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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-3. ゲニフィチニブ要塞戦
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Chapter239. Graveyard of Warships

タイトル【軍艦の墓場】

——同刻

地上



Soyuz偵察機の襲来。

空高く飛ぶトンビを前に、ファルケンシュタイン帝国は指をくわえて待つことしかできなかった。



しかしこの要塞「ゲフィチニブ」は違う。



オンヘトゥ計画の出現に伴い多くの戦艦建造計画が葬られていく。


数多の試作砲や複数艦に使用される筈だった魔甲主・副砲が陸揚げされた後にまとめて留置されたここには様々な顔がある。



ある時は試験場、ある時は軍事要塞。またある時は船の夢の跡。



或いは雑多な倉庫。



それらのフル稼働により火力そのものと化したゲフィチニブは奇しくも高射砲を備えた、対Soyuz要塞として牙を剥いた。



「各砲、角度修正12度!方位445、撃て!」



ユンデル直属の砲術長がブロンコを追うため、連装砲の射角を正すよう伝声管に向けて声を張る。



「角度修正12、方位445!」



金管を伝った声が各砲の照準手に届き、動作兵がハンドルを回して砲を下げる。

トリガーを引き、驚異的な熱光線が空に向けて放たれた。



——VEEEEE!!!!!——



各砲座から解放されたビームはまるで天空に注ぐ雨の様に偵察機を着け狙う。

ここから放たれる砲弾には「実体」がないエネルギー砲。


故に空気抵抗などを考えないで済む。


光線を吐き出し終えた砲身は熱を持ち、昼間だというのに赤く光る。

魔甲砲には装填時間の代わりに水といった冷媒で冷やさなくてはならないのだ。



こうでもしなければ砲は水あめのようにドロドロに溶け、使い物にならないなら無くなってしまう。



「冷却急げ!」



指示の下、兵が井戸に繋がれたポンプで冷媒となる水をくみ上げて砲身を冷やす。


JEEEEEL……



すると勢いよく湯気を上げ、元の黒色へと戻っていく。これでも射撃には耐えられない。

電動という文明がない帝国では魔具を付けた人間が不可欠だ。



「撃ち方止め!」



その間に敵機は逃げてしまったようで、伝声管から砲撃中止命令が下る。



撃墜できなかったが、追い払うことが出来たことは大きい。

竜騎兵をもってしても不可能だった偉業を成し遂げたのだ。



相手側に情報を渡さなかったことは大きい。












———————————————












——ゲフィチニブ要塞 司令部



ナンノリオンが陥落。Soyuzに首都まで迫られ、いよいよ後がなくなって来た帝国軍。

そんな背水の陣を指揮するのは魔導省のトップのユンデルだった。



「失礼します、ユンデル少将」



砲術長のジクロフェナク大佐が扉を開け、軍人としての顔を持つ一流技術者の下へとやってくる。

彼の手には束のような記録表が抱えられており、なんにせよ報告には違いない。



「現状について報告せよ」



ユンデルは鋭い声で指摘する。

当人に焦りは全くない、敵を迎え撃つには万全の準備が必要だからだ。



そうでなければまともに相手にすらならないだろう。



「例の戦艦級連装魔甲砲の修理が完了しました。試製3連装砲も稼働状態に復帰。全体稼働率は8割となります」



この要塞には計画の破棄・頓挫によって多くの砲が備え付けられている。



ベストレオにリソースを割かれた結果、船体が未完成で砲だけが完成した3連装砲や幻影戦艦の2番艦用にあつらえられた超弩級の連装砲。



戦艦ギンジバリス級の予備部品で組まれたものや、ベストレオの実証試験用に試作されたものさえ存在する始末だ。



現実世界でいうならば、戦艦大和や長門と言った規格外級の戦艦主砲などがずらりと向けられていることに値する。



その火力は言わずもがな、並大抵の軍勢であれば瞬時に蒸発することは間違いない。


これがSoyuzに向けられているとはなんと恐ろしい事実だろうか。



「了解。可能な限り修理を急がせろ。8割では絶対に勝てない」



何とかとして食い止めなければ、祖国は異次元からやってきた得体の知れない者に占領される。

必死で足掻いて、その定めを逸らさなくてはならない。



旧神の手に人類の運命を握られていて堪るか。


そんな確固たる意思を抱いたユンデルの目には炎が宿っていた。



「了解」



なんにしても負けるわけにいかない。失敗続きのライバル、ファゴットのような醜態をさらさないためにも、そして未来の為にも。














——————————————









——本部拠点


偵察により判明した要塞「ゲフィチニブ」



城塞そのものは以前のフェンサーFによる高高度偵察で捉えられていたが、この時期の帝国軍は和解が通じると踏んでいたため反撃しなかった。



まるで能ある鷹は爪を隠す様に。



しかしSoyuz側としては偵察機が対空射撃を受けたこともあり、すぐさま事情を知っている人物。

シルベー県将軍 カナリスに尋問が行われることになるのは当然の成り行きだろう。



彼は原料や流通を斡旋していた業者としての顔を持っていたからに他ならない。



——VIPルーム



「いい加減、僕の事を便利屋か何かだと思っていやしないかい?——君には僕の一服に付き合ってもらおうかな」



冴島が扉を開けて足を踏み入れると、自前で飲む呑気な様子でコーヒーを淹れていた。

小綺麗に水差しにお湯を入れ、フィルターで抽出しているではないか。



部屋中を覆う香ばしい匂いからして、わざわざ焙煎させたものを使っているのだろう。

大佐よりも充実した生活に、思わず額に青筋が走りかねない。



振舞いは優雅な貴族。だがその目つきは敏腕CEOのように尖っていた。



「……ゲフィチニブ要塞についてお聞きしたいことが有ります」



世の中ギブ&テイク。この場においてはカナリス自身が淹れたコーヒーが前金となる。

大佐は出されたカップに口をつけながら質問を投げかけた。



「うん、いいだろう。アレを言うなれば…【軍事政権の魂】そのものさ」











—————————————












「軍需産業に対して上が湯水のように投資した話は聞いているね。僕もそれで儲けた身だから骨身に染みているんだけど。何せ本気で設計した帝都への最終防壁だからね」



「ラムジャーが奴隷のような扱いをさせて作らせたゾルターンの土壁とは訳が違うよ」




戦争のために使い捨てられた産業や軍人が起こしたクーデター。

それにより今の帝国が牛耳られているのは周知の事実。



こうして生まれた莫大な人材と暗殺した上流階級の資産を基にして、軍備に大きく力を入れた。



その究極なる姿がゲフィチニブ要塞なのだという。



「ポポルタ線は兵士を大量に動員して敵を退ける形の古い要塞だ。だから弾になる歩兵がいなきゃ意味がないし、そもそも居住区すら抱えてるんだから防衛陣地としての性能は中途半端だ」




「そこらへんはオンスに聞いて欲しい。僕は軍事には疎いからね。カレ、このごろそっちで1700Gする葉巻っていったっけ。それにお熱だそうだから聞き出すのは簡単だと思うよ」



長話が始まりそうな気配を感じ取った冴島は、話の手綱を握るためにこう切り出した。



「兵装はどのようなものかわかりますか」



カナリスは眉と肩をひそめ、ため息をつきながら答える。




「そうか、そうか……。さぁね、知らない。他県の機密事項なんて知る訳ないじゃないか」



「建材に関しては視察したから知ってる。軍部が設計して運用してるんだからポポルタ線みたいにはいかないのは確かだ」



おどけたような返答に大佐は眉間に皺を寄せ圧力をかけた。



あの余裕ぶった態度を見れば一目瞭然。

この男はまだ知っていることをあえて手札として持っている。



「キミは上司と違って話を楽しもうという気概がないらしいね。真面目で結構。そんなに睨まれちゃあ、これが不味くなる」




「——あそこの設備は一級だよ。

だってポシャになった船の艦砲とか、同型艦作る計画がなくなって、砲だけ出来たようなのを何から何まで集めて転用してるんだからね」



「なぁーんか不自然に造船業界が衰退したなと思ったけど、キミらが戦った怪物に人員を割いてたなら腑に落ちる」




「……それだけじゃあない、ナンノリオンにぎりぎり寄せたことにも訳がある」




ベストレオは陸上戦艦のような存在だ。


陸はもちろんの事、浅い波打ち際を歩けばゴジラのように薙ぎ払うことが出来る。

戦艦の優位性が揺らぐのもそう不自然な話とは思えない。



そのしわ寄せが全て要塞に注がれている、と考えた時。カナリスは驚くべきことを口走る。



「補給線を自前で作っちゃうためだよ。ナンノリオンは魔力鉱石の鉱脈だらけだからね」



「それにしても考えたよね。要塞は弾切れになったらどうしようもないんなら、弾を作っちゃえばいい。どうせ地下化されてるだろうし面倒だね。それに食料も帝都からの補給線があるし」




あろうことか弾切れを起こさないというのだ。



通常の火砲であれば弾薬は工場で作られて運ばれてくるもので、いつかは弾切れになる。

だからこそ補給線が極めて重要なのが鉄則。




しかし魔甲砲が消費するのは鉱石内のエネルギーであり、自給自足が出来てしまうのだ。



これは今まで戦ってきた敵とはまるで違う、あまりに異質な存在と言っても良い。


更にここに集まっているのはシューターとは比較にならない程強力な「戦艦用艦砲」



重巡大田切でさえ直撃すれば損害は必至のそれに、主力戦車が耐えられるかと言われたら

懐疑的だ。



こういった場合は弾切れを狙わざるを得ないが、お抱えの工場がある分、好き放題に乱射してくるの

だから堪らない。



彼はなおも続ける。



「ここを攻めろって言われたらいやだなぁ僕。並大抵の兵士送ったら全部溶けるし。目も当てられないよね」



「あそうだ。横にでっかい川があるんだ。まぁコイツのせいで上陸ルートとか考えないといけないし、めんどくさくて嫌なんだけど」



「それはそうと…キミはやらざるを得ない。僕はそれを見物させてもらうよ。この無敵要塞をどう陥落させるのか……」



カナリスは笑みを絶やさない。



一体Soyuzは弾の湧き出る破壊の泉をどう突き崩そうというのか。


次回Chapter240は8月29日10時からの公開となります。


・登場兵器


Su-24 フェンサーF

スホーイ社の大型戦闘爆撃機。Soyuzは高高度偵察用として使用中。

初期にはるばる帝国一周旅行したデータが現Soyuzの航空写真データとして使われている。

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