Chapter223-1. Catapult deck
タイトル【カタパルトデッキ】
——ベルハトゥの涙
——竜騎兵格納室
ナンノリオンが制圧は秒読みになっている今、ファルケンシュタイン帝国軍は禁断の兵器と呼ばれるベルハトゥの涙を起動。
広範囲質量攻撃による無差別大量破壊によって国土からSoyuzを殲滅しようとしていた。
攻撃を仕掛ける場所はいくつも分散しており、邪魔をされるわけにはいかない。
まずは敵艦隊が待機している洋上と、奪取されてしまったベストレオ二号機「カロナリオ」建造プラント。
遠距離からの大火力投射が出来てしまう超大和型戦艦 尾道は言わずもがな、国家機密兵器が完全に破壊できず人員を残してしまったことが要因。
オンヘトゥの13使徒を破壊できるのは使徒だけ。
秘密を知ってしまったからには跡形もなく押しつぶして破壊し尽くすのだ。
これらの完全排除が達成されてから、ようやく西端のジャルニエ県にあるSoyuz異世界本部拠点を攻撃することが出来る。
何事も確実に潰さねばならないのは帝国軍も、そしてSoyuzも同じこと。
多層構造を取るこの浮遊宮殿は各所にドラゴンナイトの射出器が存在しており、それらの準備に兵員が追われている。
ここで出撃する竜騎兵たちは、敵によってプレートが破壊や降下妨害を受けないようにするための対空戦闘要員に過ぎない。
だがベルハトゥの涙は構造と作戦を実行する上での「やむを得ない」欠陥を有しているために、彼らがなくては任務遂行することが不可能。
帝国軍は一か八か、反攻作戦に打って出たのである。
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戦争では当たり前のことだが、とうぜん数多の竜騎士たちを投下するには指揮官の存在が不可欠だ。
でなければいくら優秀な戦士が集っていようとも烏合の衆と化してしまう。
軍隊の重要なファクター、集団としての強みが活かせないのであれば役に立たない。
帝国の運命が決まると言っても過言ではない重大作戦に投下される指揮官は一体誰なのか。
Soyuzの戦闘機と渡り合う腕。戦法を伝授できる指揮能力。当然ながら大人数を率いる実力も必要となってくるだろう。
これら3つを兼ね備える「生きた」人間は一体誰なのか。
一人しかいない。
MiGに喧嘩を売り、自走対空砲にすら戦いを挑む狂戦士。
精鋭の中の精鋭。死線を掻い潜り続けてきた「不死身のゲルリッツ」だった。
彼は竜騎兵大隊の司令官でもありながら、手腕に相応しい直属の部下を持つ。
そんな精鋭部隊にはある新兵器が支給されたこともあり最終ブリーフィングを行っていた。
後部射手のシムも大尉という階級を与えられ、参加していることもお忘れなく。
「当作戦は敵航空戦力の撃墜ならびに活動妨害である。敵からは苛烈な攻撃を受けることが見込まれるだろう。
そのため帝国軍上層部から数少ない新兵器が配給された」
「空対空誘導槍射出器[ヘンダー]である。量産先行試作品であるため我々の数しかないそうだ」
遂に帝国軍は誘導弾、つまるところ携帯式ミサイルの実用化までこぎつけてしまったのである。
量産される試作品、歩留まりの良し悪しや使い勝手。
さらには思わぬトラブルが見られないかのテストも兼ねて実戦へと投下されたのだろう。
「使い方に関してはある程度聞いているだろうが確認は重要だ。
魔石で飛行物体を補足、その後はダール等と同様に発射し……必ず離脱せよ」
「ヘンダーは一度物体を補足すれば長居は無用。撃ったらそのまま離脱、敵に捕捉されないよう飛行するように」
「着弾観測は不要だ。また、敵味方を区別する機能が付いていない。誤射する可能性も十分に考えられる。敵のみを補足するよう留意せよ」
英傑ゲルリッツが淡々と説明する中、選抜された騎士たちは食い入るような目線を向けながら話を聞いていた。
異端軍と空で戦うということは死への片道切符。
必ず死ぬという噂が広まっており、何度も生きて帰ってきている中佐は生きる伝説なのである。
それに今までとは勝手の違う兵器ということもあって、取り扱いを身に着けたいと言うのもあるだろう。
「プレート分離後に総員射出。敵を撃滅し帰投せよ」
【射出5分前、総員配置に着け!】
伝声管からいよいよ戦闘が近いことが告げられる。
いよいよ多大な犠牲を払いながら盤面をひっくり返す、一世一代を賭けた反攻作戦が始まるのだ。
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——カタパルト
戦場の陽動係、1番騎として甲板直結の射出器上で出撃準備が始まる。
周囲にバネを巻く兵員が見えない。
流石に最新鋭の空中要塞ということもあって、蒸気圧解放式のカタパルトを使っているのだろう。
「射出治具、固定ヨシ。解放ヨシ」
「固定ヨシ、解放ヨシ」
周囲の兵員によりワイバーン用の足輪を括りつけている間、シムはゲルリッツを怪しむ。
「えっ、旦那。ほんとにやるんですかアレ?ホントに?二人乗りの上にオプティム積んでるんでこれ鈍足な上に死にますよコレ。あと射出器なんて経験ないんですけど」
かなりの重装備故に通常の竜騎兵から速力はかなり下がっている。
相手は何倍という速度を出してくるともあれば、猶更勝つ見込みはない。
だが生きる英傑、不死身のゲルリッツはそんなものは不要。
彼には常識が通用しないのだ。
「今更怖気づいたか?何も格闘戦は速度だけではない。自分が目を通した教本にもそう書いた。速度も重要だが、あれだけ速度差があると遅い目標は狙いが困難になる」
「それに今更カタパルト程度、屁でもないだろう」
いつもの荒唐無稽な無茶ぶりか、と言われればそうではない。
ジェット機はあまりに速度が遅い目標に速度を合わせようとすると失速、墜落してしまう。
そんなことは知らないものの、あまりに速度差が開きすぎている場合も目標が遅すぎて狙いづらいのも事実だ。
性能差があろうと扱うのは人間であるし、反射神経と判断能力は自分と同じハズ。
いずれにせよ、祖国の危機を前にして弱音は吐くつもりはない。
やれることをやるだけだ。
ゲルリッツは重力加速度に耐えるため姿勢を低くし、その時を待つ。
すると周囲で作業を行っていた兵が退避。
大きな声で指差し確認を行いながら射出口を開けた。
「蒸気充填ヨシ。支障物ナシ。射出!」
ここで改めて作業兵が正しく蒸気が加圧されていること、加速する進路上に邪魔にならないものがないか指に目線を合わせて確認する。
解放前に手を下げ、バルブを開けると配管から高圧のスチームがせり上がり、辺りを白煙で満たしながらゲルリッツ騎は一気に加速する。
SLLLLeeeeEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!
竜の翼は空気を切り裂き、重力に歯向かう力「揚力」を得ながら少しずつ空中に浮遊。
爆発的加速をしていたこともあり、空に解き放たれると左に舵を取りながら消えていった。
だがカタパルト操作要員に暇は与えられない。
「排気、足場巻き取り急げ!次、5番騎射出用意!間を開けるな!」
祖国を守るという硬い意思を胸に、竜騎士は空を舞う。




