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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
269/327

Chapter242. Until Dawn(1/2)

タイトル【夜が明けるまで】

——ウイゴン暦9月23日 既定現実9月30日

——夕方



昼と深夜の航空偵察によってもたらされた情報は本部に転送され、分析にかけられることとなった。

果たして、肝心の要塞につけ入る隙はあるのだろうか。


なんとしてでも探し出さねばならない。



日の高い時間帯に撮影された地形を基に、深夜帯に観測された砲撃が照合される。

そこから導き出された数々の事実は衝撃なものばかりだった。



第一に要塞に据え付けられた固定砲台の数。



事実カナリスの言う通り、戦艦から陸揚げされたと思しき大型砲が「23門」

また、それ以外の砲門も無数に観測されたというのだ。



それはまるで林のよう。



なおかつ、全てが外に向けられていることを考えるとその恐ろしさは計り知れないだろう。



二つ目は要塞砲の規模。

備え付けられているのが弱小火砲なら戦車で突破できるが、相手は陸揚げした戦艦砲。



いくつかは戦艦ギンジバリスや二番艦フィリスの主砲だと判明したが、それ以外にこれまで見られなかった3連装砲なども確認されており予断を許さない。



Soyuzが保有する主力戦車どころか、劣化ウランの分厚い装甲を持つM1エイブラムスを束になって持ち込んでも蒸発すること間違いないだろう。



決定的な火力差を前に多少の兵器が役に立たないのはどの時代も同じ。



どちらにしてもより多くの情報が必要となる。それには命がけの偵察が必要だ。









—————————————








——夕方

——ベノマス近郊



偵察や陣地を構成するための資材、そして2個分隊を乗せたハーフトラックを誂えるまでに時間がかかり、気が付けば夕方になっていた。



それも無理はない。


何もない所、よりにもよって敵地に自陣を作り上げるには膨大な道具が必要となってくる。

これ自体はさほど問題にはならないだろう。



本当に恐ろしいのはここからだ。



全ては敵が寝静まる夜の間。

闇が全てを覆い隠している間に構築しなければならない点に尽きる。



敵もこちらの動きを察知している以上、少しでもSoyuzの影を見つければ容赦なく砲撃してくるに違いない。



米軍の大隊ですら消し飛ぶような火力を前に、10人程度の部隊など焼石に水を垂らした如く蒸発してしまう。


後ろから来ている2両の主体砲がいるだろうが、あまりに数が違いすぎる。

これではいても居なくても同じ。



そうなったが最後。

これまでの下準備が全て消し飛び、どう足掻いても手が付けられない。


振り出しに戻るどころか後退する悪夢が待っている、最悪な結末となる。




分隊と鈍重な荷物をたっぷりと載せたトラックはペノン県を出発し、その先のナンノリオン。更に先の帝都との境にある死の要塞に向けて走り出していく。



存在が悟られれば間違いなく命はない。

骨を拾ってくれる人間も吹き飛び、墓には写真のみが添えられることになるだろう。



しかし戦場を見定める偵察兵と工兵がいなければどうしろというのか。



勝利のために、命を懸けてやるしかないのである。















—————————————












——ナンノリオン-帝都県境

要塞付近

——午後10時




夕方に出発した戦場の「目と指」たちが敵地に到着する頃、既に日没を迎えて辺りは真っ暗。

存在を悟られないよう、ライトすら消しているため猶更だ。



トラックの運転手は暗視装置を利用して運転しているため事故の危険性はないものの、舗装されていない悪路を走っていたため時間が掛かってしまった。



日の出まで8時間を切っているこの状況。一秒たりとも無駄にはできない。

車が止まると、分隊は息をひそめつつ降車する。



【こちらEyes01からLONGPAT。降車完了。異常なし】



【こちらArms01。降車完了】



工兵分隊長はすかさず周囲を見回して身の安全を確認しつつ、ソ・USEで連絡を寄越した。

偵察と陣地構成を担う部隊はお互い違う場所で活動を始めており、偵察隊も無事到着できたらしい。




【LONGPAT了解。6時に偵察隊は帰投、構築隊は指示があるまで待機せよ】



それに対して冴島大佐は機械的に返す。



隊が地に足を付けられるのは当たり前、と思われるかもしれないが敵が待ち伏せしているケースもある。



また彼の口にした時刻は日の出時刻。

最悪、時計の針が垂直になるまでに作業を終えてなくてはならない。



あくまでもこれは精一杯時間を延ばした結果に過ぎず、実質的なタイムリミットは辺りが視認できるようになる朝5時までだ。



与えられた猶予は差し引いて「6時間」


それまでに与えられた役割を全うできなければ、待っているのは絶対的な死。

残業は一切許されないこの状況、果たして彼らは成し遂げられるのか。












—————————————











——偵察部隊



トラックから下車した分隊は早速、城塞の偵察に取り掛かることにした。



航空偵察のデータが本当に正しいものか確かめる、本格的なものではないにせよ重大な任務に変わりない。



周囲は灯が全くなく、星明りが頼みの綱。

敵にも発見されないが、逆にこちらからも発見しにくい状況なのは言うまでもないだろう。



隊長から末端の兵士に至るまでナイトビジョン・ゴーグルを装備しているとは言え、正確な砲門の数や規模を推し量るには、それなりに接近しなくてはならない。



【Eye01から各員。二手に分かれ、情報を随時報告せよ】



隊長から指示が下る。



あえて隊を割って作戦を進めるのは、万が一発見された場合の時間稼ぎのため。

一方が発見されたとしても、情報を持って帰れば作戦は大成功。



また、適宜口に出させるのにも意味があった。

例え全滅したとしても、この無線自体の交信ログが必ず記録される。


何としてもひとかけらの情報を持ち帰るために隊長は何度も保険をかけていた。



偵察とはそれほど過酷で、命がけな役割なのである。



かくして二手に分かれた分隊の中には、ゾルターンでの戦闘で投下されたクミルとナジャールの二人もこの作戦に参加している。



今回は指と目ではなく、互いに眼同士。



しかし気を取られて発見される、という事態を防ぐため、見張りと実行犯の役割に分かれていた。


敵の目を掻い潜りながら彼ら偵察部隊は進む。











————————————————












要塞に近づいていくにつれ、そのヴェールが剥がれ少しずつ全貌が露わになっていく。



万里の長城やこの世界におけるポポルタ線のように、大きな壁を形成しているタイプではなく、どちらかと言えば砲陣地に極めて近い形態をとっていることが判明した。



これは航空偵察で得られたデータと合致する。


弾薬が尽きないことをいいことに全力で暴れ倒したら、たとえSoyuzでも手が付けられないことを意味する。




カナリスの証言にもあった通り、どうやってこんなカタツムリの怪物そのものを倒すのか、逆にこちらも知りたい。



ポジションに着くと、クミルは早速辺りを見回して監視の目がないか伺う。



「異常なし」



「了解」



ようやく斥候に専念できるようになったナジャールは、暗視装置の可能な限り倍率を上げて砲門の数を数え始めた。



1、2————8、9、10。



それでもなお野砲は林のように生い茂っているではないか。



12、13、———24、25。



まだまだなくならない。



次第にナジャールの額に脂汗が滲む。以前、航空偵察で見たよりも明らかに数が増えている。

敵もいよいよ攻めてくるであろうSoyuzを全力で迎え撃とうというのだろうか。



これが機銃ならまだ救いようがあるが、彼の目に映っているのは「戦艦の副砲」

銀玉鉄砲とは威力が根底的に違う。



50、60、70———



腐るほど数えたというのに、このゲフィチニブからは砲門が消えない。



あくまでもこれは城塞の前面に置いてあるものに過ぎず、言わばタマネギの茶色い表皮と同じなのである。



それもまだ半分にも満たず、全て外に向けられているのだ。



現実から逃げたくなるような数にナジャールは言葉を漏らす。



「なんてこった……どうするんだコレ。100門近くあるぞ」



「いつものことじゃねぇか。さっさと報告しろ」



クミルが情けない彼に釘を刺した。

今の彼らはこの要塞をどうにかすることを考える必要はない。


求められているのは正確な情報だけ。



【Eye03からEye01。野砲を推定数百門確認】



【Eye01了解。偵察を続行せよ】



しかし危険に晒されているのは彼ら偵察分隊だけではなかった…














—————————————













——陣地構築分隊



場所を変えて、今度は観測陣地を構築する分隊へと目を向けるとせわしなく作業が始まっていた。

たった6時間しか残されていないというのに、やることは堆く積まれている。


仮にそれを終えたとしても一区切りつくだけであって、ようやく舞台に立つことが出来るのだ。



本来の目的とは要塞の継続的な観測であり、夥しい砲門の群れに囲まれながら数日間を過ごさねばならない。



勿論、侵入したことが発覚すれば骨の欠片一つ拾うことは出来なくなるに決まっている。




彼らが最初にやらねばならないことは「観測場所の確保」だろう。

城塞を観測するにおいて最適な場所。


つまるところ、お立ち台を探さねばスタートラインにすら立てない。



幸いにも不幸ばかりという事ではなく、航空偵察で得られた情報を分析して既に目星が立っている。

あとは地面を掘った後に機材や資材を搬入し網をかぶせるだけだ。




辺りは闇が覆いつくし、暗視ゴーグルを外せば視界は効かなくなる中で兵士たちはスコップを突き立て地面を掘り返す。

隠密作戦という性質上、ショベルカーやドーザーといった重機は使えない。




残された手立ては地獄のような手作業の一択。

それに敵の目がこちらを見つけるかもしれないという状況であることも忘れてはならない。



男たちは黙々と土砂を掘り返す。



「——Haff……」



スタッフの一人が額に浮かんだ汗をぬぐいながら一息つく。

しつこい残暑はもう過ぎたとは言え、肉体労働は身体に堪える。



神に祈りながら地面ただ掘り進めていった。



——深夜2時37分



「……クソッタレ」



陣地の構築を終え、スタッフの一人が零れ落ちるかのように悪態を吐き捨てる。


まだスタート地点に立ったに過ぎず、まだまだ堆く仕事が残っているのだから。




容赦なく溜まる疲労の中、彼らは要塞との距離を測る大きなレンズファインダや望遠鏡といった精密機器を慎重に運び出していく。



どれも衝撃を与えてはならない代物。落としたりはしないよう、気張りつつ設置を急いだ。



望遠鏡は城塞を捕らえ続けるように敷設した後、布団をかぶせるかのように擬装網をかける。



【Arms01からLONGPAT 敷設完了】



【LONGPAT了解】



半地下の陣地下で始められる任務とは如何に。




次回Chapter243は8月30日10時からの公開となります。

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