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Chapter231. Video Analysis

タイトル【映像解析】

ウイゴン暦9月22日 既定現実9月29日



ナンノリオン県を制圧したSoyuz。同時に学術旅団の面々も現地入りし、戦場は街へと姿を取り戻しつつあった。


2号機カロナリオは脚部の突貫修理部が再び損傷していたことが発覚。



ベルハトゥの涙の降伏後は高速道路の一部分のような大きさをしたモニュメントと化し、一旦の運用放棄されたのは当然の成り行きだろう。



魔導工場に目を向けると、今回の戦闘で使用された自律無人兵器グラニオーツが捕獲され各種データ採取が執り行われる。



最初は冴島指揮下の前衛部隊・後衛部隊によってズタズタに破壊された機体ばかりだったが、調査が進むにつれて未稼働状態のまま取り残されたものを発見。



研究のため前線拠点としていたベノマスで見分が始められた。



ガリーシアが記録映像の映し出されたモニタと実物を見比べながら、ばっさりと切り捨てる。



「え?本当に?こんなものがうちの祖国で作れるはずがないよ、そりゃまぁ。武器はわかるよ。正確にこっちを狙ってきたってとこがどう逆立ちしても無理」



「イキモノみたいに動くようなものが作れたとしても、正確に狙ってくる頭が作れっこない」




魂を採用したイデシューでも不合理的な動きが多く、動画のように統率を取って敵を追い詰めるだけの頭脳が作れないという。



続けてとんでもない発言が飛び出す。



「それに、機構そのものに魂を使ってない。こんなモノ、理解しろって方が不可能だ。あの大先生でも」



電子基板が作れない帝国の工業レベルでは制御系に人の魂などに頼らざるを得ない。

しかし、このグラニオーツは純粋な機械駆動。



既定現実の段階でも無人機の自律行動は難しいと叫ばれている昨今、文字通りのオーパーツとしか言いようがないのである。



「だけどこの…何?赤い魔石だけはわかる。魔法を付与する時の媒体。つまりこのニースそのものに何か属性…例えば追跡するとかなら出来る」



学者にとってこれ以上の回答を求めるのも酷だろう。

そう思った海原は腕を組みながら、首を横に振った。



「チーフがこれじゃあお手上げだな」



魔導部門の技師を志望していた彼女ですらあやふやな答えしか出て来ない以上、専門家でもない自分たちが逆さにして逆さにして振っても何も出て来ないのは明白。



「流しますか」



「面倒ごとはアレに流す。次に行くぞムーラン君」



学術旅団はついに魔導都市、ナンノリオンの謎を解明すべく奥へと突き進む。









———————————————








本部拠点



グラニオーツの各パーツはヘリに詰め込まれ、本格的な測定を行うべく本部へと輸送された。


この引継ぎは阿部が行う羽目になり、バイト・柳澤・夜勤のソーサラー、バドラフトで解明に勤しむことに。



「だから海原はダメなんだ」



電子版で提出された調査報告書に目を通した阿部は、問答無用でファイルをゴミ箱にねじ込む。



内容は至極完結に「わからないことが分かった」とだけ。


あらゆる方面から見て、それらしく形を整えた様相で記されているのだから期待を大きく裏切られてしまったのだろう。



「どう見ても歩けるようには見えないですよ、だって関節が繋がってないし、糸が通ってない針でどう縫ってたんで?」



バイト君が疑問を持つのは当然のこと。

グラニオーツには一切、関節部が存在しないのである。


しかし記録映像では戦車を追跡しており、まるで実態と合わない。



「目の付け所が鈍角だよバイト君。そこに関しては似たようなブツがもう捕獲されてるし、既に解析されてる」



「そんなことはどうでもいい、実は気になってるのはこの、ミサイルランチャーみたいな部分だ」



基礎原理は機動立像イデシューの解析によって答えが得られている。目の付け所が鋭角な阿部は違うところに注目した。



それは誘導ニースの発射機構。



「明らかに後付けされてるのは言うまでもないが、ここ。トリガーを直接引かせる構造になってる。普通なら内蔵した方が合理的だとは思わないか?不自然だ」



「…それにこの国は軍人至上国家なのを忘れちゃ困る」



彼に言わせればこのグラニオーツは不自然な機械だという。



普通、兵器であれば引き金を内蔵するものだ。

そうでなくては破壊されて撃てませんとなるからに他ならない。



それに、機構を完全に理解した開発者がこのような後付け設計を許可するだろうか。



何か感づいた柳澤が唐突に言葉を発する。



「……こんな無人兵器が作られているならとっくに投下してるはずだし、それに軍人を大切にする国家ならコイツの存在を許さないはず……」



軍人を主体にしたいファルケンシュタイン帝国のスタンスとは真逆の兵器が唐突に出てきたことが不自然極まりない。



銃の薬包に牛と豚の脂が使われていた事がインド傭兵の反乱のきっかけとなっている点から、兵器とはいえ諸事情を軽視することは自分の首を絞めることに繋がるだろう。



それにまとまった数が既に量産されているなら、もっと早い段階で投下されている筈。



「なんかキモイっすね。なんか形が爬虫類っぽくて異質というか」



バドラフトが最後の意見を投げかけ、阿部がそれを纏める。



「そうだ。この兵器はあまりに歪で異質だ。正直コレは自治区から発掘された兵器を研究していて、小手先改造して投下したんじゃないかと思う訳だ。これから現地にいるコルテスに連絡を取ってみる」



すっかり研究者顔をしている彼にバドラフトは嫌味を呟く。



「ていうかアベさんいいトコ持ってくんすね。なんかモヤるな」









—————————————








ソ・USEで早速ナルベルン自治区にいるコルテスに連絡を取り付けた。



【君か。勝手にカップ麺を喰ったことは悪かったよ。だがそこまで恨むことか?】



しかし普段の行いがよろしくないのか、悪戯電話にしかとられていない有様。



【バドラフトじゃなかったのか…あとでお命を頂戴する。…だが案件だ。これから画像を送るが、何か隣に居るチレイグだっけ?に見覚えがないか尋問してくれ】



【画像が送られてきていないぞ。あ、来た】



物騒な言葉と同時にグラニオーツの画像を送信した。

暫くの間、現地の古代文明研究家と話しているのか雑音が混じる。



大人しく待っていると、ページをめくる音と共にコルテスとは別の男が応答した。




【あぁ、代わったぞ。チレイグだ。これに関しては……記録が実は最近残っていたんだ。ラムジャーが持って行ってる】


【恐らく本国に目を付けられないよう、機嫌取り用にだろう。ヒトの古代遺産を何だと思ってるんだ】



研究家として盗掘まがいな事をしておいて憤慨するもの無理ない。

実際にこのような事例で資料が無い例も多い。


故に失われた歴史が存在してしまうのである。



【後でそのデータをスキャンして送ってくれ。海原に嫌味をつけて報告書として送り付けるから】



大仕事の始まりだ!









——————————————








——本部



時を同じくして本部拠点。


中将の命令で物理学者を集めたうえでショーユ・バイオテックの一角を借りて、ある解析が行われている。


それ即ち、ナンノリオン城制圧戦に現れた「鎧の亡霊」について。



ありとあらゆる攻撃を加えてもすり抜ける様はまるで幽霊のそれであり、初めてSoyuzが勝てなかった相手だった。


再び出現されたら打つ手がない。


それならば徹底的に分析を行わずして道はないのだ。



幾度も記録映像を巻き戻し、ソフィアを交えて弾道を計算する物理学者たち。



「映像を見る限りでは、明らかに飛んでいるロケット弾?は弾道飛行、つまり一切干渉を受けず【落下】している。磁力などの反発で回避しているようには見えない。」



ある研究者は映像を見た第一印象を述べる。



「確かにどれだけロケットや銃弾が直線で進むとは言え、完全ではありませんし。仮に何かで弾いているのであれば、動きに差が出るはず。そうは見えないですし…」



事実、これは殿下の言う通り。

軌道を曲げて弾いているならば、脇道にそれて壁に着弾する。


しかし奇跡でも何でも起こる帝国。


何かの偶然が起きて当たる直前に背後に瞬間移動した可能性も否めない。



「続いて、空間を捻じ曲げてワープさせている可能性についてだが…これもあり得ない。ワープしているのなら、高度が維持されるはず。もっと向こうに落下して起爆するはずなんだ。」



次から次へと浮かび上がる可能性をドクが潰していく。



「これに関しても私も同意見です。全て言っていただきありがとうございます」



「こちらこそ発言の機会を奪って申し訳ない」



それでも疑念は晴れない。



「…証言によれば同時に現れた、とある。立体映像である可能性も吟味したが…これらには影が差していない。どこか別でライブ中継されているなら必ず影が落ちるはずだし、それに…触れて来たと聞く。どうなってるんだ」



続いて分析は続く。


物理が次々と否定されていくこの中、ひょっとしたらホログラム一杯食わされたかもしれない、と思う者も出始めた。



しかし映像に記録された実体には影が掛かっていない。では一体どうなっているのか。



希望が全て潰えた中。帝国側からの視点から一石投じられる。

皇女殿下が一言。



「それにこの光は明らかに魔力によるもの。まるで一方的に触れているような」



貴重な一歩に違いないが、答えにはまだまだ至らない。


つかみどころのない進捗にドクはため息交じりに呟く。



「…まるで呪いを好き勝手にかける悪霊だ。だが…魔力という糸口があるなら、この帝国の原理でどうにでも出来ないんじゃないか?…この中に超心理学専攻してたってやつはいないか?」



誰もが匙を投げる中、ソフィアは記録映像のある一点を見つめていた。



「…この槍、どこかで見たような気が…どこだった…?あれだ…神話の中の…」



コンクールスが持っていた派手な槍。今までのありとあらゆる武器とは異なるソレは

彼女の記憶の片隅に焼き付いていた。



亡霊の謎に迫ることができるだろうか。


次回Chapter232は8月21日10時からの公開となります。


登場兵器


・グラニオーツ

帝国でも、また現代技術でも製造・整備不可能な二足歩行型無人機。

耐弾性とその小柄さは脅威であり、大いに苦しめた。


どうやら古代遺跡から発掘された代物らしい。

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