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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
272/327

Chapter245. Cruise

タイトル【クルーズ】

長々と続いた検討会議も終わりを見せ、全員一致で陸上および稼働できる航空戦力を投下したした場合「作戦遂行は困難」という答えが出された。



そのため戦車・自走砲などの様々な陸上戦力に加え、ついに戦艦尾道が投下されることに至ったのである。



敵陣が内陸にあるため、帝都から魔導都市、そして海のペノンに通じる運河を遡上することで希望が見えたかに思えた。



だがそうは問屋が卸さない。

世界最大の戦艦を凌駕する超大和型戦艦である「尾道」の大きさが仇となったのである。



問題は単純明快。

これだけ船が大きければ当然船底も深くなり、川底にめり込んで座礁してしまうのだ。



既定現実世界でもこの超巨大戦艦を牽引できる存在は早々おらず、救援は難航するというのに、異次元でスタックした時には目も当てられない。



そんな下らないミスを起こさないため、この運河に4隻の艦が川底の測定を行うために派遣されていた。


各々4号・13号駆潜艇が2隻ずつ。

直近の大仕事と言えば海洋怪獣退治とあって今回と比べて落差が大きい。



しかし地味な任務とはいえ、敵地に入る以上どのようなものでも重要なのは言わずもがな。



駆潜艇たちはヴェノマスから川を上り、あろうことか陸の奥へ奥へと目指し始めた…











——————————————








尾道の遡上に利用できそうなルートは二つ。



ペノン県ヴェノマスからナンノリオン・帝都をつなぐジヒドロゲン運河。カナリスが整備したとあって自信がある確証が持てるルートだと言える。



もう一つは学術旅団の調査で浮上した、ペノンから湿原を経由して首都へと繋がるモノオキシド大河。



川幅はそのものに問題なかったため、いよいよ船を使った本格的な探査が行われることになった。



そうした小回りの利く役と言えばやはり駆潜艇か。

しかしここで問題が生じる。



彼らはあくまでも水面下の潜水艦ハンターという域を出ず、故に武装は対艦・対空共に心もとないのだ。



さらに装甲に守られた砲塔を持たず武装はむき出し。

このままでは丸焼きにしてくれと言わんばかりではないか。



そこでアレン・M・サムナー級駆逐艦 第6番艦モンティパイソンと第4番艦バイシクルリペアマンである。


レーダーはもちろんのこと、多数の機銃や連装主砲を備えており、対空性能には非の打ち所がない適役と言えよう。



かくしてベノマス沖に集められたのは4号・13号駆潜艇。



さらにある助っ人合わせて6隻。



そこから2手に別れ、運河には4号。モノオキシド川には13号が派遣されることに。




4号とモンティパイソン、バイシクルリペアマンらは沖からベノマス市街に入り始めたが、本格的な制圧戦に参加していない彼らにしてみれば、これまた珍妙な光景なのは他ならない。



ふと右に視線を映せば窓から人の営みが垣間見えるのだから。



それどころかブリッジからは砲撃によって穴が空いたのか、屋根に乗って復旧作業を行う現地の人々それにSoyuzスタッフが混じっている様もわかる。



大動脈と呼ばれる幅が広い所を選んで通っていたものの、それでも建物を傷物にしてしまうのではないかと思うほど。



曰く、ヴェネツィアを真似て作られたというが、こんなマネは本場では絶対にできないだろう。



「探査開始せよ」



艇長の一声でソナーを使いながらヴェノマスから運河に入れば、風景は海辺から一気に表情を変え始める。



——ジヒドロゲン運河

向かってくる流れを切って平原の中を突っ切っていく。

海を主戦場にしている駆潜艇や駆逐艦にしてみれば異様以外の何があるのか。



ヴェノマスからの風を受け名前も知らぬ緑のカーテンがたなびく様はとても戦争をしており、この地下に悪魔の兵器が作られていたとは到底思えない。



「…周遊を懲り固めたようだ」



艇長が呟く。

ただ運河の流れに逆らって進むだけで、国境を跨いだように風景が変化を止めないのはこの世界ならでは。



平時に来ているのなら、なんと素晴らしい光景だと言いたいが今はそうもいっていられないだろう。



この安心感すら覚える、風光明媚な風景。しかしこれほど静かなのもかえって不気味だ。


流石にSoyuzが制圧している、ということもあって2隻の駆逐艦から報告はない。



無いことに越したことはないが、なんにせよ小骨が喉につかえたかのような感覚が拭えそうになかった。


しかし楽観的な空気もあるものが見え始めることで終わりを告げる。



遙か遠くの地表に突き刺さった巨大な板が見え始めたではないか。

報告によれば、あれがベルハトゥの涙から落下したプレートの一部だという。




地面に深く突き刺さる巨大な板切れ。

乱雑に言えば核兵器が使用された動かぬ証拠のようなもので、気分が引き締まった。




遠くからも見えるこの「大量破壊兵器モニュメント」は、ここは観光地でも冒険者が世界を救うような異世界でも何でもない戦地であり、しのぎを削った戦いがあったのだと知らしめてくれる。




それに相反するように、付近には機能を停止したカロナリオがさながら墓標のように鎮座していた。



当時は艇長共々4号駆潜艇は退避していたこともあって、真価を発揮した姿をこの目で見ることは出来なかったが、どうやらアレがゲームチェンジャーとなったという。



一度Soyuzに牙を剥いた機械仕掛けの神が、逆に敵を救ってしまうとはなんとも皮肉だ。



どうやら脚部が大破したらしく暫くはこのままと聞く。



しかし、いずれ撤去される日もやってくることを考えると、この風景を艦橋から見られるのは今のうちかもしれない。



ふとブリッジの窓から甲板を見てみると、砲座についているはずの兵が私物と思しきインスタントカメラを持ち寄って風景をパパラッチよろしく撮影していた。



人類が写真器というものに触れてからというもの、感銘を受けた瞬間を残したいという欲望に駆られるのが当たり前となっている。



もはや本能と言わざるを得ず、ある種やむを得ないのかもしれない。



「どうしますか」



見かねた副艇長が問う。



「放っておけ。持っているアレは一応、許可を通しているものの筈だろう。それに変わりゆくこの瞬間を切り取るのも悪くはない」



「奴らが撮っている写真もいつかはとんでもなく貴重なものになることだってある」




戦争というのはいつも残酷だ。


今までそこにあった風景を全て跡形もなく破壊して、あっという間に物言わぬ残骸に変えてしまう。



そう考えてみるとこうして写真に残しておくのも決して悪いことではない。



「いつも見ているのが馬鹿みたいに広い海と砲火ばかりでは気も滅入る。目の保養も重要だ、違うか」



駆潜艇は運河を遡り、艦橋から覗く風景も毛色を変えていく…










——————————————












途中まで4号駆潜艇からなる船団と行動を共にしていた13号だったが、市街地から先は全くの別行動となっていた。



このベノマスの街をつくったヤツはどういう訳か日本から飛ばされた青年だというが、仮にも首都に接続しているルートを2本用意するまで頭が回るはずもない。



おそらく土建屋がいい仕事をしたのだろうか。



ややひねくれた13号駆潜艇の艇長はそう思いながら船を進める。



ともあれ、船は事前に渡された地図通りに進んでいるがそれまでの水面と異なり、明らかに水が澱みはじめた。


恐らくこれが湿原につながり、そこから帝都へと繋がるモノオキシド川の出口。




ベーナブ湿原から流れ込む豊富な養分がこの海一帯を育てたと言っても過言ではない。

そう考えると、清水だけが流れているのが良いとは限らないのである。




だがここで考えを捻ってみると、この川は「既にSoyuzの手に落ちた地を経由する経路」とも言える。



シルベー奪回の機転にはなるが、通用ルートとしては使えない。

どことなく成果は芳しくないだろう、と艇長は感じていた。



そんな海の生命線を駆潜艇は遡上を始める……



——モノオキシド川



この大きな川は帝国の中でも少し様子が違ってくる。



やや流れが急なジヒドロゲン運河とは違い、ゆったりと緑に濁った水が海へと下っているのだ。

例えるなら運河がヨーロッパ川、モノオキシド河はどこか南米ジャングルに流れる大河のよう。


川べりに茂っている林がある辺り、ここが一見してヨーロッパのような異次元には見えない。



「射線が確保しづらいな」



そんな光景を見て艇長が呟く。



後々尾道を呼び込んだとして、これだけ森が多いと隠蔽ができて良いが、身を隠すための隠れ蓑が逆にこちらからの攻撃を阻むことに繋がる。


曲射ができたとしても弾着確認には危険が伴い、その分精度が甘くなる。



なんにしても砲術長の腕が問われると言ったところか。



そうして常にソナーを使いながら水底までの距離を探りながら船を進めていると、ある報告が上がった。

よりによってモニタとにらみ合いをしている人間から。



「水深16mを切りました」



尾道のドラフトを下回る旨の報告。この場で最も聞きたくなかった事実である。

これよりも底が浅くなるということは、肝心要の超大和が座礁してしまうことを意味する。



はやい話がこれ以上は進めないのだ。



川幅だけを見れば十分可能であるという楽観的な見立ては見事に崩れ去ることになるが、艇長は翻して帰投せよとは決して口にしない。



世界最大だったはずの戦艦をさらに上回る超大和が規格外なだけで、これだけの水深があれば他の船が入ってはいけないという決まりは何処にもないからだ。



戦艦がダメでも、Soyuzは強力な火力を持つ艦艇をいくつも持っている。



いかに手数を増やせるか。戦いにおいて大切なことはないだろう。


双方Soyuzによる調査が入る一方で、要塞側からも「調査」の影が迫るのだった…

次回Chapter246は9月9日10時からの公開となります。


登場兵器


13号駆潜艇

本来であれば潜水艦退治に使う小型艇。武装は高角砲と機銃程度だが、専らSoyuzでは海中に潜む危険性物などを探るために使われている。使い方が何か違うような気がするが特に問題ないだろう。


アレン・M・サムナー級駆逐艦

Soyuzの保有するアメリカ製の駆逐艦

大量生産されたフレッチャー級の後継種。対空機銃や主砲が大幅増設されており、火力や対空性能は申し分ない。

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