表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
273/327

Chapter246. Not to be seen, not to be known

タイトル【見ることもなく、知られることもなく】


動き出していたのはSoyuzだけではない。

要塞に立てこもり、籠城を決め込んだ帝国軍も時を同じくして動き始めていたのである。



現状をもう一度整理しよう。



戦車部隊の存在を察知した要塞側は、設置されたあらゆる砲台をもって一斉砲撃した。

しかし、敵を完全に消し切ったかと問われれば誰も答えることは出来ない。

そんなものは実際この目で確かめない限り、どこにも存在しないのである。




——ゲフィチニブ要塞

——地下格納庫



ゲフィチニブのカタパルトは反発力を使った旧式かつ原始的なものであり、支度には時間がかかる。

しかし籠城中に準備を終えていたこともあって一気に準備を整えられた。



それを裏付けるように、各々の動きは早い。



【第7偵察騎部隊は順次、離陸せよ】



地下に伝声管から無機質な声が響くと、作業員が地表に設けられたハッチを開ける。

竜騎士が出撃できる最小限の隙間から入って来た日光が上り坂を照らす。


その光景は夜に終わりを告げる日の出のようで美しい。



一方で騎士の控える最奥では、魔具を付けた兵がせわしなく動き続けていた。

鬼気迫る中、ある作業員が飛竜にカタパルトの固定具を付け終えたのか声を上げる。



「ハッチ解放、ヨシ!装着完了!」



飛竜を途中まで加速させるために必須の輪を付けた旨を報告すると、手を掲げていた兵が叫んだ。



「退避急げ!カタパルト!出ます!」



「了解!」


相応の質量を持った存在が加速するとあって、こうしなければ大怪我を負うのは必至。

兵はドラゴンナイトの周りに誰も居ないことを確認すると、掲げていた手を一気に下ろす。



——GRAAAAA!!!!——


溜めていたエネルギーが一気にはじけ飛び、時速100キロ弱まで加速した竜騎は長い格納庫から瞬く間に解放された。


騎手には負荷がかかり後ろ髪を引かれるが、強烈なGに対してビクともしない。



狭苦しい洞穴から放たれた直後、地上には用はないと言わんばかりに飛び立っていった。その手にごちゃごちゃと何かが付いた「ダール」を持って。







————————————————










——要塞上空

——高度540m


要塞から飛び立っていった各5騎のドラゴンナイトたち。各々別のカタパルトから射出されたが、無事合流することができた。


一行が見下ろすのは既に陥落してしまった哀れもないナンノリオンの姿。

眼下に映る栄光ある魔導都市とその工場群は既に敵地となる。



慣れ親しんだ隣の地が既に異界からやって来た、どこの馬の骨も知れないような知れない連中に占拠されてしまっているとは分からない。



国境のように人間が作った身勝手な境界線なのだが、それでも境界に変わりないだろう。

一歩でも足を踏み入れようものなら命の保証はない敵地なのだから。



それは何もナンノリオンだけに留まらない。隣のペノン・ゾルターン・シルベー……

最早手をしてくれるような県はない。もう味方の陣地は帝都だけになってしまった。



しかし命令は絶対。たとえ絶望しかなくとも竜騎士は偵察に出続けるしかない。



ばったり敵と出くわしたとしても、ユンデルが改良した誘導ダールを持った兵士が何とかしてくれるだろう。



「後続は上がってきているな」



指揮を執る航空偵察分隊長は後方を見て、兵が無事離陸できたか確認する。

計5騎、迎撃による損耗なし。

竜の速度をぐんぐんと上げていくと分隊長は手を使って進路を指示。



要塞司令ユンデルによれば敵の進軍ルートになりえる運河近くを偵察すべしと命令が出されている。

帝都からの直結ルートが仇となった訳か。

そんなことを頭の片隅に置きながら、隊は飛び続ける。



魔導都市から少し離れ、空の上からでもくっきりと見える川沿いへと進路を曲げた。


気持ちが悪いほど静間に帰ったその空を……








————————————————











竜騎士たちは既にナンノリオンの中ほど、丁度運河近辺の空まで来ていた。


彼らにしてみれば、ここはホームグラウンドに相当する訳なのだが、今はSoyuzにより占拠された敵地。

訓練を積んだ親しみある風景。そう、何時もの様な。



「静かすぎる」



拍子抜けするような静けさに、ある兵士がこう口走る。



もう一度繰り返そう。

現にナンノリオンは既に「陥落」し、Soyuzに占拠されている敵地もとい戦場である。



仮に得体の知れない偵察騎が飛んでこようものなら、血眼になって撃墜しにかかるのが自然と言えるよう。

どこの軍隊も手の内を知られたくないのは同じだからだ。



故にこうして普段通りに巡回出来てしまっているのが、イレギュラーなのである。

何キロも先に飛行している物体を見つけて叩き落せる程、目が良い連中なら猶更だ。



隊長がそんな呟きを拾いながら状況を推理する。



「そうか……あの決戦で兵力を使いすぎたのか」



彼が導き出した答えは一つ。

相手は迎撃が飛ばせないまでに疲弊しているのに他ならない。



これは最も空の戦力だけに言えることだが。


しかし空だけであっても、十分なアドバンテージとなりうる。



「5番騎、帰投せよ。それ以外は調査を続行」



衝撃的な真実を知ったまま死んでは元も子もない。

一番後ろのドラゴンナイトを帰らせ、更なる調査へと赴くのだった……








——————————————











 ——駆逐艦 バイシクルリペアマン



「距離15000敵機確認 数4」



遠方からの敵機襲来。それをいち早く察知していたのは二隻の駆逐艦たちである。


絶対に存在を悟られてはならない。



だからこそ今にでもミサイルの発射ボタンに手を掛けたいが、駆潜艇やこの艦ともどもミサイルという高貴な武装は載せていないのが痛かった。



それでも十分な状態で援護を受けていれば、竜騎兵など蚊を叩き落すよりも簡単に叩き落せる。

では出来ないのはなぜか。何よりもミサイル不足が後を引いているからに他ならない。



確かにS-125やそれを運用するレーダーは確かに存在するし、ペノン県にも配備されている。しかし空飛ぶ超兵器との戦闘で使い過ぎていたのである。



それもSoyuzの補給力をもってすれば解決する筈だが、単価が安い砲弾とは訳が違う。

大量の大型ミサイルを持ち込めれば各国に怪しまれ、やがては。



このような複雑な経緯があって、使い果たした大型誘導兵器の補給が上手く行っていないのである。



対空兵装は確実性に欠け、航空支援や外から誘導兵器の援護は受けられない。

しかし艦長には考えがあった。



「対空戦闘配置につけ。距離1000を切るまで待機」



命令を静かに下すが、実にこの判断。かなり思い切った策だ。

交戦距離が日増しに長くなっていく昨今、1kmまで接近を許せと言うのは半ば自殺のようなものに近い。



ただし、これは対艦ミサイルや魚雷などを持った航空機が近づいてきた場合のみに限るがここでは違う。

相手は魚雷も何も持っていない竜騎兵なのだから。



対空兵器の有効射程に長く閉じ込め、その間に殲滅しようというのだ。



全て撃墜したところで、偵察が帰還しないことを敵は訝しがるだろうが敵側に渡す情報は最小限に抑えることができる。



さらに艦長は無線手にも指示を飛ばす。



「この命令を全艦に通達せよ」



消せるか、目撃者を。











———————————————












——ジヒドロゲン運河付近

上空



天気は晴れ、空から見上げると雲がちらほら見えるが些細なもの。

取り立てて風があるわけでもなく、まさしく平穏という言葉が最も似合う陽気か。



そんな気ままな周遊は終わりを告げる。



「運河に敵艦が!」



隊長よりも兵が先に叫んだ。



運河にぽっかりと浮かぶ奇妙な艦。

帆を持たず、灰色一色で煙突を生やした紛れもない異物。


味方ではありえないソレは、Soyuz所属の船だと断言できる!



——FINFIN!!!



編隊を散らす暇もなく、機関銃の流星群が地表から降り注ぎ、駆逐艦から離れた榴弾の真っ黒い花が咲く。



高速不可視の破片が騎士をズタズタに切り裂いて1騎が撃墜された。

隊長は少しでも身軽になるべく、手に持った銀の槍を投げ捨てながら高度を上げながら左旋回。



「ダメだ、この装備じゃ時間が稼げん!」



大本を正せば偵察任務のために持たされた最低限の武器。初めからあってもなくてもさほど変わらない。むしろ取り回しの事を考えると逆に足枷になる。


竜に鞭を打って出せるだけの速度を出させるも、敵の対空砲火はまだ追いついてくるではないか。


射程も目もトコトン長いSoyuzのことである、限界まで引き付けて確実に撃墜しようという魂胆なのだろう。



対空戦闘の始まりだ!











————————————————










——駆逐艦モンティパイソン



沈黙を貫いていた船団から一斉に火を噴いた。駆潜艇でもそれは変わらず、乗員は甲板に出て高角砲や機銃を操作している。



「クソっ、あんな空飛ぶトカゲなんぞに食われてたまるかよ」



ガンナーが悪態を付きながらトリガーを引き続ける。

こういった砲塔もないむき出しの武装はドラゴンナイトにとって襲ってくれと言っているようなもの。


電子制御の傘から外れた彼らは必至に抗い続ける。



———DAMDAMDAM!!!!—DONG!!DONG!!!DONG!!!!



人力で引き金を引き続ける20mmや40mm機銃はともかく、主砲は火器管制が付いているのが幸いか。



「1機撃墜」



溢れんばかりの炎が放たれ、ようやく一つ消え去った。


しかし、一度見られたからには絶対に返す訳にはいかない。今いるのは大海原ではなく逃げ場のない運河。

偵察兵を一人でも逃がしたら何もかもがおしまいだ。




脆弱な駆逐艦と駆潜艇ごときなら間違いなく消滅する。あのバルーンのように。

見られてはいけない、知られてはいけない。たとえどんな手を使ってでも。



生き延びるためにもこのレーダーに映る点を全て消さなくてはならないのだ。









—————————————————






——上空

「やられた!」


Soyuzの激しい対空砲火によってもう1騎が焼かれ、落された。

残るのは隊長と兵士の二人だけ。



数百メートル届くのに1秒かからない銃弾と、たかだか4m程度の槍とではまるで勝負にならない。



逃げ切ろうにも、恐ろしく正確で執拗な追跡が続く。このままでは確実に皆殺しにされるのは明白だ。

敵がもう目と鼻の先に来ているというのに、何もできず死んでいくのか。



だが、まだ万策尽きていなかった。

改良された誘導ダールを持っているドラゴンナイトがまだ生きているのだから!



「やれるか」



「一か八か、やるしかないでしょうに」



対空射撃に捉えないよう舞いながらも、一瞬だけ隊長と兵の目が合う。

ランチャーを持った兵は下へ。対照的に分隊長は高度を上げていく。



射程がいくつなのか考える暇もない。


赤い魔石の照準器を覗き込みながら狙いを定めた

いきなり渡されたものだが、一兵卒なら操作は容易い。


改良型は的の速度が出ていなくとも動いていればあらゆる物体にロックオン可能。



船を捉えた魔石が赤から青に変われば目標を捉えたことを意味する。



————BPHooOOOMMM!!!!



だが狙いを定めるがあまり動きが単純になってしまい、対空機銃と砲弾の餌になって砕け散ってしまった。



しかし一度飛び出した矢は弓が壊されても止まることはない!

風魔法の力を受けた槍は駆逐艦モンティパイソンに向けて飛んでいく……








———————————————








——駆逐艦モンティパイソン



現状は4機編隊のうち、既に半分を撃墜。

今はその片割れがしぶとく残っており、何とか叩き落すために機銃や砲火を絶やさない。



それに一躍買っているのがむき出し20mm機銃。

ゴマ粒大ながらも、なんとか敵が視認できることもあり、動きに食らいつきながら引き金を引き続けていた。



その時である!



——FEEEE!!!!!


銃弾とは違う、何かもっと大きなものが空気を切り裂く不気味な音。

銃声や爆音とはまるで質の異なるものを聞きつけたガンナーが思わず振り向く。



手槍が機銃めがけて飛んできていた。



「Ahhhh!!!!!」


GRAAASHHH!!!!!



咄嗟に飛び込んだ刹那、執念深い手槍が機銃に直撃。

機関部に大穴が空き、返品しない限り息を吹き返すことはないだろう。



それでも止まらない。



設置されていた床をも貫き、その下の甲板に突き刺さってようやく止まった。



「機銃使用不能!」



冷や汗を垂らしながらガンナーは声高らかに叫ぶ。


それと同時に、レーダーから敵機は全て消え失せたのだった……



次回Chapter247は9月16日10時からの公開となります。


登場兵器


・ダール

正式名称:対装甲槍射出器。三連装のニースを単装化させたもの。

投槍を弾にすることにより削減されており、重量も比較的軽いことから騎兵やドラゴンナイトらが携行することができる。

誘導装置が開発された今では、ミサイルとしての運用も可能なようだ。


・S-125

ソ連製の高~中高度向け固定式の対空ミサイル。警戒レーダー車とセットで運用される。

旧式なのは否めないが、ユニットがあれば戦闘機に対して脅威になり強く出ることができるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ