Chapter227. Forbidden Reboot
タイトル【禁忌の再起動】
——午後2時39分 オンヘトゥ・ドッグ
冴島大佐の無茶ぶりな命令を受け、いよいよSoyuzの手によってオンヘトゥ13使徒ベストレオ2号機の出撃が行われようとしていた。
建設機械師団、戦闘スタッフ、戦術兵器開発部員。それぞれ全く違う部門・出身の人間がただ一丸となり、寿命を削るような作業と限界までの手抜きを行ったおかげで起動準備は完了。
「動力炉点火!」
彼が用意した最高の司令官 権能中将の手によって先導され、知性を得た今。
獣神の心臓が鼓動する。
半ば崩落しかかった足場を突き破りながら50m、長さ数百メートルにも及ぶ巨大な二足歩行兵器がついに起動し始めた!
周囲には地震のような細かな揺れが発生し、その目覚めはまるで禁忌を呼び起こしてしまった様。
巨大な一歩を踏み出すと、拘束具のように絡む足場が爪楊枝よろしく弾け飛ぶ。
——ベストレオ2号機
カロナリオ ブリッジ
「脚部、漏洩なし!よし、このまま立つぞ!」
「でかした!こいつ動くじゃねぇか!」
ブリッジでは各所動力となる魔力漏洩確認が現在進行形で行われていた。
歓喜とその裏側にある不安、そして出どころの知れない高揚感がチームを取り巻く。
その脇では、無線機を渡された部員がおっかなびっくりでソ・USEを操作しながら中将に現状について息を切らしながら報告し続ける。
【無線機ってこれか、時間がない。出撃しながら説明する。今のカロナリオは歩くことしかできない】
【あまりにも速い相手には振り切られてしまう。あんたと言ってもいいんだか困るが、とやかく腕を信じる】
修繕作業をしていたとは言え、製作者のファゴットの指示でない限り完全な復元は困難だ。
2号機は1号機とは違い機動性の向上が図られていたが、突貫修理のお陰で今は歩くので精一杯。
運よく生きていた副動力を騙しながら使っている。
【BIGBROTHER了解】
なおもオンヘトゥ技術者の部員は続ける。
【…ふぅ。現在、プレートの落下で出撃用ハッチがふさがれている。どうしたらいい。爪をめり込ませてプレートを登れなくもないが出るには狭すぎる】
問題は天井をどう突き破るか。既に穴が空いていたものの、針孔に人を通すようなものである。
この超弩級の図体ではとてもではないが通れないのがネックとなっていた。
【了解。天井を砲撃、破壊せよ】
その命令を聞くと、すべての足枷が解き放たれたが如く市街へと繰り出していった。
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——プレート落下地点
———Zooomm……Zooom……——
数百メートル、もはや幹線道路の一部と見まがうような長さと高さをした獣神がドッグから脱出。
秘密都市へとやってきた。
2本の脚で自立し、そして何もかもを踏みつぶしながら歩く様は「神の蹂躙」といって差し支えない。
「上向けろ!」
航海長の代わりとなる瀬戸が叫ぶ。
落下地点まで到達すると、ゆらりとカロナリオは木漏れ日を求めるかのように天を見上げた。
既に主砲に魔力は充填されている。
【撃て】
中将の冷たい声と共に引き金が引かれた!
猛獣の口をかたどったようなカバーが展開し、主砲の魔甲砲が露出する。
チャージを行っているのか砲口の周囲は鈍く輝き、それもまたしばらく経つと消えた次の瞬間。
———vvvVVVVVVVEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!———
ビーム、光線。その程度では形容できない、柱のような高熱源体が放たれたのである。
空に向かって放つ姿は力強いオオカミの遠吠えにも思えた。
核兵器の熱線だけを集めたような熱エネルギーの鉄砲水はあっという間に天井へ到達し、直撃した場所は勿論のこと、地下都市の天井を恐ろしい勢いで溶かしていく。
「冷却急げ」
ブリッジ内でそう命令が走る頃には、この巨大怪獣が通れるだけの穴がぽっかりと空いていた。
【こちらBIGBROTHER。捉えていた反応がいくつか消失】
それだけではない。地表を貫通したエネルギーの束は高度1000mに到達。
レーダーで捉えていたはずの浮遊島の反応がいくつか消失してしまった。
つまり。
たった一発の砲撃で地面を溶かし、それでも飽き足らず浮遊していた大陸を全て消し飛ばしてしまったことになる。
その威力に、誰もが恐怖した。
——EEEEeeee………——
光筋も弱弱しくなっていき、首元のカバーが全て開放され風魔法を使っての強制通風冷却が行われる。
穴からは加熱され液状になったガラスや鉄まじりの雨がしとしとと降りしきる中、体制を整えたカロナリオはプレートに爪を立てて登り始めた…
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□
壁を一歩一歩、鈍重に上る傍ら、ブリッジは惨劇と化していた。
「おー、おー、重力反転なんて聞いてないぞ俺は!なんだこの無茶苦茶な機械は!」
瀬戸がそう叫ぶのも無理はない。
仰角が90度近く取れるベストレオでは胴体と指令所が一体となった構造をしている。
しかしその状態を想定し、重力を常に一定の方向に制御されている事らしい。
垂直に砲撃や壁を登ろうとした際、床に縫い付けられたようになる。
引力さえも無視した行為故に、人間は適応できず極めて違和感を抱きやすい。
さらに追い打ちと言わんばかりに無線が入る。
【こちらBIGBROTHER。戦線に動きがあった。現地に居る最先任スタッフに指揮を任せたい】
【自分ですが!?】
【すまないが任せる、申し訳ないが俺では手が回らん】
瀬戸は半分怒り狂い、もう片方はこの現状を解決しなければならない焦燥感に駆られていた。
「おのれ、異世界派遣軍総司令官!師団長を通じて抗議してやるからな!…誰か対空部隊に居たヤツはいないか!大至急来い!」
彼は2号機が突き刺さった壁を登る最中でありながら、叫びながら専門スタッフを求め叫ぶ。
「対空部隊でいいんですね!」
「そうだ!」
なぜ対空部隊なのか。
それには訳が有った。主砲をただ撃つだけでは意味がない。
照準を付ける最善の部門の人間を必要としているのだ。
用意を部下に任せ、瀬戸はソ・USEを片手に宣言する。
【こちら建設機械師団 現場代理人 瀬戸!このよくわからん機械を使って、上空の目標を排除する!そのために必要な対空レーダー情報を求める!】
世の中、何事も報連相が大事な時代。それは戦場でも変わらない。
暫く間を置くと、意外な方面から連絡が来た。
【こちら戦艦尾道。対空目標の各種情報を送信する】
それは尾道、プレートによる大波を抜けた面々である!
この2号機カロナリオにはレーダーといった電子機器は皆無だが、これで艦艇のデータを通じ、正確に狙いを付けられるようになった。
各種準備が整いつつある一方、既に片足は地上へと差し掛かる。
長かった道もあとわずか。
「一気に片付けるぞ!」
ついに究極兵器は日の光を浴びる。
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——ペノン県ベノマス近郊
——地上
地下から垂直の壁のようなプレートを登り、地上にたどり着いたカロナリオ。
だが課題は山のように積まれ、そして土砂崩れのように襲い掛かる。
「瀬戸さん!機体が沈んでいっています!」
第一に足元の問題。
600mにも達する長さを有する2号機はその重量は万トン超え。
地面に二本足で立ち上がった途端、足場が固いコンクリートから変化。
バランスを崩しはじめた。
「誰だコイツを二脚だけで動かそうって言ったヤツは!山側に踏み出せ!」
師団長が咄嗟に下した判断の下、次々に問題が降りかかる。
「よし安定したぞ!」
「大隊長!戦闘空域に味方機が取り残されてます!」
一難去ってまた一難。第二の問題がやってきた。
それは主砲の射線にはまだSoyuz航空隊の戦闘機や攻撃機が多く取り残されていること。
たった一撃でも地面を蒸発させたばかりか、その上に浮かんでいたプレートを消し飛ばしてしまっただけの威力がある。
連発できる核兵器はそれだけ味方を巻き込んでしまいかねないのだ。
それにデジタル機器とは無縁の2号機は、空に居る敵と味方の区別がつかない問題も浮上してくる。
「わかってる!」
彼はソ・USEを手に取り、戦闘部隊の使用する全回線に接続。
要点を出来る限り頭で整理して、決死で呼びかけた。
【こちら建設機械師団 現場代理人 瀬戸から戦闘空域にいる全機!これより対空目標を全て消滅させる!退避せよ!】
【繰り返す、これより対空目標を全て消滅させる!各機退避せよ!】
次回Chapter228は8月17日10時からの公開となります。
登場兵器
・ベストレオ2号機 カロナリオ
地下秘密都市で建造されていた超大型二足歩行型戦略兵器。
威力はそのまま、1号機を大幅ブラッシュアップ。量産先行試作までこぎつけた。
それに伴い小型化が行われおり、完全な状態では「跳躍」すら可能だという。




