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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
270/327

Chapter243. Until Dawn(2/2)

タイトル【夜が明けるまで】


雨や夜のとばりのように終わりのないものはこの世に存在しない。



それを裏付けるかのようにして長い、長い夜が明けようとしていた。

偵察班は既に撤収し終えており、残されたのは観測分隊だけとなる。



彼らに与えられた任務は「要塞を常時観測する」こと。


一体どのように人員が流動しているのか、砲台に何等かの動きはないか。それらを確かめるのが仕事だ。


常に監視し続けなければならない都合上、当然ながらその場に留まり続けなければならない。



この陣地の存在が露呈すれば最後。

凄まじい熱線で全て蒸発してしまうのは言うまでもないだろう。



半地下状に作られた空間と、上にかぶせられている偽装網だけが気配をかき消してくれる。

それでも目と鼻の先には巨大な猛獣がいることに変わりはない。



いつ超火力で焼かれて死ぬか分からない中、兵士たちは観測を続けているうちに辺りはすっかり明るくなっていた。




——午前7時



望遠鏡にかじりついて監視を続けていると、ふと肩を叩かれる。

どうやら交代のスタッフがやってきたらしい。



「時間だぞ、さっさと切り上げて朝飯でも食ったらどうだ」



その一言でソ・USEに内蔵されているデジタル時計に目を向けると既に時刻は7時を過ぎているではないか。


だらけていても、一応は引継ぎに変わりはない。

監視員になりきっていた男は報告を上げる。



「…了解。現状変化は見られず。完全に待ち構えてやがるな」



この戦いは長くなりそうだ。












———————————————












交代を済ませた男は、持ち合わせのレーションを食べることにした。

真空引きされてあるパックを持ち合わせのナイフで切り裂き、中身を取り出す。



温かい飯が食べられるように五徳と固体燃料。そして料理のレトルトパウチが入っているが温めるのが億劫で口にする気がしない。



しかし食べないのでは血糖値が下がって仕事ではなくなる。

とにかく生き残るために彼は分厚いビスケットを口にすることにした。



「——Haff……」



封を切ってかじってみるが、どうも味というものを楽しむ気にはなれない。

此処での作戦には参加してきたが、今までと今は何もかもが違う。



航空機も補給という文言で事実上使えず、航空偵察からは戦車で突撃しても無謀だということが判明している。



どう攻めていいのか、司令官でなくとも頭を抱える代物だ。



さらに偵察班が報告した情報によれば、野砲以上の破壊力を持つ砲が少なくとも数百門近くが並んでいるというのだから堪らない。



百聞は一見に如かずとはこのことだと、改めて思い知らされた。



天を見上げると、偽装網からの木漏れ日がまるで何もないように降り注ぐ。



だが現実は変わらない。誰も助けに来てはくれないし、救ってもくれない。


できることと言えば息をひそめて、ただ任務が終わるのを待つことだけだ。










————————————










しかし要塞をひたすら監視するにつれて、ヴェールに包まれた実情がようやく見え始めた。

最初に大量に備え付けられている小型砲がどういうものかについて。



往々にして上から見た時と、こうして地面から見た時には違ったものが見えるものだ。



偵察機の積んでいるカメラがいかに高画質・高解像度だとは言っても、やはり航空偵察では限界がある。



そんな観測班が見た光景は異様なものだった。



敵からの攻撃から人員を守る防盾はついているし、大方スリットが設けられていてそこから細い砲身が生えているものだが、あるはずの筒がない。



代わりに四角いダクトのようなものが突き出ているではないか。

その光景は不自然だと言わざるを得ないだろう。



このことを裏付けるように、付近には必ず「弾薬」の代わりに手押しポンプが見受けられる。


榴弾ではなく熱線を放つ性質上、砲身の融解を防ぐものだ。



おそらく装填時間は無に等しく、逆に冷却に時間を必要とするのだろう。

しかし焼石に水の如く、急速に冷やしてしまえば秒間火力は通常の砲を凌駕する。



たとえ船の側面に数合わせとして取り付けられる小さなものであっても、乱射されればひとたまりもないのは明らか。



その奥には親玉の大型2・3連装砲が待ち構えているときた。

ますますどうすれば良いのか分からなくなる。



しかし、今の所は敵を迎撃するためか殆ど攻撃してこない。

言わば待ち伏せのような状態なのが不幸中の幸いだろうか。



だが彼らの仕事は終わらない。



要塞が目覚めた様をこの目に焼き付けねばならないのだ。













———————————————












一触即発の昼間を抜け、いよいよ再び夜がやってくる。いよいよこの作戦の本命、戦力観測をすることに。



見るまでもなく危険な大火力要塞だが、これには意味がある。



着弾地点から詳細な位置を割り出すことはもちろんのこと、戦闘態勢にのみ出てくる隠れた砲台を燻り出すのだ。


束になって掛かってこようとも、少しずつ火力を削いでいけば勝ち目はあるかもしれない。


罠を仕掛ける方も、それを垣間見る側も。

どちらも重要な役割と言えるだろう。




——夜9時




完全な日没から数時間経った頃、観測班に一本の無線が飛び込む。



【mouse01現着】



【Arms 01了解】



ついに工兵部隊がやって来た。

彼らには偵察部隊と同じく、日の出までに工作をしなければならない。



タイムリミットを過ぎてしまえば、蒸発どころか今まで耐えてきた苦労が全て水泡に帰すだろう。

それに戦闘はますます長引くこととなり、逆転の一手を与えかねない。


一気に敵の喉元を掻っ切るには成功の積み重ねがあってこそ。



分隊長が暗視装置越しに工兵隊を捉えると、すかさずソ・USEを取る。



【Arms01からMouse01。こちらでも確認した】



しっかりと演劇を見るためには、立ち位置がモノを言う。

演者と客、どちらも下準備は念入りだ。



【Mouse01了解】



いよいよ幕が上がる。











——————————————









空には垂れ幕のように雲が覆い隠し、いつも見られる満点の星空は姿を見せない。


少しずつ天候が変化しているのだろうか、大風とは言わない程ではあるものの風が吹き付けてきた。

気が重くなるような天気の下で遂に工兵部隊が動き始める。



彼ら全てクモのような気味の悪い暗視装置を付けており、たとえ丑三つ時でも昼間の様に任務をこなせるだろう。



「……鬼の居ぬ間に洗濯とはな…」



ある兵士がトラックに揺られながら呟いた。



何でも見えてしまうというのは恐ろしいもので、時には見えないほうが良いものも目に入ってしまう。



彼らを睨むのは夥しい砲門。

いつ自分達の存在が発覚したらと考えると肝が冷え、冷や汗が止まらなくなる。



これから立つのは言わばスポットライトが灯ったお立ち台のような場所。

存在が発覚したら観測班よりも前に殺られるのは言うまでもない。



だが次々と湧く不安に駆られていても仕方がない。

各々はこれから行う作業の事だけを考えて現場へ向かっていった。




最高の舞台にたどり着くと、工兵たちはぞろぞろとあるものを持って降車する。



ある程度風が吹き込んでいるおかげでエンジン音も丁度良くかき消され、まさに工作するのにうってつけ。



ある一人は空気を送り込む超静音コンプレッサ、続く数人はしわくちゃになった海藻のようなものを手にしている。



その後ろにいるスタッフも同じようなものを運び込んでいるではないか。


てきぱきと干からびた何か配置すると、コンプレッサに接続。


——VEEEE………———



スイッチ一つで大量の空気を送り込んでいくと、いよいよ皺くちゃになった物が本来の姿を取り戻しはじめた。


膨らし粉を含んだパン生地のようにみるみる膨らんでいくと、そこには戦車が現れた!



そう、彼らが運び込んでいたのは「偽装用バルーン」である。

航空機や偵察衛星の目を欺くための物体なのだが、物は使いよう。



「おぉ」


膨らませている様を見守るスタッフが声を上げた。

車体や砲身はもちろんの事、砲塔上に設けられた機銃ですら、とても細かく再現されている。



これらを複数配置してやることによって、いきなり戦車部隊が現れたものだと勘違いさせることが出来るのだ。



散々ファルケンシュタイン帝国で暴れ回った陸上兵器だけに、相手側も黙っている訳にはいかないだろう。



戦車部隊が風船で出来た偽物であることはSoyuzと吹きすさぶ風だけ。

秋の冷たい夜風に包まれながら工兵たちは次々と案山子を設置していった。












—————————————









忍び寄るのは何も工兵部隊とは限らない。主体砲2両で構成された砲兵分隊もようやく持ち場についていた。


外からは巨大な岩にしか見えないよう偽装網をかけ、一見して砲台だとは分からない。



観測部隊と同じタイミングに出撃した良かったものの、事はそう簡単には運ばないものだ。


勢いよくアクセルを踏めば、けたたましいエンジン音をまき散らす自走砲ということもあって、牛歩で来たためここまで到着が遅れしまったのである。



しかしこれも織り込み済み。

黙って敵の哨戒に発見されるよりも、砲撃した後尻尾を撒いて逃げてしまった方が良い。



正しく逃げるが勝ちのヒット&ウェイ。



【Rock01原着】



2両の主体砲は身を隠せる場所を見つけると、エンジンを切って連絡を入れる。

辺りは何もないかのように静かだ。風の息遣いまで聞こえてくる程に。



余計な物音、例えるならば物音・足音・話し声。ありとあらゆる音を立てれば感づかれるだろう。



いつ爆発するか分からない核爆弾を前に胡坐をかいて寝ているようなものだ。

何時でもたたき起こせるように狙いを定める。



その矛先にあるのは禍々しい3連装魔甲砲。

はっきり言えば撃って敵陣の中で炸裂すれば何でも良い。



彼らは息を潜め、ひたすら日の出を待つ。









—————————————









手際よくダミーを設置し終えると、はたから見ると戦車大隊と同等の戦力がいきなり現れたように見える。


ダンマリを決め込む要塞とてこれは無視できないはずだ、これだけ目立つ場所に現れたのだから嫌でも目に入る筈。



次は戦車の「得意技」で、攻めてきたと誤認させる必要がある。

情報が多ければ多い程、敵は攻めてきたと思い込んでしまうだろう。



荒唐無稽な陰謀論でも信じ込む人間は多いのは根拠らしき情報が並べられているのと同じことである。



【Mouse01から各員。仕上げに取り掛かれ】



分隊長から命令が下ると、工兵はバルーンとある程度距離が離れた所に何かを仕掛け始めた。



【設置完了】


【了解】



スタッフが手を離すと、そこには鞄のような塊と何か装置のようなものが取りつけられている。

彼らが仕掛けたのはプラスチック爆薬C-4と時限爆破装置。



大きなそれらしい音と閃光を立てることができれば良い。榴弾の区別がつかない相手なら猶更だ。

タイマーは丁度日の近くにセットされており、お膳立ては整ったと言える。



【Mouse01からLONGPAT.敷設完了。これより撤収する】



用意は整い、もう居座る理由はない。分隊長はソ・USEで冴島に細工が出来たことを報告。



【LONGPAT了解。砲撃班は待機。偵察班は観測を続行せよ】



いよいよ舞台と役者は揃った。



あとは幕を上げてショーが始まるのをこの目に焼き付けるだけ。観測班、もといSoyuzが目にするのは喜劇か、あるいは悲劇へのプレビュートの二つに一つ。



この大要塞を騙せるか。



Chapter244は8月31日10時からの公開となります。

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