時には歩兵を送り込むことを考慮してある。……それにしても眠いな。いいかキミら、夜中にたたき起こしたことを忘れるんじゃないぞ】
時折あくびを交えながら彼は説明を続ける。
ぐっすりと眠りこけていた矢先、冴島の差し金で無理やり起こされたのだろう。
【いくら近道ができるからと言っても、出口で待ち伏せしているかもしれない。多分向こうも内通者がいることを踏んでいるだろうしな。頭の中がスッカスカなのはラムジャーくらいなもんだよ。ああ眠い】
しかし帝国軍は軽装甲目標や歩兵に対し、異様に強い。
ある程度、装備の持ち込みが制限される屋内。両者、同じ土俵の上に立たされたのである……
次回Chapter253は10月28日10時からの公開となります




