Chapter230. The End of Battle
タイトル【戦いの終焉】
城を無事制圧し、究極兵器から分離されたプレートを全て一掃したSoyuz。
ナンノリオン県における全ての機能を掌握したと言っても過言ではなく、戦闘に勝利したのである。
残りはベルハトゥの涙に対しての投降勧告と、目立った兵器類の回収程度のものだろうか。
回収は機械師団の一部要員を借りる予定が立ったことで、事なきを得たが積み重なる問題がまた瀬戸たちを襲う。
ベルハトゥの涙の本体に投降勧告を呼びかける手段がないのである!
相手は高度1000mに浮かぶ城。無線は使用していないだろうし、スピーカーからの音声は届くはずがない。
されど爆撃して文章を届ける訳にも制圧するにはやや人手不足。
それに対空設備はないとは言い切れない。使者として航空機を送り込めば敵と勘違いされ攻撃されてしまうだろう。
ともかく悩んでいても仕方がない。
行動を起こすべく、大隊長はあることを命じた。
「とりあえず浮島に照準を向けて装填と冷却だ。あいつらも俺らもコイツの怖さはよく知ってるだろうから、うかつに手出ししようとは思わんだろ。頭冷やしてる間にどうするか考えるか」
2号機の主砲はその気になればあの程度の浮遊要塞など一発で消し炭に出来るだけの火力を持っている。
敵に銃口を向けていれば、相手は命令に従わざるを得ないのと同じこと。
再びカロナリオの口元が極彩色に光り出す。
構造上、砲身と機関部は分離されているため充填そのものは問題ない。
そうして瀬戸はソ・USEを手に仰角変更するよう指示を出そうとした時のこと。
【こちら脚部、あんまり派手に動かすと壊れるからよろしく!】
開発部員の半ば匙を投げたような言い草は、付け焼刃で修理したことを物語る。
端材で塞いでいるらしく、こうして立っているだけでも何時魔力が漏洩してもおかしくない。
【了解、ジャンプさせる訳でもないから安心してくれ。これから仰角を上げる、よろしいか?】
嫌な予感を悟りながら、大隊長はこれからの行動に支障が出ないか問う。
【……精一杯対処する】
しばらく置いて返答が来たはいいが、語尾からして冷や汗を垂らす様が目に浮かぶ。
瀬戸は額に手を置きながら、天井を見つめ呟いた。
「頭痛くなってきたな……」
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——ナンノリオン県
市街地アフェラフィン付近上空
ミサイルで撃墜されたゲルリッツとシムは竜を盾に脱出。
しばしパラシュートで滑空していたが、カロナリオの射撃からも逃れて地上へゆっくりと落下していった。
「あーあ。旦那、またやられちゃったじゃないすか。ただ新兵器の効果あったっすね。他はまぁ、その、アレでしたけど」
戦いを放棄したシムは落下傘の綱を持ちながら地上を目指す。
機関砲だろうとミサイルだろうと、これだけ大暴れして何事もなかったかのようにしゃべっている男はそうそう居ない。
呑気な口ぶりに当のゲルリッツ中佐は自分の不甲斐なさを恥じていた。
「新兵器を手にしてまでもこの失態!おのれ、おのれ…」
いくら後悔しようと、怨念を積み上げようと時間は巻き戻せないのは事実。
すると、彼は突拍子もない事を口にし始める。
「……貴様、オプティムを使ってアレを撃ち落とせないか?」
後部手はあくまでも人間であって、ミサイル撃墜装置ではない。
あまりの無茶苦茶にシムは容赦なく事実を突きつけた。
「旦那。無茶ぶりにしても、言っていい事と悪い事くらいあると思うんですよ。それにあの訳の分からんアレ、落っことしちゃって」
「何!?試作兵器を!?貴様、歯を食いしばれ!」
「訳わからん武装を拾う代わりに命落っことしたら元も子もないじゃないすか。あ、そろそろかもですね。地上」
答えのない押し問答をしていると、ついに地表が迫る。
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共々が着陸すると、辺りは静けさに満ちていた。
戦闘が終結し、Soyuzは回収作業や事後に手を回している頃合い。
シムはゲルリッツに言い寄られたのが嫌だったのか、撃墜時に脱落した移動砲台オプティムを捜索すべく周囲を見回す。
「あ!あったぞ!オプティム!砲台も一緒だ!意外と近くにあったみたいですねコレ!あー…ぶっ壊れてますね、コレ」
運よく付近に落下していたものの、高度1000mからの落下には耐えられず使える状態ではなくなっていた。
それでも設計者の腕が良かったからなのか原型は残っており、修復さえすれば再利用は可能だろう。
「修理を済ませれば問題ないだろう。回収だ。……それにしてもどう太刀打ちすべきなのか」
中佐は残骸と化したオプティムの回収を命じ、次なる反抗作戦を考えていた矢先。
「いたぞ!」
聞きなれぬ声が響く。
既にナンノリオン県はSoyuzに蹂躙、制圧されており帝国軍は機能していないのである。
気配だけでも分かる、圧倒的な数。
背中の新兵器 誘導槍射出器の再装填を試みるが即座に鋭い声がそれを許さない。
「武器を捨て、投降せよ」
声の主は降下していた空挺部隊だった。
凄まじい数も去ることながら、質も雑兵とは比べ物にならない程高いのである。
「これぶっ壊れてますけど武器にあたるんすかねコレ」
これが思わぬ出来事を呼ぶとはまだ誰も知らない。
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——ベストレオ2号機カロナリオ
ブリッジ
Soyuzのありとあらゆる航空機と戦い続けた、狂戦士ゲルリッツが確保された、そんな知らせは無線口の瀬戸にまで伝わっていた。
各種尋問が行われるのは言うまでもないが、彼はあることを思いつく。
「竜騎士…竜騎士か……あ。…そういえば竜がそのまんまの竜騎士いたよな。ウチに」
無線もスピーカーも使えないのであれば、迎撃されないような使者を直接送り込んでしまえば良いのである!
それにWordで打った伝文を直接届けるまでもなく、ワイバーンにスピーカーなどを積んで勧告すれば猶更良いのではないか。
「でもアイツ、本部拠点にいるんじゃあないすかね」
大隊長の部下が思わず反論してしまう。
「その間に冷却も終わってんだろう、丁度いい。」
だが懐が大きい男 瀬戸はその程度の余裕を別の所に向けることにした。
全力で飛ばしても1時間はかかる距離にいようとも、むしろ砲身が冷えていつでも叩き落せるだろう。
相手も攻撃してこない辺り、大方分かっている筈。
この思い切った作戦。考えるのは後にして実行あるのみ。
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——本部拠点
格納庫
建設機械師団 現場代理人瀬戸の思い付きはすぐさま実行された。
格納庫ではバイオテックが遺伝系統研究用に所有している飛竜が待機。
その上に乗る騎士、通称【メッセンジャー】とポラロイドカメラマンことエリゼウが準備に取り掛かる。
「よし、ドラゴン持ったな?あと降伏文書とスピーカー。ついでにカメラ。高かったんだから壊すな、落すな、失くすなよ?」
ドラゴンナイトの装備一式と共にポラロイドカメラを渡され、竜騎手は失笑を浮かべた。
「俺のことを体のいい何かだと思ってないか?」
「いいか?秘密兵器の写真なんてそう簡単に撮れるもんじゃない。わかるか?わかってくれ」
実際、秘密兵器は内密であることに意味がある。
その資料が取れるまたとない機会なのは違いないだろう。
エリゼウの一言にメッセンジャーは皮肉で返す。
「104…なんたらだな、コイツだけは絶対壊さないでおく。使わないからな、壊しようがない」
言っていること自体はお使いと何ら変わりないため、仕方がない事だろう。
諦めたエリゼウは頭の後ろで手を組みながら偵察騎を見守る。
「まー…そういう時は嫌でも相乗りしてやりたいが重さがな、おし、いってこい」
「帰ってくるのも、お前への手土産も遅くなる。気長に待っていてくれ」
騎士は手綱を引いて飛竜を外に出し、そのまま助走をつけることなく離陸していった。
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——ナンノリオン県
ベルハトゥの涙本体付近 上空
午後4時
飛竜のスピードはジェット戦闘機、それ以前のレシプロ戦闘機には及ばないがそれなりに速度は出る。
地形を無視できるのだから、ジャルニエからシルベーとゾルターン、ペノンを超えてナンノリオンに到達することは容易。
配達人の位置座標は端末ソ・USEで発信されており、これはIFFなども兼ねる。
丁度いい場所に到達するなり、大隊長から威圧的な音声が流れるといった原理だ。
——ZEEK……
「この砂浜がまたいいんだよな…オイ嘘だろ、デカい板が地面に突き刺さってやがる。この世の終わりも近いな全く!」
彼の気に入った風景でもあったのか。
使わないと言っていたカメラで航空写真を撮りつつも、ついに戦略兵器ベルハトゥの涙本体まで近づくことに成功した。
リスが食い散らかした後の松ぼっくりに似た空飛ぶ城が戦略兵器なのだという。
「こんなとこでロンドンに出くわしたら俺呪うからな」
迎撃が飛んでこないか最早神頼みを始めているが、それと裏腹に浮遊要塞は何もしてこない。
付近を旋回していると2号機側でも悟ったのか、搭載されたスピーカーから大音量で勧告が流れ始めた。
【こちら!独立軍事組織SOYUZ建設機械師団!ベストレオ型戦略兵器2号機カロナリオ号!復旧工事現場代理人の!瀬戸雄三!上空の戦略兵器に告ぐ。直ちに降伏せよ】
半周してみると分かったが、この高さからして離宮と同じ。
つまり浮遊要塞の高さだけでも50mは下らない。
城を改造してではなく、1から建造したとなると相当な期間を要したことだろう。
——FLASH!!……zeek…
シャッターを切っていると、いつの間にか2週目に達したのだろうか。
要塞から作業要員と思われる帝国兵が誘導しはじめた。
メッセンジャーは空で一人呟く。
「空飛ぶ島に着陸したなんて俺くらいのモンだよな」
飛竜の翼を縮ませ高度を下げてから、半ば滑空するようにして着地。
出迎えにやって来た兵に通達文書を手渡す。
それを受け取った兵は将官のいる最深部へと向かって行った。
【こちらPaperboy配達完了】
【了解。白旗は2号機から観測する】
これで配達人の仕事は一旦休みに入る。
あの驚異的な破壊力の主砲に睨まれ、武器であるプレートを全て損失。
涙の枯れたベルハトゥから出る答えは分かっていたとしても、必要な形式というものがある。
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——ベルハトゥの涙
ブリッジ
Soyuzから送られた伝文は兵士を渡り歩き、司令官であるガルハルニィの耳元まで配達されていた。
「hum……」
内容を知った騎士将軍は苦渋の決断を強いられているも同然。
地上からはプレートを全て消失させた2号機の主砲が狙っている。
それにプレートを失った今、砲台を持たない本体を落としても意味はないだろう。
追い詰めるように伝令兵が新たな事実を運び込む。
「30分以内に回答が得られぬ場合、容赦なく砲撃を行う。とのことです」
瀬戸としても限界を迎えようとするカロナリオに、これ以上戦闘を行わせたくないと考えていた。
いつでも撃てるという意思をちらつかせながら、敵に確実な手を選ばせるつもりだろう。
そんな確実な圧力が将軍に降りかかる。
「異端から来た使者はまだいるか」
「ええ」
「我々は今すぐ武装解除し、投降する旨を伝えてくれ」
ガルハルニィは軍人として最も正しい手段を取った。
ナンノリオンでの戦いは終わった。
Chapter231は8月20日10時からの公開となります。




