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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
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Chapter241. Hide in the dark

タイトル【隠された闇】


ファルケンシュタイン帝国 首都侵攻を妨げる最後の関門「ゲフィチニブ要塞」



偵察に向かったOV-10が初めて高射砲による対空射撃を受けただけでなく、カナリスの証言にて、戦艦から転用した恐ろしい威力の砲が数多く存在する城塞であることが判明した。




それだけに留まらず、ナンノリオン県全域に広がる魔鉱石の鉱脈や冷却用の地下水をほぼ無制限に使用できるというおまけ付き。



正に核兵器を乱射する弾切れ知らずの要塞に相応しい。



しかし絶望を前に嘆いてばかりもいられない。

困難に立ち向かうには情報が必要だ。それもカナリスの証言を超える正確な情報を。




——ウイゴン暦9月22日 既定現実9月29日



戦艦砲がいくつも睨みを利かせる要塞に対して、正直に前から挑めば文字通り蒸発してしまう。

偵察機を飛ばそうものなら容赦なく迎撃してくるため、うかつに空から覗き込むわけにはいかない。



それは「昼」に限っての話。

砲の暗視照準を持たない帝国にとって、深夜は最も狙いがつけにくい時間帯である。



これを使わない手はない。

特に手立てが次々と潰されていく環境では猶更だ。











————————————————












日が沈み、丑三つ時もとうに過ぎた頃。城塞の潜入偵察・観測作戦が冴島によって発案された。



彼によれば作戦の本質は「夜襲」に見せかけることにあるという。



帝国軍の警備兵の鋭敏さと聞きなれない音を立てる航空機に着目した。



第一段階は、要塞近辺の上空に偵察機を飛ばし、対空兵器の注意を可能な限り引き付ける。



散漫になった所を消音観測機YO-3Aによる航空偵察を行い、地形と砲の大まかな位置をつかみ取るのだ。

昼では目視により発見されてしまうが、夜のとばりが機体を隠してくれるだろう。



続いて 、この情報を基に潜入工作班と観測班、砲部隊を付近へ潜入。敵要塞前に戦車を模した仕掛けバルーンを30個近く設置する。



次に自走砲部隊からの攻撃と仕掛けられた爆薬を炸裂させ、いきなり戦車大隊が出現させたように見せかけるのだ。



しかし、このような子供だましでは足りない。

ダメ押しと言わんばかりに榴弾砲による一撃で確実にカウンターを誘う。



放たれた反撃から戦力を分析。さらに弾道も計算し、砲台の正確な位置を絞っていく。



アクション映画のような派手さは無いにしろ、極めて重要なのは変わりないだろう。



文字通り、寝た子を起こすような作戦であるために、「叩き起こす」タイミングが問われてくる。



囮を敷設している途中で目覚められたが最後。

恐ろしい数の砲撃に晒され、カナリスの言う通り蒸発するに違いない。



それは空と陸でも同じこと。


誰もが寝静まった今。夜の深い闇に隠れて、作戦は実行へとうつされようとしていた…














———————————————












まず要塞を攻めるには地形情報がいる。



それには対空攻撃を受けず、安定した場所の偵察が必要となってくるだろう。

対空砲火さえ届かない聖域に行くためには箱舟でしか向かえない。



——午後1時

——ジャルニエ飛行場



「ジョンソはこのごろ忙しいからな。ようやく俺に仕事が回って来たってもんか。アイツはタクシードライバーにでもなれるだろうが……俺はこいつにしかないか」



Mig-25Rのコックピットに乗るのは一人の男。

リ・ジョンソの相棒とも言えるアメリカ人、アームストロングだ。


耐Gスーツを着込み、酸素マスクをしてしまえばその顔さえも分からなくなる。



脇にいる整備班の人間が彼にこう言う。



「おい、んな呑気なこと言ってて良いのか?あんたと同じ偵察に出てったOV-10が高射砲でドカドカ撃たれたって報告が上がってる。油断一瞬 怪我一生だ」



これから先。

アームストロングは当たれば一撃で墜落する熱線が飛び交う中に放り込まれるのだ。



射出座席が機能したとはいえ、散々恨みを買っているパイロットを帝国が生かしてくれるだろうか。

敵に捕まった末路は言うまでもない。



それに対し彼は座席に背中を預けて、大きく息を吐きながら答える。



「なんだよ今更。んなこと言ってたら現実世界でも変わりっこねぇ。ミサイルにガン飛ばされてんのと何が違うってんだ。——やるときゃやるさ。いつも通りな」




ようやく対空砲火が出てきてもなお、地対空ミサイルに日々睨まれている空を飛んできているパイロットにすれば生温いものだろう。



機体はMig-25、夢の超音速機をさらに超える究極のスピードマシン。

狙われるその前にぶっちぎってやれば良い話。



アームストロングはキャノピーを閉めて、機体を滑走路へと向けていった。














——————————————











勢いよく離陸したフォックスバットは速度をぐんぐんと挙げていく。あっという間に音速を超えると、次の世界はソニックブームを振りまきながら進む、超高高度とマッハの世界。



それもMiG19や21の限界とは大きく異なる。



時速1800・2000・2300。



滝を登った竜が天に旅立つように、速度計表示がぐんぐんと上がっていく。



エンジンを殺す覚悟さえあればマッハ3という境地にすら行けるだろう。

流星と見まがうような速度を前に、県との距離は意味を成さない。



勢いよく回るトイレットペーパーの如く、めまぐるしく地形が変っていった。

ジャルニエ・シルベー・ナルベルンにゾルターン。ペノンにナンノリオン。



何日もかけて移動するような距離をたった数十分で世界を振り返ってしまう。



MiG25の出す衝撃波は凄まじく、要塞近辺を飛ばなくとも威圧感は十分。



だがそれでは地形が把握できないため、敵制空権内を飛ぶ必要が出てくる。

対空砲火に晒されるリスクを伴うが、夢の超音速機はレベルが違う。




強烈なGに耐えながらアームストロングは大食いの暴れ馬を操り、一旦フライパスすることに。



「やっぱりついてこれねぇか」



あまりに天高く、凄まじい速度で飛んでいるせいか、対空砲火が襲ってくる様子はない。

既に機体に取り付けられたカメラは既に地形情報を捕らえており、ここに長居は不要。



「しかし夜はこっちに引きつけねぇといけないからな、この速度も考えモンだ」



彼は全身が浮くような強い不快感を抱きながら吐き捨てる。










———————————









昼の役割は偵察だが、深夜にここに来る時は「餌」とならなくてはならないからだ。

こうして得られた地形データは分析にかけられ、高低差などを徹底的に図式化。



砲台の位置は掴めなくとも、どこを攻めるかのきっかけは掴めた。

観測された際に高台があることが判明し、そこを機転に侵攻するつもりである。



いよいよ日が水平線の向こう側に落ち、闇が辺り一帯を包みこんで久しい深夜。

脅威となる魔甲砲をあぶりだすだめの偵察が行われることとなった。



——深夜1時

本部拠点滑走路



【こちら管制塔、2番滑走路を使用せよ】



【了解。POINT MAN 離陸します】



いよいよ作戦は動き出す。


隠密偵察機YO-3Aが本部拠点から飛び立とうとしていた。


この機体はかなり特殊なもので、ゲリラを夜間偵察するために作られた静粛性の極めて高い航空機である。


今後観測機を飛ばすにあたって、対空戦力を調べるためには囮となる機体が必要になってくるのは言うまでもないだろう。



今回は囮役の超音速機によって生じたソニックブームで敵要塞を叩き起こし、注意をジェット機に向けた上で、その実力を裏から観測する流れとなっている。



静かに、空飛ぶ「目」は地面から離陸。目指すは未知の城塞ゲフィチニブ。



対空砲火に照らされず、真実は見えるのだろうか。












————————————










同刻

———ジャルニエ飛行場




地形観測を終えたアームストロングのMiG25Rは燃料補給も兼ねて、ここジャルニエの中心部にある飛行場に着陸。夜が深まってから、こうして作戦開始するに至る。



【こちらジャルニエ管制塔。POINT MANを確認。Apollo13離陸せよ】



【Apollo13了解】



管制塔のレーダー情報によればPOINT MANは既に離陸。

後を追うことになるが、それも今だけの話。




闇夜にジェットエンジンの噴射炎だけが辺りを煌々と照らし、凄まじい加速でパイロットにG負荷を掛けながら機体は空へと旅立っていく。



速度計がぐんぐんと伸びはじめ、あっという間に音速の壁を越えたではなかろうか。



あまりの加速の良さにYO-3Aを追い越してしまった。



【Apollo13からPOINT MAN。先行する】



【POINT MAN了解】



クアイアット・スターは低速で飛ぶことによってその静粛性を得ている機体である。

そのため速度はMiG戦闘機などの2割程度しか出せない。



——WoooooOOOOOOMMM!!!!!!——



ゆっくりと飛ぶレシプロ単葉機をほうき星のようにフォックスバットが追い抜いていった。その速度差はおおよそ10倍。


2機の航空機と共に作戦は動き始めた。







—————————————










——要塞空域

——ZWEEEEELLL!!!!




隠密偵察機をはるか遠くに抜き去って、Mig-25は要塞目前まで達する。



だがここで寝静まった帝国軍を叩き起こすために減速せざるを得ない。

車も超音速機も急には止まれないものだ。



いったんここで引き返しながら旋回し、速度をマッハ2から1近くまで落としながら一気に高度を落とす。



「やっぱり反応が速いな、OSKERが尻尾を撒いて逃げただけのことはある」



地上にはソニックブームが到来し、一斉に照明が灯った。城塞は警戒態勢へと移行したのだろう。

しかし機体が轟音を遠くから響かせているとはいっても、あまりにも反応が速すぎる。




戦闘機やミサイルを持っていない相手だからと油断していると、このフォックスバットでさえ危うい。



操縦桿を目一杯引き上げて機首を上に向かせて加速させていく。

本来25は迎撃戦闘機。速度重視で曲芸飛行やドッグファイトには不向き。



だからこそ敵に狙われる前に速度で翻弄しなければならないのである。



——VEEEE!!!!!!——



MIGの背後を対空砲火の雨が襲う。

スコールとは違って地上から降り注ぐ光の束。


だが音速越えという圧倒的速度を前に、飛行機雲を撃っている状態に等しい。



あまりにも機体が速すぎるのだ。



「こんなことなら25より19のほうが良かったかもな……」



強烈なGに耐えながら、アームストロングは囮役を引き受け続ける。





同刻

高度400m




激しい対空砲火の合間を縫って飛ぶ存在が一つ。隠密偵察機YO-3Aだ。



闇に紛れながら、高射砲の光に機影が照らされないよう慎重に飛行する。



ゲリラ豪雨を端から見れば、そこだけバケツがひっくり返っていることが分かるという。

今の風景は正にその通りの風景と言って良い。



VEEEE!!!!!!



光筋が機体とはあさっての方向。

つまりMig-25に気を取られている辺り、羽音は届いていないだろう。



対空砲は明らかに後ろへ流されており速度について行けないのは誰が見ても明白。

時折、距離が縮まっていることもあるが全て無駄な足掻きか。




進路を予測した偏差撃ちしようとも、フォックスバットにはついて行けない。

絶対的で、絶望的な速度差。

アナログな自走対空砲が廃れたのも納得だ。




機体はそんな背後を突く砲台の後を追うようにして飛行し続ける。



暗がりで見えなくとも問題ない。

赤外線には魔甲砲が射撃した痕跡がくっきりと映し出されており、マッピングされていく。


発射していないモノも含めて砲台の位置は知れた。




次はその「威力」がいかほどのモノなのか、しかと確認しなければならないだろう…

次回Chapter242は8月29日10時からの公開となります。


登場兵器

YO-3A

隠密偵察機、なのだがゲリラなどを監視するように作られた特別製。

徹底的に静粛化したプロペラ・エンジンを誇る他、暗視装置などを1970年代にしては装備していた。

あまりの静かさから高度を60mに下げても鳥の群れが居る程度にしか思われなかったらしい。


なんとマフラーを装備している。

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