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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
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Chapter244. Full Burst

タイトル【全力射撃】

嵐の前の静けさ、という言葉が存在する。

大事が起きる前には必ず不気味なほど静間に帰っていることだ。



普段であれば「予兆」でしかないが、観測班はこれから起きることを全て知っている。

これから寝た子を起こすのだから。




——午前5時



潜伏から二日目の朝を迎えた。夜間は相変わらず要塞は沈黙を続けており、いままで通り動きは無い。



だが、この朝だけは違う。



——TICTICTIC……——



猛烈な勢いで目減りしていく数字。

地中に仕掛けられたC4とその起爆装置がいよいよ作動する時が迫っていた。



「撃て!」



——ZDaaaAAAASHH!!!!!———



朝焼けの空、第一声を上げたのは二両の主体砲による同時砲撃。

駐退機が勢いよく後ろに下がり、砲口からは濛々と硝煙を吐き出している。


けたたましい爆音は空気を切り裂き、榴弾は禍々しい3連砲に向けて飛来しているだろう。



だが感傷に浸るだけの時間は残されていない。



「後退急げ!退避しろ!」


着弾後の爆音を見るまでもなく、砲術長は無線機を片手に大きく手を振った。

きちんと目標に当たっているかどうかの確認する時間すら惜しい。



下手を撃てば反撃の津波によって跡形もなく消えてしまう!



要員を乗せた主体砲は抱えた重砲に振り回されながら、勢いよく背中を向けて逃げの体制に入った。

操縦手はアクセルを目一杯踏んで、エンジンを勢いよく吹かせながら戦線から離脱する。



どうなっているのか気になって思わず振り返りたくなるが、ほんの少し速度がたるんだ瞬間が命取り。



KA-BooooOOOOMM!!!!



タイマーに設定された数字が0になったと同時に、近くに仕掛けられていたC-4が一斉に目を覚ました。オレンジ色の閃光が次々と放たれ、辺りは鉛色の煙に包まれていく。



一つや二つではなく、次々と爆発が連鎖し留まるところを知らない。



凄まじい爆音は小鳥のさえずりや、静寂を軽く吹き飛ばすのにはあまりにも十分。

すぐさま要塞側は戦闘態勢が取られることになるのは言うまでもない。



ある意味、攻撃を受けてからどれくらいの時間で支度を整えられるのかを意味する。

重要な情報に変わりはないだろう。



しかし何かが妙だ。



「おい、嘘だろ。まだカップ麺に湯を入れたトコだぞ!?」



望遠鏡にかじりつきながら観測を続けるスタッフが声を上げる。

それも無理はない。反撃体制に至るまで、たったの2分弱。速すぎるのだ!



爆発が起きてからまだ1分も経過していないというのに、敵は混乱することもなく準備を終えようとしている様が見受けられる。



船のように足の遅い兵器では忽ち反撃を受ける事は必須。



支度を終えれば待っている事は一つ。



——VEEEE!!!ZEEEEEKKKKK!!!!!——


敵への一斉砲火。


防盾が一枚ついた光学野砲から、後方にある分厚い装甲板の砲塔が設けられた大型砲に至るまでおぞましい熱量を持ったレーザービームが入り乱れる。



凄まじい数の熱線が交じり合い、もはやどの砲台から放たれたものなのか分からない。




身も毛もよだつような光景をまざまざと見せられても、スタッフは望遠鏡から離れることはなかった。


目の前に立ちはだかる狂気の火力をこの目に焼き付け、情報を持ち帰るまでは死ねない。



時刻は日の出から少し経った頃。



まだ闇が端々の残るというのにレンズファインダを覗く風景は一気に昼、それどころか真夏の海を見ているかのように明るくなる。



すると彼は目を痛めながらこう叫んだ。



「おい!ふざけんな消えたぞ!」



一瞬だけスポットライトの直撃を受けたかのような光が見えたかと思うと、工兵隊が設置した30にも及ぶバルーンがなんと全て消滅してしまった。



繰り返しになるが、ちょっとやそっとでは消し炭にならない、無駄に頑丈なダミーが瞬きした瞬間、全て「消滅」した。


同じく観測班が着弾を観測したが、傷一つ着いていない有様。



自走砲程度の砲撃では大型砲は破壊することは困難だと言わざるを得ない。



あまりの残酷な事実に、思わず考えることを拒んでしまう。



当然だが、こんな一撃が雨のように飛んでくるとなれば、主力戦車は耐えられないだろう。

悪い意味で予想通りという結果と言えようか。



けた違いの火力を見せつけられた分隊長はやや動揺を隠せないながらも、この事実を大佐に報告した。



【……Arms01からLONGPAT。目標消失。映像送信します】



【LONGPAT了解】



しかし冴島の声色は無機質なまま変わらない。



無線越しにいる分隊長からして、信じられないものを見ているのだろうとは察しているが

U.Uにおいてそんなものは日常茶飯事。慣れとは恐ろしいものである。



彼の頭の中では淡々と どう対処すべきかについて答えを出そうとしているのだから。












——————————————








ここで今までの事を振り返ろう。


本部拠点では航空戦力の補給中、新たな敵拠点である敵要塞ゲフィチニブの存在が発覚した。



偵察や観測の結果、夥しい数の砲門が大小問わず設置されており、なおかつ得意の重砲撃や装甲兵力ではまるで歯が立たない事実が突きつけられてしまう。



戦闘機や攻撃機が支度を揃えるのを待っていては相手に逆転のチャンスを与えかねない。



そう言っても、今の帝国軍に戦況をひっくり返すような真似は出来ないだろうが、長期化する可能性は十二分にある。


悪戯にリソースを消費しないためにも、一気に押し込む必要が出てくるのだ。



——ウイゴン暦9月26日 既定現実10月3日



偵察・偵察・自走砲・工兵分隊。男たちが命がけで得たデータは後方、つまり冴島大佐ら佐官のいる司令部に回され、解析が始められることに。



明瞭な結果が出るまでの間に大佐は最前線にあるゾルターン飛行場に出動命令を出した。



——ゾルターン飛行場



「よぉし、ロープ解け!」



クレーンで吊り下げた対地ミサイルを機体に装着したことを確認し、吊っているピアノ線を解くように声を張る。


撃つのは一瞬だが、往々にして準備には時間がかかるものだ。



対空中要塞戦で大量に出撃させた結果がこの様。

しかし、どのみちやらなくてはならないのは同じ事だろう。



「これでやっと1/4か、嗚呼。気が遠くなってくる」



一方で汗をぬぐいながら作業員が呟いた。

終わりの見えない仕事を前に、虚無感に似た感覚を抱くのも無理はない。



——本部拠点

会議室



情報が集まれば、それを持ち寄って議論と検討が行われるのが世の常。



権能中将を始め、陸の王こと冴島大佐・異次元のポセイドンことフィッシャー少将。



そして現地の情報を多少なりとも知っているカナリスも集まって、いかにこの難攻不落の要塞を陥落せしめるか話し合いが始まった。



観測班が命がけで持ち帰って来た記録映像やデータをプロジェクターに投影しながら、中将は淡々と事実を振り返る。




「ゲフィチニブ要塞は帝都侵攻作戦における最大の関門であることは諸君らも知っての通りだ」



「しかし事前偵察によって多数の砲門が確認され、現にカナリス将軍の提言や、派遣した偵察分隊の詳細な偵察結果によってそれは裏付けられている」




辺りに冷たい空気が漂うが、なおも彼は畳みかけはじめた。



「脅威となる大型要塞砲23門確認され、格納されていと思しき砲を含めて数百門確認されている。ダミーを用いた敵砲兵火力の分析により、敵はレスポンスが速く、強力な火力投射手段を持っている」



「このような場所に陸上戦力を投下するのは損耗を増やすだけなのは火を見るよりも明らかだ」




「また砲兵分隊の報告書の通り防備は非常に硬く、以前のポポルタ城塞戦のように陸上戦力で陥落させるのは困難と判断。

よって、可能な限りの長距離火力ないし航空機で敵へ重打撃を加え、攻撃能力を徹底的に破壊する必要がある。その後に陸上戦力を投下し制圧する予定だ」




この要塞は例えるならばウニである。

ただでさえ硬い甲殻を持つばかりか、そこからは鋭い毒のトゲが無数に生えている。



ならば最初にこのトゲを全てへし折り、手に刺さらなくなったところでスプーンを使って割ってから、やわらかい中身を頂戴するのだ。



そんな時、フィッシャー少将から一つの疑問が飛ぶ。



「陸軍戦力を投下する場において何故この私が呼ばれたのか理解しがたいが…兎も角。

報告書に目を通した限りでは20km地点の地表がガラス化していた…と書かれてある」



「反撃を受けた際には砲兵部隊が全滅することもあり得るのではないか?それに弾着観測も一筋縄ではいかないだろう」



今までの戦闘とは異なる、圧倒的な投射能力。

敵に自分の位置が割れたら最後、防御力のへったくれもない砲兵部隊は、ダミーバルーンのように消え去る。



また、帝国軍が初めて「対空射撃」を行ってきたのも特筆すべきだ。

これまでのようにのんびりとOV-10や機動性の低い攻撃機を飛ばす訳にはいかないのだから。



いくつかの難関に対して、中将は何か妙案があるようでフィッシャーの鋭利な質問に淡々と答えていく。




「敵砲兵の観測手段が乏しい現状、砲兵部隊が損害を受けることは考えにくいと思われる。しかしながら可能性が排除できない以上、少将の意見は正しい」



「そこで、戦艦尾道を可能な限り接岸及び遡上させ艦砲射撃を行い、敵火砲を一掃する」



この発言を聞いた少将は腑に落ちたような顔をしたが、そこで異議を唱える者がいた。



冴島である。



「戦艦尾道の大きさは我々の世界において最大級。その火力に関しても超大型兵器を破壊せしめるだけの力を有し、文句はありませんが……ここで問題になってくるのはその大きさです」



超大和型とあって戦闘能力にケチをつける要素は何一つない。だが重要なことがある。

どんな強力な兵器も、戦線にまで運ばねば意味がないということだ。



これが海に近いペノン県ならばまだ良いが、ここはナンノリオン-帝都はやや内陸部。

いかに射程の長い51cm砲でも限度がある。




仮に届かないとしても、果たして近づけるのかというのが冴島の主張だ。

すると今度は中将ではなくカナリスが若干気だるそうにしながら口を開く。



「それに関しては問題ないさ、なんせ付近に運河があるからね。要塞建設用に拵えたものだったな、だいたい大型船……うちの戦艦級の船が往来できるように建造したものだから、神龍でもないかぎりはみ出すことはないだろうさ」




なんと帝都とナンノリオン。そしてペノンへと注ぐ運河があるという。



水運で都市同士をつなぎつつ、そのまま外海に出ることができる帝国にとっての大動脈。



要塞を建造するのはもちろんの事、後々国の発展や輸送業で一山当てるため建造したのだろうか。


大事業の裏にカナリス有り。

彼が張り巡らせた根は未知数だ。


しかしこれで円満とはいかないのが現実。船の専門家であるフィッシャーが苦言を呈す。



「だが幅が良いとして、ドラフトが足りるのか?16m以上あれば理論上は航行できるが、あくまでも机上の話に過ぎない」



艦艇は横幅だけではなく、水に沈んでいる船底も考慮しなければならない。

そうでなくては座礁し身動きが取れなくなってしまう。



これがただの軍艦ならどうにかなるだろうが、世界最大の戦艦となると話は違ってくる。



埋めようのない理論と実態のギャップ。

このままでは陸上戦力と、不完全な航空機で相手することになるだろうと誰もが思ったその時。



カナリスが不敵な笑みを浮かべながらこう告げた。



「いいことを教えておこう。水深はだいたい18か19mだ。その運河には僕も関わっていてね、話をしていたものだから思い出したんだ。重貨物船を通すから将来も見越して限界まで掘らせたんだよね」



彼が言うには大まかな水深は18m強という。

尾道のドラフトは16mであることを考慮すると、理論上ではあるものの運用できなくもない。



ある程度余裕があるものの、錘となっているバラスト水を限界まで抜いた状態で、操作の細かさが問われてくる。



ここまで条件がそろってくれば、あとは船の人間次第とでも言いたいのか。


Soyuzはようやく希望を掴んだ。


それが例えどれだけ小さく、今にも消えてしまいそうなものであっても「光」には違いない。


果たして。


次回Chapter245は9月2日10時からの公開となります。

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