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Chapter237. Compatriot

タイトル【人を超越した者】

古今東西、決して見ることのできない神の使いの全力。

それは次世代の監視者として任命したことを意味する。



ヤルス・ワ―レンサットが古より纏っていた分厚い鎧は攻撃から身を纏う外殻ではなく、むしろその逆。



自らに眠る人ならざる力をセーブする「拘束具」

この先、皇帝は全てを投げうってソフィアを殺しにかかることだろう。



そのことは手にした神槍メナジオンからも伺える。

誤魔化しの利かない正当なる決闘を前にソフィアは試練の際に見せた眼差しを崩さない。



彼女は自ら生み出したコルト・ガバメントを消し、弧を描くようにして右手を動かして

最も信用のおける得物である槍へと作り替える。



互いに矛先を向け戦いの準備を終えたことを告げると、最初に動き出したのはヤルスからだった。



その姿を1から8に分身したではないだろうか!

魔術で幻覚を見せているのだろうか、否。その下には影がくっきりとある。


幻影であるなら影は生じないことで区別がつく。



これらは勿論全て本物。

即ちソフィアは一人で8人もの格上と相手をしなくてはならないのだ。



芝居もここで一区切り、数と質の暴力が彼女を襲う。



とっさに一撃をはじき返すも、その背後から命を刈ろうとメナジオンが互い違いに降りかかる。

常人では到底処理できない情報量を前に立ち向かえるのは皇帝の跡を継ぐ者だからか。



それでも凌ぐので精一杯で攻撃する事など夢のまた夢。



まずはこの「数」をどうにかしなくてはならない。



しかし魔導で生み出している幻術ではない、文字通りの力を前にどう対処すれば良いのか。

ヴェランダルのような大きな武器で薙ぎ払おうとも、そのスキを黙っているはずがない。



ここは榴弾のように広範囲に広がるようなもので一掃するのが正しいだろうが、そんなものはお守りとして持ち込んできたイグラー程度のもの。




だが頼みの綱でさえ取り上げられているが使えない。



ソフィアは冷静になり、突破口を見出そうと頭を回転させる。



相手はメナジオンを持っている。ありとあらゆる力を封じ込める、メナキノンが悪用された時のセーフティだ。


自分には資格がある。

それを奪って、皇帝の分身をかき消してしまえば良いのではないか。


そう思いついた。



だがどうやって。


あの分身から繰り出される一撃は本物でも、それは幻に過ぎない。闇雲に掴んでも消えてしまうのが目に見える。


問題はいかにして「本物」の神槍を奪い取るのか。



息を深く吐き、四方から五月雨のようにやってくる攻撃を弾きながら脳内を探り回る。



ふと、お守りとして持たされたイグラーが頭をよぎった。


航空機が発する赤外線を探知し追尾する歩兵携行ミサイル。

それのように本物の皇帝の発している何かを探れないか、そう考えたのである。



一度槍で周囲を払って分身たちが距離を取るのを見届けると、ソフィアはそっと瞳を閉じ精神を統一。


第三の目を開く勢いで気配を探った。



敵が目の前に居る状況で視界をなくすのは本来であれば自殺行為に等しいが、これで良い。











————————————








瞳を閉じ、辺りは闇に包まれる。



その中に、うっすら白い気迫を纏いながら忍び寄る影が見えた!

これが本物で間違いない。



目を真開いたソフィアは瞬時に突き立てられた槍を間一髪躱し、脇に抱えたまま剣を再生成。

渾身の力を込めてメナジオンを握る手に向けて振り下ろした。



小娘と言え、人ならざる者にして同族。

強烈な威力を前に思わずはたき落とされてしまう。


同じく一瞬のチャンスを見逃さない彼女は神槍メナジオンを奪い取り、天に掲げた。



——GRRRRR!!!!!!———



凄まじい光が迸り、神の声が作り出した分身が溶けるように消えていく。

これでようやく一対一。彼女はメナジオンを再び利用されないよう放り投げた瞬間だった。



「真に頼れるのは己の体」



なんと2mを超えようという巨体が踏み込んできたではないか!

神器を失っても、戦うことを決してあきらめてはならない。



そのことの現れだろう。

鉄拳と図体から目を疑うような鋭いハイキックが交互に襲い、防御もままならない。



「——ぐッ…!」



辛うじて逸らした一撃でさえも鈍重。その上、恐ろしい速度で迫ってくるのだ。

戦いにおいて重要なのは誰がペースを握るかに掛かっている。



分身は打ち消した。晴れて一対一の真剣勝負。



どちらが新時代を築くか。










—————————————








争いとは実力が同じであるほど激戦と化す。



神の声と、その資格を得た者。両者は武器を生み出すことなく、魂を拳に込めて殴り合いを演じていた。


ソフィアの鉄拳を皇帝は舞うように避け、針穴を通すように的確なカウンターで返す。

それを糸口に脇腹にパンチが刺さりお互いに距離を取る。




ただ攻めても勝ち目はない。うかつに踏み込めば躱され一撃を喰らってしまう。

このことは肌で感じて学んでいる。



避けられないためには受け流せない時に仕掛けるしかない。


ぐっと奥歯を噛みしめ、大柄な男のストレートを受け止めた!



——GRASH…


肉や骨が軋む生々しい音が頭に響く。血を吐き、痛みをこらえながら拳を差し向ける!

こうして交互にお互いの顔を何度も打ち付ける不毛な殴り合い。


口の中が鉄の味に支配されていく。



熟練者が究極にまで接近したその時、頼れるのは武具ではなくその肉体そのもの。



それでもなお、帝国の新時代を担うためなら。

軍の横暴によって傷ついた人民を救うためならこの程度、どうという事はない!









————————————







なおも死力を尽くした格闘戦は続く。



首に向かって雷のように迫る蹴りを弾きながら拳を振りかぶった。

再び片腕で正拳突きを繰り出した時、がっちりと抑え込まれてしまう。



鋭く睨みながら策を考えた。



こちらが動けないという事は、相手も動けないのもまた同じ。



片手から実体のない青い剣を作り出すと回し切りを見舞うが、同じ手は何度も通じないのが神たるもの。手を離され寸前で回避される。



むしろ躱されることこそが本領。



彼女はちょうど一回転、ちょうど相手に背を向けた瞬間。

見られないよう剣を銃に作り替え正面を向いたその時。



引き金を躊躇いなく引いた!



——BANG!!



思わぬ一撃は見事命中、神の声は大きくのけぞる。

殺せなくとも、効かなくとも一発あれば十分。


この銃弾は自分のペースに引き込むための手段に過ぎない。



神の力で争おうものなら勝負にならない、いかに「力を使わせず」頭を回させないか。

これが主導権を握ることに繋がってくるだろう。



さらには青く光るコルト・ガバメントを投げつけ、ソフィアは皇帝に向かって全力疾走して思い切り跳躍。


運動エネルギーがのった膝蹴りを見舞った。



この確かな感触。形勢は少しずつ傾き始めている。



再び間合いを取ると、口中に溜まった血反吐を素早く吐き出し様子を伺う。









———————————







凄まじい暴力の嵐を前に倒れたヤルス。

だが彼は一滴の血すら垂らさず、代わりに真っ白に燃え盛るオーラをにじませ続けているではないか。



常人では瀕死になっても何らおかしくないダメージを受けてもなお、笑いながらソフィアに語り続ける。



「——Ah……!これこそ余が欲していたもの…まさか我が娘が叶えてくれるとはな…だが…こんな程度で満足する余ではないぞ」



銃弾を貰い、同格の人間からの暴行を受けたにも関わらず無傷!

これが人ならざる存在そのものか。


鬼神皇帝、ヤルス・ワ―レンサットは闘争を欲している。



「——行くぞ」



素早く起き上がり、構えを整えたその時。周りの結界を形作る神兵が一斉に声を上げ始めた。



「時は来た。神の声よ、使命を果たせ」



時間が来てしまったのである。これ以上の余興は許されない。

どこまでも神は残酷だ。



神の声。

もといヤルス・ワ―レンサット残された使命とは、使者としての引継ぎを行わなくてはならないのである。



「——時が来てしまったか。ソフィア、お前にはこの神槍メナジオンと余が着ていた鎧を授けよう。…望めば身に纏える」



贈与するのは象徴である創造神からの贈り物二つ。

術を封じ込める神器と、代々受け継がれてきた頑強な羽衣。


双方が出そろった今、コンクールスを仕留める舞台は整った。



忘れてはならないのは同じ立ち位置に上がっただけであり、いかに道具が良いと言っても勝てる保証はどこにもない。



まして軍人の長たるコンクールスなら腕も立つ。



勝利を確かなものにするには、ヤルスの言う通り己の肉体を信じて戦うしか手立てがない。

嫌というほど身に叩き込まれたソフィアは言わなかったが、ここで一つ気になることがあった。



「その、私が穴を開けてしまったのですが。これは…」



彼との戦いで決死になっていたとはいえ、胸に隠しきれない程の大穴を開けてしまったことは記憶に新しい。



まさかとは思うが引き継ぐとは思ってもみなかった。

由緒正しきものを破壊してしまった事実は変わらないだろう。



「その心配はない。人の皮よろしく元に戻る。考えすぎると気を病むぞ」



流石は人ならざる者が身に着ける武具か、再生機能が備わっているという。

でなければはるか昔に残骸と化し消え去っているだろうか。



彼は伝えなくてはならないことがある様で、なおも続ける。



「…この戦いは終わる。争いの始まりは簡単だが、終わらせるのは難しいことも知っているだろう。

余が現世に留まっている時間は涙程にもない。その間に済ませることは全て終わらせるのだ」



映画では戦いが終わってエンドロールが流れるが、現実世界では違う。

そこからが新しい世界の始まりだ。




どのように舵を取り、国の命運を決めるのかは全てソフィアに委ねられていると言っても過言ではない。



終点から先。

不安定な秩序をどうまとめ上げるのか。


統治していた者だから言えることでもあった。



一瞬彼女の表情が曇るが、背中を押すように言う。



「行け。そして新しい時代を作りだせ。余のような古き者の役目は終わったのだから」



振り向くな。その意思をくみ取ったソフィアは背を向けて聖堂の外、砂漠へと向かっていった…



次回Chapter237は8月27日10時からの公開となります。

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